偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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38・祝罪は行いに呼応せり

□〈魔香森丘〉 【大迎撃者】水無月 火篝

 

「……っ、死んで、ない……!」

 

 2度目の死の実感。

 1度目を背負ってくれた【エサルハドン】は既におらず、実感は現実となり、パーティーメンバーは全員死んで……それでもまだ、俺は生きていた。

 【救命のブローチ】。

 残機を1つ増やすにも等しいこのアクセサリーは、出発前に呪符と共に鏡石さんから受け取っていた。

 本来なら6人分用意したかったらしいけれど、主な入手手段が高レベルボスのドロップであるため金を積めば手に入るものでもなく、辛うじて手に入った1つを渡す相手として、俺が選ばれた。

 普通に考えれば、移動・防御・攻撃を任される他のメンバーの方が渡すのに適しているはずなのに、それを差し置いて選ばれたのには理由がある。 

 それはまさしく、今のような時のため。

 

「……本当にやることになるかどうかは、半信半疑でしたけど」

 

 そう、このほぼ終わりの状況でも……まだ、作戦の予想内だ。

 今回の作戦において、メンバーにはそれぞれ役割が与えられている。

 輸送・追跡担当や、魔法迎撃担当など。

 俺の場合は、索敵と強化、そしてもう1つ。

 危機的状況に追い込まれた際の()()担当だ。

 

 

「対象【到極匠眼 アイラマティ】、履歴遡行、罪業指定……『スキルによる【麻痺】【脱力】【拘束】の付与』」

 

 視覚結界を通して対象に指定すると同時に、視界にリストが映し出される。

 十数分前を始点としてズラリと並ぶ項目をスクロール。一番欲していた項目は――なし。諦めて、次善の項目を探し当てる。

 時を同じくして、【アイラマティ】も俺が生き残ったことに気付いたのか、魔法の弾幕が形成され始めるが……もう遅い。

 

「これまでも"おまけ"のほうは何度か使ってはいますが……"本命"はこれが初公開です。とくと味わって下さい!

 《祝罪は行いに呼応せり(マカル・アマルティアー)》!」

【――――!】 

 

 目蓋の隙間から覗いた【ティレシアス】が赤く輝く。

 まるでそれに影響されたかのように、魔法の弾幕が搔き消え、【アイラマティ】が地に墜ちる。

 だがそれは、本質的に言えば【ティレシアス】の力ではなく。

 

「どんな気持ちなんでしょうね。自らの行いをそっくりそのまま()()()される気分というのは」

 

 《祝罪は行いに呼応せり》。

 第Ⅲ形態への進化と共に獲得した、2つの効果を内包するスキル。

 さっきまで散々使ってきた"おまけ"がその片方、敵味方問わず対象に指定したスキルを強化するバフであり。

 もう1つ、"本命"の効果は『スキルによってもたらされた影響を指定し、そのスキルの発動者に再現する』――()()()()()スキルである。

 

 回復やバフ――俺にとっての"福"であれば、"祝事"として発動者に返され、ダメージや状態異常――俺にとっての"禍"であれば、"罪業"として返される。

 名に込められているのは、きっとそういう意味だ。

 

 

 なぜ俺のパーソナルからこんなスキルが発現したのか……皆目見当はつかず、【ティレシアス】本人にでも聞かない限りきっと分かることはない。

 しかし、なにから生まれたのかは分からずとも、有用なスキルであることに違いない。事実、【アイラマティ】を完全に行動を封じられた状態にまで追い込まれている。

 

「……まぁ、想定していた使い方ではなかったですけれど」

 

 本当ならば、カウンターするのはパーティーを壊滅させたスキルのはずだった。

 奥の手として隠されていたほど強力なスキルであれば、【アイラマティ】を倒すのにも不足はないだろう、ということである。

 それが実際は、見せ札であった"悪性結界"の制限系状態異常を選ばざるを得なかった。

 《祝罪》がカウンターできるスキルに限度があり、あの見えない斬撃がそれを超えていたのだ。

 これに関しては完全に見込みが甘かった。いくら強力なスキルであろうと、カウンターが出来ないことはないだろうと、高を括ってしまっていた。

 

 

 ……でも今やるべきは、反省することではない。状態異常による拘束が解け、再び動き出す前に【アイラマティ】を倒すことだ。

 アイテムボックスから両手で槍を引き抜き、一歩足を踏み出して――

 

「うわ、っとぉ!」

 

 凹みにつまづき、身体がつんのめった。

 現実(あちら)ならともかく、思い通りに動く肉体と広い視界を手に入れたこちらでは久しく晒さなかった醜態だ。

 

「そろそろ、動くのもキツくなってきましたか……」

 

 液晶の割れたモニターを連想させる、割れて亀裂の入った視界。

 それにより、先程つまづいた凹みのように、()()()()場所が多々存在するのが現状である。

 

 視界の異常とは俺の場合、視覚結界の異常と同義であり、もっと言ってしまえば発生元である【ティレシアス】の異常だ。

 本体である義眼は、視覚結界同様、亀裂が走りボロボロになっている。

 【ティレシアス】の()()()、それが《祝罪》の発動に必要なコストだった。しかも、修復に長期間のインターバルを要求するおまけ付きで。

 

 ネット上の考察では、〈エンブリオ〉そのものをコストとするのはだいぶ重い代償だと見られている。

 確かに、それでも納得できるほどの性能が《祝罪》にはあるし、一発で全壊しないだけマシかもしれない。

 それでも、他の人より視覚に頼ってきた自覚がある俺からするとだいぶ辛いのが正直な感想だ。

 

「っ、急がないと!」

 

 こんなところで止まってる暇はない。

 全速は出せずとも、今出せる最高速で転ばないように駆けながら……ふと、考える。

 パーティーを壊滅させた攻撃、あれが()()()()()()()()()な、と。

 

 あの時点で、"悪性結界"への対抗策だった【エサルハドン】は消滅していた。

 "悪性結界"による状態異常に一度晒されてしまえば、《祝罪》でカウンターしたとて【アイラマティ】を倒しにいくことはできず、致命ダメージのみを無効化する【救命のブローチ】も意味をなさない。

 あとは弾幕で少しずつ削って行けば、俺含めて、反撃の隙なく全滅していたはずだ。

 その判断ミスに感謝しながら、脚に力を込め、【アイラマティ】に肉薄する。

 

【――――――】

 

 眼球だけ――それも生き物ですらない、無機質なそれが身体の全てであるため、事ここに至っても、その内情を窺うことはできない。

 けれど、『まだ壊れられ(死ね)ない』『こんなところで終われない』……そんな悲痛な叫びが聞こえた気がした。

 ……きっとただの錯覚だ。

 構わずに槍を振りかぶり――突き立てた。

 

 

【〈UBM〉【到極匠眼 アイラマティ】が討伐されました】

【MVPを選出します】

【【水無月 火篝】がMVPに選出されました】

【【水無月 火篝】にMVP特典【到極魔蓋 アイラマティ】を贈与します】




《祝罪は行いに呼応せり(マカル・アマルティアー)》
《見えざる瞳、視る異能》にて展開した結界内において、発動した(している)任意のスキルの効果を2倍(第Ⅲ形態時)にし、発動した(している)任意のスキルによって齎された影響を、そのスキルの発動者に再現する。この二つは別々に発動可能。
発動する際、【ティレシアス】の耐久値を消費(スキルの強さに応じて変動)する。現在の耐久値を超す値を要求する場合、不発となる。
一応の運用コンセプトもあり、『スキルを強化することでもたらされる影響も大きくし、より効果的に返す』とのことらしい。

【アイラマティ】討伐メンバー
索敵・強化・反撃担当:水無月 火篝 【盲目視眼 ティレシアス】
輸送・追跡担当:桃金浦 【踏破船傑 アルゴノゥト】
魔法迎撃担当:百間狭 絶許 【爆神装 シヴァ】
回復担当:マリア 【母神恩寵 デメテル】
状態異常担当:リュージャ 【凶傷護民 エサルハドン】
攻撃担当:霧鮫 【水成神母 エヌマ・エリシュ】
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