偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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初めて感想が書かれました!
待っていると言われてすごい嬉しかったです。
これからもそう言い続けてもらえるように頑張っていきます。


3・【影】との遭遇

□将都商業区路地裏 水無月火篝

 

 

「……はぁ、いい加減動き出すか……」

 

 エンブリオが孵化し、その衝撃的すぎる能力に放心していたが、さすがにもうそろそろ何か行動を起こすべきだ。

 

「それにしても、俺のエンブリオがこんな感じになるとは……」

 

 色々と妄想はしていたが、まさか、ただ周りを見るだけのエンブリオになるとは思ってもみなかった。

 その原因は……どう考えてもあれだよなー。

 

「“自分の身体だけ見えなくする方法ないか”……あんな呟きにわざわざ反応しなくてもいいんだよ、相棒」

 

 “自分の身体は見えなくしたい、でもそれ以外は見たい”から“自分の身体だけ見えなくして周りを見る力”という訳か。

 理解はしたが……うーん、納得できない。

 不満、という訳ではないんだよ?今の俺にとって視覚的な問題はかなり重要なことだったし。

 だけどこう、素直に受け止めることも出来ないというか。

 だって、エンブリオとは、自分しか持っていない、自分だけのためにある存在。

 それだったら普通、凄い攻撃性能を持った大剣とか、背中を預けられる相棒とか、巨大な戦艦とか、堅固で無敵の要塞とか、敵が一切傷付けられない結界とか、そんなの想像するだろ?

 それが、実際は「周りを見る能力だけ持った眼」です、と言われてもそうそう納得できない。

 

 ……そして今思ったんだが、このティレシアス、普通にものを見る力あるんだろうか?多分ないよな?

 なにせ名前から【“盲目”視眼】だし、スキル名も《“見えざる瞳”、視る異能》だし。

 それ、あるかどうかも分からないけど、結界を無効化する手段とかあったらどうなるんだろ……?

 ……うん、今は考えないようにしよう。

 

「……って、動こうと思ったのに、結局考え込んでるじゃん」

 

 とりあえずメインメニューに表示されている時計を確認。

 ここに表示されているのは現実時間。なので1秒進むのに3秒かかっており、不思議な光景だ。

 そこに映されていた時間は『16:33』。始めたのが大体『14:30』なので、約束した3時間後は『17:30』、あと1時間、デンドロ時間で3時間だ。

 それだけあれば、何かしらのジョブに就いてレベル上げもできるだろう。

 

 あ、でも、目、どうしようか。

 両目がこんな義眼だったら、普通に怖いよな。

 隠せるサングラスとかあればいいけど、持ってないし、そもそもこの世界にあるのかも分からない。まあこの都市とか、見た目は完全に戦国時代なのに、魔法要素があるからなのか所々現代日本と同等、あるいはそれを上回る技術が使われている場所もあって、それらからするとサングラスぐらい普通にある気がするけど。

 でも今はないし、とりあえずは両目とも瞑っておくか。両目義眼で不気味さを与えるよりは、両目瞑っていても周りを見ている変な奴、にした方が周りにとっても良いだろう。

 じゃあ、ジョブに就きに行くか。何にするかはまだ決まっていないけど、冒険者ギルドに行けば自分に合ったジョブを教えてくれると通りすがりのお兄さんが言っていたし、まずはそこ目指すか。

 

 

□将都商業区中央通り 水無月火篝

 

 

 ここで、将都の構造を説明しておこうと思う。

 まず中央に【征夷大将軍】が居る城があり、その周辺を国を統治するために必要な施設などが囲んでいて、ここはそのまんま中央区とか、行政区とか呼ばれている。

 その中央区の西側には将都のティアン(デンドロではNPCのことをこう呼ぶそうだ)が住む長屋や邸宅などがある居住区があり、北側には冒険者ギルドや戦闘系のジョブギルドが密集している冒険区がある。

 ジョブギルドとは、そのジョブに就いた者が所属する組織で、別に所属しなくても良いが、先達や専門家がいるから所属した方が得だし、ジョブギルドから出されるジョブクエストの達成数が条件のスキルや上級職もあるらしいから多分ほぼ全員が所属すると思う。

 

 あ、上級職というのは、ジョブの階級分けの一つだ。

 ジョブには下級職、上級職、超級職(スペリオルジョブ)があり、無職の者、あるいはその系統の初心者が就く就職条件がないジョブが下級職で、レベルも50までしか上がらない。

 下級職で実力を付けた者が就くことを前提として就職条件が設定されているのが上級職。こちらはレベル上限が100であり、レベルアップ時に上昇するステータスも下級職とは比べ物にならない。

 

 ジョブは最大で下級職6つ、上級職2つまで就けて、カンストでレベル500なのだとか。

 けれど、このレベル500でカンスト、というのは最大値らしい。なんと人によっては500よりも低く、400や300、あるいは低ければ150で頭打ち、という例もある。カンストしてしまえば当然それ以上ジョブに就くこともレベルを上げることもできない。これを人々は才能と呼び、500まで至れる者は“世界的に見れば”かなり少ないそうだ。

 ここでわざと“世界的に見れば”なんて言ったのは、ここ天地ではそれに当てはまらないからだ。

 天地の戦闘職の才能上限は普通抵くても300程度であり、500カンストもザラにいるのだそうだ。

 え、もしかして天地ってヤバいとこなの……?と思ってしまった俺は悪くないと思う。

 

 まあ、それは後の話として、残る超級職とは、上級の限界を超えた先にあるジョブだ。

 上級職の条件とは比較にならないほど困難で難解な条件をクリアしなければ就けず、上級職を極め、カンストに至った者であっても就くことができる可能性は低く、しかも同じ時期に同じ超級職に就けるのは一人だけであるため、先人がいれば就くこともできない。

 その代わり、そのステータス上昇値はもの凄く高く、スキルも強力無比なものばかり。しかもその上、超級職にはレベル上限がない。極端な話、500だろうと、1000だろうと、幾らでも上げ続けられる。

 ……なんかもう、開いた口が塞がらない。

 MMOなのに、こんな特別過ぎるモノを用意しても良いんだろうか?

 将来、狙っていた超級職が誰かに取られて、抗議をネット上の掲示板に上げたり運営に抗議メールを送ったりする輩が大量発生する未来が見えるぞ。

 ま、そんなの俺が心配することじゃないか。

 

 話を将都の説明に戻すが、中央区の東側にあるのが生産区だ。

 こちらは武器や防具、ポーションなどを製作する工房や生産系のジョブギルドが密集している場所である。

 生産系のジョブギルドも概要は戦闘系のと同じだが、所属している者からの重要度としてはこちらの方が高いらしい。

 戦闘系は狩りに行くことでも経験値やお金を稼ぐことが出来るが、生産系はそんなことは出来ない。経験値を稼ぐ手段はほぼジョブクエストのみだし、自分なりの販売先や顧客を持っていない限り、普通製作物を売るのもギルドだ。当然繋がりも強くなるというものだ。

 

 残る南区が、今俺がいる商業区。

 ここには多くの店舗や出店が並び、それぞれが様々な自慢の商品を売っている。

 各ギルドが買い取り卸したモンスターのドロップ品に剣や槍などの武器から鎧、籠手などの防具や多種多様な効果を持つアクセアリー、商人が自分達で仕入れてきた遠くの町の名産品、食料品や生活用品などなど。

 見ているだけで楽しく、恐らくまる一日でも費やせると思う。

 しかし、今は我慢である。

 とりあえず冒険者ギルドに向かってジョブを決めないといけないのだ。

 

 そのため北区へと向かっているのだが……うん、やっぱり人に見られてる。

 もちろんさっきまでも見られていたが……それよりもたくさんの人に見られている気がする。

 やっぱり目瞑っていても普通に歩いているのは目立つのか?

 あ、それに加えて、ティレシアスのせいかもしれない。

 《見えざる瞳、視る異能》のおかげで周辺全部を見渡せるから、その分先程よりも多くの人に見られていることに気付いているとか。

 この結界、それなりに範囲が広くて、大体半径100メートル程度は全部見える。逆に言えばそれ超えると全部真っ暗で何も見えないが、普通に見ていたら見えない場所も見えるし、見ている総量としてはこっちの方が多いはず。

 ほら、今も路地裏で隠れてキスしているカップルが見えて……って、リア充かよ!?爆発しろ!

 これはまあ、ちょっとあれな例だが、道の真ん中を歩いていても露店の商品とかマジマジと見れるし、普通に便利だ。

 

 ……ん?あれ、何だ……?

 普通の人達に混じって歩いている人で、黒い覆面に黒装束と黒ずくめの恰好をしているのだが、なんていうか、他の人に比べて見え方が薄い(・・)

 気配とか存在とか、そんな感じのあれが薄い気がする。

 ちょっと気になってじっと見ている(もちろん結界でなので、顔は普通に前向いて歩いている)と、前を向いていたその人がグルッと後ろを振り向き――気が付いたら目の前にいた。

 

 ……は?へ!?

 その人はそのまま困惑する俺の胸倉を掴み上げ……走り出した。

 え、ちょ、何!?誘拐!?

 しかも、スピードが速い!?周囲の光景が新幹線に乗っている時のように過ぎ去っていく。冗談のようだが、冗談でもなんでもなく、現実だった。

 こいつ、何者だ!?

 俺を掴むそいつを睨みつけていると……今度は急に、光景が流れ去るスピードが遅くなった。

 

 スピードを落としたのか……?と最初は思ったが……違う。

 遅くなったおかげで周囲を見る余裕が出来た。そうして見えた世界は……動きが緩慢とした、まるでスローモーションのようだった。

 これは、多分あれだ。インフレ系のバトル物やファンタジー物のラノベ、マンガによくある、自分が速過ぎて周りが遅く見える現象。いや、どちらかというと、命の危機を感じた時やスポーツの試合の時なんかに起こる、極限の集中状態になって世界がスローモーションに見える“ゾーン”っていう現象か?

 でも、何でこんなことが起こっているんだ……?

 まさか、こいつが何かした……訳ではないか。そんなことする理由がないし、万が一あったとしても、するんだったら最初からするはずだし。

 じゃあ、何でだ……?

 

 そんな感じで長い体感時間で延々と考えていたら、先程まで大通りを走っていた黒ずくめが急に曲がり、路地裏に入っていく。ちなみに答えは出なかった。

 そして路地裏に入ったら、急に掴み上げられていた手が離される。

 って、うわ、っとと!何すんだよ、この!

 まだ体感時間が長くなっていたから、何とか上手く着地できたが、そうじゃなかったら地面に無様に激突してたぞ。

 激情のまま抗議しようとしたら一気に距離を詰められ……クナイのような刃物が首に添えられていた。

 ひっ、と思わず喉から悲鳴が出かける。だが、ここで喚いたらこいつの機嫌を損ねて、クナイで喉を搔っ切られるかもと思い、必死に喉で止める。

 

「そうだ、騒ぐな。下手な行動をしたら、容赦なく殺すぞ」

 

 初めて黒ずくめが声を発する。

 それが思っていたよりも綺麗な声で一瞬呆気に取られたが、すぐに気を持ち直してこくこくと頷く。もちろん、クナイの刃に触れないように最大限注意しながら。

 

「お前はただ私の質問に答えろ。もし嘘を付いたりスキルを発動しようとしたりすれば……分かっているよな?」

 

 今度も迷いなく頷く。ここで逆らえる蛮勇なんかは俺にはない。

 

「それじゃあ、お前……どうやって私を見た?」

「……え?」

 

 今度は流石に即答できなかった。どうやって見た?どういうことだ?

 

「私には《視線察知》がある。お前が私を見ていたのは分かった。だが、レベル7の《隠形の術》で消えていた私をどうやって見つけた?どう見てもお前の力は弱い。《看破》で見ても特に特殊なスキルを持っていない、どころか無職だ。強力なアイテムを持っている訳でもない。《偽装》しているのかとも考えたが、ここまで連れてくる間の様子からしてそうでもない。一体どういうことだ?」

「え、いや、ちょ、待って下さい!」

 

 そんな一気に捲し立てられても理解できないっての!

 えーっと。整理すると、この黒ずくめは《視線察知》というスキルを持っていると。名前からして自分に向けられている視線が分かるんだろうけど、それで俺が見ていることが分かった。

 けど、同時に《隠形の術》というスキルもレベル7で持っていて、使ってもいた。レベル7がどの程度強力なのかは知らないけど、こんな自信満々に言っているということは、それなり以上には高いのだろう。それを俺がどうやって見破ったかが知りたいと。

 

 しかも、これが高いステータスを持っていたり特殊なスキルを持っていたり、あるいは強力なアイテムを持っていればまだ納得できるけど、俺はそうじゃない。まだジョブにすら就いていない無職だし、装備も初期装備だし他にアイテムも持っていない。

 だからこそ《偽装》とかで偽っているのかとも思ったけど、こんな簡単に攫えたり脅せたりしている時点でこれも違う。

 だからこそ、何でかが知りたいんだろう。

 

 いやでも……。そんなこと俺に聞かれてもまったく心当たりがない。

 さっきも言ったけど、俺はまだジョブに就いてない。この世界のスキルはジョブと紐づいているらしく、ジョブに就いてレベルを上げないとスキルを覚えられないので、俺はまだスキルを一個も習得していないし、装備は初期装備。どう考えても普通。いや、この世界の普通の人は大体全員がジョブに就いていることを考えると、普通以下かもしれない。俺が唯一普通の人とは違うのはティレシアスぐらい……あ。

 

「もしかして、ティレシアスのせい……?」

「もしかして?どういうことだ?お前のことだろう、どうして断言出来ない」

「だ、だって、まだ孵化したばっかりでよく分かってないし……」

「孵化?……とりあえず、思いついたことを全て話せ」

「は、はい」

 

 

□□□

 

 

「……そうか。お前は〈マスター〉だったのか」

 

 あの後、俺は全てを説明した。

 俺はまだこの世界に来たばかりで、エンブリオであるティレシアスも孵化したばかりだからまだ全部理解できていないし、もしかしたらそこに質問の答えがあるのかも、と。

 その返答が、先程の彼女の言葉だ。

 〈マスター〉か……。確か、ホームページの背景設定に書いてあった、プレイヤーを指す言葉だったはず。

 

 〈マスター〉とは、〈エンブリオ〉に選ばれ、〈エンブリオ〉を育て、〈エンブリオ〉を使う者達。その力は絶大だが、その代償として頻繁に別の世界に飛ばされてしまうという制約がある。ただし、死の瞬間には〈エンブリオ〉の力で別の世界にその身を飛ばし生き長らえることができ、その場合は最低でも3日間はこの世界に戻ってこない。

 要するにデンドロでは、“ログアウト”や“デスペナルティ”についても世界の根幹設定に盛り込まれているのだ。

 最初読んだ時は何故そんなことにしたのか疑問だったが、デンドロにログインした今なら分かる。

 ティアンにここをゲームだと思わせない、そのためだ。

 今まで街で様々な人を見てきたが、彼らの思考レベルは生身の人間となんら変わりない。

 そんなティアンにここがゲームだと認識させず、本物の世界のように振舞わさせるため、プレイヤーのリアルへの帰還や不死性を世界の常識とする。

 よく考えたな運営、と感心する。

 

「王国の【猫神(ザ・リンクス)】から七大国間のホットラインを通じてマスター増加予想の報があったのは知っていたが……本当に存在するとはな。伝承に謳われた伝説の存在にしては弱すぎる気もするが……まあ、まだ世界に来たばかりだとしたら妥当か」

 

 思案し何事かを呟いた黒ずくめが、俺に向き直る。

 そして……頭を下げてきた。

 

「すまなかった。手荒な真似をしてしまって」

「へ!?あ、いや、別に良いですけど……」

 

 なんか急に丁寧になった。さっきまではあんなに剣呑な雰囲気だったのに、落差がちょっと怖い。

 

「ああ、謝るのに顔を隠したまま、というのはいけないか。ちょっと待ってくれ」

 

 そう言って黒ずくめは覆面を取り、その顔を露わにした。

 そうして現れた顔は、一言で言えば、美少女だった。

 涼やかで凛とした美しい顔立ちで、その造形を艶やかな黒髪と真っ白だが健康を感じさせる綺麗な肌が引き立たせている。

 今まで生で……どころかテレビでも見たことがないほどのその美貌に、一瞬目を奪われかけたほどだ。

 

「私は【(シャドウ)】の弘原海(わだつみ)柚芽(ゆめ)。〈御庭番〉の一員だ」

「あ、お……私は水無月火篝です」

 

 いつものの癖で俺と言いそうになったが、私と言い直す。

 ロールプレイや、俺の理想の少女には俺、なんて言って欲しくないというのもあるが、何よりもネカマバレだけはしたくない。

 俺としてはネカマもネナベも特に思う所はないが、世の中にはそれらを蛇蝎の如く嫌う輩もいるし、バレたらどんな風に吊し上げられるかも分からない。そんな思いは嫌だ。なぜ俺はキャラメイクの時、そこまで考えが至らなかったんだ……そうすれば思い止まったかもしれないのに……。

 

「そうか。水無月、先程は本当にすまなかった。重ねて謝罪させてくれ」

「だから別に良いですって」

「本当か……?私に出来ることだったら何でもするぞ……?」

「そんなのは……いや、だったら色々と話を聞かせて下さい。それでチャラということで」

 

 こういう真面目そうな人はこちらが大丈夫と言っても自分で色々と思い悩むから、だったら見える形でお詫びしてもらったほうがいい。そうした方が俺のためにも相手のためにもなる。

 

「そんなことで良いのか?分かった。立場的に言えないこと以外ならば何でも話そう」

「じゃあ……【影】とか〈御庭番〉って何ですか?」

「【影】は隠密系統の上級職だ。【隠密】は隠蔽や対人戦闘に特化したジョブで、【影】はその上位互換と思ってくれて構わない。〈御庭番〉は【征夷大将軍】様直轄の諜報組織だな」

 

 へえ、上級職だったのか。

 【隠密】はいわゆる暗殺者的なジョブということだろう。

 〈御庭番〉はまあ、想像通りだな。名前通りの組織だった。

 

「でも、諜報組織の一員って言っちゃっていいんですか?そういうのって隠すものじゃ……」

「大丈夫だ。私の役割は将都の見回りと不審者、不審物の発見、除去だ。顔を見せてはいけない系の仕事とは管轄が違う」

「へえ……じゃあ、さっきも……」

「ああ、見回りをしていた。まあ、主目的は強者の発見だが」

「強者の発見?」

「《隠形の術》と《視線察知》を使いながら将都を回ることで、我々の隠蔽を破れる者を探し、リストに載せておく。そうした者達は街に大きな影響を及ぼす可能性があるからな、事前に知ることで色々なアドバンテージになる」

「なるほど……え、でも、それ聞いた限りだと、普通はリストに載せるだけですよね?何で私に限って攫って尋問を……?」

「ああ、それは先程言った通り、アンバランスだったからだな。ステータスは弱く、ジョブには就いてすらもおらず、装備も弱い。それなのに私の《隠形の術》を見破った。強者が偽装しているにしても普通はここまでしないからな」

 

 ああ、そりゃそうか。

 偽装というのは怪しまれないようにやるものだ。それなのに弱くしすぎたら逆に怪しく見えるから、普通はそこそこで止めるのだろう。

 

「だから、無理にでも攫って尋問したんだ……それに、やっと《隠形の術》のレベルが7になってこの仕事を任せてもらえるようになったのに、その初仕事でよく理解できない奴に見破られて、ちょっと混乱していた、というのもあるな……」

「あー、何か、すいません」

「大丈夫だ。それに、杞憂だったしな」

「……そういえば、そんな簡単に私の言葉信じても良いんですか?嘘を言っている可能性は?」

「私は《真偽判定》も持っている。それに反応がないのから、君は嘘を言っていないと分かるぞ」

 

 《真偽判定》、そんなスキルまであるのか……というか、嘘言っているかなんてどうやって判定しているんだろう?ほんと超技術が多すぎるよ、デンドロ……。

 

「それにしても、レベル7の《隠形の術》を生まれたばかりで見破るとは……流石は伝説のエンブリオといった所か」

「いやでも、そうと決まった訳じゃないし……」

 

 俺のエンブリオ、ティレシアスの持っているスキルは《見えざる瞳、視る異能》だけだ。

 その効果は『周りを見る結界を展開する』それだけ。

 『隠蔽を看破する』みたいな能力はないはずだし……待てよ?

 スキルの説明をもう一度見直してみる。

 

『保有スキル』

見えざる瞳、視る異能(ヴレポ・デュナミス)》:

範囲内の全てを視覚として感じ取る結界を周囲に展開する。

ただし、自身の身体のみは塗りつぶされ見えないようになる。見ようと意識すれば視ることも可能。

パッシブスキル。

 

 この説明文の、“範囲内の全てを視覚として感じ取る”の部分に着目してみる。

 範囲内の全て、というのはもしかして“範囲内の偽りないありのままを全て”という意味だったりするのか?

 だからこそ《隠形の術》で消えていた柚芽も薄くはあったが、見えていた……そう考えれば一応辻褄は合う、か?……自分で言っていてもこじつけにしか感じられないが、それ以外に考えられないんだよな。

 

「えっと、弘原海さん……?」

「柚芽と呼んでくれ。あまり苗字で呼ばれるのは好きじゃないんだ」

「そっか、じゃあ柚芽さん。もう一度《隠形の術》を使ってくれませんか?」

「別に構わないが……」

 

 そう言った柚芽の見え方が先ほど同様に薄くなる。が、やはり見えている。

 

「それじゃあ、少し普通に歩いてくれますか?」

「まあ、いいが……何の意味があるのだ、これ?」

「それは後で説明しますから」

 

 そんな俺の要求に怪訝そうな顔をしながら、従ってくれる柚芽。やっぱり真面目で良い子だな、この子。

 それはともかく、柚芽の様子を注意深く、五感全部で感じようとしてみる。

 ……やっぱりだ。見えているのに、歩く音が聞こえない。柚芽が歩く過程で散った砂が足に当たっているのに、その感触もしない。

 これで、俺が《隠形の術》を使った柚芽を知覚できるのが視覚だけ、ということになっているのが確定した。ということは、見破れたのはティレシアスのおかげで間違いはないだろう。

 

「もういいいですよ」

「そうか……水無月は何をしていたんだ?」

「それはですね……」

 

 柚芽に俺のエンブリオであるティレシアスの事、そしてそれの持つスキルとその説明文を教え、それに関する俺の仮説とそれを証明するために《隠形の術》を使ってもらったことを説明した。

 

「なるほど、ずっと瞳を閉じていながらも私にどうやって視線を向けていたかと思ったら、エンブリオの能力だったのか……。しかし、視覚限定の隠蔽看破……ジョブでもよくある“制限をかけることで出力を高める”ことをしているのか……?ということは、エンブリオも万能ではなく、決まったリソースをやり繰りしている、と見るべきか……?」

 

 柚芽も理解してくれたらしい。というか、なんか俺よりも理解しているような感じの呟きをしているんですけど……。

 ま、理解してくれたんだったら何でも良いか。

 




《見えざる瞳、視る異能》
副次効果その1 視覚限定の隠蔽看破
 結界内のことであれば、隠蔽だけじゃなく幻惑や変化も見破れるし、火篝が《看破》を覚えれば偽装も見破ることができる。
 作中では、火篝はまだデンドロやエンブリオ関連のシステムに疎く、柚芽はエンブリオを過大評価しているので二人とも気付いていませんが、普通たかだか第一形態のスキルで、しかも副次効果では、視覚に限定していても上級職の隠蔽を見破れるはずがありません。
 それには裏があり、ティレシアスが”眼球なのに物を見る機能がない。結界は張れるけど”という、本末転倒で普通はありえない制限を背負っている状態だからです。言うなれば”装備品強化の力はあるけど血液を送り出す機能を持たない”【コル・レオニス】や”装備破壊の力は持つけど身体を支える機能はない”【スケルトン】のような感じです。
 その分、唯一のスキルである《見えざる瞳、視る異能》が強化され、上級職にも通用するレベルになりました。

 ……というのが自分の中での設定です。
 ど、どうですかね?おかしくないですか?
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