偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

22 / 42
20・パーティークエスト、大成功!

□〈緑花草原〉 【槍士】水無月火篝

 

 

 【王小鬼】とは【小鬼】の特殊進化先であり、統率者だ。

 恐らく、こいつが異常繁殖した小鬼たちをまとめ上げ、巨大な群れを形成していたのだろう。

 その一団を俺たちが殲滅し、その後送り込まれた後続たちも退けられたため、ボスたる【王小鬼】自らが出張ってきた、というあたりか。

 

 しかし……これはまずいな。

 小鬼だけならどれだけ数がいても、俺たち5人を効果的に運用すれば十分立ち回れる。

 だが、王小鬼がいるとなると話が別だ。

 王小鬼のランクは亜龍級。

 全ステータスが1500を超え、全員が下級職2職目の俺たちとはその時点で大きな隔たりがある。

 唯一、霧鮫とエヌの生み出すガードナーなら真っ向から対抗できるが、そうすると小鬼たちへの殲滅力が足りなくなる。小鬼の数を減らしていけなければ、いずれはすり潰されるだけだ。

 霧鮫とエヌが王小鬼を倒すまで持久戦をするという選択もあるが、持ちこたえられる確証はない。

 では、戦うではなく逃げるのはどうか。

 こっちはもっと無理筋だ。

 王小鬼とのAGI差は数倍以上。絶対に追いつかれてそのまま全滅だ。

 

 となると――霧鮫たち以外の誰かが王小鬼を抑えて、それ以外で小鬼を殲滅、その後全員で王小鬼を撃破が妥当な所か。

 抑える役は……俺が妥当だろうな。

 【迎撃者】にジョブチェンジして《迎撃》を使えば、四人の中で一番ステータスが高くなるし、ティレシアスの補助があれば攻撃を見切ることも可能だ。

 デスペナの可能性が一番高い上に、ある程度小鬼を削るまでに自分が死んでしまったら全滅するという責任が重い役だが――やるしかない。

 

「……皆さん。ここまで来ると、もう逃げられません。王小鬼を誰かが抑えているうちに小鬼の群れを壊滅させましょう。抑える役は、わた――」

「俺がやるぜ」

「し……え?」

 

 覚悟を決めて五人に作戦を話そうとして……美麗な声音ながら男口調の声がそれを阻んだ。

 言うまでもなく、声の主はイリスである。

 

「し、しかし!」

「大丈夫だって。前の時に俺のエンブリオ、話しただろ?」

「……あ」

 

 イリスのステータスでは王小鬼への対抗は不可能だ。

 無謀だといさめようとして……イリスの言葉によって、記憶が呼び起こされる。

 ……確かに、これならば王小鬼へ対抗できる。

 

「……では、王小鬼を抑える役目、お願いできますか」

「おう、もちろんだ。っていうかさ」

 

 刀を片手に王小鬼へ歩みだしながら、惚れ惚れするような笑顔で振り返る。

 

「別に倒してしまっても、構わんのだろう?」

「……ふふっ。それ、死亡フラグですよ」

「お、ネタ伝わった!んじゃ、いい気分になった所で……いっちょ、巨人倒しといきますか!」

 

「……私たちも、小鬼の撃破を始めましょう」

「は、はい!」

「よーし!イリスにだけかっこつけさせないよう、張り切っちゃおうか!」

 

 その背中を見送り――俺たちもまた、小鬼の大群に向かって駆け出した。

 

 

□【武士】イリス

 

 

「さて、と」

 

 対峙する王小鬼を見る。

 3メートルを超える巨体。柱のような腕とそこに握られた無骨な大剣。その見かけに違わない高いステータス。

 まさにボスモンスターという風体だ。

 だからこそ、俺とこいつが相手するのに相応しい。

 

「試運転以降、まともに使わないまま第三形態(ここ)まで来ちゃったが……まあ、こんなピッタリな舞台が用意されたんだから、張り切っていこうぜ、相棒」

 

 左手を……手の甲に刻まれた紋章を掲げる。

 こいつにエヌのような意識はないはずだが、こころなしか、紋章が熱を持った気がした。

 

「いくぞ、【ユーピテル】――《闘場に立つは我と汝のみ(オンリー・アイ・ユー)》!」

 

 紋章から漏れ出た光で視界が埋められる。

 それが晴れた先にあったのは――俺と王小鬼しか立つモノが存在しない闘技場(コロッセオ)

 【ユーピテル】によって創造された決戦場だった。

 

 

 俺のエンブリオの銘は、【独戦場 ユーピテル】。

 こいつはTYPE:キャッスル・テリトリーであるが、生産・防衛系の報告が多いキャッスル系において珍しい、戦闘特化型だ。

 その第一スキルが、《闘場に立つは我と汝のみ(オンリー・アイ・ユー)》。

 発動と同時にキャッスルを展開し、俺と指定した対象一つをその中へ収容する。

 これで王小鬼と小鬼たちを分断できた訳だが――それはただの副次効果であり、さらに言えばこのスキルはただの事前準備に過ぎない。

 ユーピテルの本領。それは……

 

「グ……?ガァ、ガアァッ!!」

「お、もう状況を飲み込んだか。特殊進化しただけのことはあるな」

 

 唐突に隔離されたというのに、一瞬呆けただけで迷わずまっすぐ俺の方に向かってくる。

 この状況を作ったのが俺であり、俺を倒せば自分も解放されるということを直感的に理解したのだ。

 加えて、俺は王小鬼の数段格下。

 一対一で戦えば速攻で片を付けてしまえるのだから、その行動は正解だ。

 ――それが()()でなければ、の話だが。

 

「グォオオオッ――」

「ほいっと」

「――ォ?」

 

 王小鬼の自慢のSTRで振り下ろされた大剣が、無造作に払った俺の刀に打ち返された。

 そのまま返す刀で反撃を開始する。

 俺の数倍のステータスを持っているはずの王小鬼――しかし、奴は俺の攻撃を防げず、躱せず、打ち合うこともできない。

 こんな光景、本来ならあり得ないが、これはまっとうに法則に則った結果だ。

 

 【ユーピテル】の第二スキル、《一騎当一》。

 ()()()()()()()()()、俺を超強化するバフスキル。

 MP・LUKを除いた全ステータスを三倍、HP・SP・状態異常を自動回復、そして対峙者に軽度の精神系状態異常とデバフを与える。

 このスキルが発動した今となっては、俺の方がステータスが高い(強い)

 

「……グ、ァ」

「気付いたか?俺とお前の力の差に。余裕ぶっこいてたところ悪いが、死に物狂いにならなきゃ外には出れないぞ。まあ、もっとも。死に物狂いになったところで――出してなんかやらねぇけどな!」

 

 

□【槍士】水無月火篝

 

 

 ……すごいな、あれ。

 四人に指示を出して自分も積極手に小鬼を撃破しつつも目を向けていたユーピテル内の光景に、驚嘆の念が浮かぶ。

 イリスは本来なら苦戦必至の王小鬼を相手にして、完全優勢のまま戦いを進めていた。

 エンブリオの補正があるとはいえ、下級職1.5個分のステータスを亜龍級のボスモンスターを凌駕するほどに強化し、その上自動回復で継戦能力を確保。さらには状態異常とデバフすらも撒く。

 すごいとしか言いようがない。

 まあ、それも”一騎打ち限定”なんていう条件付きであればこそだろうけど。

 

 ネット上の掲示板や攻略サイトでは日夜、デンドロに魅せられた多くの人々が世界中から集まる報告、情報をもとにその仕様を推測、解析している。

 その中にあるほぼ確定の結論の一つに、”同一形態のエンブリオの力の総量は全て同じ”というものがある。

 機能を分散させ過ぎれば個々の効果は弱まるし、逆に一点特化させれば強力な効果を発揮する。

 そして、それを確定事項とした上で、その総量を超えた力を発揮する法則もまた存在していた。

 

 それは、何かしらの代償を背負うこと。

 ”希少金属を消費して発動” "発動前に一日の準備時間が必要” ”発動すると自分も巻き込み、腕が一本持っていかれる”etc.

 代償を背負ったそれらのエンブリオは、背負っていないエンブリオに比べて比類なき力を発揮するそうだ。

 

 ユーピテルもまた、代償を背負ったエンブリオだ。

 完全な一騎打ちという状況は、自分で仕組まなければそうそう発生しない。

 そんな状況に発動を限定することで、あの量の強化を実装しているわけだ。

 それを補い、強制的に一騎打ちの状況に持ち込むためのキャッスルなのだろうけど、それとて長いクールタイムが存在しているそうなので連発は不可能。

 総評として、普段の利便性を捨てている代わりに、格上のボスを撃破しなければいけないような正念場――つまりは今のような場面で輝くエンブリオである。

 

 

□□□

 

 

『これでッ!終わりだぁッ!』

「はぁあっ!」

 

 イリスが王小鬼の胸を貫いてその巨体を光の塵に変え、数瞬遅れて彩夏が最後の一匹を斬り捨てる。

 

「小鬼たちの残存なし……無事壊滅です。皆さん、お疲れさまでした!」

「あぁ~!やっと終わった~!」

「ふぅ。怖かった……」

「よく頑張ったな、マスターよ」

 

 ティレシアスで念入りに確認し、戦闘の終了を告げる。

 皆一様に歓声を上げ、全身を脱力させた。

 かくいう俺も、疲労感で全身がめっちゃくちゃだるい。 

 それぞれに指示しながら双槍を振るって敵を倒す。言葉にすればそれだけだが、実際やってみると半端ないほど疲れるな……。

 

「撃破完了!救援に……って、もう終わったのか」

「はい。そちらも終わったようですね」

「おう!ほら、一番の功労者である俺にねぎらいとか感謝とかないのかぁー?」

「まったく、調子良いんだから……でも、今回は素直にありがと。おかげで小鬼に集中できたわ」

「う、うん。流石イリス君……!」

 

 イリスがユーピテルを格納して合流し、さらに賑やかになる。

 そこには、十数年の時を共に過ごした仲だからこその温かさがあった。

 ……なんか少し、疎外感が――

 

「あ、火篝さん!俺、ちゃんと倒してフラグ折ってきたぜ!」

「というかイリス、一番の功労者って言ったら火篝さんじゃない?ずっと指揮してくれてた訳だし」

「そうですね。火篝さんなしでは全員生き残ること出来なかったでしょうし。僕も、貴女くらいのレベルまで到達したいものです」

「お主のおかげでやりやすかったのは事実だ。素直に礼を言っておこう」

「ぜ、全然素直じゃないよぉ、エヌちゃん……わ、私もエヌちゃんも、本気で感謝してますので!ありがとうございました!」

 

「……ふふっ。いえ、こちらこそ。みなさんとのクエスト、本当に楽しかったです!」

 

□□□

 

 俺たちはその後、特にトラブルもなく冒険者ギルドに戻ることが出来た。

 小鬼討伐の依頼の報酬は、基本報酬+一定数以上討伐による出来高払い。

 あれだけ大量の小鬼を倒し、特殊進化個体である【王小鬼】も討伐した俺たちが貰えた報酬はかなり多く、五等分したというのに一気に所持金が数割増しとなった。

 その上、大量に倒した分得られた経験値も大量であり、【槍士】のレベルがカンストまで上がっている。

 俺だけではここまで稼ぐことは出来なかっただろうし、それ以前にデスペナになっていたかもしれない。

 それを考えれば、今回のパーティークエストで得られたものは非常に大きい。

 もっとも。

 それらがなくても、五人と一緒に戦えたことが楽しかったから、それだけで今回のクエストは大成功だ。




――たとえ認められているのが火篝(仮面の人格)であっても、どうしようもなく楽しかったのだ

自分で設定しといてなんですけど、葉月君って不憫過ぎて「幸せになって欲しい……!」って気持ちを抱いてしまうんですよね
もちろん、将来的には幸せにしますよ!絶対!


【独戦場 ユーピテル】
〈マスター〉:イリス
TYPE:キャッスル・テリトリー
紋章:“闘技場で向き合う戦士”
能力特性:一騎討ち
モチーフ:ローマ神話の主神であり、一騎討ちの守護者“ユーピテル”
形態:Ⅲ
形状:十畳程度の大きさのコロッセオ。内部空間は拡張されている
備考:【ティレシアス】にテリトリー内部にある全てを把握するスキルがあったため火篝は戦況の把握が出来たが、そういった特殊な観測用スキルがない場合は外部から内部を見ることは不可能
イリスの"たった1人で強敵を打倒する"英雄への憧れがもとになった〈エンブリオ〉。

《一騎当一》
一騎打ち(邪魔の入らない相手1人と自分1人の闘い。テイムモンスターなどはOK)の際のみ、自身のMPとLUK以外のステータスを3倍にし、HPとSP、状態異常の自動回復、精神系状態異常とデバフを敵対者に与える状態を付与する。
《闘場に立つは我と汝のみ》
対象に指定した二人をキャッスル内に収容する。キャッスルとその内部には中に入った者以外は干渉できない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。