偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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19・パーティークエスト~高校生ver~

□〈緑花草原〉 【槍士】水無月火篝

 

「北側から3、彩夏さんお願いします!」

「分かった!」

 

 彩夏が俺の声に応じて、今まで相手していた目の前の【小鬼】を斬り捨てて新しく迫る三匹に向かって駆け出す。

 

「はぁっ!」

「ギィ……ガッ?」

 

 勢いのまま彩夏が一匹の小鬼に斬りかかり、狙われた小鬼は構えた刀で受けようとして――受け止めたその刀ごと身体を両断され、困惑のままに息絶えた。

 

「ギィヒッ!……アァ!?」

「せい!」

 

 光の塵に返る同胞には目もくれず、別の小鬼が太刀を振り下ろす。

 小鬼を両断した彩夏は隙だらけであり、好機と見たのだろう。

 だがその刃は、無防備な彩夏の()()()()()()

 直撃した場所には傷などなく、せいぜい一本の筋程度しか残っていない。

 彩夏はその隙を逃さず、一匹目と同様に小鬼を両断した。

 

 

「東側から30、イリスさんとマガネさんで足止めを!倒さなくても構いません。無理だけはしないで下さい!」

「任せろ!」

「了解しました」

 

 それぞれ別方面で小鬼を相手していたイリスとマガネが、俺の指示通りに合流して大群と相対する。

 

「ははっ!その程度か!」

「さあ、行きなさい!」

 

 イリスが威勢よく群れに突撃するが、決して考えなしに突っ込んではいない。

 小鬼のそれぞれの位置をしっかり把握し、孤立して援護をもらえない奴を狙って切りかかっている。そして深追いもせず、囲まれそうになったらそうなる前に身を引く。しっかり俺の指示通り無理しない立ち回りだ。

 ここ数時間の戦闘を見た感じ、四人の中で一番戦闘センスがありそうなのはイリスだな。

 

 そうしてイリスが撹乱して生まれた隙を的確に突いていくのがマガネだ。

 マガネはなんと言うか……泣き所とでもいうべき、刺されたら困る場所を見つけるのが上手い。

 見つけた泣き所に〈エンブリオ〉で傀儡にした小鬼を襲撃させ、更なる混乱を引き起こしている。

 この調子なら、見込み通り損害なく大群を抑えておけそうだ。

 

 

「北西から……40!霧鮫さん、エヌさん、今対処してる群れが終わったら殲滅をお願いします!まだ距離はあるので焦らずに!」

「わ、分かりました……!」

「ふん、了解した」

 

 いくら格下の小鬼とはいえ、自分たちの20倍の頭数。それも、目的は足止めではなく殲滅。

 一組だけに任せるには桁違いに重い仕事量だろう。

 だが、問題はない。

 なにしろ……

 

「グラァアアアッ!!」

「ギィヒィィィ……!?」

「ギャアァッ!?」

 

 現在進行形で、20体近くいた群れを軽々と殲滅しているからな。

 

「マスター、もうそろそろ狼が()()()ぞ」

「そ、そう?なら、次は亀かな。今の倍いるらしいから、安定性重視ってことで……」

「了承した――《交わり生まれる神性》!」

 

 エヌがスキルを宣言すると、霧雨の紋章から二柱の水が湧きだす。

 水柱は絡み合い、やがて乗用車ほどもある巨亀を象った。

 巨亀が実体化すると同時に、小鬼の群れを喰い荒らしていた狼の身体が水に戻り、ドロドロと崩れていく。

 群れのほとんどが殺されつつも、生き残った少数がその光景を見て希望を見出し――その奥から迫る巨亀によってふたたび絶望に叩き落された。

 ……あそこだけやってることがボス側なんだよなぁ。

 まあ、それも無理ないか。

 事前に水の貯蓄が必須とはいえ、たった一人で亜龍級――()()()6()()()()()()に匹敵する戦力を生み出し、使役しているのだから。

 

 

「シッ……!……よし。イリスさん、マガネさん、加勢します!彩夏さんもこちらへ!後続はありません。一気に片付けましょう!」

「「「了解!」」」

 

 指示しつつも対応していた小鬼の群れを倒しきり、足止めを続けているイリスとマガネの元へ向かう。彩夏の方も終わったようなので、合流して四人で群れを殲滅する。

 それが終了するとほぼ同時に、巨亀ものしかかりと毒ブレスによって40いた小鬼全てを光の塵に変えた。

 こうして俺たちパーティは、何度目かも分からない小鬼の襲撃を乗り切ったのだった。

 

 

□□□

 

 

「あー!疲れたぁー!」

「はしたないぞ、イリス。……まあ、疲れたというのは同感だが」

 

 ゴロンと寝転がるイリスに苦言をこぼすエヌだが、自らも疲労で座り込みそうになっている手前、強くは言えないようだ。

 

「それにしても……」

 

 俺は視点を彩夏に……正確に言えば、彩夏の()()()()()()()()紐に合わせる。

 紐は木の根のような質感をしており、その先は彩夏が腰に下げている小振りな盾に繋がっていた。

 

「彩夏さんのエンブリオは便利そうでとてもいいですね。応用も利きそうですし」

「へへ、でしょ?私も気に入ってるんだー、これ」

 

 少し誇らしげに笑いながら、彩夏が紐を持ち上げる。

 その紐こそが彩夏の〈エンブリオ〉。

 TYPE:チャリオッツ、【絆繋樹紐 ユグドラシル】である。

 

 こんな紐が乗騎(チャリオッツ)……?と最初聞いた時は疑問に思ったのだが、エンブリオ側のシステムに詳しいメイデン(エヌ)曰く、「チャリオッツにカテゴリーされるのは、乗騎そのものだけではない。乗騎ありきの強化パーツもまたチャリオッツである」そうだ。

 そういった類のチャリオッツは、単体だけでは何も効果を発揮できず、エンブリオ以外に強化先となる対象が必須となる。ユグドラシルもまた例にもれず、その特性はそれ単体では無意味なものだった。

 その特性とは、『結合』。

 紐で二つのものを繋ぎ、繋げたもの同士でステータスやスキル、装備補正などを合算共有する――”お互いをお互いの強化パーツとする”能力である。

 

 彩夏は現在出せる最大数である3本のユグドラシルを、小刀同士で繋げるのに1本、自分と盾を繋げるのに2本使っていた。

 そのおかげで、本来なら小刀を受け止められるはずの小鬼の刀を2本分の攻撃力で無理やり突破したり、そこそこダメージを喰らうはずの身体受けをしても盾の防御力でノーダメージにしたりということが出来ていたわけである。

 

 だが、ユグドラシルの本領はこんなものではない。

 今はまだ初心者であるため装備・アイテム・資金が整っておらず、実現は遠い未来のことだろうが……。

 例えば、スキルにだけ特化した装備と武器性能にだけ特化した装備を繋げて、通常あり得ないほどの高性能装備を生み出したり。

 例えば、自律行動して攻撃する武器を自身に繋げることで、自身のSTRとAGIによって武器の攻撃力と速度を上昇させたり。

 などなど、上げていけばキリがないほど活用方法はある。

 俺のティレシアスも周囲全部が見えたり隠形を見破ったり、色々と便利ではあるが、流石にユグドラシルには劣るだろう。

 正直言って、かなり羨ましい。

 

「……あの。火篝さんって、本当に今までずっとソロで戦ってきたんですか?」

「え、あ、はい。そうですよ。どうかしましたか?」

 

 ユグドラシルについて考えていた所を不意打ちで霧鮫に尋ねられ、思わず現実と同じようにキョドってしまったが、咄嗟に火篝を繕って返答する。

 俺が今までソロだったのは自明のことで、反射的に答えられるような質問だったのは幸いだったな。

 

「いえ、どうというかなんというか……」

「火篝よ、マスターはこう言いたいのだ。"ソロで戦ってきたにしては指揮能力が高くはないか?”と」

「……ああ、そういうことですか」

 

 確かに、俺はさっきまでの襲撃の中で、5人に指示を出して戦況を有利に進めていた。

 自分で言うのもなんだが、かなり的確な指示を出せていたと思う。

 それを見れば、俺がずっとソロ――パーティーでの指揮経験がまったくないということに疑問を持ってもおかしくない。

 だが……。

 

「私は本当にパーティーを組んだことはありませんよ。さっきの指揮は……やろうと思ったら、出来ただけで」

「やろうと思ったら出来た、だとぉ……?」

 

 明らかに信じてないというか、納得していないぞ、という視線を送ってくるエヌ。

 しかし、本当にそうなのだ。

 感覚的には、槍を最初に扱った時のような。自分が"こうしたい"と思ったら、それを実現させるように体が勝手に最適な行動を取る。あの時は《槍技能》というセンススキルのおかげだった。けど今回は、【指揮官】とかの関係ありそうなジョブには就いてないんだけどなぁ……。

 

「なんにせよ、火篝さんの指揮がなかったら私たちは今頃デスペナしていたでしょうから。本当にありがとうございました。

 ……しかし、まさか草原の【小鬼】がここまで増えていたとは。こんな状況の中、昨日までソロでクエストを達成していたというのは流石ですね」

「……それが、違うんです」

「違う?」

 

 マガネが怪訝そうに聞き返してくるが、本当にそうなのだ。

 俺が昨日まで殲滅していたのは違う場所だったが、その辺りにはここほど小鬼はいなかった。

 せいぜい十体前後の群れと散発的に遭遇するくらいで、間違っても数十体規模の群れが切れ間なく押し寄せるなんてことはなかった。

 そのことを5人に話すと、全員の顔が険しくなっていく。

 

「ここに何かしらの異常事態が発生しているということですか?」

「まさか、〈UBM〉が戻ってきて……!?」

「それはないと思います。でも、異常が発生しているのは間違いないかと」

 

 【ルガリード】は討伐される危険を察知して雲隠れした。

 それから数か月どころか数週間も経っておらず、ほとぼりが冷めているはずもない。そんな状況で戻ってくるような愚行を彼女は犯さないだろう。

 だが、ただの偶然や自然現象とはとても思えない。

 作為的な何かしらが働いているのはほほ確定だ。

 

「それならば、一度街に戻るのがよかろう。もうクエスト達成には十分な数を討伐したのだ、危険と知りながら留まり続ける意味などあるまい」

「ええ、その方がよいでしょ……いえ、遅かったようです」

「なに?……っ!これは!?」

 

 エヌの提案通り、街に戻ろうとして……視界の端に映ったそれに判断が遅かったことを知る。そして俺より少し遅く、エヌもまたそれに気付いたようだ。

 

 ――概算で数百を超える小鬼の群れ。そして、その先陣を堂々と進む巨体――【王小鬼】。

 異常事態の原因が、俺たちの前に姿を現したのだった。




【ユグドラシル】は、折角設定したのに今後の展開的に当分の間は登場の機会がなかったので、結構無理筋ではありますが登場させました
自分にとってのデンドロ二次創作の始まりということもあって、やっぱりオリジナルエンブリオを考えるのは楽しいですね

【絆繋樹紐 ユグドラシル】
〈マスター〉:甦能彩夏 
TYPE:チャリオッツ
紋章:“人と天地を繋ぐ樹”
能力特性:結合
形態:Ⅱ
モチーフ:九つの世界を内包する北欧神話の世界樹“ユグドラシル”
形状:木の根のような質感の紐。最大生成数は形態数+1
仲が良い人たち(親や幼馴染)と離れたくない、互いが互いを必要とする関係でいたい、という彩夏の願いを読み取って生まれた〈エンブリオ〉。
一見すると4人の中で一番カラッとしている彩夏だが、依存具合は霧鮫とどっこいどっこいだったりする。

《イグジスタンス・コネクト》
アドバンスを使って2つのものを繋ぎ合わせる。
繋げられるものに制限はなく、無機物でも生物でも可能。ただし、意志あるもの同士を繋ぎ合わせることはできない(剣×炎や銃×【ティール・ウルフ】などは可能だが、人間×【ティール・ウルフ】などは不可能)。
繋がれたもの同士でステータスやスキル、装備補正などは合算共有される。
繋がれたものは1つとして扱われるため、2つの装備品を繋いで1つの装備枠だけ消費する、といったこともできる。

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