偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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25・進化と疑問

□将都 冒険区広場 【大迎撃者】水無月火篝

 

 ログインすると、この数週間で見慣れた広場の風景が視界に広がった。

 リアルでは終業式を経て1学期が無事終わり、数時間前から夏休みへ突入。

 さぁ遊び倒すぞー!という意気込みでログインしたわけだが。

 

「……まだ討伐はされていないみたいですね」

 

 町人も武芸者も浮き足立っていて、街全体の雰囲気がいつもと違う。

 それもこれも、将都の近く――〈魔香森丘〉に出現した伝説級UBM【到極匠眼 アイラマティ】のせいである。

 

 

 一昨日、俺がちょうど冒険者ギルドに居合わせた時と、昨日の放課後にログインして得た情報を整理しよう。

 

 まず、冒険者ギルドに駆け込んできた男。

 彼は他の街から将都に来るために〈魔香森丘〉を通り、その最中に【アイラマティ】に襲いかかられたそうだ。

 単独で移動していた訳ではなく、一緒にいた他の人たちが【アイラマティ】にやられ(死んではおらず、後々救助された)、一人だけ逃げ延びて冒険者ギルドに来たのだとか。

 

 次に、【アイラマティ】について。

 遭遇した彼らの証言によれば、その外見は『宙に浮かぶ眼球』。

 目の形状のアイテムに発生した付喪神系のエレメンタルか、死体の目だけで造られたアンデッドではないか、と予想されている。

 

 そして最後。

 一昨日から昨日――デンドロ時間で3日も経ちながら、()()()()()()()()ことについて。

 発見時に自ら襲いかかってきたことが嘘のように、今の【アイラマティ】は姿を隠し続けている。

 高度な隠形スキルに加え、そもそもの体が小さいせいで熟練の【影】でも見つけるのは難しく、仮に見つかったとしても反撃し、生まれた隙をついて応援が呼ばれる前に逃亡する。

 自分からは見つけられなかったが、偶然近寄れてしまったせいで【アイラマティ】に不意打ちされ、負傷する武芸者の数も徐々に増えていった。

 それを受けた【征夷大将軍】と冒険者ギルドは無用な犠牲を出さないよう〈魔香森林〉を封鎖し、許可のない者の立ち入りを禁じた。

 

 だがそれは同時に、【アイラマティ】を討伐するチャンスをなくすということでもある。

 そうして昨日は、俺がログアウトするまでずっと膠着状態だった。

 今日になって討伐されたりしないかと思ってたんだけど……この街の雰囲気を見る限りは無理だったっぽいな。

 

 

 ちなみに、この間に俺が何をしていたかと言うと。

 武器を買い替えたり、装備を一新したり、アイテムを購入したり。つまりは、前考えてた旅立ちの準備だ。

 ……〈UBM〉がいるのになぜ挑戦しないんだ、って言われるかもしれないが、これは色々と考えた結果なのである。

 

 隠れていることについては、【ティレシアス】がある俺にとっては問題ない。

 破格の隠蔽看破能力があるし、範囲内の全てを立体的に把握できるから体が小さくても支障はない。

 問題なのは、伝え聞いた【アイラマティ】の攻撃方法。

 今の俺では、というか、俺のビルドではそれを防ぐことができない。

 仮に挑んでも、なにもできずに死ぬだけなのが目に見えている。

 "全力を出せば勝てる見込みはある"とかそういう次元ではなく、ただ負けるだけだ。

 結末が分かりきってるのならば挑むこともないだろう、と結論付けて、自分の為になることをしていたのである。

 

 ……勝てるかどうかは置いといて、挑んでみたくないの?と問われたら、もちろん挑んでみたい。

 ランダムエンカウントしかできない強ボスなんて、戦ってみたいに決まっている。

 でも、今の俺のデンドロにおける最優先事項は、ルガリードに勝てるくらい強くなることだ。

 デスペナによるログイン制限はもちろん、所持品ドロップも場合によってはかなり痛い。

 それに嘘か真か、デスペナになるとエンブリオの進化が遅くなる、なんて噂もある。

 それら諸々のデメリットを考えるならば……安易に挑む選択肢を取ることはできなかった。

 

 

 討伐はされていないにしても、昨日からどれくらい進展があったのかを知りたいので、冒険者ギルドに向かって歩き出したのだが。

 

「あれ?この感じ……もしかして」

 

 視界がこれまでよりも広がっていた。

 この現象は、前にも一度体験している。

 慌ててステータスウィンドウを開き、『エンブリオ』の項目を確認すると……。

 

「やっぱり!進化してますね……!」

 

 目に飛び込んできた、"到達形態:Ⅲ"の表記。

 待ち望んでいた進化がやっときて、内心狂喜乱舞してる。

 ログイン2日目で第Ⅱ形態してから、かれこれ2週間以上経っても進化しておらず、正直、すごい気にしていた。

 ネット掲示板を見てると、第Ⅱ形態から5日で進化したとか1週間で進化したとか、早い人は3日で進化したなんて話もあって、俺ぐらいに遅い人はいなかったしな……。

 

 でも、これで俺も晴れて第Ⅲ形態。

 やっと最前線に立てたわけだ。

 ……まあ、そろそろ第Ⅳ形態に進化する人が出てきて、また置いてかれそうな気しかしないのが悲しいところだけど。

 

 進化して変わったところを探すと、まず、ステータス補正が上がっていた。

 SPの補正がD、STR・AGIの補正がBになっていて、前回と同じく、よく使う項目が上がった感じだ。前は上がってたHPとENDが変わらなかったのは、攻撃は受けずにかわす戦い方が多かったからかもしれない。

 それと、《見えざる瞳、視る異能》のレベルが上がっていた。

 視覚結界の範囲がだいたい+150メートルされている。前回に比べると、多少大きく広がっているな。

 それに加えて――第Ⅰ形態の頃から存在していた、俺の体だけ黒塗りにして見えなくする機能が消えていた。

 

 ……あの機能は、考えなしに女アバターにしたことを後悔していた俺に応えて発現したのだと思っている。

 でも。最近は、このアバターで良かったと思うときがある。

 茜ちゃんやイリスたちを筆頭に、この世界で築いた関係のほとんどは、このアバターだったからこそのものだ。

 今アバターを作り替えられるよと言われても、決して頷くことはない。それくらいには、今の立ち位置、関係性を気に入ってる。

 

 仮にあの機能が俺の推測通りの理由で生まれたなら、心境の変化があった今、消えたとしてもおかしくない。

 おかしくはない、けど……。

 もしそうなら、【ティレシアス】はそこまで心理状況を把握した上で、考慮に入れて進化してるってことになる。

 いくらエンブリオがパーソナルや願望を反映して孵化・進化するとしても、そこまでやるものだろうか?

 

 ……いや、考えても仕方ない。エンブリオの内部的な部分は全てブラックボックスで、どうせ分かることはないんだから。

 それよりも、最後の変更点だ。

 それは、第Ⅱ形態になった時にはなかったこと。

 新スキルの習得だ……!

 新しい能力を得て内容を確認する時は、どんなゲームでも心が踊る。

 いそいそと効果を確認して――。

 

「……なんでしょう、これ?」

 

 その内容に思わず首をかしげた。

 

 

 別に弱いとか、使いどころが思いつかないとか、そういうことではない。

 むしろ、デメリットこそあれど強力だし、普段使いこそできないが、ここ一番ではかなり活躍してくれそうな性能をしている。

 俺が疑問に思ったのは、スキルの方向性についてだ。

 

 千差万別の能力を持つ〈エンブリオ〉だが、個々のエンブリオには、それぞれ"特性"や"コンセプト"のようなものがあるとされている。

 エンブリオは基本的に、その特性に沿った固有スキルしか習得できないのだとか。

 

 今までのスキルからティレシアスの特性を推測すれば、何と言っても"結界を通して視ること"だろう。

 進化でスキルを習得するなら、第Ⅱ形態で《看破》効果が追加されたように視える範囲・対象が広がるか、あるいは、そうやって見通した情報に干渉するか……そんな風に想像していた。

 

 でも、実際に習得したのは、想像してたのと全く毛色が違うスキルだった。

 特性の推測が間違っているのか、それとも、俺が理解できてないだけで、新スキルも推測した特性に沿っているのか……。

 疑問は深まるばかりだった。




火篝ちゃんが思ってるよりティレシアスは火篝ちゃんのことをよく見てますし、めっちゃ心情とか考えて進化の方向性を検討してます
進化が遅れた理由のほとんどが、ティレシアスがスキルの内容に悩んでたから、というくらいには……
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