実は数か月前に一度書きあがったのですが、読み返した所「脇道逸れすぎ」「無駄に話広げすぎ」「このキャラ、ここまで深堀りしなくていいよね?」となり、書き直してたのが大きな原因です
大雑把な筋しか考えてない弊害をとても実感しています……
それととても細かいところですが、前話の『夏休みまで1週間』を『夏休みまで2週間』に訂正しました
残り1週間でこれからテストだと返却期間がないじゃん!ってことに気付いた結果です
24・転職/兆し
■【■■■眼 ■■■■■■】
【――転移誘発魔法《サークル・テレポート》、実行完了】
【周辺情報を取得】
【位置情報を取得】
【現在位置を国家:天地、将都近郊と推定。座標誤差、許容範囲内】
【リソースの多量保持個体を複数観測】
【……データベースに類似なき器を多数観測】
【検討――今後の行動計画に支障なしと判断】
【行動計画の実行を開始】
【……我らが眼に、未知なる光景が映らんことを】
□飯沼 葉月
……辻斬りを殺してから、1週間と数日が経った。
期末考査は無事終わり、あとはテスト返却と終業式が終わるのを待てば夏休みだ。
返されたテストを見ると結果は上の下ぐらいで、あんなことが直前にあったにしては十分な成績を取れたはずだ。……むしろ、余計な事を考えないように勉強に集中していたからかもしれない。
ただ、夏休みになったからと言って遊び惚けるわけにはいかない。
序盤には強制参加の課外授業があるし、課題も多い。計画的にやっていかないと、終わり際に泣きを見そうだ。
これについては、健にも釘を刺しておかないとだな。あいつ、中学の頃からずっとそんなんだったし。
見捨てるわけにはいかないとはいえ、流石に今年はある程度やっといてもらわないと、俺が手伝ったところで終わりそうにはないからなぁ……。
とはいえ、学校があった頃に比べたらデンドロに費やせる時間も増えるはずだ。
今の指針である【ルガリード】に追いつくには、まだまだ足りない。
来るべき再戦を十全に楽しむために、もっと強くならなければ。
だが、ひとまずは……。
□将都迎撃者ギルド 【大迎撃者】水無月火篝
「……これで転職は完了です。上級職への転職、おめでとうございます!」
「はい、ありがとうございます」
よし。上級職、ゲットだ!
期末考査が始まる前で4分の3は達成していた就職条件の最後の1つ。
テスト勉強がなくなった分、空いた時間のほとんどを費やしてカウントを増やし、さっきやっと条件を満たすことが出来たのだ。
即刻、将都へ引き返し、迎撃者ギルドに駆け込んで転職を申請。
申請は無事受理され、こうして初めての上級職になることができた。
今までより一段階上のステータスが手に入り、大きく戦力を増やすことができたと言えるだろう。
「それにしても、水無月さんがギルド訪れてからもう1ヶ月弱ですか。時が経つのは早いものですね」
「そうですね……あのときはアドバイス、ありがとうございました」
「いえ、そんなお礼なんて。【迎撃者】の方々をサポートするのが、私の仕事ですから」
なんの話かと言えば、ログイン初日、【迎撃者】に就いた時のことである。
おすすめに従って1職目に適しない【迎撃者】を選んだ俺に、戦力増強のために他の下級職にも就いた方が良いと言ってくれたのが、この受付のお姉さんだ。
そのアドバイスがあったから【槍士】や【投槍士】に就いたわけだが、おかげで【小鬼】に勝てたし、ルガリードをあと一歩のところまで追いつめることもできた。
今の俺があるのはこの人のおかげだと言っても過言ではないので、感謝してもし足りない。
「10年以上受付嬢をしていますが、ジョブに就いて1か月で上級職になったのを見たのは初めてです。流石は〈マスター〉といったところでしょうか」
「あはは……そうですね……」
お姉さんの尊敬のこもった言葉に、歯切れ悪く返事する。
前にも言ったが、〈マスター〉のレベル上げの速度はティアンのそれと比べ物にならない。
エンブリオの恩恵ももちろんあるが、なによりも死んでも大きな問題ではないというリスクの低さが無茶な狩りを可能にし、獲得する経験値を大幅に引き上げている。
ローリスク・ハイリターンというわけで、正直言って
もちろん、お姉さんの言葉に嫌みなど含まれていないのは分かっているが……それでもなんとなく引け目を感じてしまって、大手を振って誇示することはできないんだよなぁ……。
その後もこまごまとした世間話を受付のお姉さんと交わしていると、ふとギルド内がざわめきだした。
なにか起こったのかと、焦点を目の前からギルド全体に移す。
視覚結界のおかげで全方位が見えるわけだが、かといって常にその全てを
前方しか見えない現実で生きてきた影響か、意識しない限りは頭に入ってくる情報が前方向のみになってしまうのだ。
戦闘中とか、意識して視ようとした時はティレシアスの補助もあって全方位が問題なく視えるが、慣れないせいか、その状態を常時続けてるとまあまあ疲れてしまうんだよな……。
まあそれはそれとして。
見てみると、ざわめきの原因となったのは新しくギルドに入ってきた十数人の集団のようだ。
ジョブギルドに来てるから当たり前と言えばそうだが、全員のメインジョブが【大迎撃者】で統一されている。
その代わり、服装や装備なんかはまったく統一感がない。
甲冑から着物、陰陽師の装束などなど。
これは、【迎撃者】系統が全ステータス上がる上にほとんどの戦闘職との互換性があるおかげで、サブジョブの選択肢が幅広い影響だ。
【迎撃者】自体にステータス上昇以外の要素がないのも、サブジョブの特色が前に出やすい要因だろう。
メインジョブが同じなのに、ここまで見た目もビルドも違うのはなかなかに見ていて面白い。
ただ、そんなのんきなことは言ってられなそうな雰囲気だ。
集団の全員が全員険しい顔でズンズン進んでくるから、俺含めて元々ギルドにいた人間も緊張せざるを得ない。
集団はギルド内を突き進み、俺がいたのとは反対のカウンターの前まで来ると、集団の中から甲冑を着た巨漢が1人進み出る。
「例の件で話を聞きたい。ギルド長を出してくれ」
「は、はい!ただいまお呼びいたします!」
受付の少女が大慌てでカウンターの奥に引っ込む。
そこまでは話の流れとして普通なのだが……なぜか、巨漢の言葉を聞いた周囲の人たちが緊張を緩めていた。
「なんだ、その話か」みたいな空気感になっている。
……ちょっと意味が分からないんだけど。え、だってあの集団、まだ警戒態勢のままだよ?
「あの。あの人達ってなにをしに来たんですか……?」
「あれ?水無月さんは知りませんでしたか?」
「お恥ずかしながら……。教えていただけませんか?」
「もちろん大丈夫ですよ」
知らないことは知ってる人に聞くに限る、ということで受付のお姉さんに質問すると、快く笑顔で頷いてくれた。
「二月ほど前のことなのですが、迎撃者系統の超級職【
「問題ですか?」
「就職条件を満たしているはずの【大迎撃者】たちに、【迎撃王】の転職クエストが解放されなかったのです」
転職クエスト……超級職になるための最終試練、だったっけ。
「当然大騒ぎになりました。これまでそんな事件は起こったことありませんでしたから。死亡したという知らせが嘘だったのか、〈UBM〉の能力が影響しているのではないか――などと色々な説が囁かれる中、とある主張をする方々が現れました」
そこで視線が集団の方に向けられる。
「"自分たちが満たした条件は、迎撃者ギルドに伝わっているものだ。それが虚偽だったのでは?身内の人間にだけ本当の条件を教えて、【迎撃王】をギルド側の人間で独占しようとしているのでは?”という主張です」
……なんとなく話が分かった。
あいつらがその主張をしている人たちで、抗議だか弾劾だかをしようと集まってきていた、ということか。
「一応言っておきますが、こちらの主張、現在は完全に否定されていますからね?そのような不正は一切ありません」
「そうなんですか?」
「はい。この主張が出てきてすぐ、今のようにギルドに来られて、その場で《真偽判定》で」
《真偽判定》かー。
あれ、なかなかに凶悪な性能してるよな。スキル1つで嘘を見極められるとか。
……あれ?でも。
「ではなぜ、あの人達はこちらに?否定されたんですよね?」
「恐らくですが、大っぴらにギルドに異を唱えた手前、引くに引けなくなってしまったのかと。否定された初回以降も、何度かいらっしゃっていますね。その時は数人ずつで、今回のように集団で来られたのは初めてなので、少し緊張してしまいましたが」
実態はいつものクレームだったので、こんな緩んだ空気になってると。
あのよく分からない空気感の変わりようにはこんな背景が……。
というか、メインジョブを【迎撃者】にしている手前、むしろ俺がそういうの知ってないとおかしいんだけど。
考えてみると、迎撃者関係の知り合いが目の前の受付のお姉さんしかいなかった。これは知らなくても無理はない。
……もっと交友関係広げてれば分かっただろ、っていう正論はナシで。
「まったく、またなのかいアンタら。何度来ても同じだってのにねぇ」
一通り説明を聞き終えたタイミングで、ちょうどカウンターの奥から老婆が杖を突いて現れる。
右腕と左足が義手・義足である上に、眼帯をしている左眼は失われてしまっている。だというのに堂々とした立ち振る舞いで、集団相手にも一切物怖じしていない。
レベルも戦闘職でカンストさせていて、一線を退いた歴戦の武芸者、といった風格だな。
その発言からして、どうやら彼女がギルド長のようだ。
――いやまあ、ギルド内は全部俺の
なんなら、慌てて呼びに来た受付の少女をなだめながら、ゆっくりとお茶を一杯飲み干してから来たことも知ってるんだけど……!
最初はなぜそんな悠長に……って思ってたが、事情を聞くとそんな対応にもまあ納得してしまう。
「いや、まだ決まっていない!立てられた仮説はほとんどが否定され、未だ原因は解明されていない。ならば、ギルドが不正している可能性もあるだろう!」
「あんたらの主張も否定されてるだろ?その理屈通しちまったら、否定された他の説も可能性が残ってるって話になって、むしろあんたらに不利じゃないのかい?」
「なに!?」
ギルド長と集団の
……あ、そういえば。
「先程、あの人達の主張は否定されたと言ってましたが、どうやって否定したのですか?そういうのって、結構難しいと思うんですけど……」
「ああ、それなら簡単です」
お姉さんの目線が、集団の猛抗議をスルリといなし続けるギルド長に向けられる。
「ギルド長が元【迎撃姫】ですから」
ふむ、なるほ……ど……って、え!?マジで!?
思わず俺もギルド長に視線を向けてしまう。
「若い頃に【迎撃姫】を継いでから、凄腕の傭兵として戦場を渡り歩き武勇を轟かせていたのですが……。
二十年ほど前の戦で片腕と片足、片目を失ってしまい、もうだいぶ年を召していたこともあって前線を退かれたんです。その後は迎撃者ギルドに招致され、ギルド長へと。【迎撃姫】もその時に手放されています」
20年前っていうと……5,60歳くらいか?
それまでずっと超級職として前線を張っていたと考えると、なかなかヤバイな。
歴戦の武芸者だったのか?とか考えてたが、間違いじゃないどころか、想定よりもスゴイ人だった……。
「なので、ギルド長に『私はギルドが公表している就職条件を満たしたことで転職クエストを解放し、【迎撃姫】に就いた』とおっしゃって頂き、それに《真偽判定》が反応しなければ――証明完了です」
うん、これは簡単だ。そしてなにより、覆しようがない。
なにしろ、《真偽判定》を反応させる以外でこれを覆したかったら、もう一人【迎撃王/姫】に就いた人間を連れてこなければいけないのだから。
……そういえば、とふと考える。
今のままだと、このまま【大迎撃者】のレベルを上げていったとして、俺も超級職になれないんだよな……。
やるなら一番を目指したいし、本気のルガリードと戦うのなら、超級職は必須条件ですらある。
覇漣さんのようにサブジョブ――俺で言えば【槍士】や【双術士】などの超級職を目指す選択肢もあるが、かなり難しいだろうし、仮に取れたとしてもそれに合わせてビルドや戦い方を変えていかなきゃいけないと考えるとなかなかに厳しい。
――いやでも。
少し考え方を変えてみると、この状況はむしろ俺にとってありがたいのでは?
俺はまだ【大迎撃者】に就いたばかりで、当然【迎撃王】の就職条件を満たしていない。
今ここで転職クエストが解放されるようになってしまったら、競争のスタートに立つことすらできずに、誰かが超級職になるのを眺めるだけだ。
でも、もう少し後……レベルが上がって条件も達成した状態で、転職クエストが解放されるようになったら?
無事、俺も超級職の取り合いに参加できる。
ということで俺が祈るべきは、俺が条件を満たすまでは原因が解明されず、満たしたあたりで原因が判明し、超級職を獲得する……という展開だな。
我ながら自己中の塊みたいな祈りだが、まあ、祈るくらいならいいだろう。
□将都 冒険者ギルド
しばらくギルド長と集団たちの言い争いを観戦していたが、なかなか終わらなさそうなので迎撃者ギルドを出て、当初から予定していたとおりに冒険者ギルドに来ていた。
言うまでもなく、経験値稼ぎ兼お金稼ぎになるクエストを探して受注するためである。
迎撃者ギルドで見せてもらった【迎撃王】の条件の1つに『【大迎撃者】レベル100』があったので、とりあえずの目標はそれになる。
のだが……。
「うーん……流石にクエストのランクが物足りないですよね……」
デンドロのレベルには個別のジョブに紐付けられた『ジョブレベル』と、そのジョブレベルを全て合わせた『合計レベル』の2種類があり、レベルアップに必要な経験値はジョブレベルの方が参照される。
同じジョブであれば、合計レベル50から100に上げても合計レベル300から350に上げても、必要経験値は変わらないのだ。
だから、同じ下級職で必要経験値がさほど変わらない【迎撃者】と【槍武者】は、同じフィールドでレベル上げしてもそんなに支障はなかった。
けど、今から上げようとしているのは上級職。
単純にレベル上限が2倍だし、1レベル上げるのに必要な経験値も多い。
今まで通りだとどれだけかかることか……。
あと効率とは別に、手応えという意味でも物足りなくなってきている。
この辺りのフィールドの推奨合計レベルは、〈緑花草原〉などの将都周辺でレベル0~30くらい、それより一歩進んだ〈魔香森林〉などがレベル30~80ぐらいとされている。
もうとっくに超えてるし、これからは上級職でさらにブーストされる。
そろそろ歯ごたえのある敵と戦いたい。
さらに言えば、心残りだったルガリードの置き土産、【小鬼】の大量発生もほとんど収束した。
【小鬼】の数はルガリード出現前と変わらないくらいになったし、それ以外の種類のモンスターの数も徐々に増えてきたそうだ。
このまま将都に居続けても、メリットはほぼない。
つまるところは。
「そろそろ将都を出て、別の街に行くべき時期ですか」
将都にはかなり愛着がある。
デンドロ時間で2か月近く拠点にしてたし、茜ちゃんや覇漣さんのように仲良くなった人もいる。レベル上げの合間の観光で、行きつけの茶屋なんてものもできた。
でも……強くなりたいという願うを叶えるためには、そろそろ離れなきゃいけない。
それに。
こんなリアルな世界で、未知のフィールドを突き進む大冒険……したくない訳がないよな?
「そうと決まれば、まず準備です。そろそろ武器も買い替えないといけませんし、ポーションなども揃えておきましょう……そういえば、有志の方々が攻略wikiを作っていましたよね。そこで情報収集もしましょう」
ウキウキと弾む心で今後の予定を立てていく。
ゲーマー魂炸裂だ。
まずどれから手を付けようか。そんな風に考えていると。
「……た、大変だ!」
満身創痍の男が、叫びながら冒険者ギルドに駆け込んできた。
だがその行動はいくらかの注目こそ集めたものの、それ以外の人々は至って通常運転だ。
モンスターや魔法、不思議アイテムがあふれるこの世界においては、ちょっとした緊急事態程度は日常である。いちいち大袈裟に反応していられない。
「――<UBM>!」
「……!」
けれど。続く男の言葉は、軽く流せるものではなかった。
ギルド内が一瞬で静まりかえり、誰かの息を飲む音が嫌に大きく聞こえる。
「〈UBM〉が……!森に〈UBM〉が現れやがった……!」
「――んだとぉ!?」
「本当か!?」
静寂……そして、爆発する怒号。
俺は一瞬で空間を塗り替えた喧噪に揉まれながら……また新しい騒動が巻き起こる予感をヒシヒシと感じていた。
ほとんど登場しないのにネームドなキャラ多くない?ってなったので、新キャラは名前を出さずに通してみたのですが……
登場が少ないとしても名前はあった方が良いでしょうか?感想いただけると嬉しいです
あと、これまで後書きに置いていた〈エンブリオ〉やジョブと、登場人物たちの設定をまとめた設定集を作ってみました
忘れてしまった設定やキャラの振り返りとしてももちろんですが、本編だとタイミングなどの問題で出せなかった細かい話を付け加えてたりするので、お時間があればそちらもどうぞ
【迎撃王(キング・オブ・インターセプト)】
迎撃者系統超級職
超級職の中でも就職条件がかなり簡単な部類で、底意地の悪い捻った条件もない
やろうと思えば、合計レベル400程度の半端者でも達成でき、それゆえ今回の騒動が大きくなったとも言える(条件達成者が多い分、文句も多くなる)
ただし、条件達成者が転職クエストをクリアできるかは…