偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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26・要請

□将都冒険者ギルド 【大迎撃者】水無月 火篝

 

 エンブリオの進化というイベントが挟まったが、当初の予定通り、冒険者ギルドに辿り着く。

 こんな状況だと言うのに――むしろ、ゴタゴタしてるこんな状況だからか?ギルド内は武芸者や戦闘職のマスターたちでいつも以上にごった返していた。

 

 手が空いてるようなら話を聞きたかったんだけど、これだと難しいかな……と、カウンター業務で忙しそうな茜ちゃんの様子を伺っていると。

 なんと、こちらに気付いた茜ちゃんがカウンターを抜け出して駆け寄ってきた。

 

「火篝さん、こんにちは!」

「こ、こんにちは。……カウンターから抜けて大丈夫なんですか?」

 

 人口過多状態な周囲を見渡す。

 少しの人手も無駄にできないような状況だと思うけど。

 

「あはは……あまり大丈夫じゃないですけど、火篝さんに少しご用事がありまして。今からお時間いただいてもいいですか?」

「もちろん大丈夫ですよ」

 

 けど、わざわざ寄ってくるほどの用事とはなんだろうか。

 

「実は、用事があるのは私ではなくて。火篝さんに話をしたいという方たちがお待ちなんです。ギルド長室にいますので、そちらまでご案内しますね」

 

 え、俺を待ってる人がいる?

 ……特に心当たりはない。

 誰なのかを確認するために視点をギルド長室に移すと――。

 

(ん?あの人は……)

 

 目に写ったのは、かなり意外な人物だった。

 

 

□□□

 

 

「あら、来てくれたのね。わざわざありがとう」

「久しいな、火篝の嬢ちゃん。ほぅ……少し見ぬ間に、だいぶ見違えたのう」

 

 ギルド長室に入ると、3人に出迎えられた。

 いつぞや対応してもらった受付嬢にして、あの後に茜ちゃんから「私のお母さんで、ギルド長で、【超書士】です!」と紹介され、度肝を抜かれた(あおい)さん。

 しがない中年武芸者に偽装してるが、その実態は天地でも屈指の実力者である【旋棍王】の鏡石さん。

 そして3人目が……

 

「久しぶりだな、水無月。……私のこと、覚えてくれているか?」

「もちろんですよ、柚芽さん」

 

 黒装束の美少女、【影】の柚芽さんである。

 

 柚芽さんと出会ったのはログイン初日のことだから、現実時間では2週間以上、デンドロ換算ではもう2か月近くも前になるのか。

 普通だったらそんな前に一度会ったきりの人なんて忘れてもおかしくないが、柚芽さんとの出会いは普通じゃなかったからなぁ……。

 忘れろって方が無理だと思う。

 

「また会おう、などと言っておきながら、数ヶ月も音沙汰なくすまなかったな」

「いえいえ。〈御庭番〉の皆さんが治安維持のために忙しく走り回っていたのは見かけていましたから。こんな状況では仕方ないですよ」

「ふふっ、そういってくれると助かるよ……ふむ」

「?なんですか?」

「いや、水無月。君の喋り方はそんな感じだったか?と思って」

 

 あ、ヤバイ……!

 柚芽さんと出会ったのは、ネカマがバレるリスクとかそういうのに思い至る前で、現実の俺の振る舞い半分、無意識の女らしい仕草半分くらいで人と接していた。

 でも、今はがっちり"水無月火篝"としての振る舞いをしている。

 それを柚芽は察してるんだろう。

 しかし、確信を持たれるのはマズい。全力で誤魔化さなければ……!

 

「え、そうですか?ずっとこんな感じだと思いますけど……」

「そうだったか?……すまない。記憶違いのようだ」

「いえ、大丈夫ですよ。数ヶ月も会わなければそうもなります」

 

 不自然にならないよう気を付けながら、なに言われてるか分からないです、という態度を醸し出す。

 少し怪しんでいたようだが、最終的には記憶違いということで納得してくれた。

 数か月も会えてなかったのが逆に功を奏したな。空いた期間がもっと短ければ危なかった……。

 

 

「旧交を温めているところ悪いけれど、本題に入ってもいいかしら?」

 

 声をかけられ、藍さんの方へ向き直る。

 そういえば、用事があるって呼び出されたんだっけか。 

 

「あなたも知っているだろうけど、今の将都は近くで発見された〈UBM〉、【アイラマティ】で大騒ぎになってるわ。今回呼び出させてもらったのは、その討伐に貴方も加わって欲しいからなの」

 

 話に出てきたのその名は意外ではなく、むしろ想像通りだった。

 藍さんが言った通り、今の将都で上がる話題のほとんどは【アイラマティ】関係だ。直接は関係なくても大元を辿っていけば、なんてことも少なくないし。

 でも、目的が”討伐”という少し意外だった。しかも、なんでわざわざ俺を名指しに?

 

「詳しくはワシから説明させてもらおうか。嬢ちゃんも、討伐作戦の状況は知っておるだろう?」

「有効な手段が見つからなくて膠着状態、ですよね?」

「その通りだ。ゆえに、ワシやそこの藍を筆頭に、対抗手段を模索しておった。そこで出た結論の一つが、外部戦力の誘致だ」

 

 鏡石さんの目が藍さんの執務机に向けられる。

 そこには、妙齢の女性の写真が載せられた書類が置かれていた。

 

「名うての傭兵にうってつけの奴がいてな。幸いなことに比較的近くの街におったから、そやつに依頼することに決まったのだ」

 

 だが、と鏡石さんが続ける。

 

「その前に、ワシは他の手段を試したいと思っててな。それがお主ら〈マスター〉の力を借りることだ」

 

 え、〈マスター〉の?

 

「高い隠密能力と対策が難しい攻撃手段ゆえに、ジョブだけでは打つ手が足りなかった。だがそこに〈エンブリオ〉が加われば、話が変わる。

 ジョブでは考えられないほどに自由で多彩でありながら、上級職に劣らぬ出力を持つモノもある。【アイラマティ】に有効な〈エンブリオ〉を持つ〈マスター〉たちを選び抜き、パーティーを組めれば……間違いなく、討伐は成る」

「……!」

 

 力強く言い切る姿に思わず気圧される。

 確かに〈エンブリオ〉の多彩さは目を見張るほどだ。単体で完封はできなくても、それぞれの得意分野を出し合えば、討伐は可能かもしれない。

 

「……でも意外でした。鏡石さんがここまで〈マスター〉のことを買っていたとは」

「はは、それは違うぞ、嬢ちゃん」

 

 率直な感想を伝えると、見当外れだと笑い飛ばされた。

 

「ティアンの中で比べれば、ワシは評価が高いほうじゃろう。いまだ〈マスター〉の力を疑ったり、信頼に値しないと考えたりする頭の固いやつらも多いからな。

 しかしさっきも言った通り、〈エンブリオ〉の力は疑うべくもない。それを目の当たりにしながら、信じない奴らが馬鹿というだけよ」

 

 それに、と打って変わって険しい顔を見せる。

 

「手放しに信頼できるかと問われれば、否と答えるだろう。無法を働き、力を悪徳のまま振るう〈マスター〉がいることは耳にしとるし、実際に目にしておる」

 

 一番に浮かんだのは、冒険者ギルドにて鏡石さんたちに絡んだ青年マスター。

 それ以外にも、あいつほど極端であからさまでなくても、ティアンを軽く見てぞんざいに扱う〈マスター〉は何人も見たことがある。

 あるいは、〈エンブリオ〉の力を悪用し、成敗され、犯罪者〈マスター〉用の特殊エリア――"監獄"に送られた話をネットで見かけたことも。

 ティアンにとっての〈マスター〉が、諸手を挙げて歓迎できる存在でないのは……少し悲しいが、事実だった。

 

「……しかしその点に関して言えば、我らティアンも同じだ」

「え?」

 

 予想だにしない言葉。

 まっすぐに顔を見れず、彷徨わせていた焦点を戻す。

 険しかった顔は消え、いつも通りの面白がるような笑いに変わっていた。

 

「法を軽んじ欲望のまま振る舞う罪人などごまんとおるし、超級職や特典武具(余人に持ち得ぬ力)に溺れる者も、いくらでも見てきた」

 

 ……言われてみれば、その通りだ。

 俺はマスターのことしか考えていなかったけど、ティアンたちは俺たち〈マスター〉と、現実の人間たちとほんんど変わらない心を持っている。中には、悪人だって犯罪者だっていて当然だ。

 

「〈マスター〉が我らより多くの力を持つ存在であるのは、考慮しなくてはいけぬ事実だ。

 だが、だからといって超常の存在や異質な存在として扱ってはいかん。

 性根を見定め、信頼できるか判断し、持ち得る力に見合った仕事を頼む。

 要は、ティアン同士で行っていたことをそのまま行うだけの話よ」

 

 そこまで聞いて、なんとなくだが鏡石さんの言っていたことの意味が分かった。

 

「買っているのではなく、正当に評価してる。〈マスター〉は〈エンブリオ〉という力が多くある分、期待する仕事の質も高くなっているだけ――ということですか?」

「そういうことじゃな。……おっと、本題がまだだというのに無駄話が過ぎてしまった」

「大丈夫です。なんとなく、話は見えましたから」

 

 藍さんは討伐に俺を加えたいと言った。

 鏡石さんは有効なエンブリオを複数集め、力を合わせて【アイラマティ】を討伐すると言った。

 ならば、俺に求められているのは一つしかない。

 

「【ティレシアス】――私のエンブリオの看破能力を、【アイラマティ】討伐に組み込みたいということですね?」

「うむ。その通りだ」

 

 隠密能力だけなら俺だけで対応できるというのは、元より考えていたことだ。

 そこに先程の話を聞けば、自ずとこの答えに辿り付く。

 

「〈マスター〉による【アイラマティ】討伐。そのために3日ほど前から冒険者ギルドにて応募を募り、その中から移動を担う者、攻撃に対応する者などを決めていたのだがな。隠れ潜んだ奴を暴き出す役だけ、どうにも制限や条件が噛み合わなくてなぁ。どうしたものかと悩んでおったのだ」

「それを聞いた私が、水無月ならその役を務められるかもしれない、と推薦したのだ。私と会った時点の出力では少し力不足のような気はしたが、あれから2か月。他の〈マスター〉と同様に進化を重ねていれば大丈夫だろうと。

 今回はその確認も兼ねていてな。どうだ、いけるか?」

「ええ、問題なくいけると思います」

 

 しかし俺だけで判断するのはいささか怖いので、念のため《見えざる瞳・視る異能》の詳細を3人に共有し、判断を仰ぐ。

 その結果、柚芽さんは勿論、鏡石さんたちからも大丈夫とお墨付きをもらい、俺も【アイラマティ】討伐のメンバーとして決定された。

 ……今回は見逃すしかない、と思っていたが、まさかこんな形で挑戦できるようになろうとは。嬉しい誤算だった。

 

 

 俺の参加が確定したことで、作戦の細部を修正したり、再確認する3人を眺める。

 ……1つ、気になっていたのだが。

 

「柚芽さんと鏡石さんってお知り合いだったんですね」

 

 それも、〈UBM〉討伐の悩みに口を出せるほど深い仲だ。ちょっと意外というかなんというか。

 

「超級職は数が少ない分、交流する機会は多いからの。柚芽らとは特別仲良くしてる方ではあるがな」

「え、でも、柚芽さんは上級職の【影】ですよね……?」

「ん?ああ、聞いとらんのか。柚芽の母親が超級職でな、その関係で柚芽とは生まれた頃からの付き合いよ」

 

 ……マジで!?

 

「別に、わざわざ言い回るようなことではないので話さなかっただけです」

「ほう、成長したのぉ。幼き頃はことあるごとに「かあさまはスゴいんだよ!」などと自慢して回っていたというのに……」

「ちょ、装弥さん!小さい頃の話は止めて下さい!」

「ふふっ」

 

 クールな見た目の柚芽さんが慌ててる姿は可愛らしいというか、微笑ましさを感じさせて笑みがこぼれる。

 

 でもそうなると、俺が仲良くなった1番目と2番目のティアンが超級職の子供ということになるし、そこから鏡石さん、覇漣さん、藍さんと3人もの超級職に縁が繋がっていってる。

 こういう言い方するとアレだが、デンドロを始めてからの人脈ガチャはSSRと言い切っていいレベルだ。

 ……ここまで来ると、柚芽さんのお母さんにも会ってみたいなー、なんて思っちゃったり。

 

 

「あ、そういえば。実は先程、【ティレシアス】が進化してこんなスキルを新しく覚えたのですが」

 

 ふと思い出す。

 色々あって頭から飛んでしまっていたが、今の【ティレシアス】は隠密看破だけのエンブリオではない。

 さっき覚えたスキル、こいつも討伐に役立てられないか?

 デメリットからして安易に使えるものではないが、〈UBM〉の討伐以上の使いどころなどそうそうない。

 

「なに?……ふむ……ほほう?」

 

 説明が進む度に、覇漣さんの目の色が変わっていく。

 

「1つ聞くが。()()()()とはどの程度だ?」

「実際に使ってはいないので推測にはなりますが、10回くらいかなと」

「……想定外ではあるが、よいぞこれは。猶予がだいぶと伸びる上に、トドメの確実性が上がる」

「ええ。それに何よりこのスキルは、最後の()()になり得ます。万が一があっても、可能性が掴める……!」

 

 おおぅ、予想以上に食い付かれてる……。

 軽い気持ちで出したぶん面食らったけど、ここまで喜ばれるとなんか嬉しい。

 あ、ていうか。

 

「討伐の具体的な計画をまだ聞いてませんでした」

「おっと、そうだったな。作戦はこうだ――」

 

 ふむふむ……なるほど……

 作戦書を用いながらの説明を聞いて、だいたい理解した。

 鏡石さんたちが知恵を絞って練り上げた作戦なのだから当然であるが、これなら討伐できる、と確信できるモノだった。

 

「すみません。この索敵の手順なのですか、……という感じにできますか?」

「ああ、もちろんだ。……しかし、なるほどな。そのようなことも出来るなら、こっちの方が断然良い」

 

 けれどその上で、自分が担当する部分の修正を提案する。

 これは粗があったとかではなく、俺だけが知る情報があり、それを元にすればより効率良い方法があっただけだ。

 鏡石さんたちが手を尽くしている。ならば、俺も出せるだけは出し尽くさなければ。

 そういった決意からの行動だった。




正直、柚芽のこと覚えてくれていた方はどれだけいるのか?と思いながら書いてました。3・4話目に書いて以降、話にすら出せなかった自分が悪いのですが……


『〈マスター〉は力を多く持っただけの人間に過ぎない』
鏡石さんのこの考え方は、ある意味ではアルター前国王の考え方(『〈マスター〉は、人間をより良き未来に導いて世界を変革する者である』)と正反対です
超越者が多い天地で生きてきたからこそ、そして自分もまた超越者だからこそ、超越者もまた人であることに変わりない、と考えています
鏡石さんの考え方の方がより実態に即していますが、〈マスター〉によってはそもそも『人間として活動しない』場合もあるので、その点では少し的外れな部分もあったり
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