□〈緑花草原〉 【大迎撃者】水無月 火篝
ザアアァ―ッ。
「キュ?キュイィ!?」
高速で後ろへと流れる光景のなかで、草を食んでいた【走兎】が地上を進む船に驚き、逃げていくのをぼんやりと眺める。
すっかり見慣れたフィールドも、こうやって見るとなかなかに見応えがあるものだ。
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俺たちを乗せた【アルゴー】は現在、〈魔香森丘〉を目指して最短距離で〈緑花草原〉を突っ切っていた。
当然下は土と草なので、ホバーでもない【アルゴー】が走れるはずもないのだが……まるで大海原を征くように、悠々と進んでいく。
それを成すのが【アルゴノゥト】の第1スキル、《駆け抜ける絶地》。
『【アルゴー】が陸上・海上問わず、さらに段差や障害物に阻まれずに航行可能にする』スキルである。
そして、【アルゴノゥト】が保有するスキルはもう1つ。
『乗員数×100+乗員の合計レベル×3のAGIを【アルゴー】に加算』する、《集いし英雄》だ。
これによって、基本AGIが300しかない【アルゴー】が前衛上級職をも優に超える高速艇に早変わりする。
応募された中には、【アルゴー】より速く移動できる〈エンブリオ〉も、より多くの人を乗せられる〈エンブリオ〉もあっただろう。
だが、1パーティーを乗せた上で、【アイラマティ】に追いつける速度を出すことが可能であり、そしてなにより、足場の悪い森の中でも支障なく移動できること……これら全部の要因を満たせるのは、【アルゴノゥト】以外にいない。
まさに、今回の作戦での最適解と言えた。
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「じゃあマリアはまだ始めたばっかりなんだ?」
「はい。知り合いの方にオススメされたのですが、すっかりハマってしまいまして~。現実ではなんの力も持ちえぬわたくしですが、こちらでは直接誰かを救うこともできますから」
なかなかに不安を感じさせる出発だったが、意外なことに、道中の雰囲気は和気あいあいとしたものだった。
誰のおかげかと問われれば、間違いなく桃金浦のおかげだ。
明るく場を盛り上げながら、人見知りの2人と自分からはあまり喋り出さないマリアに適度に話題を振って会話に参加させる。
話し上手LV.MAXかつ聞き上手LV.MAXというか……素直に感心するし、彼がいなかったらその空気感は誇張抜きでお通夜のそれだったろうことを考えると、なんかもう頭が上がらない。
あとは……百間狭が地雷さえ踏まなければ礼儀正しい人間だったことと、俺が桃金浦のサポートに回ってたことも大きいと思う。
桃金浦の話に乗っかり、霧鮫たちのたどたどしい言葉を翻訳して……うぬぼれかもしれないが、俺がいなかったら流石の桃金浦とて、ここまで雰囲気を良くするのは難しかったはずだ。
……ふと思ったが、もし俺がガワを被っておらず、素のままの俺だった場合は人見知りが3人になってたのか。そうなってたら、今の比じゃないくらいに悪化していただろうな。
ちゃんとコミュ強の人格にした昔の俺に感謝ておこう。
「お、見えてきたぜ!〈魔香森丘〉だ!」
雑談に興じていた全員が前方に向き直る。
そこにはたしかに巨木が鬱蒼と生え揃った〈魔香森丘〉が姿を現していた。
……思えば、この2つのフィールドとも縁があったものだ。
初めての戦闘であの【小鬼】と死合ったのも、【純龍弓鬼】――黒牢に誘われ、【ルガリード】に挑んだのも。
霧鮫たちに出会ったのや……辻斬りティアンを殺したのもここだった。
これまでの俺のデンドロ生活のほとんどを占めていたと言っても決して大げさじゃない。
その縁とも、俺が将都を旅立つことでそろそろお別れになる。
ならば最後に、〈UBM 〉討伐という特大の花で飾ってやろうじゃないか。
「じゃあまずは火篝さんだな。よろしく頼むぜ!」
「ええ。お任せ下さい」
色々と対策を講じても、遭遇できなければ全て水の泡。
そういう意味では、索敵役はかなり責任重大だ。
「百間狭さん、記録の準備は……」
「現在地の同期は終わっています。いつでもどうぞ」
この中で一番
その手元にあるのは地図と
「……では、始めます!」
呼吸を整え、繋いだ両手は祈るように胸の前に。
この動作が必須ということではないが、これが一番集中しやすい姿勢だった。
「――」
目に見えず、触れもせず……でもたしかに存在するおぼろげな感覚を掴むイメージ。
【ティレシアス】の視覚結界《
「――っ、はっ」
揺らぎは次第に大きく。
もはや半球形ですらない、うねり狂うような不定形へと変貌する。
……もう一息だ。
切れかけた集中を一呼吸で紡ぎ直し、ダメ押しとばかりに眼を開く。
集中する時、普通なら目を閉じるものだろうが……今の俺にとっては、こっちの方が性に合う。
無機質な眼球が露わになったことで他の面々がギョっとしているのが見えたが、構う余裕もない。
ただひたすらに心を研ぎ澄まし。おぼろげな感覚よりさらに深い核心へと迫り――掌握する。
無秩序に暴れていた結界が統制され、不定形から一定の形に収束していく。
しかし、その形は元の半球ではなく――。
「……ふぅ」
「なぁ、成功……したんだよな?」
両手を下ろして緊張を解くと、戸惑ったような声が上がる。
テリトリーの中にはスキルを行使すれば空間の見た目が変わるものも多いが、【ティレシアス】にそういった変化はない。
外からだと、俺がひとしきり唸っているのだけ見えて、実際どうなのか不安になるのも当然だ。
「はい。これ以上なく」
だが、俺の試みは間違いなく成功している。
それは俺の視界が……前方へ広がる
【踏破船傑 アルゴノゥト】
TYPE:チャリオッツ
特性:乗員影響・地形無視
モチーフ:多くの冒険を潜り抜けたギリシャ神話の船"アルゴー船"とその乗組員たち"アルゴノゥト"
形態:Ⅲ
補正:AGIにE、その他G
形状:6人乗りのモーターボート。基礎速度はAGI換算で300。
《集いし英雄》
AGI換算で乗員数×100+乗員の合計レベル×3を基本速度に加算する。
《駆け抜ける絶地》
陸上・海上問わず、そして段差や障害物に阻まれずに走行することが可能になる。
備考:桃金浦の"
【アイラマティ】討伐メンバー
索敵・〇〇・〇〇担当:水無月火篝 【盲目視眼 ティレシアス】
輸送・追跡担当:桃金浦 【踏破船傑 アルゴノゥト】
〇〇〇〇担当:百間狭 絶許
〇〇担当:マリア
〇〇〇〇担当:リュージャ
〇〇担当:霧鮫 【水成神母 エヌマ・エリシュ】