偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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1・チュートリアル

第1話 チュートリアル

 

 

「……ようこそ……チュートリアル……へ」

 

 視界が暗転したかと思ったら、次の時には俺はもう見知らぬ場所に立っていた。

 俺が立っていた場所、そこは西洋式の書斎だった。

 壁際には本棚が並び、置いてある机の上にはチェス盤やサイコロ、書状や地図のように見える丸められた羊皮紙?的な紙が置いてある。今は誰も座っていないが、作りの良い木製の揺椅子なんかもあった。

 そして、目の前にはどこか陰鬱としたオーラを纏った女性が佇み、現れた俺に声を掛けてきた。

 

「こ、こんにちは」

 

 あなたは誰かとか、ここはどこかとか、色々と疑問は湧いてくるけど、とりあえずは挨拶である。

 俺は初対面の人に向かってズケズケと距離を詰めていくのは得意じゃない。というか、好きじゃない。自分がやるのも、他人にやられるのも。

 だから、健に近づこうと友達の俺に近づいてくるクラスの女子!そんなずかずかと懐に入ろうとしても嫌悪しか感じないからな!いくら俺が女子に慣れていなくてキョドりまくっていても、お前ら何かに落ちたりしないからな!陰口叩くなら本人の聞こえない所で言え!

 ……はぁ。思わず激高してしまった。心の中だけれど。

 

「……大丈夫……?」

「あ、はい。大丈夫です」

「……そう。では……自己紹介……しましょう……か。私は……管理AI……7号。ダッチェス……よ。あなたの……チュートリアル案内を……する……わ」

「……ッ、よ、よろしくお願いします」

 

 しかし驚いたな。

 彼女は今、自分のことを管理AI7号と言った。

 管理AIとは、現行のスパコン丸々一台を己の脳とした人造の電脳知性。主に情報などの管理に使われ、その管理能力は小国程度なら全てを完璧に管理できるほど。

 それ自体は決して数が多いとは言えないが、そこまで珍しい存在という訳でもない。

 小国を管理できるのならば、ゲーム世界も完璧に管理できるだろうし、使われること自体は不思議ではない。

 問題は、彼女が7号と言ったこと。

 それは要するに、このゲームに最低7体の管理AIがいることを表している。

 1体でも小国を掌握できるAIが7体。

 これはいくら何でもおかしいだろう。ここの運営は、何を想定してこれだけの数を集めたんだ……。

 

「……チュートリアルでは……ゲームの各種設定と……簡単な説明を……する……わ。まずは……描画設定……ね」

 

 女性……ダッチェスがそう言うと、周囲の景色が変わり、中世ヨーロッパ風の街並みになる。

 そして、その見え方が一定間隔で変わっていく。

 事前情報通り、現実の見え方から3DCG、2Dアニメーションと移っていく景色を見ながら、俺は驚愕していた。

 

「どうやってんの、これ?」

 

 人の視界を3DCGやアニメ風にするとか、どうすればできるのかが本気で分からないんだけど。このゲーム、一体どれくらいの超技術が使われているのか……今更ながら少し怖くなってきた。

 

「……結局は……どう脳が感じるか……だから。……やりようは……ある……の。……とても憂鬱……だけれど」

 

 ?憂鬱?何故に?

 

「……それで……どうする……の?」

「あー、それじゃあ現実視でお願いします」

 

 発表であれだけリアリティを押していたんだ。どうせだったら、それを一番実感できそうな現実にしよう。

 

「……次は……名前の……設定。……どう……する?」

水無月 火篝(みなづきかがり)で」

 

 これは即決。

 この名前は、俺がゲームをする時に必ず使う名前だ。苗字、名前がない場合は水無月だけだけど。

 その由来としては、俺の名前は葉月(8月)だが、生まれた月は6月なのだ。

 これは俺が予定日よりも1カ月ちょっと早く生まれたからなのだが、だったらその名前諦めろよと両親に言いたい。というか言った。

 小学校の時、名前の由来を調べてきましょう、という授業の時、めっちゃ恥ずかしかった。8月に生まれてくる予定だったので葉月です。生まれたのは6月ですけど、とか。

 

 まぁ、そこから6月という意味の"水無月"。

 火篝は、何十年も続くモンスターたちを捕まえて戦わせる某大傑作ゲームからの着想だ。

 あの中で、ほのおタイプはくさタイプに強い。

 “葉”月=くさ。現実の自分よりも強いゲームのキャラ=ほのお。

 という事で炎に関する言葉を調べて良さそうと思った“篝火”を、見た目を良くして“火篝(かがり)”にした、という感じ。

 小学生の頃に考えたPNだが、気に入ってずっと使い回している。

 

「……次は……容姿の……設定。……このパーツと……スライダーで……作って……ね」

 

 そうダッチェスが言うと同時に、目の前に現れたのは真っ新なマネキンと多くの画面。画面には「身長」「胸囲」などと上に銘打たれたスライダーと、目、鼻などの様々なパーツが表示されている。

 これからって……物凄く自由度が高いけど、同時に物凄く面倒くさそうだな。

 

「……ちなみ……に……性別を変えたり……動物型にも……出来る……よ」

「へ!?」

 

 慌てて見てみると、確かにパーツの中には元となるマネキン自体を変えられるものがある。

 女性にするものや、動物型では犬型や猫型、その他にも馬型や兎型などもあった。

 それを見た時、俺の中にとある感情が沸き上がった。

 それは所謂、興味心や好奇心と呼ばれるものだ。

 普段の自分とは違う自分を作るのだったら、いっそのこと性別や種族まで変えて、その感覚を知ってみるというのも面白いか、なんて思考の後に、俺はマネキンを自分から遠くかけ離れた姿へと変えていった。

 

□三時間後

 

「……よし、終わり!」

 

 ふう。疲れたぁ……。

 さすがに一から人の姿を作るのは大変だった。

 少し手抜きすると直ぐに不自然に見えちゃうから、ずっと全力で作るしかなかったし。

 けど、俺は美術の成績がずっと5で、美的センスには定評がある男――言ってくるのはほぼ健だけだが――絵を描いてネットに投稿すればかなりの高評価を貰えるレベルだ。ゲームしたり本を読んだりする時間がなくなるからたまの息抜きにしかやらないが。

 そんな俺が作ったのが、こちらだ。

 身長は155くらい。腰に届くくらいの淡青色のストレートロングと鮮やかな緋色の瞳。儚げで守ってあげたくなる顔立ちの美少女。胸は大きい。巨乳。

 ……見るからに俺の趣味全開で、改めて見返すとなかなか恥ずかしいな、これ。

 

「……終わった……の?」

「あ、はい」

 

 ……今思ったけど、作ってる間この人ずっと待たせていたんだよな。なんか途端に申し訳なくなってきた。

 

「……それじゃあ……それで決定……ね」

「よろしくお願いします」

「……ええ。……じゃあ……これは……一般配布アイテム……よ」

 

 俺の目の前上空に鞄が出現し、俺の手の中に落ちてきた。

 

「……それは……あなたの……アイテムボックス。……中は……収納用の異空間になっていて……教室1つ……重さでは1t程度まで……なら入る……わ。あなたのもの以外は……入らないから……注意……して」

 

 要するに俺用のストレージということだろう。

 

「……ただし……誰かをPKしてドロップした……アイテムとか……《窃盗》スキルで盗んだものは……入るから……。……逆に……あなたのものでも……PKされたり……《窃盗》スキルで盗まれたものは……相手のアイテムボックスに……入るから……。それに……《窃盗》スキルの……レベルが高い人は……アイテムボックスから……直接盗むことも……できるわ」

 

 ……異空間から直接盗むのは、どうやって防げばいいんだ……。

 

「……アイテムボックスは……壊れると中に入っていたものが……ばらまかれるから……耐久力に……注意して……ね」

「……気を付ける」

 

 そんなことで重要アイテム紛失したら笑えないからな。

 

「……アイテムボックスには……容量が大きいのとか……壊れにくいものとか……盗まれにくいものとか……色々あるから……余裕が出来たら……買い換えてみて……ね。……次は……初期装備。……この中から……選んで」

 

 そう言ってダッチェスが差し出してきたのは……カタログ?

 受け取って中を見てみると、全身鎧から中東風、着物に未来的な全身スーツまで、古今東西ありとあらゆると言っていいほどの装備が載っている。

 この中から選ぶのか……すごい迷うな。

 これだけあると全部見てらんないし、直感で……あ、これにしよう。

 選んだのは、黒のシンプルなワンピース。

 アバターを美少女にしたんだから、それに合わせた感じだ。

 ……男の俺がワンピースを着ると考えるとどう考えても問題だが、まあ、ロールプレイなんかそんなものだろう。

 

「……あとは……初期武器……ね」

 

 ダッチェスがカタログを捲ると、後ろの方には武器一覧があった。

 オーソドックスな所では木刀や模擬剣、弓に槍、マイナーなものでは鎌やスリング、暗器セットなんてものまで、こちらも様々な種類の武器が載っている。

 

「……じゃあ、槍で」

 

 選んだ理由は簡単。俺が今までやってきたMMOで一番使っていたのが槍だったから。

 VRゲームをするのは初めてだし、リアルで武術を習っている訳ではないから、どれを選んでも1からのスタートだ。だったら、少しでも愛着のあるものにした方がいいだろう、ということである。

 

「……分かった……わ。……それじゃあ……はい」

 

 ダッチェスが手を鳴らすと、俺の視界が少し低くなり、長く青い髪と二つの山が視界の端に写るようになり……上手く立てずに床にへたり込んだ。

 ……へ?へ!?

 ち、力が入らない……!?というか、力を入れられない?

 無理やり力を入れて立とうとすると、下半身に痛みが走る。

 どうなってんの、これ!?

 

「……これは……最初の路銀。銀貨五枚で……5000リル。……相場は……1リル10円……ぐらい。……今後は支援……しないから……きちんと……お金を稼げるように……なって……ね」

「あ、はい……って、え、スルー!?」

 

 こんな事態になっているのに、まさかのスルーをしてチュートリアルを進めるダッチェス。これには思わず思考が硬直し、お金を受け取ってから突っ込んでしまった。

 

「……じゃあ……〈エンブリオ〉を移植する……わ。……説明は……いる?」

「え、いや、だから……はい、お願いします」

 

 言い募ろうとしたが、途中で止めた。

 多分、無駄なのだと思ったから。

 今更に気付いたのだが、ダッチェスの目、それは俺を見ていなかった。あくまで機械的にチュートリアルを進めていただけだった。

 いくら人間っぽく見えていても、結局はプログラムで動くAIだということなのだろうか。

 ……それよりも〈エンブリオ〉だ。

 

「……<エンブリオ>は……プレイヤーの行動パターンや……得られた経験値……バイオリズム……人格に応じて……無限のパターンに進化する……あなただけの……オンリーワン。……あなたたちプレイヤーに寄り添う……相棒」

 

 ……ホームページにも書いてはあったが、やはり信じがたいものだ。

 けど、不思議と今の俺は、このゲームなら、〈Infinite Dendrogram〉なら出来るのではないのか、そんな気持ちになりかけている。

 いくつもの超技術を見せられたからか何なのかは分からないけど。

 ……けど、何故だろうか?そんな思考が出る度に、不安感のようななにかが心の中で滲んでくる。

 

「……〈エンブリオ〉が同じ形をしているのは……最初の第0形態のみ……で進化して第1形態になると……全てがまったく違うものに……なる。

 ……それと……〈エンブリオ〉のパターンは無限だけど……いくつかのカテゴリーに分かれてる……わ。大まかに……プレイヤーが装備する武器や防具、道具型の……TYPE:アームズ……プレイヤーを護衛するモンスター型の……TYPE:ガードナー……プレイヤーが搭乗する乗り物型の……TYPE:チャリオッツ……プレイヤーが居住できる建物型の……TYPE:キャッスル……プレイヤーが展開する結界型の……TYPE:テリトリー……ね」

 

 アームズ、ガードナー、チャリオッツ、キャッスル、テリトリーか。

 俺はどれになるのだろうか?

 

「でもこれ、自分が欲しいTYPEのエンブリオになるまで作り直す人もいそうだな……」

「……ちなみに……キャラの作り直しは……できない……から」

「…………え!?」

 

 なんとなく呟いた独り言に返事があったのも驚いたが、それ以上に内容に驚く。作り直しが出来ないって……どういうこと!?

 

「……こちらで……脳波を登録……してある……から。……だから……新しいハードを買って……エンブリオをやり直そうとしても……駄目……だよ」

 

 脳波を登録って……ちょっと怖いな。

 いや、問題はそこじゃなくて!

 ダッチェスはあくまでエンブリオをやり直そうとするのは無理……ということを言いたかったのだろうが、俺としては別の所に問題がある。

 キャラの作り直しが出来ないってことは……俺はずっとこの少女アバターでプレイしなきゃいけないということでは?

 俺が好奇心でアバターをこんな姿に出来たのも、何かがあればキャラを作り直せばいいだろう、という考えがあったからだ。

 それが……作り直しできない?

 

 だ、大丈夫。少女アバターに何もなければ何の問題も……いや、何かあったわ。

 今現在も立ち上がれずに床に女の子座りでへたり込んでいるのは、確実にその影響だろう。

 しかし、良く考えてみればそれも当然かもしれない。

 男と女では、体の作りが、まったく違う。

 肉付きも骨格も、何もかもが。

 しかも、俺は今までまだゲームに入っていない感覚だったが、本当はここももうゲームの世界だ。ハードを被って電源を入れたのだから。

 それなのに、俺がここを現実と錯覚していたのは、ひとえに俺が違和感を感じないほど、現実を再現していたから。

 そして、現実と錯覚するほどのリアルなVRゲームでアバターを異性の身体になんかしてしまったらどうなるか。

 それはもちろん、容易に動くことも、立つことすらも出来るはずがない。

 ……やってしまった。ものすごく大変なことをしてしまった。

 

「……はい。……エンブリオ……移植完了……よ」

「え?」

 

 慌てて見てみると、左手の甲に淡く輝く卵型の宝石が埋め込まれていた。

 これが……〈エンブリオ〉……。

 

「……〈エンブリオ〉が孵化すると……その卵がある場所は……刺青の紋章になる……から。……それが……この世界での……プレイヤーの証」

 

 わざわざ証を作るとか、何の意味があるのか?

 

「……紋章には……エンブリオを格納する機能も……あるから。……用事がない時は……仕舞っておいて……ね」

「分かった」

「……じゃあ……決めるのは次で……最後。……所属する……国を決めて……ね」

 

 ダッチェスが持ってきたのは、机の上に置いてあった丸められた紙。

 それを広げると、そこには一つの大陸が書かれた地図があった。

 その地図上の七箇所から光の柱が立ち上り、その柱の中に街々の様子が映し出されている。柱の周りでは、それぞれの国の名前や説明が光の文字となって浮かんでいた。

 

 白亜の城を中心に、城壁に囲まれた正に西洋ファンタジーの街並み

 騎士の国『アルター王国』

 

 桜舞う中で木造の町並み、そして市井を見下ろす和風の城郭

 刃の国『天地』

 

 幽玄な空気を漂わせる山々と、悠久の時を流れる大河の狭間

 武仙の国『黄河帝国』

 

 無数の工場から立ち上る黒煙が雲となって空を塞ぎ、地には鋼鉄の都市

 機械の国『ドライフ皇国』

 

 見渡す限りの砂漠に囲まれた巨大なオアシスに寄り添うようにバザールが並ぶ

 商業都市郡『カルディナ』

 

 大海原の真ん中で無数の巨大船が連結されて出来上がった人造の大地

 海上国家『グランバロア』

 

 深き森の中、世界樹の麓に作られたエルフと妖精、亜人達の住まう秘境の花園

 妖精郷『レジェンダリア』

 

「ふむ」

 

 どこも面白そうだ。

 これは迷ってしまうが……まあ、ここも直感で決めてしまってもいいだろう。

 

「天地で」

「……分かったわ。……簡単なアンケートだけど……どうしてそこを?」

「直感……だけど、強いて言えば、今まで和風のMMOをあまりやったことないから、かな」

「……そう。……これで……チュートリアルは終わり……よ」

 

 いよいよ、ゲームの世界に、か。

 

「……これから始まるのは……無限の可能性。あなたの手にある〈エンブリオ〉と同じ、あなたの行動で、選択で、全てが変わる、あなただけのオンリーワンの物語」

 

 あれ?途切れ途切れだった話し方が、流暢に……?

 

「ようこそ、〈Infinite Dendrogram〉へ。“私たち”は、あなたの来訪を心から歓迎するわ」

 

 その言葉の直後、ダッチェスも書斎も掻き消えた。

 逆に周りに現れたのは白い雲。上を見れば青い空。下には先程地図で見たのと同じ形をした大陸。

 

「え?えぇええええええっ!?」

 

 やがて俺の身体は大陸の端……から海を隔てた島に、一直線に向かって落ちていく。

 こうして俺は、〈Infinite Dendrogram〉の世界に足を踏み入れた。

 

 

□書斎にて

 

 先程まで葉月の居た書斎。そこでは一人の女性……ダッチェスが、一仕事を終えて一息付いていた。

 

「いやーダッチェス、さっきの対応は酷かったんじゃないー?」

 

 そこに、一人の声が掛けられた。

 ダッチェスが振り向くと、そこにはベストを着た二足歩行の猫……同僚である管理AI13号、チェシャがいた。

 

「……なんの……こと?」

 

 最後葉月に話しかけたような流暢さは今は欠片もなく、いつものたどたどしい口調になっている。

 

「さっきのチュートリアルのことだよー。性別変更の注意点も言ってなかったし、少女の身体になって戸惑っていたのに何のフォローもなかったしー」

「……ああ……そのこと。……ごめんなさい。……今は……演算領域の……ほとんどを休息させているから……上手く頭が……回らなくて」

 

 ダッチェスはこれから、ログイン中の全プレイヤーの視界のグラフィックを担当し、その上プレイヤーの視界を監視し情報収集することとなっている。恐らく24時間365日、ひっきりなしに能力を行使することとなり、その負荷を軽減させるため、未だプレイヤーがほとんど来ていない今日までの内に演算領域を十分に休息させることとなっていた。

 

「まあ、君にはこれから酷なことをしてもらうからねー。休息は大事だよー。それに、チュートリアル案内を無理に頼んだのは僕だしねー。してもらった立場で文句を言ってごめんね」

「……別に……いいわ。……けど……わざわざ私に……案内をさせたのは……なぜ?」

「あー、単なるおせっかいなんだけどねー」

 

 チェシャは少し恥ずかしそうにポリポリと頬を掻いてから説明する。

 

「君はこれから仕事に忙殺される。演算領域もほとんどを酷使し、僕らみたくチュートリアルでプレイヤーに会うことも、アバターで世界に生きプレイヤーと接することもない。僕らの目的のために育て上げる彼ら達と一切関わらないのは……寂しいんじゃないかなってね」

 

 チェシャの言葉に、目を開いて驚くダッチェス。しかし、次の瞬間には柔らかい表情となった。

 

「……そう……ありがとう……チェシャ」

「いえいえ、どういたしましてー。それじゃあ、僕は仕事に戻るねー。ダッチェスはきちんと休息していてねー」

 

 チェシャが去り、書斎にはまたダッチェス一人となる。

 

(……飯沼葉月……いえ……水無月火篝……私が唯一接した……プレイヤー。……彼女は……今後……どうするのかしら?……私の不手際のせいで……止めてしまう……?……それとも……それを克服し……いずれ……〈超級〉へと至る……?……分からない……だから……これからも……余裕があれば……見てみましょう……か)

 

 そうしてダッチェスも去り……書斎には、誰もいなくなった。




やっとチュートリアル終わりました。
次の話でログイン初日とエンブリオ孵化までやりたいと思っています。
お待ちいただけるとありがたいです。
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