偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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37・一閃、壊滅、そして……

□〈魔香森丘〉 【大迎撃者】水無月 火篝

 

 蒼鳥と【アイラマティ】が交差する。

 【アイラマティ】に避ける素振りはなく、素で耐えられる硬さもない。

 それが示すのは、俺たちが勝利したということ。

 

「おっしゃぁああっ!倒したぞ!」

「や、やったんだ、俺たち……!」

 

 そう判断したのだろう。

 【アルゴノゥト】を停泊させ腕を突き上げた桃金浦を筆頭に、パーティーのほぼ全員が歓声を上げ喜びで沸き立つ中。

 

「……いえ違います、これは……!」

『構えろ!まだ終わっておらんぞ!』

 

 衝撃の中で絞り出した俺の呟きに、霧鮫の紋章から顔を出した蒼蛇――エヌの叫びが続く。

 思考加速のおかげで辛うじて目で追えていた俺と、創造者として蒼鳥の状態をモニターできたエヌ、この場において2人だけが、状況を正しく把握していた。

 

 蒼鳥は、【アイラマティ】を殺せていない。

 その嘴が届くより前に、真っ二つに斬り捨てられた。

 交差したかのように見えたのは、両断された後、慣性が働いて吹き飛んだだけだ。あたかも、発砲された銃弾が刀で斬られた時のように。

 

 蒼鳥でトドメをさせなかったのも問題だが……それ以上に問題なのは、蒼鳥をどうやって切断したのか、が一切分からないこと。

 警戒していた、【アイラマティ】の奥の手であるのは間違いない。

 でも、それがどんな攻撃なのかをまったく認識できなかった。

 不可視の斬撃、踏み込めば両断される結界、etc……可能性は色々考えられるが、実態が分からない以上、対策のしようがない。

 

「なんと。あの怪鳥に対応したというのですか……!」

「マジかよ!?どうする!?」

「……【アイラマティ】がどんな手段を使ったのかが分かりません。ここは一度退いて様子、を……」

 

 ふと、言葉が止まった。

 俺だけではなく、向き合っていた桃金浦も、不安そうにしていた霧鮫も……パーティーの全員が、時でも止められたかのように動きを止める。

 

 目に見えるなにかがあった訳じゃない。

 ふわりと、柔らかな風のようなものが身体を通り抜ける感覚を覚えただけ。

 たったそれだけなのに……今、自分たちは()()()()のだと。そう直感してしまった。

 

 

「――エサルハドン!?」

 

 誰も動けないことで生まれた静寂を、リューガの悲鳴が破る。

 はっ、と視点を移せば、これまで俺達を守ってきた人影が、光の塵へ変わっていくのを認識する。

 ……あれだけ明瞭に死を感じたというのに、俺達は誰一人として死んでいなかった。

 【エサルハドン】が全てのダメージを引き受けてくれたからであり、そして許容値を超えたダメージによって消滅してしまったのだ。

 

 

「っ、撤退です!今すぐ、この場を離れてっ――!」

 

 硬直した身体を突き動かすように、力の限り叫んだ。

 桃金浦が【アルゴー】のエンジンを入れ、百間狭がミサイルを取り出し、蒼蛇が霧鮫の紋章から飛び出し――弾かれたように、各々が動き出す。

 命を繋ぐため、それぞれがそれぞれの最善を尽くそうとするも……遅かった。

 

 再び、柔らかな風が吹いた。

 その瞬間、みんなの首が、胴体が、あっけなく斬り落とされる。

 

 ――ただの偶然か、あるいは3度目で慣れたのか、視覚結界が攻撃の正体を捉える。

 脳裏に映されたのは、振り抜かれた輝く剣。

 ……色々と可能性は考えたが、なんてことはない。

 誰も見ることができないような速さで剣が振るわれた、それだけのことだったのだ。

 

 けれども。

 攻撃の正体を知れても、もう今更で。

 こうして、俺たちのパーティーはあっさりと壊滅した。

 

 

■【到極匠眼 アイラマティ】

 

【《神断》、直撃】

【全敵対対象、排除完了――】

 

 両断され、光の塵として消えていく天敵たちを観測し、思考演算が戦闘状態から切り替わる。

 

 《神断(かみだち)》。

 【アイラマティ】の万を超える保有スキルの中でも、明確に奥の手として扱われるこのスキルの参照元は2つ。

 レジェンダリアの辺境、とうの昔に滅びた廃都市を守護する神話級〈UBM〉【創剣囚仏 ザンミダ】。

 そして、【剣王】にして【斬神】、常識外れの剣才から"剣神"と讃えられた男である。

 

 【ザンミタ】が創り出すのは『切断』の(ルール)が与えられた剣であり。

 "剣神"の技には、一目見た【アイラマティ】に『この技ならば【覇王】にも届きうる』と、そう直感させるほどに極まった術理があった。

 

 《神断》は作った剣をただ振るうだけのスキルであり、なんの特殊性もない。

 それでも――用いるのが神の剣であり、振るうのは神の技であるからには。

 その名が示すとおりに、神話級をすら断ち斬る力を秘めていた。

 

 

 しかし、この力は意のままに振るうにはあまりに強大だ。

 それでも使おうというのならば、それに見合うだけの代償(コスト)を支払わなければならない。それが道理である。

 

【――MP残量:1266。《収蓄炉》MP残量:0】

【戦闘行動困難。MP回復を最優先として行動計画を変更】

 

 今回の場合の代償はとても単純だ。

 "膨大なMP消費"。

 発動に必要なMPは数十万を優に超え――三度、たったの三度発動しただけで、400年の旅で貯めこんだMP、その全てが使い果たされてしまった。

 このままでは戦闘どころか、移動用の《テレキス・モーター》ですら発動が危うい。

 

 とはいえその甲斐あってか、敵対者は一掃された。

 自然魔力が豊富な地へ残ったMPで移動し、回復を待てばいい。

 

【……!敵対対象、生存確認。対象数1】

 

 ……そこまで演算した【アイラマティ】のセンサーが、光の塵、溶け消えるリソースに紛れて観測できなかった存在を認識する。

 それは、紅い着物姿の少女。

 地を征く船へ同乗し、味方へバフをかけていた、天敵たちの1人だった。

 

【原因推測――確認。【()()()()()()()】】

 

 《神断》は確実に直撃していた。

 それでも生存していた理由を探し……地面に散らばる破片を発見する。

 致命ダメージを無効化し、一定確率で壊れるアクセサリーの加護が、神話級の斬撃から装着者を護ったのだ。

 

【……《虹輝魔法》、属性分布:平均、展開数:偏重で調整。発動――】

 

 【救命のブローチ】の存在を考慮せず、そして発見も遅れるという明らかなミス。

 だが残ったのは、肩代わりの従魔を従える男でも、無数の火器で《虹輝魔法》に対処する男でもない。

 天敵たちの中で一番レベルとステータスが高かろうと、【アイラマティ】視点では最も無害な相手である。

 更に言えば、もう追いかけられる船もない。

 逃げることも、ここで殺しておくことも、どちらもできる。

 思考演算を戦闘状態へと再び切り替えた【アイラマティ】は、両者を検討……死んでも蘇るの(〈マスター〉の特性)を知らないため、殺して後顧の憂いを断ったほうがよいと、後者を選択し。

 ――それが、【アイラマティ】にとって()()の判断ミスとなった。

 

【――発動不可。異常発生。原因特、定……?】

 

 不発。

 砲弾となりつつあった魔力が、制御を離れ霧散する。

 それどころか、《テレキス・モーター》すらも発動が維持できなくなり、【アイラマティ】は地面へと墜落した。

 セルフチェックによって原因が探し当てられるも……そのあり得ない結果に、思考演算が停止してしまう。

 

 状態異常:【麻痺】【脱力】【拘束】

 

 〈Infinite Dendrogram〉においては、耐性の有無とは別に、種族特性によって状態異常が効くかどうかが左右されることがある。

 機械は【睡眠】しない、アンデットは【即死】しない……そういった類の例外であり、理だ。

 【麻痺】や【脱力】もその1つであり、エレメンタルであっても本質的には機械である【アイラマティ】には本来効かないはずが、捻じ曲げられている。

 理が歪んだのならば、そこには必ず誰かの意思がある。

 この場において、それが誰かは言うまでもなく。

 

 唯一動くセンサーを回した【アイラマティ】が認識したのは。

 見開いた瞳から残光をなびかせ、槍を片手に駆け寄る少女の姿だった。

 




【アイラマティ】保有スキル
神断(かみだち)
 "ぼく・わたしのかんがえたさいきょうの剣技"。
 これを恒常的に扱うことができるようになれば間違いなく神話級として認定される代物。現時点でも十分等級詐欺ではある
 
 実は"剣神"の技は積み上げた鍛錬の成果であって、スキル(リソースの変換・加工)ではないため、本来は【アイラマティ】の管轄外
 であるのに、学習した他の数十個のスキルを並列同時発動することによって無理やり模倣していることもMPの消費量に拍車をかけまくっている

【アイラマティ】討伐メンバー
索敵・強化・■■担当:水無月火篝 【盲目視眼 ティレシアス】
輸送・追跡担当:桃金浦 【踏破船傑 アルゴノゥト】
魔法迎撃担当:百間狭 絶許 【爆神装 シヴァ】
回復担当:マリア 【母神恩寵 デメテル】
状態異常担当:リュージャ 【凶傷護民 エサルハドン】
攻撃担当:霧鮫 【水成神母 エヌマ・エリシュ】
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