偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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28・集合

□将都 冒険区広場 【大迎撃者】水無月 火篝

 

 時は経ち、デンドロ時刻で7時半過ぎ。

 リアルの諸々を済ませて再ログインした俺は、北門へ向かって足を進めていた。

 歩きながらサラッと所持品や装備を確認する。ログアウト前にもしていたが、念のためだ。

 武器はお馴染みの鉄槍と今回新調した【魔香の木槍】の二振り。

 防具も買い換えているが、前回同様、覇漣さんのお弟子さんが製作した戦闘用の着物なので、見た目はほとんど変わらない。しかし今度のこれはレベル制限を上げたバージョンアップ品で、AGIが10%、STRが5%上昇するうえに、《ダメージ減少》Lv3、《毒耐性》Lv2が付与されているなかなかの一品だ。あ、もちろん隠密狐のお面も忘れずにちゃんと被っている。

 ポーションを始めとした回復系アイテムも、巾着型のアイテムボックスに抜かりなく。

 よし、問題なし。

 あとは北門に向かうだけだ。

 

 

 歩いていると、ふと話し声が耳に入ってくる。

 

「聞いたかい?旦那。〈UBM〉がやっとこさ討伐されそうだって」

「ああ聞いとるよ。これで安心して商売できるってもんさ。……討伐に行くのが〈ますたー〉だってのはちょっと心配だがね」

「なに言ってんすか!〈マスター〉は駆け出しですら【風来狼】の群れを倒せるらしいですし、むしろ安心ってもんでしょう!」

「そうかもしれんが……やっぱり武芸者の方々のほうが信頼がなぁ」

 

「くっそぉ、俺も〈UBM〉討伐したかったなー!なんで落ちるんだよ!」

「仕方ないだろ。〈エンブリオ〉を基準に選んでたらしいから、お前じゃな……」

「は?俺の〈エンブリオ〉馬鹿にしてんの?」

「馬鹿にするというか……お前の〈エンブリオ〉、"美味いコーヒー(バフデバフなし)を淹れる"だけじゃん。むしろなんで選ばれると思ったんだよ」

 

 この2組以外にも、あちらこちらで討伐作戦が話題をさらっている。

 【アイラマティ】はあれだけ騒がれてるし、討伐メンバーの募集もあれだけ大々的にやっていたから、当然か。

 聞いた感じ、マスターは討伐に参加できなかったことに、ティアンは〈UBM〉がいなくなってくれることについて話してるのが多い。

 それと……マスターを信頼できるのか、という話題も。

 やっぱりまだ、マスターのことを異物や外来種のような存在だと思う人は少なくないようだ。

 悲しいことだけど……でも、だからこそ、この討伐作戦を完遂すれば見る目も変わってくれるはず。

 そう考えるとより一層力が入るというものだ。

 

 

 そうこうしているうちに北門にたどり着いた、のだが。

 

「これ……えぇ?」

 

 北門の前には、鏡石さんと討伐メンバーのマスターらしき4人――と、それを遠目から窺う人々の群れが。

 いや、なんなのあの人だかり!?

 ティアン・マスター問わず、鏡石さんたちの方を熱心に見つめてる集団に慄いていると、ふと、集まったティアン達の共通点に気付く。

 全員が戦闘系のジョブ、つまりは武芸者なのだ。

 ……なるほど。誰も倒せなかった【アイラマティ】を倒そうとする者たちを一目見てやろう、ということらしい。

 マスターたちの方も同じような理由だろうな。もしかしたらそれに加えて、「自分を落として選ばれた奴の顔を拝んでやろうじゃないか!」みたいな人もいるかもしれない。

 

 理解はした。理解はしたが……こんな衆人環視の中に出ていけと!?

 デンドロの中なら注目を集めるのもだいぶ慣れてきたけど、これはちょっと次元が違う。

 ほら、先に来ていた4人も、あまりの圧に気圧されて……って、あれ?そうでもない?

 

 1人は眼鏡をクイっとしながら堂々と立ってるし、1人はにこにこと笑みを浮かべながら自然体だし、1人は観衆を逆に気圧すような尊大な態度だし。

 まともに怯えてるのは1人だけ……いや、この子に関してはむしろ、普通以上に怯えているな。身体はぶるぶる震えっぱなしで、尊大な態度の女性に縋りつき、陰に隠れてどうにか視線から逃れようとしている。

 ……というか、この2人組って。

 

「霧鮫さんとエヌさん、ですよね?」

「ううぅ、人いっぱい……もうやだぁ……へ?」

「おお、火篝か。久しいな」

 

 やっぱりこの2人だったか。

 俺が仲良くなった〈マスター〉たちの1人、霧鮫とそのエンブリオにしてメイデンである【エヌマ・エリシュ】、通称エヌ。

 作戦書の参加する〈エンブリオ〉一覧にエヌの名前があったので来るのは知っていたが、まさかこんな形でまた共闘することになるとはな……予想もしてなかった。

 

「こに来たということは、お主も選ばれていたのだな」

「はい。では、お二人も」

「その通り。我の力を見込んで、な。くくっ、あの者はなかなかに見る目があるようだ」

 

 鏡石さんを見つめて笑うエヌはとても上機嫌そうだ。

 エヌは〈エンブリオ〉本人だから、〈エンブリオ〉の性能を基準とする中で選ばれたのがそれだけ嬉しいのかもしれない。

 

「お二人だけということは、他の方々は残念ながら……」

「ああ。あやつらの〈エンブリオ〉はお世辞にも相性がいいとは言えぬからな、仕方なかろう。とはいえ、悔しいは悔しいようでな、今頃は憂さ晴らしにクエストに精を出してるはずだ。特にイリスは地団駄を踏みかねないくらいでなぁ」

「ふふ、目に浮かびますね」

 

 彩夏の【ユグドラシル】は便利ではあるが今のところはそれ以上ではないし、マガネの【コッペリウス】はレベルやステータスが自分より高いほど【傀儡化】が失敗しやすいから、〈UBM〉かつ単体ボスな【アイラマティ】相手にやれることはほとんどない。

 イリスの【ユーピテル】で1対1に持ち込んだとしても、まぁ勝ち目はないだろう。そもそも、今回は力を合わせようって話だしな。

 

「……で。マスター、お主はいつまでそうしているつもりだ?挨拶の1つでもせぬか」

「でも、だってぇ……」

「む、無理しなくても大丈夫ですよ?」

 

 これまでの会話中、エヌの陰に隠れっぱなしだった霧鮫がやっと顔を出し、かと思えばまた引っ込む。

 ワニワニパニックのようでおもしろ可愛い、というのはちょっと失礼か?

 典型的な人見知りである彼女にこの人だかりはだいぶ酷のようだ。

 俺も平気というわけではないが、露骨に怯える霧鮫のおかげで、逆に冷静になれていた。

 

 

「よし、皆揃ったな。こちらに集まってくれ!」

 

 響いた声に周囲を見ると、俺が来た時にはまだいなかった2人も到着している。

 

「では行きましょうか」

「そうだな。ほら行くぞ、マスター……そう引っ付くな。歩きにくい」

「え……だ、だめ……?」

「――はぁ。構わんから早くしろ」

「!ありがとう、エヌちゃん!」

 

 ……前々から思ってたけど、この2人って主従というより親子か姉妹だよな。

 ま、千差万別なのが〈エンブリオ〉なんだから、関係性もそれぞれってことなんだろうけど。

 俺の【ティレシアス】はそもそも喋ってくれないから、関係性もなんもないのがちょっと悲しいな……。




【魔香の木槍】
〈魔香森丘〉を主な生息域とする樹木モンスター【魔香樹】のレアドロップ、【魔香樹の芯材】から削り出し、【魔香樹液】でコーティングされた槍。
下手な金属製武器を上回る切れ味があり、生物由来の修復力と毒や酸、腐食に対する耐性による耐久性の高さが売りの一振り。

・装備補正
攻撃力+100

・装備スキル
《自動修復》Lv2、《対害塗装》Lv1
※装備制限:合計レベル100以上
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