偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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エンブリオ孵化までかなり強引だと自分でも思いますがこれが精一杯です……。
もっと自然に話進めたり伏線張ったりできるようになりたい……。


2・初ログイン、孵化

□将都南門前 水無月火篝

 

 

「びっ、びっくりした……死ぬかと思った……」

 

 まさかチュートリアルが終わったら、上空からパラシュートなしのスカイダイビングさせられるとは思ってもみなかった。

 地面に激突する前に急ブレーキがかかって衝撃なしで着地できたからよかったけど、それがなかったらどうなっていたかは想像もしたくない。

 何をしてくれたんだダッチェスめ……と思ったけど、周りを見渡してみたら、左手に〈エンブリオ〉を埋め込まれた数人が青褪めた顔をして座り込んでいる。どうやら、パラシュートなしスカイダイビングはデフォルトらしい。

 なぜこんな仕様にした……と運営に恨みがつのるが、いつまでもこうして座っている訳にもいかない。

 とりあえず立って、あのいかにも入って下さいと言わんばかりに開かれた門を潜ろう。

 そうして立とうとして……立てなかった。

 

 え……?って、ああ!そういえば、立てないの解決してないじゃん!

 てことは、俺はまず立てるようにならなければならないのか……超面倒!

 

 

□□□

 

 

 数時間後。俺はやっと立てる様になって門を潜っていた。

 訂正。立つこと自体はもう少し前に出来ていたのだが、そこから上手く歩けるようになるのにまた時間がかかったのだ。

 今でもまだ体が軋む感覚が収まらないから、完璧とは言いがたいけれども。

 そんな俺を横目に見ながら門を潜っていく人々がどれだけ憎かったことか……。

 まあ、それも終わりだ。

 少し不格好ながらも、門を潜って……その先にあった景色に絶句した。

 

 

 門の内側にあったのは、多くの人々で活気づいた町の風景。

 道端で開かれているござに品物を並べただけの露店では、まけてくれと露店の主人に言う買い物客がいて、茶屋の店先に置かれた椅子に座り談笑しながら団子を食べる町人たちもいる。

 商人たちは自慢の商品を往来する人達に売り込み、昼間から呑んだくれている浪人たちは些細なことで喧嘩して野次馬に囃し立てられる。

 腰に武器を吊るし甲冑を着込んだ侍の集団が通ったかと思えば、着物を着た子供たちがはしゃぎながら走り回っている。

 そこには、如何にも和と言うべき日常風景が広がっていた。

 

 どこを取っても異常など見つけられない、普通の光景。しかし、この“普通”なのがおかしいのだ。

 何故なら、ここはゲームの中。

 本来ならここにあるべき姿は、店主などの特定のNPCがいるだけの閑散とした光景か、人通りは多くても、それらは数種類のキャラのコピペであるものか、その二つだ。

 今までのパソコンでプレイするMMOでもそれが定番だったし、これまで発売されたVRMMOも全てがそのどちらかだった。

 それなのに、ここから見える人々は、容姿も、恰好も、行動もまったく違う。それも、全員が明らかな“感情”を滲ませながら動いている。それはどう見ても……生きているようにしか、見えなかった。

 

「どうなって……いるんだ……?」

 

 思わず言葉が零れる。

 これじゃまるで、本物の世界……あ。

 ……そうか、そうだ。

 本物。これは……〈Infinite Dendrogram〉は……本物、なんだ。

 見える世界はリアルと変わらず、感じる五感もリアルそのもの。そしてその世界に住む、感情を持った“人間”たち。

 これは、俺が、人々が求めた“夢のゲーム”。本物のVRゲームなんだ。

 それに思い至るまで頭の中は混乱や疑問ばっかりだったが、そう考えれば、自然と胸にストンと落ちてきた。

 そうすると、今度はワクワクと気持ちが弾んでくる。

 今まで誰もプレイすることが出来なかった、本物のVRゲーム。

 恐らく明日にでもなれば、今日プレイした人に聞いて数多の人々が怒涛の勢いでログインしてくるだろう。ハードも皆が買い漁り、健が言った通り店頭からすぐに消えることになるはずだ。

 だったら、まだ人の少ない今日に頑張って進めて、アドバンテージを得ておかなければ!

 

 笑顔を浮かべながら、とりあえずはこのゲームのシステムから調べなければ、なんて思いながら一歩足を踏み出して……サラリと流れる長い髪と柔らかく揺れる胸が視界に入り、笑顔が凍り付いた。

 ……そうだ。俺、この少女の身体でプレイして行かなきゃいけないんだった……。

 夢の、本物の、VRゲームだというのに。ちょっとした好奇心でしてしまった、満足に歩くことすらままならない体で。

 …………………。

 う、うぁああああああああ――ッ!!

 なんで、何で俺はこんな姿にしちゃったんだよ!?

 せっかくの、正真正銘、本物のVRゲーム。

 人々が何十年と求めた、夢の具現。

 それなのに、それなのに、俺は――――ッ!!

 

 

 ……はぁ、はぁ。

 ひとしきり叫んだら、とりあえずは落ち着いた……けど、まったく気持ちは収まらない。

 あの時、好奇心でこんな姿にした俺をぶん殴りたい。

 でもまあ、もう諦めて、この姿でプレイするしかないか……。

 この姿が嫌だからって、遊ぶのを止めるという選択肢はない。

 今まで数々の人々たちが夢見て、プレイすることを出来なかった本物のVRゲーム。それをやることが出来るのにやらないとか、そんなことできるか。

 さっきはまずゲームシステムを把握しなきゃとか言ったけど、前言撤回。

 まず真っ先に、この体に慣れる所から始めなければ。

 でも……慣れるかな……これ……?

 感覚的な違和感は勿論、先程までは立つのに精一杯だったからあまり気にならなかったが、視覚的な違和感がヤバい。

 今までの俺には無かった、長い髪、白くてきめ細かい肌、豊かで柔らかそうな胸。

 どれを取っても今まで俺が見てきた視界の中に在ったものとはかけ離れていて、その上インパクトが凄すぎる。

 これで生活していくとか、軽く拷問な気がする。

 ………とりあえず、慣れる目的で街を散策でもしてみようか。

 

 

□□□

 

 

 小一時間かけて街の大通りを一通り回ってみた。

 その途中、出店で買い物ついでに話をして――というか、話をするために買い物をして店主に話を聞いたり、通りを歩いている人当たりの良さそうな人に話かけて情報収集した結果分かったのは、ここ、天地の首都は“将都”と言うらしい。

 

 そもそも、天地は史実日本の戦国時代のように、年中大名家同士が争い合う内戦のような状態で、国全てを統一している王や皇帝、大統領のような者はいないのだとか。しかし、それでも国としての体裁を整えるための代表が必要ということで、全大名家の中で最大の領地を持つ大名家の当主が【征夷大将軍】として暫定的に纏め役となっており、その【征夷大将軍】が政務を行うための都として、中立地帯である“将都”があるようだ。

 昔は将都の後ろに固有名詞があり、【征夷大将軍】が代替わりする度に変わっていたそうだが、代替わりのペースが早く、酷い時は3年で10回変わるなんてこともあり、方々で混乱が起きたり、単純に面倒になったというのもあり、現在では単に将都だけとなった、という裏話もあるとか。

 

 それ以外にも、このゲームでのレベルはジョブに紐づいておりジョブに就かない限りはどれだけ経験値を得てもレベルが上がらないとか、ジョブに就くには“ジョブクリスタル”というアイテムがある場所に行く必要があり、またその種類によって就けるジョブが変わるとか、そういうゲームシステム的なことから、どこの店は武器の品ぞろえが良いとか、あの店の甘味は美味いとか、そういう世間話的なことまでかなり情報が集まった。

 

 そんな多くの情報を集められたのは、ひとえにこの容姿のおかげだ。

 ゲームに出てくるNPCは普通、何かしらの事情がない限り美形、あるいは美形よりの普通の顔がデフォルトだ。まあ、わざわざブサイクを造るのはスタッフ的にも楽しくないし、プレイヤー的にも見ていて楽しくないしな。

 しかし、ここではそうではない。

 美形もいるし、フツ面もいるし、ブサイクな奴も当然いる。そういう所までリアルである。

 それに対して俺の顔は、一般的な美的感覚を持つ者が、美しくなるように1から作り上げたもの。その美しさは単なる美形どころではなく、人形のように完成された完璧な美しさだ。

 もしそんな美少女に話しかけられて、愛想よくでもされたら、普通の男はイチコロである。商品の値引きだってするし、何か聞かれたら聞かれてもいないことまで全部喋る。

 まあ、要するにそういうことだ。

 偽物の俺がそんなことするのは騙しているようで少し罪悪感があるが、まあ、仕方のないことと割り切ろう。

 そう考えると、この姿も悪いことばかりではないらしい。

 

 けれどもちろん、良いことばかりでもない。

 散策する前に感じていた2つの違和感。その数が4つに増えた。

 まず、自分の声。今まで野太いというほど低くはなかったが、男子の平均ぐらいの低さだった声が、すごく高くなっていた。しかも、すごい可愛らしい。月並みの表現だけど、本当に鈴が鳴るような感じになっている。

 まあ、この声も俺が設定したんだけど。理想の少女の声ってことで頑張ったんだが……自分の声が聞きなれたものじゃないって、こんなに違和感があるもんなんだな……。

 これはまあ、よく居る無口、あるいは恥ずかしがり屋系のキャラみたく、あまり喋らなければ問題ないだろう。最悪、筆談とかの手段もある。

 

 もう一つは、向けられる視線だ。

 先ほど言った通り、今の俺の容姿は美しく、可憐だ。多分、現実で歩いていたらスカウトにしつこく付き纏われるレベル。

 なので、当然歩いていたらスッゴい見られる。それはもう嫌ってほど見られる。老若男女問わず、全員に見られまくって、それがかなり気になる。

 今まで歩いていてこんなに注目されたことがないから、余計に。

 というか男諸君。お前ら、視線がすげー露骨過ぎるだけど。

 視線が明らかに胸かワンピースなせいで剥き出しの生足に向けられ、固定されて動かないのだ。もう、欲望に忠実過ぎる。

 よく女は男の視線に気づくというが、あれは女云々というよりも、男の見方が原因だと今回実感した。

 見られてて気分は良くない、ぶっちゃけ気持ち悪いが、俺は元男として男どもが今の俺をそんなに見てしまうのも理解は出来る。だからまあ、そこは気になるが、我慢すればなんとかなると思う。もしナンパとかしてきたらこっぴどくふってやる所存だが。

 

 そして散策する前に感じていた違和感の2つ。

 身体的な感覚については、散策している間にかなり楽になった。

 元々、この女性の体に慣れていなかったからこそのもの、それならば、慣れれば小さくなるのも道理である。

 しかし……視覚的な違和感は大きくなる一方だった。

 いや、大きくなるというか……散策して、色々な場所や起こっている事を見たり聞いたり人々と話したりしていると、やっぱりこの世界が本物にしか思えないな、と幾度も再確認するのだが、その後ふと視界の端に写った髪とか胸とかを見たり、ショーウィンドウ(戦国時代風の街並みなのに、そういうのが所々あった)に写った全身像を見たりすると、こう、胸にグサッと来る。

 なんというか、それを見るたびに自分の馬鹿さ加減が突き付けられるというか、「お前は好奇心や興味でやらかした馬鹿野郎だ」と言われてる気分になるというか……被害妄想なのは重々承知しているが……それでも、それだけ俺が後悔しているのだ、ということにしておいてくれ。

 しかも、これはどうにもできない。

 見えなくするには目隠しとかするしかないが、そんなことしたら生活できないのだから当然だ。

 ああ、自分の身体だけ見えなくする方法とかどっかに落ちてないかなぁ……無理だよなぁ。

 

 

 とかなんとか思い悩んでいると、急に左手が輝きだした。

 へ!?……って、これ、左手自体じゃなくて、エンブリオが光っている?

 そのまま光るエンブリオを見ていると、光が収まると同時にエンブリオが消失し――視界が閉ざされ、何も見えなくなった。

 え、今度は何!?さっきから何なの!?

 何が何だか分からな過ぎて、頭が混乱する。

 何かが起こっているのは分かるけど、その肝心な“何か”が分からない。

 え、えっ……あ、戻った。

 閉ざされていた視界が元に戻り、周囲が見えるようになった。

 それと同時に、周囲の人々が俺に視線を向けてきているのもよく見えた。それも、先程までのような美人だから見ている、という様な感じではなく、訝し気な感じだ。

 まあ、そりゃそうか。急に往来で光り出して、オロオロとしている奴を見たら俺でもそんな視線を送るわ。

 突然の展開に思考がぐちゃぐちゃになってしまっていたが、見られていると自覚したおかげでようやく冷静になれた。超恥ずかしいが。

 

 そそくさとその場を離れ、大通りから逸れた横道に入る。

 それにしても、さっきのは何だったんだ?急に何も見えなくなって、少ししたらまた見えるようになった。

 もしかして、目にどこか異常が……え?この感触……何? 

 目を擦ろうと思って目元に手を持って行ったら、そこにあったのはガラスのような冷たい触感。どう考えても眼球ではない。

 それに、俺は目を手で覆っている。それなのに、普通に見える。遮られていない。いや、それを言えば視界の広さもおかしい。普通、人間が見えるのは前方の限られた角度だけ。なのに、俺の真後ろにある壁も見えるんだが?これ、360度見えてないか?

 ついでに言えば、360度見えるくせに俺の身体だけは見えない。俺の身体があるはずの場所だけ、黒く塗りつぶされたように何も見えなくなっている。

 

 ……怒涛の不可思議情報のせいで眩暈がしてきた。

 何のせいでこんなことになっているんだ。原因がまったく分からな……あ、そうだ、エンブリオ!

 この怪現象の一番最初は、エンブリオが光り出したことだった。

 そしてエンブリオが消えて、それから視界が閉ざされた。

 ということは、エンブリオが原因じゃないのか?

 そう考えた俺はエンブリオがあった左手がどうなっているか確認しようとしたが――そこにあったのは黒塗りの空間。そうだ、これがあったんだ……。

 右手で左手に触ってみると、右手も左手もきちんと感覚があった。これ、根本から無くなってる訳ではないのか。

 見えるようにはならないのかな……あ、なった。

 左手(がある筈の場所)を見続けてると、黒塗りがふっと溶けるように消え、先程まで見えていたのと同様の白い手が見えるようになった。

 いや、正確には少し違っている。

 先程までエンブリオの第零形態、卵状の宝石があった場所に、紋章が刻まれていた。

 これは……“眼帯をした占い師”?

 これの意味は分からないが、エンブリオが孵化すれば紋章が現れると、チュートリアルでダッチェスが言っていたはずだ。ということは、もうエンブリオは孵化している。

 急いでメインメニューを開き『詳細ステータス画面』を選択。新しく開いたウィンドウの中から『エンブリオ』の項目を選ぶ。

 そこには、この世界での俺の相棒となる存在が書かれていた。

 

 

【盲目視眼 ティレシアス】

  TYPE:テリトリー・アームズ

  到達形態:Ⅰ

 

  ステータス補正

  HP補正 :G

  MP補正 :G

  SP補正 :G

  STR補正:G

  END補正:G

  DEX補正:G

  AGI補正:C

  LUC補正:G

 

 

 【盲目視眼 ティレシアス】……これが、俺のエンブリオ……。

 TYPEはテリトリー・アームズ。ダッチェスの話し方からあの五つだけだと思っていたが、二つくっついているものもあるのか。

 ステータス補正は、軒並みG……これが普通なのか低いのか、ないとは思うが高いのか、比較対象がないから分からん。

 お、パラメーターの横に何かが表示されている。これは……眼球、か?……いや、眼球!?

 まさか、まさか!?

 先程触った時、目はガラスのような無機質な感触だった。

 そして、エンブリオの項目に表示されている眼球と【眼】と名のつくエンブリオ。

 もしかして……俺の目が、エンブリオになった……?

 そ、そんなのありなのか……!?

 でも、実際なってるってことはありなんだよな……。

 少し呆然となりながら、他に何かないか探していると、『保有スキル』の項目を見つけたので開いてみる。

 

 

『保有スキル』

見えざる瞳、視る異能(ヴレポ・デュナミス)》:

範囲内の全てを視覚として感じ取る結界を周囲に展開する。

ただし、自身の身体のみは塗りつぶされ見えないようになる。見ようと意識すれば視ることも可能。

パッシブスキル。

 

 

 ほうほう。ああ、目を隠しても見えたり、全方位を見渡していたりできたのは、結界で感じていたからなのか。これがテリトリー要素なんだな。身体が見えないこともスキルの仕様のうちだったか。

 ……でもさ、え、これだけなの?俺のエンブリオができることは、ただ見るだけ……?

 ……………嘘だろ!?

 




【盲目視眼 ティレシアス】
〈マスター〉:水無月火篝
TYPE:テリトリー・アームズ 到達形態:Ⅰ
紋章:”目隠しをした占い師”
特性:盲目、視覚結界(世■■応)
スキル:《見えざる瞳、視る異能》
モチーフ:性転換した結果盲目になりそれを補う予言の力を手に入れたギリシャ神話の予言者”ティレシアス”
備考:眼球置換型エンブリオ。今使える効果は一言で言うと『周囲が見える』、ただそれだけ。ただし、副次効果的なのがいくつかあります。それらは本編で追々開示していきます。
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