偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

34 / 42
掲載開始から4年経ったらしいですが
作中時間は現実換算だと1ヵ月も経ってないそうです
……嘘でしょ?

※原作で情報が出たので、作中に出ていた【~武者】系の下級職を修正しました
修正漏れを見つけましたら報告お願いします


32・見敵、始動

□水無月 火篝

 

 ことの発端は、2週間ほど前。

 「【ティレシアス】の結界、もう少し狭くできないかな……」と思ったのがキッカケだった。

 

 視界――つまり結界の展開範囲は、第Ⅱ形態の当時で半径200m。

 広い範囲の状況を把握するのを求められるフィールドでの活動ならば適切、むしろ狭いくらいの距離だが……街中で過ごすとなると話は別だ。

 視界が建物や壁で遮られ、10m先すら見渡せないで生活するのが当たり前な街中では、()()()()のだ。

 視点をそらすことである程度抑制できるとはいえ、入ってくる情報量という意味でも、普通は見てはいけないプライベートな部分が目に入ってきてしまうという意味でも、なかなかにツラいものがある。

 それを解決する手立てとして考えたのが、結界の範囲を狭くすることだった。

 

 

 とはいえ、思い付いて即実行できたかというと、もちろんそんなことはなかった。

 一番ネックだったのは、俺が"結界の感覚"を掴めていなかったこと。

 自分の肉体の延長線上、そこに結界があるのはなんとなく分かっていた。

 だが、どうやって指示を出せば伝わるのか、動かせるのか……そういった想像がまったくできなかったのだ。

 

 それからは、移動中やら索敵中やら、暇を見つけてはあーでもないこーでもないと試行錯誤する日々。

 だが、なんの成果も得られずに1週間が経過し、これは失敗か……と半ば諦めていた時。

 数ミリだけであったが、視界の端が俺の意志に応じて縮まった、縮められたのだ。

 

 そこからはトントン拍子だった。

 一度成功したことで感覚は掴み、再現するのには数時間もかからなかった。

 ただ半径を狭めるだけではなく、左右だけ狭めて前後はそのままにしたり、碁盤の目のようにまだらにしたり……普段使いするかはともかく、色々とバリエーションを増やせることも分かった。

 今は基本的に街中では半径10メートル程度に視界を縮めて生活しつつ、壁や障害物に沿ってリアルタイムに範囲を変更し、隠されたモノを視ずにすむ技術を研鑽中である。

 こうして、視界の問題は解決した。

 

 ……しかし、俺は話をここで終わらせなかった。

 俺ができるようになったのは、厳密に言えば()()の範囲を変更すること。

 元ある結界の形自体には手を加えず、指定した範囲の効果が発揮されないようにO()F()F()にしているだけ。言わば、効果範囲の"切り捨て"だ。

 であるのならば……最初の思い付きの通り、()()の範囲を変更できれば、また別の結果を生み出せるのでは?と。

 そうして習得したのが、この"組み換え"のテクニックだった。

 

 

□□□

 

 

 "組み換え"を行った結界は、まるで最初からそうだったように扇形から揺らいでことはない。

 これは結界の形を一時的に変化させるのではなく、『半球型』として形があったものを『扇形』へと成形し直しているようなものだからである。

 おかげで多少気を抜いても元に戻ることはないが、深いところを弄っている分、必要な集中力は"切り捨て"の比じゃないのが難点だ。

 さっきみたいに、行使するまでどうしても時間がかかってしまう。

 でも、これでやっと準備が終わった。索敵を始められる。

 

 

 人間本来の視界のように前へだけ伸びる結界。

 その状態で、ぐるりと周囲を()()()

 

「く、ぅ」

 

 全方位の視界に慣れた頭は目まぐるしく変わる景色に違和感を吐き出すが、そんなものは無理やり押し込めて。

 視界に写る全てを見逃さぬよう、気を張り詰めながら何往復も。

 ……だが、目当てのものが写ることはない。

 

「……見つかりませんね。流石にそう都合よくはいかないみたいです」

「分かりました。……視界の限界は7()0()0()mでしたね?」

 

 百間狭が述べたのは、【ティレシアス】の結界半径の倍の距離。

 

「ええ、それでお願いします」

 

 だが、それは間違いではない。

 今の俺の視界の端は、たしかに700m先を見ていた。

 

 これが"組み換え"を行う利点。

 展開する方向を選ぶことで、全方位に展開していた分の結界がそちらに回り、距離の限界を伸ばすことができるのだ。

 と言っても、普通に活動しているだけではいつも以上の距離が必要になることはなかったので、習得したはいいものの今まで有効活用できていなかったが……今回の作戦においてはこれ以上なくハマってくれた。

 その分のデメリットとして選ばなかった方向は何も見えなくなるが、今やったように『見渡す』という動作を行えばそのデメリットも帳消しになる。ただただ、索敵する範囲が増えるという訳だ。

 

 

「700m……このくらいですか」

 

 縮尺に合わせてコンパスが調整され、現在地を起点に地図上に円が描かれる。

 

「では、進路は4時の方角で。ポイントが近づいたらその時にお知らせします」

「おっし、行くぜ!」

 

 ブォンブォンとエンジンを吹かし、【アルゴー】が森の中へ突っ込んでいく。

 器用に木の隙間を縫い、ぬかるんだ地面も小さな倒木もものともせずに進んでいく船の姿は圧巻だ。

 

「――もうそろそろ……はい、この辺りです」

「……こちらもダメなようですね」

 

 百間狭のナビのもと停泊し、こちらでも入口の時と同じように周囲を見渡す。

 だがやはり、標的は――【アイラマティ】は見当たらない。

 これまた同じように円が地図上に描かれ、【アルゴー】が発進。

 停泊し、見渡し、円が描かれ……一連の動作を繰り返す中で、徐々に徐々に、円で地図が埋められていく。

 【アイラマティ】の()()()()()の情報が更新されていく。

 

 ――そう、これこそがこの作戦における索敵のやり方。

 俺1人による、〈魔香森丘〉の()()()である……!

 

 

 ……こんなチマチマしたことなんてせずに、もっとスマートに探し出せないの?とは他でもない俺自身が思っている。

 だが、マップ1つ分の森を全て視界に収めるのは、結界の限界的に不可能。全域を索敵するには、今やっているように地域ごとに分けて探していくしかない。

 そしてこんなんでも、今回の索敵役としては集まった【エンブリオ】の中で【ティレシアス】が最適解なのだ。

 

 索敵・探索系の〈エンブリオ〉で一番多いのはドローンや鳥型ガードナーを放つ類だが、そういった〈エンブリオ〉は視覚情報でしか探せないものがほとんどだ。茂みや木々に隠れ、隠密能力もある【アイラマティ】は見逃してしまう可能性が高い。

 視覚に頼らず、隠密も関係なく探せる〈エンブリオ〉もあったらしいが……『一度討伐した種族しか探せない』とか『自分を殺した相手をマーキングする』とか、揃いも揃って今回の作戦には適しないものばかりだったとか。

 

 その点、時間と手間はかかっても、【ティレシアス】ならば確実に見つけられる。

 それに時間に関しても、"組み換え"で実質的な距離を広げている分、当初の計画よりかなり早くなっている。

 鏡石さんたちからすれば、嬉しい誤算だったはずだ。

 

 

 ……ただまぁ、1から10まで上手い話というものはないもので。

 この索敵方法には、結構重大な欠点もある。

 それは――

 

「ぐ、ぁああぁ……っ」

「水無月さん?大丈夫ですか?」

「……平気……ですっ」

 

 倒れかけた身体をマリアさんに支えてもらいながら、垂れてきた鼻血を拭う。

 

 普段の俺は、結界から届く全ての情報を処理することはない。

 これまでの人生から結界式の視界に慣れきってないというのもあるが……もっと問題なのは、それをしてしまうと俺の頭にかなりの負担がかかってしまうということ。

 ある程度は【ティレシアス】が処理を負担してくれるといっても100%じゃないし、当然入れる情報の量を増やせば増やすほど、負担は重くなっていく。

 戦闘中や普段の索敵で結界の全域に意識を向ける時だって、位置関係など、大雑把にしか情報を把握することはない。

 

 だというのに、今回は隠れた【アイラマティ】を見逃さぬよう、結界の隅々まで見通さなければならない。それも、実質的に範囲が広がっている中で。

 正直言って、とてつもなく辛い。

 計画を立てた段階である程度は想像していたが、その想像をはるかに超えている。想定していたよりも【アイラマティ】を見つけるのが遅れているのも、悪化に拍車をかけている。

 ……つくづく思うが、見通し甘いよなぁ、俺。

 そしてその甘さの結果が見ての通りの、頭が割れそうなくらい痛くて、立つのもやっとの惨状だ。

 

「……とても平気には思えません~。作戦書にも、このような副作用があるとは書かれていませんでしたし。一度休まれたほうが~」

「あはは、それは私が伝えていなかっただけなので……心配されなくても大丈夫ですよ。……少し見誤っただけ、です」

「でしたらやはり~」

「いえ、だからこそです。……私のせいで、みなさんにご迷惑はかけられませんから」

 

 そう、見誤ったからこそ、ここで倒れて投げ出すわけにはいかない。

 頼られたことに舞い上がって、期待以上の成果を出そうとして、この体たらくだ。

 ならば多少無理してでも、最初に期待されていた分くらいの働きをするのが筋ってものだろう。

 

「……そうですか~。でしたら、こちらを~。……《穢祓い・【傷痍】》」

 

 懐から取り出した符を片手に魔法が発動される。

 スッと痛みが和らぎ、頭が軽くなった。

 

「今はあまりMPは使えないので、気休め程度ですが~」

「……ありがとうございます。助かります」

「いえいえ~」

 

 いや、ホントにありがたい。

 治療してくれたこともそうだが、なにより心配してくれたことが。

 目の前でなにが起きてもずっとニコニコしてるの、ちょっと怖いな……とか思っちゃってたのがだいぶ申し訳ない。きっと、人より温和ってだけなんだろうな、うん。

 

 

□□□

 

 倒れかけた時は霧鮫に支えられ、痛みに悶えるところをたまにマリアに治してもらいながら、〈魔香森丘〉の4分の3を索敵し終えた頃。

 

「……見つけました!11時の方角、距離約600!」

 

 俺の視界は、待望の標的を捉えていた。 

 緑あふれる森の中で場違いなメタリックな表面。眼球を模した造形。そしてなにより、頭上に浮かぶネームタグ。

 間違いない。

 討伐対象――【到極匠眼 アイラマティ】だ。

 

「ふむ、やっとですか」

「えっとそうだ、アイテムの準備を……!」

「エヌちゃん、そろそろ出番だよ……頑張ろうねっ」

 

 俺の報告を皮切りにバタバタと支度が進んでいく。

 

「みんな準備はできたな?それじゃあ、仕掛けるぞ!」

 

 思いっきりアクセルが踏み込まれた【アルゴー】は【アイラマティ】へと一直線に突き進み、距離がどんどん縮まっていく。

 

「500……400……300、っ、気付かれました!」

「なんと。情報よりだいぶ早いのでは?」

 

 彼我の距離が200mを切った直後、【アイラマティ】がぴくりと揺れ、一目散に反対方向へと移動を開始する。

 これまでに挑んだ者たちから所持するスキルはいくつか割れており、その中には『発見されたことを察知する』と思わしきスキルもあった。

 これのせいで遠距離から攻撃しようにも逃げられるし、逆に【アイラマティ】を発見できない者は察知されず近付けてしまうので、不用意に接近、からの迎撃、で深手を負ってしまった人もいるのだとか。

 索敵してから近づく、という作戦上、察知されてしまうのは分かってたことだが……提供された情報から予想されていた察知限界の距離は150m程度だった。

 まさか、その2倍ほど遠くまであったとは……。

 

「外れたもんは仕方ない!速さの方はどうだ?」

「こちらは……情報通り、ですね」

 

 フワフワ浮くような移動方法だというのに、その速度はかなりのモノ。

 目測だが、AGIに換算すれば2000は超えるだろう。

 ティアンであれば、高レベルのAGI重視ビルドじゃなければ追いかけるのも厳しいほどだ。

 ――だが。

 

「なら大丈夫だ!どんだけ距離があっても追いつける!」

 

 今の【アルゴー】は、それより速い。

 なにせ、《集いし英雄》の補正が入った【アルゴー】のAGIは2500を越えている。

 追いつくのは時間の問題だ。

 

()()をしのぐ時間は増えるが、元々猶予はあったしな!頼りにしてるぜ、4人とも!」

「が、頑張りぁすっ!」

「リュージャさんはまず落ち着きましょう~。はい、深呼吸です~」

「……頼りにしてるぜ?」

 

 そうこうしてる内にも、逃げる【アイラマティ】との距離は縮まっていく。

 動きにくい森の中とはいえ、小さくて浮遊する【アイラマティ】と地形を無視する【アルゴー】にその影響はほとんどなく、純粋に速度の差が出てきている。

 このままいけば、遠からず追いつけるはず。

 ……しかし当然ながら、【アイラマティ】もそれを易々と受け入れるはずもなく。

 

「!妨害、来ます!」

『――――』

 

 距離が150mを切ったことで()()()()に入ったのか。

 若干速度を緩めた【アイラマティ】から、薄紫の光が放たれる。

 情報にあった、スキル発動の前兆だ。

 光はさながらTYPE:テリトリーのように円筒状に展開され、【アルゴー】ごと俺たちを包むどころか、左右20mほどにまで広がっている。

 小回りの利きづらい【アルゴー】では、立ち並ぶ木々でルートが狭められている中、発動までに範囲外へ逃げることは不可能だろう。

 ――もとより、逃げるつもりは毛頭ないが。

 

「さ、《身捧ぐ民草(サクリファイス)》っ!」

「――《母神の抱擁》」

「――《祝罪は行いに呼応せり(マカル・アマルティアー)》!」

 

 元々、準備は全員終わっていた。

 俺の警告にリュージャが、続いてマリアと俺が〈エンブリオ〉を発動させる。

 その一瞬の後――【アイラマティ】を起点とし、紫の燐光が駆け抜けた。




地味だけど火篝ちゃんが強化されました
直接強くなったりはしないけど、こういうことができると後々いろいろと悪さができるになる

・テリトリーの切り捨てと組み換え
原作だと月夜やBBB先輩などが行使していたテリトリーの圧縮と同種かつ別系統のテクニック
圧縮が『無理やり重ねて効果を強めよう』とするものとすれば、切り捨ては『特定範囲だけ効果を消して省エネする』、組み換えは『要らない場所から欲しい場所に結界を継ぎ足す(総体積は変わらない)』というもの
圧縮と違い、"重ねる"という一番負担が大きい工程が要らないため、要求される技術力と反動が段違いに少ない。そのおかけで、火篝も少ない期間で物にできた
ただし【ティレシアス】の場合、結界範囲=視界であるため、使い方によっては別の負担も増えるという、他者にはない欠点もある


【アイラマティ】討伐メンバー
索敵・〇〇・〇〇担当:水無月火篝 【盲目視眼 ティレシアス】
輸送・追跡担当:桃金浦 【踏破船傑 アルゴノゥト】
〇〇〇〇担当:百間狭 絶許
〇〇担当:マリア 【母神恩寵 デメテル】
〇〇〇〇担当:リュージャ 【凶傷護民 エサルハドン】
〇〇担当:霧鮫 【水成神母 エヌマ・エリシュ】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。