偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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タイトルから分かると思われますが、【アイラマティ】の話です。合計約2万字です

……流石に膨らみ過ぎでしょ、と自分でも思ってます
3話に分割して投稿してあるので、時間ある時にゆっくり読んでもらえると嬉しいです



34・とある【魔眼】の誕生

■6XX years ago

 

 現代からおよそ600年前。

 後の世で"三強時代"と呼ばれるこの時代は、世界の遥か長い歴史の中でも群を抜いて激動だったとされている。

 突出した戦闘力を持つ3人の傑物──【覇王(キング・オブ・キングス)】、【龍帝(ドラゴニック・エンペラー)】、【猫神(ザ・リンクス)】によって世界が割れたその時代において、【覇王】が君臨する侵略国家アドラスターと【龍帝】を象徴とする黄河帝国、そのどちらにも与しない選択を貫けたのは、たった2国しかなかった。

 

 1つが天地。

 黄河帝国内では"極東の不可侵無法地帯"とも呼称され、数多の法術を極めた【龍帝】をして「手を出すことなかれ」と伝えた、危険極まりない修羅たちの国。

 

 そしてもう1つが、レジェンダリア。

 異常環境とそれに適応した亜人種の部族が外敵から防衛し、なにより、世界最強格の広域殲滅型――【アムニール】と【妖精女王】が守護する、難攻不落の妖精郷。

 その堅牢さは単騎で一国を滅ぼす【覇王】をして手間と思わせるほどであり、アドラスターと国境を接しながらも侵略を避けられていた。

 

 しかしながら、それは天地に対する黄河のスタンスとは違い、あくまで()()()にされているだけである。

 黄河との戦争が片付けば、【覇王】はレジェンダリア侵略に注力し、遠からず成し遂げるだろう。彼にそれだけの力があることを疑う者など、この時代には存在しない。

 

 戦火から最も遠き安息の地でありながら、目に見える終末に不安が蔓延する。そんなレジェンダリアに、ある超級職がいた。

 【魔眼匠(イビルアイ・マスター)】アイラ・リオール。

 亜人種が覇権を握るレジェンダリアにおいて、ただの人間でありながら、【妖精女王】に次ぐ実力者として名を轟かせた者たちの1人である。

 

 

■■■

 

 魔眼の作成、そして運用の分野において、アイラは正真正銘の天才だった。

 

 【魔眼】はマジックアイテムの一種であり、接続することで視界・視点を増やし、接続者が保有する、あるいは【魔眼】に込められている"視覚"に関するスキルを遠隔から発動可能である。

 有用な代物ではあるが、それに比例するかのように作成の難易度・費用は一般的なマジックアイテムとは比べ物にならないほど高く、マジックアイテムの溢れるレジェンダリアであっても頻繁に流通はされていない。

 一方で、その希少さが人々の興味を引くゆえにか、流通量に反して知名度が高く、遠く離れた天地にまで噂が届いているほどだ。

 

 そんな魔眼の中で、彼女の作成した魔眼が大きく優れる点が2つあった。

 

 1つ目が、積まれた演算装置の質。

 普通、人間の眼球は2つだけであり、それ以上に増やすことなど想定されていない。

 その問題を解決するため、視覚情報の処理を肩代わりする演算装置が魔眼には搭載されるが、それらは全ての処理を肩代わりできるほど高性能ではなく、歴代の【魔眼匠】であってしても、5割を負担できるモノが造れれば上出来というほどだ。

 しかし、アイラは独自の手法を編み出すことで、処理の8割を負担できるほどまでの性能向上に成功していた。

 

 そして2つ目が、スキルの制限撤廃。

 先述したように、魔眼はその名の通り、視覚に関するスキルしか発動できない。アイラはこの制限を失くし、ありとあらゆるスキルの発動を可能としたのだ。

 

 【魔眼】の構造と作成手順は、ジョブスキルを通してアーキタイプ・システムから伝えられる。

 最初はジョブスキルとレシピによるオートで、慣れてくれば少しずつマニュアルで改良を施していく……というのは他の生産職と変わらない。

 だが、魔眼を【魔眼】というマジックアイテム足らしめる根幹、視覚への接続とスキル発動のための機構は、あらゆる生産アイテムと比べても、複雑怪奇に過ぎた。

 改良どころか、理解すること自体が難しく、半端な理解で下手に弄ってしまえば、システムから【魔眼】として認定されずに生産が失敗してしまう。

 そのため、熟練の【魔眼職人】であってもこれらの部分はシステムから授けられた構造から大きく変化させずに生産するのが通例だった。

 アイラはこの常識を打ち破り、根幹機構の完全理解と改造を成し遂げたのである。

 

 そしてさらに。

 技術方面とはまた別に、アイラには特異な才能――異常なまでの情報処理能力があった。

 常人であればどれだけ熟練しても3つが限界な魔眼の多重接続を、10以上の魔眼で行い、平然としているほどの。

 死角が存在せず、索敵も看破もお手の物で、ジョブに依存しないスキルをいくつも同時発動する。

 その脅威は、生産職でありながら当時の討伐・決闘ランキングの上位へと名を連ねていた、と言えば分かるだろう。

 

 間違いなく、歴代で最高の魔眼職人であり、魔眼の担い手――それがアイラ・リオールだった。

 

 

■■■

 

「まだ……全然、足りない……!」

 

 だというのに、アイラはその能力と立場を誇らず、満足もしていなかった。

 いや、アイラだけではない。

 彼女と同じ時代を生きた超級職たちは、多かれ少なかれ、誰もが同じ思いを持っていた。

 

 超級職は、この世界における頂点と言っていい。

 才能を備え、たゆまぬ努力を重ね、激しい競争を勝ち抜いた者しか座ることのできぬ席。それに到った彼らが、なにゆえさらに上を見るのか?

 ……言うまでもなく、見上げる遥かな天上にて、3人の別格が君臨していたからである。

 

 三強と相対すれば、超級職であろうと雑兵と変わりはない。

 彼ら以外との戦闘にあてる戦力を無駄に減らさぬために、三強が出張る戦に超級職は投入しない。それが常識とすらされていた。

 そのような扱いに甘んじ、心から受け入れるような者であれば、超級職になど成れるはずもない。

 それぞれがそれぞれの方法で、さらなる力を得ようと足搔き続けていた。

 

 そんな超級職たちの中でも、アイラの力を求める意思は格段に大きかった。

 自分が生き延びるだけなら、逃げ隠れるか、軍門に下ればいい。

 だが、彼女の願いは故郷(レジェンダリア)を守ることであり、その願いを果たすということは【覇王】を打ち倒すことと同義。

 【覇王】の底知れぬ強さは、誰もが知っている。魔眼を通すことで、命を残しながらも【覇王】の蹂躙を間近で観測できるアイラは、それをより実感していた。

 それでも臆さず、超えるために力を求め――壁にぶつかっていた。

 

 

 そもそも、【覇王】が台頭してきていた時点で、アイラの成長は頭打ちとなっていた。

 生産技術を落とさず、戦闘力を最大限発揮するためのジョブビルドの最適化はとうに済んでいる。これ以上弄れば蛇足になりかねない。

 更なる超級職でも取れるのならば話は別だが、魔眼関連の技術に才能を全振りしていた彼女は、その他の分野では良くて人並みよりは、程度。超級職など遠すぎる。

 

 ならば本業の魔眼の更なる改良を……と言いたいが、そちらもそう簡単にはいかなかった。

 魔眼のメリットは『視界・視点を増やす』ことと、『スキルの発動起点となる』こと。

 だが、これらのメリットをいくら伸ばしたところで……三強には届かない。

 これまでの延長線上ではなく、新たな次元へと歩みを進めることが必要だった。

 

 当然、一朝一夕でできることではない。

 工房へ籠り、寝食も忘れて頭を悩ませた。

 発想のきっかけにと、レジェンダリア中のマジックアイテム関連の書物を漁り、それどころかコネと金を駆使して、黄河を始めとした国外の文献や、遺されていた先々期文明の資料までをも搔き集めた。

 穴が開くほど読み込み、反芻し――

 

「……これなら、いけるかも」

 

 その末に、1つのアイデアを浮かばせた。

 

 アイデアを練り込んだアイラは、設計、素材収集、作成、それぞれに数年をかけた。

 そして、アドラスターと黄河の――【覇王】と【龍帝】の戦争が激化するその最中に。

 

『――起動シークエンス、最終工程完了。――おはよう、(マスター)

「うん、おはよう(アンドゥーン)

 

 1つの魔眼が産声を上げた。

 

 

■■■

 

 【未完之魔眼(アンドゥーン・イービルアイ)】。

 苦悩の末にアイラが作成した魔眼の名である。

 

 きっかけとなったのは、1つの先々期文明の資料。

 『生物の脳は一種の演算装置である』ことを示す論文であり、同時に『人間とほぼ変わらぬ人工知能』を組み上げるための設計図とアルゴリズムであったそれは、先々期文明においてフラグマンが煌玉人を作成した際の資料の一部だった。

 

 純粋な魔法を基盤とするレジェンダリアの職人のほとんどは、"魔導機械工学"と呼ばれた技術体系の産物であるその設計図を理解できなかっただろう。

 だが、演算装置が搭載された魔眼はマジックアイテムの中でも機械工学や回路寄りの物品であり、そのエキスパートたるアイラは、完全でなくともそれを読み解くことが可能だった。

 そして「脳が演算装置であるのなら、魔眼自体も一種の脳として運用できるのでは?」という発想に到ったのである。

 

 その発想を形にするためには()()ではなく、純然な機械工学の技術と知識が必須だと悟ったアイラは、危険を冒して大陸北西部に存在する遺跡群に足を運び【技師】へと転職した。

 元から持っていた魔眼作成技術と、新しく会得した機械技術、その両方を駆使し、資料を参考にして作られたのが【未完之魔眼】。

 世界初の自律型魔眼として、本来、視覚情報を処理するだけの演算装置を改良し、人工知能としての機能が組み込まれていた。

 "人格"として選んだのは、アイラ自身。

 これには、一から新たな人格を組み上げるにはスキルと時間が足りないという技術的な意味合いが1つ。そして、自分自身であれば意思疎通しやすく、裏切られたりもしないだろう、という打算もあった。

 こうして、【未完之魔眼】は新次元の魔眼であり、なおかつアイラの分身とも言える存在として誕生したのだった。

 

 

■レジェンダリア南西部 鉱山地帯

 

『……あれが〈UBM〉』

「そう、古代伝説級〈UBM〉【呪塊忌鉱 カースドマイト】。何百年も前からここに鎮座して、採掘作業を妨げてるお邪魔虫。この一帯を縄張りとしてるドワーフたちが自分たちの手で倒そう、ってずっと躍起になってるけど……」

『無理でしょ、あんなに育つまでに倒せなかったら』

「だよねー」

 

 【未完之魔眼】の起動から数ヶ月後。

 実験と()()を目的として、アイラたちは数メートル大の鉱石型の〈UBM〉【カースドマイト】の元まで足を運んでいた。

 

「とはいえ、私もソロで倒すのは不可能だし。スキルだけ吐かせちゃうから、あとはいつも通りよろしくね」

『了解、(マスター)

 

 これまで連れていた3つに加え、《即時放出》付きのアイテムボックスから取り出した7つ、計10の魔眼に接続したアイラが気負った様子もなく近づくと、接近を感知したのか、【カースドマイト】の半透明な鉱石内に紫紺色の魔力が漲っていく。

 数値にして1万を優に超えるMPが蠢き、解放され、アイラを閉じ込めるよう結界が築かれた――【未完之魔眼】がそう情報を処理した時、アイラは既に結界の範囲から退避していた。

 

("全識"のアイラ、か)

 

 音速に到達したAGIを筆頭とした、魔眼に込められた強化スキルの多重発動による半生産職とは思えぬステータスも強みの1つだが、やはりなによりも驚異的なのは、その情報収集能力と処理速度だ。

 いくつもの視界――しかもその内の数個は人間的な視覚ではなく、温度や魔力濃度などを視る、むしろセンサーに近い代物――から得た情報を束ね、高速で処理することで、動きの"始まり"を読み、完成する前に対応する。

 まるでそれは全てを見透かしているかの如くであり、故にこそ、アイラは"全識"の通り名で呼ばれていた。

 

 

 連続で発生する結界を次々と避ける。

 十分と少しの後、頃合いと見たアイラが、射程範囲外である【未完之魔眼】の元まで後退した。

 

「どう?」

『問題なし。ちゃんと解析できたよ』

 

 【未完之魔眼】に備えられた記憶装置、その一枠には、【カースドマイト】が使用していたスキルの概要と発動までの仕組みが確かに記録されていた。

 

『《ブリング・カラミティ》――結界から逃れられなかった者に【猛毒】や【衰弱】、【死呪宣告】などの強力な状態異常をランダムに、5秒間隔で、最長5分間継続して付与するデバフスキル。間違いなく強いスキルではあるけど……そのままの実用化は厳しそうだね。

 【カースドマイト】くらいMPの貯蔵があるならともかく、私や(マスター)ではMPの消費が多すぎる。溜めを増やすか、付与する状態異常の質を落とすか……それくらいはしないと』

「うーん。でもそれじゃあ、【覇王】へは通用しないよねぇ」

『……そもそも、【覇王】に生半可な状態異常なんて効く?』

「――うん、無理かな!

 〈UBM〉の固有スキルでも変わらず解析できるって実証できただけでも収穫、ということにしとこうか。居場所が分かってる〈UBM〉なんてあんまり居ないし」

『このスキル自体も、【覇王】以外には十分有用だしね。……どっちに変えておく?』

「んー、質を落とす方にしとこうかな。どんなに強くても溜めがあると使いづらいし、常人相手なら弱い状態異常でも効果はあるから」

『了解。スキル名は――そうだね、《ブリング・バッド》にしておこうか』

 

 《ブリング・カラミティ》が記録されている枠、その隣に、別のスキルが記録される。

 それは《ブリング・カラミティ》と似通いつつも、【未完之魔眼】とアイラに合わせて調整(チューニング)された、新たなスキルだった。

 

 

 これが【未完之魔眼】の能力だ。

 搭載したセンサーや《看破》を始めとした感知系スキルからの情報を元に、他者の使用したスキルを解析し、記録。

 記録したスキルは自分たちに合わせて最適化し、改良する。

 【未完之魔眼】は、言わば学習型の【魔眼】だった。

 

 アイラに三強に届くような【魔眼】は作れない。それが事実だ。

 だから彼女は、"いずれ三強へ届く()()()()()()【魔眼】"を作った。

 数多のスキルを解析し、改良し続ければ、【覇王】に届くほどに強くなるかもしれない。その可能性に、彼女は賭けたのだ。

 今はまだアイラの補助が必要だが、いずれは自ら考え、自らで行動し、成長していくようになるだろう。

 

 故に、この魔眼の銘は()()

 成長し、いずれ【覇王】を倒したその時こそ、完成へと至るのだ。

 それがいつのことか、そもそも実現するのか……それを知る者は、この時点では誰もいなかった。




【魔眼】というマジックアイテム、実はテスト段階では演算装置など付いておらず、『一般ティアンでは処理能力が追い付かない』という問題が発覚
『システムが【魔眼】作成時に処理能力向上のスキルを付与する』案と『製法をジョブスキル越しに渡して演算装置を作らせる』案が上がり、〈斡旋者〉は最終的に後者を採用、現在の形になった
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