偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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35・とある【魔眼】の再誕

■6XX years ago レジェンダリア

 

(アンドゥーン)もだいぶ仕上がってきたよねー。単独でモンスターも狩れちゃうし、なんだったら、そこらの〈UBM〉くらいなら問題なく倒せるんじゃない?」

『〈UBM〉は問題なくても、【覇王】に通じる気はしないけどね……未だに通りそうな攻撃手段も、攻撃を避けられるような回避手段もないし』

「それはそうだけどさー」

 

 【未完之魔眼】の起動から数年。

 1人と1個が、新スキルの解析と改良を目的とした遠征から帰還し、自分たちの工房に戻ってくる。

 近頃、アイラたちはもっぱらこのような遠征を繰り返していた。

 もちろん、工房に腰を据えて魔眼を作ることもあるが、その頻度は前の比でないほど少なくなった。

 根底にあるのは、焦り。

 巷では、三強の一角にして黄河帝国の要、【龍帝】の寿命が近付いてきている、という噂がまことしやかに囁かれていた。

 【龍帝】が消えれば、【覇王】へ対抗できる者はおらず、黄河帝国は瞬く間に飲み込まれる。

 そんな結末を避けるべく、総力を挙げての大戦の準備を進めており、それに合わせ、アドラスター側も軍備を整えているのだ、とも。

 

 仮にその噂が真実だとすれば、危ういのは黄河の方だ。

 【龍帝】死亡というタイムリミットがあるのだから、アドラスターは攻め立てられたとしても守りに徹し、時間を稼げばそれでいい。あとは、【龍帝】が死んでから悠々と黄河を滅ぼすだけだ。

 そして黄河が消えれば、次はレジェンダリア。

 決戦の時が近付いているというのに……【未完之魔眼】は、まだまだ成長し切っていなかった。

 このままでは、【覇王】に蹴散らされて終わりである。

 

 問題なのは【未完之魔眼】というよりも、スキルの解析元だ。

 【覇王】は攻撃面も防御面も異次元の強さだ。それと拮抗するには、そこらのモンスターやジョブのスキルでは力不足である。

 【未完之魔眼】は解析したスキルの改良や、組み合わせによる新スキルの開発も可能だが、それも元となるスキルの出力上限が低ければ限度がある。

 最低でも〈UBM〉や超級職クラスが必要だが、そう簡単に出会うことなどできやしない。

 

 情勢的に、レジェンダリアの外に出られないのも痛かった。

 スキルの傾向が偏り、新しい方向性が開拓できなかったのだ。

 それを補うためにレジェンダリア内には隅々まで遠征に赴いているが……焼け石に水だ。

 

「移動に関しては、やっぱり《念動》の出力を上げたいよね。もっと自分を動かすことに特化させられれば速さも上げられると思うんだけど……」

『前にも言ったけど、これ以上最適化するにはお手本が必要だからね』

「んー、けど《念動》を覚えるモンスターはもう巡り尽くしちゃったし。となると、速度特化の変異個体でも発生してくれないと――」

「し、失礼します!報告です!」

「ん?どうしたの?」

 

 工房で強化策を練るアイラたちの下に、息を切らしながら青年が駆け込んでくる。

 アイラは【魔眼王】として弟子を何人か取っており、彼はその内の1人だ。

 状況に依らず、常に冷静を保てる胆力を見込まれているのだが、そんな彼が動揺を露にしている。

 なにごとかと問い返すと……

 

「き……」

「き?」

「【覇王】が……封印、されました……!」

「……え?」

『……え?』

 

 

■■■

 

 ――【天神】【地神】【海神】の三者が、【覇王】を封印した。

 その情報は瞬く間に世界中に広がった。

 当然、信じぬ者も大勢いたが……絶対者たる【覇王】の元、統率の取れた動きをしていた業都に収まらぬ混乱が続いており、嘘でないことが徐々に浸透していった。

 その後、立て続けに【龍帝】が寿命で死に、タイミングを合わせたように【猫神】も姿を消した。

 それは民衆たちからすれば、三強時代のあっけない幕引きであった。

 

 この幕引きに最も喜んだのは、レジェンダリアの人々だ。

 【覇王】の蹂躙に怯える日々が、一転、なんの憂いもなくなったのだ。

 民は連日連夜騒ぎ倒し、為政者たちもこの時ばかりはそれを取り締まることもなかった。

 

 

■■■

 

 

「……ねぇ、(アンドゥーン)

『どうしたの、(マスター)?お祭り騒ぎに混ざってたんじゃなかったの?』

 

 そんな街の喧噪が聞こえる工房にて、明かりも付けず、なにをするでもなく鎮座していた【未完之魔眼】に、アイラが近付いていく。

 

「さっきまではね。でも、(アンドゥーン)のことが気になって」

『私?』

「なにか悩んでるんでしょ?」

『……あはは、バレちゃってたか。平静装えてたと思うんだけどなぁ』

「分かるに決まってるでしょ、私のことなんだから」

『ふふっ、それはたしかに』

 

 こぼすように笑った後、ポツリと語りだす。

 

『私は【覇王】を倒すために作られたんだよね』

「うん」

『でも、【覇王】は封印されて、レジェンダリアは守られて。……私ってもう、要らないよね?』

 

 その告白に、アイラが瞠目し……そして、間髪入れず吹き出した。

 

『ちょ、なんで笑って……!』

「い、いやー、まさかそんなことで悩んでるとは考えもしなくって」

『っ、そんなことって』

「……だってさ。捨てるなんて、そんなのする訳ないじゃん。

 この数年間、ずっと一緒に過ごしてきた自分の分身なんだよ?それを、目的は達成したから~、なんて理由で、私が捨てると思う?」

『……思わないけど』

 

 アイラは情に厚い方の人間だ。そうでもなければ、故郷を守りたいというだけで、本気で【覇王】を倒そうなどとはしないだろう。

 そんなことは、彼女の写し身である【未完之魔眼】にも分かっている。

 ただ、そういった理屈だけで払拭できないのが不安というものだ。

 

「それに!あなたを作るのにどれだけのお金と素材と労力がかかったと思ってるの?元を取るまでは馬車馬のごとく働いて貰わないと!」

『……ふふ、なにそれ。あーあ、酷いマスターの元で作られちゃったな』

「えー、いまさら気付いたの?」

 

 だから、わざとらしく話された打算が、心情を汲んだ慰めだということも分かってしまって。

 久しぶりに、心の底からの笑い声が上がった。

 

「でも、この理由なら納得かなー」

『……なにが?』

「悩んでいることは分かるのに、その理由は分からなかったこと!それは、あなた(創造物)だからこそだもの」

 

 アイラと【未完之魔眼】の思考はほとんど同じだが、完全に一致してはいない。

 そこに創造者と創造物という存在の違いがある分、当たり前のことだ。

 場合によってはそれが大きな亀裂となることもあるだろうが、このペアにおいては支障となることはなく、むしろ"同じでありながら少し違う"ことが、関係を良い方へと向かわせていた。

 

「――あのさ。折角だし(アンドゥーン)もお祭りに混ざらない?食べたり踊ったりはできないけど……一緒に楽しんで欲しいんだ」

『……分かったよ。他ならぬ(マスター)のお願いだもんね』

「やった!」

 

 暗い工房から華やかな街へと、1人と1個が連れ立って歩いていく。

 

 

■■■

 

 

 ――そして時は流れ。

 

 

■5XX years ago レジェンダリア

 

「……ねぇ、アンドゥーン」

『……どうしたの、マスター?』

 

 工房に隣接された家の一室にて。

 【未完之魔眼】にかけられた言葉は、いつか工房で佇んでいた時と同じ。

 けれど、その声の張りと構図は、ずいぶんと違っていた。

 あの時は、アイラが【未完之魔眼】を見下ろしていたというのに……今となっては、ベッドに寝たきりのアイラを、備え付けの机に置かれた【未完之魔眼】が見下ろしていた。

 あの頃のような溌剌さは既になく、あるのは、朽ちる寸前の巨木のような静けさだけ。

 

「私が今、なにを考えるのか。なにを願っているのか……あなたには分かる?」 

『――ごめん。分かんないや』

 

 両者の考えが揃わないことは、【未完之魔眼】が作成されてすぐの頃からままあったことだ。

 だが、ここ数年のそれは、度を越していた。

 "同じでありながら少し違う"。

 それがアイラと【未完之魔眼】の関係であったはずなのに、今となっては、むしろアイラの考えが【未完之魔眼】に伝わることの方が少ない有様だった。

 その原因は、あの頃のように創造者・創造物の違いなどではなく。

 

「えぇ、そうよね。だって……あなたは今の私にとって、()()()なんだもの」

『…………』

 

 人間は、生き物は時とともに変わっていく。知識を身に付けるごとに、経験を積むごとに、根幹となる信念や考え方すら変化することもある。

 だが、【未完之魔眼】は……アイラを複製し作られた人格(プログラム)は、なにかしら手を加えぬ限り、永久にそのままだ。

 月日が経つことで考えが乖離していくのは、むしろ自然なことだった。

 

「でも、そんなあなたにだからこそ頼みたいことがあるの」

『……いいよ。聞く』

「ありがとう。

 ……あなたも知っているでしょうけど、私は一生のほとんどをレジェンダリアで過ごしてきた。……いえ、レジェンダリアを出ることができなかった」

 

 まだジョブに就いて間もない頃は、ろくなステータスも戦闘手段もなく、国外へ行くどころか、レジェンダリア内を出歩くのすらままならなかった。

 超級職に就き、独自の戦闘スタイルを確立させた頃には、【覇王】の台頭でレジェンダリアそのものの存続が危ぶまれると同時に、国外は【覇王】とアドラスターの脅威に晒される危険地帯となってしまった。

 【覇王】封印後、大混乱となった西部中央に比べればレジェンダリア内部は落ち着いていたが、欲に駆られた新興国家に攻め入られることも少なくなく、不用意に離れることなどできなかった。

 【聖剣王】によって西部中央が平定され、平穏の時代となった頃には……老いの衰えで、動くのも難しい身体になっていた。

 

「レジェンダリアのことは好きよ。

 生まれ故郷というだけではなくて、魔力と魔法に満ち、多くの部族が共に生きている。そんなこの国を、心の底から愛してるわ。

 ここで生まれ育って、守るために人生をかけたことを後悔はしてない、それは本心。

 自分勝手で融通が利かない、ハイエルフや議会の人たちはちょっと困りものだけれどね」

 

 過去の諍いを思い出したのか、苦笑を浮かべるアイラ。だがそれでも、その表情は穏やかなものだった。

 その様に、【未完之魔眼】の胸中に言い知れぬ不安が広がるが……口は挟まず、続きを促した。

 

「けれど、最近()()()が見えるようになって……ふとした拍子に思ってしまうの。

 私がもし、レジェンダリア以外で生まれていたら。あるいは、【覇王】による動乱なんてなくて、自由に旅ができる時代に生まれていたら。私はどんな経験をして、どんな人生を送っていたんだろう、って。

 ……全ては"たられば"の話よ。現実はそうならなかったのだから考えても仕方がない、そう断じてしまえば普通は終わる話。

 でも――私には、あなたがいる」

『!マスター、もしかして』

 

 そこでやっとアイラの考えを察する。なぜもっと早く気付くことができなかった、という後悔と共に。

 

「アンドゥーン。私の代わりに、あなたに世界を旅して欲しい。風景や街並み、そこに住まう人々や、それを脅かすモンスター……レジェンダリアしか知らない私に、そんな、心躍る未知の光景をたくさん見せて欲しいの」

『でも、そんなことをしたって』

「私には何にもならない……えぇ、分かっているわ。あなたが見聞きしたモノが私に伝わったりしないものね。

 だから、これはただの自己満足。

 私自身じゃなくても、私の分身とも言えるあなたが、私の心残りを果たしてくれている……そう思うだけで、心置きなく終わることができると思うの。

 お願いしても、いいかしら?」

『……ずるいなぁ。そんなの、断れるわけないじゃん。

 分かったよ。その願い、必ず果たしてみせる。

 だから――安心しておやすみ』

 

 ここ一週間、アイラは意識を失っていた。

 それが数時間前、ふっと目を覚まし、願いを託したのだ。

 もう【未完之魔眼】にも分かっている。彼女の命の灯が、もうすぐ尽きようとしているのだと。

 

「えぇ、おやすみなさい、(アンドゥーン)。――いい、人生だったわ」

『…………』

 

 それっきり、部屋が静寂に包まれる。

 【未完之魔眼】の解析機構が、それが既に生き物ではないと告げていても……しばらくの間、見つめることを止めなかった。

 

『……さて、そろそろ今後のことも考えますか』

 

 だが、いつまでもそうしている訳にもいかず、思考を回し始める。

 

『私を相続するのは一番弟子の彼だっけ。でも彼もだいぶ高齢だし、世界一周に連れまわすのは無理かなぁ……世界を旅する意思があり、生半可なことで死なない程度には戦闘力があって、かつ私を持ち逃げしない信用できる人材――ちょっとハードル高いかもしれないけど、探してもらわなきゃ』

 

 アイラは生涯独身だったため、遺産はアイラの妹の家系と弟子たちに相続されることになっている。

 魔眼職人としての資産は主に弟子たちに渡り、【未完之魔眼】自身もその内の一つだった。

 

『……ッ、っと、そろそろリミットか』

 

 【未完之魔眼】の視界にノイズが走り、少しずつ稼働が止まっていく。

 故障、ではなく仕様である。

 自律するに足る思考と機能を持っていても、その本質は魔眼。人間が接続することで初めて稼働するアイテムだ。

 接続者であったアイラがいなくなり、新しく接続する者もいなかったため、自動的にシャットアウトされていく。

 

『……バイバイ(マスター)。いい夢を』

 

 最後に創造主の姿を記憶(記録)し。

 【未完之魔眼】の意識は消え去った。

 

 

■■■

 

 

 相続した一番弟子は、とりあえず【未完之魔眼】に接続するだろう。そこで《念話》によってアイラ最期の頼みを伝え、人を探してもらおう。

 そんな風に【未完之魔眼】は計画していた。

 だがその後の展開に、2つの想定外が発生し、これによって計画は破綻することになる。

 

 

「そう、あの子が……悲しいけれど、仕方がないことね。――あの子の最高傑作、【未完之魔眼】を国宝として認定しましょう。彼女という才溢れた【魔眼匠】が生きた証を、この国に残しておくのです」

 

 1つ目の想定外が、【未完之魔眼】が国宝として国の宝物庫に納められてしまったこと。

 生前のアイラと個人的にも交流があった【妖精女王】が提案し、貴重かつ高性能なマジックアイテムを個人所有ではなく国の財産とできるとあって議会も賛成。

 相続者であった一番弟子も、偉大な師の功績を残すためではあればと反対せず、むしろ積極的に献上した。

 

 結果として、誰が接続することもなく、【未完之魔眼】はアイラの頼みを話すことができなかったのである。

 アイラが生前から周囲に話をしていれば違ったのかもしれない。

 だが、【未完之魔眼】へ願いを託すかどうかを文字通り最期まで迷っていたため、知っているのは【未完之魔眼】自身のみ。

 接続者のいない【未完之魔眼】は当然目を覚ますことなく、主張することもできずに宝物庫に飾られた。

 

 

 ――そして、200と数十年が経過した。

 

『――再起動シークエンス、最終工程完了。……なのに、あれ?接続者は?それにここって、宝物庫……。

 ……あぁ、そういうことね』

 

 目を覚ました【未完之魔眼】は、周囲の状況を把握し、自身の状態を解析し……現状を理解する。

 2つ目の想定外。

 それは、【未完之魔眼】がエレメンタル――非人間範疇生物(モンスター)へと変化し、接続者がおらずとも稼働できるようになったことだった。

 

 アイテムや装備品がエレメンタル化することは、魔力が溢れるレジェンダリアではあまり珍しいことではない。

 ただし、街や村には〈アクシデント・サークル〉を防止する目的で魔力を吸収、あるいは散らす設備がある。それがそのままエレメンタル化への対策となるため、そのほとんどは自然界に捨てられたり落とされたりした代物だ。

 宝物庫にも当然そういった対策はされている。むしろ、高品質なアイテムほど魔力を多く溜め込んでエレメンタル化しやすいことを考えると、より厳重な対策が施されていた。

 だというのに【未完之魔眼】がエレメンタル化してしまったのは、内蔵したある部品の影響だった。

 

 【収蓄炉】。

 アイラの馴染みの職人が製作したマジックアイテムを【未完之魔眼】用に調整したそれは、周囲の魔力を吸収し貯蓄、スキル発動時のコストに回すことができる。

 そしてこの【収蓄炉】は、【未完之魔眼】が稼働していない間でも魔力を吸収する仕様だった。

 設備によって吸われ散らされても残った魔力の残滓。一度の量としてはかすかでも、200年間吸収し続ければかなりの量となる。

 そこにアイラと活動していた間に貯め込んだ分の魔力も合わせれば――エレメンタル化したとしても、なんら不思議ではない。

 

『まさか、エレメンタルになるとはね……起きてれば抑制もできたのに。

 ……というか私、どのくらい停止してたんだろ?宝物庫の中じゃよく分かんないな……』

 

 自分の現状を理解したとなれば、世界の現状について知りたくなるのも当然だろう。

 騒ぎになるのを防ぐため、複数のスキルで通報設備を誤魔化しながら、《念動》で宝物庫を抜け出そうとする。

 ――だが【未完之魔眼】に降りかかる変化は、これだけではなかった。

 

 

【(〈UBM〉認定条件をクリアしたモンスターが発生)】

【(履歴に類似個体なしと確認。〈UBM〉担当管理AIに通知)】

【(〈UBM〉担当管理AIより承諾通知)】

【(対象を〈UBM〉に認定)】

【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】

 

【(対象を逸話級――【到極匠眼 アイラマティ】と命名します)】

 

 

『……嘘でしょ?』

 

 エレメンタル化したことを理解した時でも混乱を起こさなかった思考回路が、短時間とはいえ情報を処理できずに停止する。

 〈UBM〉とはティアンにとって脅威と名誉の象徴。自らがそれになることは、ティアンであるアイラをベースとした【未完之魔眼】にとって、それほどまで衝撃的な事柄だった。

 

 

『……とりあえず受け入れるしかない。

 それよりも、これからのことを。

 まずは……街から抜け出すことから、かなぁ』

 

 ひとまず情報を呑み込むと真っ先に考えたのは、どうやって霊都から逃げ出すか、だった。

 ただのモンスターであれば、テイムされるなり何なりで人間と共存することもできた。

 しかし、〈UBM〉となってしまえばもう駄目だ。

 テイムはできないし、特典武具目当てで大勢が押し寄せてくるのは目に見えている。

 

『こんなところで倒される訳にはいかないんだよね。……(マスター)の願い、全然叶えてあげられてないんだから。

 あ、そうやって考えれば、これにもメリットはあるかも』

 

 モンスターになりステータスが追加されたことと、〈UBM〉として認定されたことで、各種性能は向上している。

 特に著しいのが、MP関連。

 【未完之魔眼】は接続者のMPか【収蓄炉】に貯まった魔力でスキルを発動させる仕組みだったが、今では自前で数万のMPを保有するようになり、注がれたリソースによって【収蓄炉】の吸収効率、貯蓄限界も飛躍的に上昇している。

 アイラと共に搔き集め、最適化したスキルを、これまで以上の出力で使うことができる。

 それは危険ばかりのこの世界を回る中で、この上ない武器となるだろう。

 

 

 周囲に人の気配がないことを念入りに確認すると、宝物庫を抜け出し、空を見上げる。

 時刻は夜半、満月が頂点に昇る頃だった。

 晴れ渡った空を飾る星々を、記録にある星の配置と照らし合わせ、簡易的ではあるが時代を測る。

 

『んー、ざっと200年、ってところかな。

 弟子たちは流石に死んじゃってるよね。長命種なら生きてるのもいるだろうけど……そこまで仲がいい奴もいなかったし、わざわざ訪ねることもないか。

 ……あ、【妖精女王】様がいた。でもなぁ、流石に王宮に忍び込むのは難しいし……宝物庫に書き置きはしてきたし、それで勘弁してもらおう』

 

 

『それじゃあ、出発!最初は、この200年でレジェンダリアがどう変わったのか、から確認してこっか。

 終わったら北へ。アルター王国、まだ残ってると嬉しいなー。平穏の世の象徴みたいなものだし。

 ……どんな旅になるのか。楽しみだね、(マスター)

 

 光学迷彩、気配操作、感覚欺瞞――何種類ものスキルを発動し、浮かんだ眼が夜闇に紛れていく。

 こうして【未完之魔眼】――改め【到極匠眼 アイラマティ】は、世界を見渡す旅路へと踏み出した。

 




 ――〈UBM〉担当管理AI曰く
 もはや誕生の時に込められた願いは果たせず、完成の瞬間が訪れないとしても
 創造主の半生に寄り添い、成長を続け、終わりを見届け、託されたお前は、既に【未完】などではない
 1人の創造者として、この私が保証し、称賛しよう
 創造物の極みへと到りし、アイラの瞳(マティ)
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