偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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作戦計画書を渡す描写を入れ忘れていたので、前々話に追加してあります


30・ゴタゴタ、そして出立

□〈緑花草原〉 【大迎撃者】水無月 火篝

 

「お、来たか!」

「お待たせしてすみません」

 

 北門を出てすぐのところに一塊となっているのを見つけ、リュージャと肩を並べて駆け寄る。

 みんな、すぐにでも出発したいとソワソワしているのが見て分かる。かくいう俺もそうだ。

 

「全員揃ったし、早速行こうぜ!来い、【アルゴー】!」

 

 叫んだ桃金浦の左手、刻まれた紋章から光の粒が溢れ出し、実体を形作る。

 光が収まった時――そこには、豪奢な装飾の施された()()()()()()()が鎮座していた。

 

□□□

 

 今回の作戦には、根本的に解決しなければいけない問題が1つあった。

 ”どうやってパーティーの足並みを揃えつつ、素早く移動するか”。

 【アイラマティ】を攻略するためには、その能力に対抗できる人材を集めなければならない。

 しかし実際に集まった者を見れば分かる通り、そのAGI……足の速さには大きなバラつきが出てしまう。前衛戦闘職を中心に就き、ステータス補正もAGIに寄ってる俺は1000近くあるのに対し、生産職ゆえに一番足の遅い百間狭のAGIは50にすら届いていないように。

 

 普通のパーティープレイなら一番足が遅い者に合わせて移動するのだが……今回は逃げる【アイラマティ】を追いかける必要がある。

 遅い者に合わせていては、一生追いつけない。

 この問題をどうにかするために選ばれたのが、桃金浦の〈エンブリオ〉。TYPE:チャリオッツ、【踏破船傑 アルゴノゥト】である。

 

□□□

 

「やっぱいつ見てもカッケぇなぁ、俺の【アルゴー】は!」

 

 現れた6人乗りのモーターボート――【アルゴー】を桃金浦がご満悦で眺める。

 そこは【アルゴノゥト】じゃないの?と思ったが、なんでも、チャリオッツ体自体は【アルゴー】であり、それに乗ることで発揮するスキルこそが【アルゴノゥト】である、という区別だとかなんとか。

 

「さあさあ、遠慮せずに乗ってくれ!……って、あー、そうだ。そこのお姉さんはどうする?」

 

 威勢が良かった桃金浦が、エヌの方を見て困ったように眉を寄せる。

 どうって……あぁ、なるほど。

 【アルゴー】は6()()乗りだ。〈マスター〉だけを乗せるのならば何も問題ないが、エヌも乗せるとなると席が足りなくなってしまう。

 

「……あ。ど、どうしよ、エヌちゃん!?」

「どうするもこうするも、我が引っ込むしかあるまいよ」

「え゛」

 

 人型をしていても〈エンブリオ〉。

 紋章に入ることができるのだから、そうするのが妥当なのだが……人から出たとは思えないような声が上がった。

 霧鮫は人見知りであると同時に、結構な依存気質でもあることは少し見ていれば分かる。

 初対面の4人と共に行動しなきゃいけない中、支えのエヌがいなくなってしまえば……どうなるかは想像に難くない。

 

「そ、それ以外に方法って……」

「ないだろうな。2人も座れるほど席は広くないし、席に座らずにいて吹き飛ばされぬほど、マスターも我もステータスは高くなかろう?……それとも。ステータスが高い者――そうだな、火篝あたりにでも席を譲ってもらうか?」

 

 おい、さらっと俺を犠牲にしようとするな。

 

「できないよ、そんなことぉ……」

「だろう?ならばもう手はない、大人しく受け入れろ。……おい、そんな目で見るな。今生の別れではない――どころか、紋章の中にいようと念話ができるだろうっ」

「う、でも」

「でもじゃないっ!まったく……。これ以上皆を待たせるわけにもいかん。そういうことだ、マスター。飲み込んでくれ」

「あっ……」

 

 強引に話を切り上げたエヌが、【アルゴー】の逆回しのように光の粒となって紋章に格納される。

 なんだかんだ霧鮫に甘いところがあるからな。このままだと霧鮫を押しきれず、一生ウダウダする羽目になると悟ったのだろう。

 

「……う、あ……」

 

 だが、切り上げられた側である霧鮫はたまったものではないようだ。

 身体の震えは増すばかりだし、過呼吸寸前になっている。

 他の人たちも心配そうに見つめているが、その視線すら苦痛に変わっていそうな様相だった。

 

 別に霧鮫だって、親しい人が周囲にいないからって必ずしもこうなるという訳じゃないはずだ。そんなんだったら、どうやって現実で生活してるんだって話になるし。

 しかし、見知らぬ人たちと〈UBM〉討伐という高難度クエストに挑まなければならない状況で。声こそ聞こえるが、頼みの綱だったエヌは急に傍を離れることになってしまい。立ちすくむ霧鮫がボートに乗り込むのをみんなが待ち続けている。

 そんないくつもの要因が彼女にのしかかり、追いつめてしまっている。

 

「……」

 

 リアルでは陰キャ拗らせて人見知り気味である俺だから、共感まではできなくても、その苦痛を想像することはできる。

 どうにかしてあげたい。してあげたいが……俺には、その方法が1つしか思いつかなかった。

 でもそれをやるのは、俺的に難易度が高いというか、覚悟が要るというか。なかなか踏ん切りが……

 

「は、はッ……ぅ、だれ、かぁ……」

 

 ――っ。

 あぁもう!しかたない!

 

「霧鮫さん!」

 

 ギュ……!

「……ぁ、え?これ……手?」

「私がいます。エヌさんやイリスさんたちほど信頼できないかもしれませんが……私が隣にいますから。だからどうか、安心してください」

「…………」

 

 呆けたように、確かめるように、包み込んだ俺の手を何度も握り直す。

 ……よし、いいぞ。だいぶ呼吸が安定してきたし、震えもほとんど止まってる。

 

 思い付いた解決策というのは、とても単純なこと。

 霧鮫がああなってしまったのは、頼る相手がいなくなってしまったから。

 だったら、頼る相手を()()()()()()しまえばいい。

 これまで何度か交流し、ある程度懐いてくれていた火篝()がいたからこそできた芸当である。

 

 しかし、信頼度ではどうしてもエヌたちに劣っているため、ただ声をかけただけでは届かない可能性が高かった。

 だからこそ、手を握ることで"傍に俺がいる"ことを意識させようとしていたのだが……。

 完璧美少女のガワこそ被っているが、中身は絶賛思春期真っ只中の男子高校生。

 女子と手を繋ぐことに、ためらわないわけがないよな!?

 ……まぁ、俺の羞恥心を捧げる程度で霧鮫を落ち着かせることに成功したのだから安いものだ。

 

 

『――感謝するぞ、火篝よ』

「?」

 

 耳元で囁かれた声に、霧鮫に集中していた視点を俯瞰に切り替える。

 すると、霧鮫の紋章を根元として、細い蒼蛇が耳の近くまで伸びているのが分かった。

 出所と聞こえてきた声音からして、エヌが作り出したモンスターだろうか?

 

『よくぞ、よくぞ我がマスターを鎮めてくれた。

 ……そうか、そうだな。ここより出て手を握ってやれば、それでよかったのだな。

 まさか我からの念話すら頭に響かぬようになるとは露にも思わず……柄にもなく取り乱してしまい、叫び声をあげることしかできなかった。

 我が軽率にマスターを1人にしたばかりに、このようなことを……!』

 

 悲痛な言葉が俺にだけ伝わるように響く。

 あのいつも堂々とした姿勢を崩さないエヌがこんな声を出していることにも、エヌの声すらも通じないような状態だったことにも驚いた。

 エヌですら声だけじゃどうにもならなかったのだから、それ以外をやろうとした俺の判断は正しかったようだ。

 

『……このようなことを頼むのは筋違いだと理解している。だがどうか。我が外へと出れぬ間、マスターを支えてやってはくれないだろうか?』

 

 そんなの、返事は決まってる。

 

「お任せ下さい」

『――感謝する』

 

 ドロリと蒼蛇が崩れ、紋章に吸い込まれていく。

 ともかく、これで一件落着だ。

 【アルゴー】に乗り込もうと足を向けて。

 

「……あの!」

「?どうかしましたか?」

「ず、図々しいかも、しれませんが。このまま――手を繋いだまま、乗っていいですか?」

「…………ええ、もちろん。問題ないですよ」

 

 そう、別に問題はない。ただ、俺の羞恥心が永続的に消費されていくようになるだけなのだから……いや、問題ありまくりだが!?

 かといって断るのは論外だし……。

 しかたない。俺が我慢すればいいだけだ。

 

「えへへ」

「……ふふっ」

 

 そんな俺の苦悩など露知らず(まあ知られないように俺が頑張ってるんだけど)、霧鮫は嬉そうに笑う。

 ここまで喜ばれるとそれだけで全てを許せそうになってしまう。我が事ながらチョロいなぁ……。

 

 

 だいぶ苦労はしたがやっと出発できると、霧鮫の手を引きながら【アルゴー】に乗り込むと。

 

「錯乱した気弱系美少女をミステリアスな美女が愛をもって抱きしめ、癒した後は手繋ぎで仲睦まじく並び歩く、だと……?尊い、なんて尊いんだ……!こんな神シーンが無料で見れていいのか!?しかしデンドロにはスパチャ機能は実装されてない……なぜだ、なぜ実装しないんだ運営!?とりあえず拝もう。そうしよう……」

 

 ――そこには、ひたすらにこちらを拝み倒す百間狭の姿があった。

 

「……はい?」

 

 ……はい?

 零れた声と心の声が完全一致した。

 頭の中が疑問で埋め尽くされる。

 こいつはなぜ拝んでる?なんで俺たちの方を見てる?分からん……!?

 

「なにこいつ、怖っ……あ、あー、えっとそうだな。とりあえず、落ち着けてよかったな!」

「その、ご迷惑を、おかけしました……」

 

 ヤバいものを見るような目の桃金浦に、俺がおかしくなったわけではないことを確認して安堵する。

 それに、霧鮫へ向けた気遣い。

 陽キャは陽キャでも、ちゃんと周りのことを考えられる良い陽キャだった……ちょっと穿った見方しててごめん……。

 

「いやいや全然!解決できたみたいだし、この後頑張ってくれればそれで大丈夫だし!あ、でもそんな美人さんと仲良くしてるのは羨ましいなー。俺にも手繋いだりしてくれません?なんちゃって――ぶへっ!?」

「!?」

 

 突然、桃金浦の顔を爆発が覆う。

 いつもなら気分を悪くするナンパ紛いの言葉も、ここまで場を和ませる意図が見えていればむしろありがたいと、俺も茶化す感じで返そうとしたところでの出来事に、思わずそれを引き起こした犯人……百間狭へ振り返る。

 

「痛った……!?なにす――」

「何をするだと?貴様は自分が何をしでかそうとしていたのか、理解して言っているのか!?」

「お、おぉ?」

 

 当然百間狭へと詰め寄るが、鬼気迫る表情にむしろ桃金浦の方が怯ませられてしまう。

 

「どうやら理解していないようだなぁ。ならば、無知蒙昧な貴様に教えてやろう。貴様が犯しかけた大罪を!

 ――貴様はな、()()()()()()()()()()()()のだぞ!!」

「「…………???」」

 

 何度目とも知れない困惑が俺と桃金浦を襲う。

 

「百合とは神聖なるモノ、断じて、断っっじて汚してはならぬのだ!だというのに、貴様というやつは……!!」

「「……」」

 

 ……言葉が出てこない。

 百間狭が言ってることの意味は理解できる。

 でも……えぇ……?

 

「本来であれば挟まろうとした男は問答無用で爆殺するが、討伐作戦を控えるがゆえに威力は手加減してやったのだ。感謝するがいい。

 そして、その生き永らえた命、なにに使うべきかは理解しているな?――そう、百合を理解し、己の罪を自覚することだ……!

 案ずるな、この俺自らが諭してやる。そうだなまずは百合の至高さについてだな――」

「あ、あの!」

 

 暴論から始まり、長々と続きそうになった話が遮られる。

 声を上げたのは、いまだ固まったままの俺たちではなく、ずっとオロオロと様子を見守っていたリュージャだった。

 

「そ、そろそろ出発、しませんか!?」

 

 声を裏返らせながらも、しっかりと主張する姿に百間狭が沈黙する。

 

「すぅー、はぁ……ええ、そうですね。そうしましょうか」

 

 深呼吸をした後、何事もなかったかのように自己紹介の時のテンションに戻る。

 それを呆然と眺めていた俺と桃金浦が顔を見合わせる。

 言葉こそ交わしていないが心が通じあったのが分かった。

 こいつ……真面目そうな皮被ってるけど、多分この中で一番ヤバい……!

 

「お、おー。じゃあまあ、出発するぞー……?」

 

 まだまだ困惑の抜けきらない桃金浦がハンドルとアクセルレバーを握る。

 時計を見ると、既に8時10分過ぎ。

 北門前でもう10分以上もウダウダしてしまっていたらしい。

 ……というか、さ。

 

 メンバーを全員見渡す。

 思想強くてヤバい百間狭に、さっきの声掛けで全気力を使い果たしたのか座席に脱力するリュージャ、俺の手を握ってご満悦な霧鮫。それと……さっきの百間狭の騒動の時含めて、ずーっとニコニコ笑顔から表情を変えずに眺めているマリア。

 ――癖、強すぎないか!?

 唯一、桃金浦だけはまともっぽいけども。

 ホントに討伐できるか、急に不安になってきたな……。




一定以上の知り合いにはかなり甘くてめっちゃ大切にする葉月くんと、討伐メンバーの中でぶっちぎりにヤバイ百間狭でした

ちなみに、『パーソナルから生まれてるとしても必ずしもパーフェクトコミュニケーションできる訳ではない』と理解はしていても、ちゃんとマスターの心を守れなかったことにエヌちゃんは現在ガチへこみしてます


【アイラマティ】討伐メンバー
索敵・〇〇・〇〇担当:水無月火篝 【盲目視眼 ティレシアス】
輸送・追跡担当:桃金浦 【踏破船傑 アルゴノゥト】
〇〇〇〇担当:百間狭 絶許
〇〇担当:マリア
〇〇〇〇担当:リュージャ
〇〇担当:霧鮫 【水成神母 エヌマ・エリシュ】
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