偽盲目少女の修羅国生活   作:リーシェン

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戦闘描写難しい……でも楽しかったです。そしてそのせいか筆が乗りました……今後もこの分量で書ける気はしないですね


6・初ジョブと初戦闘

□将都冒険者ギルド 水無月火篝

 

 受付から逃げるように立ち去った俺は、座敷の方に来ていた。

 ジョブを決めるための【適職診断カタログ】は受付の娘から借りれたが……最後に起きた出来事のせいで、ちょっと、いや大分憂鬱だ。

 しかも、返す時にもう一度話さなきゃだし……。

 ……って、あーもう、やめやめ!

 そういう暗い考えは忘れて、今はただゲームを楽しむ!後の事は後に考えればOKだ!

 ……うん。無理やり気味だけど、気分を上げたらちょっとマシになった。

 今はとりあえず、ジョブを決めることにしよう。

 借りた【適職診断カタログ】を開く。

 【武士】【弓武者】【隠密】などの戦闘系のものから、【鍛冶師】【薬師】【書士】などの生産系まで色々なジョブが載っていて、見ているだけでもかなり面白い。

 

 しかし、見ている途中で疑問が出る。

 この文字が薄くなっている奴と、そうなっていない奴の違いは何なんだ?

 前者は【鬼武者】【影】【高位書士】などであり、後者は【武士】【隠密】【書士】などである。

 何故かと思って注意して見てみると――その違いが分かった。

 前者は、ほとんどが上級職……就職に条件がある奴だ。そして、俺はそれをほとんど満たしていない。

 つまりはこのカタログ、俺が就けるジョブと就けないジョブを親切に分けてくれているのである。

 これならば、就けるか就けないかの判断がすぐにできるし、とても便利な機能だ。

 っと、お試しはここまでにして、本番に挑むとするか。

 確か、出される質問に答えればいいんだよな……。

 カタログの機能を起動し、流れ出した音声で出される質問に答えていく。

 そうして5分が経ち、出た結果は……。

 

「【迎撃者(インターセプター)】?」

 

 なんだこれ?

 今まで見た他のジョブ――【武士】とか【隠密】とか――と違って、字面だけだとよく分からないな。

 迎撃に関係する何かだとは思うが……具体的には分からないし、何故俺に合っているとオススメされたのかも分からん。

 まあでも、オススメされた訳だし、とりあえず迎撃者ギルドを探して内容を聞いてみよう。……そもそもあるかどうかも分からないけど。名前的にそこまでメジャーな感じしないし。

 で、終わったのだからカタログを返さなければいけないのだが……ああ、憂鬱だ……。

 さっきは先延ばしにして気分を上げたが、今はそうする訳にもいかないし……さっき借りた娘とは別の人に行けば、それはそれで気分を害するかもだし……。

 あ、そうだ。さっきの娘が他の人を対応していれば俺は行かなくて済む……!

 そっと受付の方を見てみると……あ、ダメだ。さっきの娘の所空いてる……それどころか、他の二つには人がいるから、別の所に逃げることもできないし……。

 どうするかな……あ、ヤバい。

 そんな感じでウンウン悩んでいたら、顔を上げた受付の娘と目が合ってしまった……。

 ……これは、行くしかないか……。

 観念して、カタログを持ちながら受付へと歩いていく。

 よし、こうなったら、さっと終わらせよう。

 渡して、お礼言って、そのまますぐに帰る。うん、これで完璧。

 作戦が決まった所で、受付にたどり着いた。

 

「これ、ありがとうございました」

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 【適職診断カタログ】を受付の娘に渡すと、特に何かある訳でもなく普通に受け取って貰えた。

 ……特に変な素振りはない?この娘からすれば、さっきのこともどうでも良いことなのかな。

 それはそれでちょっとモヤっとするが、まあ、用事は終わりだ。

 

「それじゃあ……」

「あ、ちょっと待って下さい!」

「へ?」

 

 え、呼び止められた?

 帰ろうと背を向けていたので、後ろに振り返る。

 な、なに言われるんだろう……?

 キモイ顔見せたから慰謝料払えとか?俺、初期配布の3000リルしかないですよ?それ取られたらもう終わりなんだけど……!?

 

「あの、さっきはごめんなさい!」

「す、すいませ……って、え?」

 

 い、今なんて言ったこの娘?

 

「失礼な態度を取って気分を悪くしてしまって……本当にごめんなさい!」

「え、いや……大丈夫です、よ?」

 

 お、俺が謝ることは想定していたけど、まさか謝られるとは……。

 そ、そっか。今の俺と彼女の立場関係は、店を訪れた客と店員と同じだ。

 ギルドだから、普通の店に比べて一方的に客にへりくだらなきゃいけない訳ではないと思うけど、ギルドもそこに所属する人達のおかげで運営とかもできているんだから、客の俺と店員の彼女、両方失礼な態度を取ったとしたら、謝らなきゃいけないのは彼女の方だから、今謝るのもおかしくない、のか?

 

「水無月さんの笑顔がすごく可愛くて、直視できなくて……。あ、すいません……!こんなこと言っても、失礼なことをしてしまった理由になんてならないのに……」

 

 とか、必死に理由を考えて納得していた俺だったが、次の彼女の言葉で、完全に思考を停止させられた。

 ……へ?かわ、いい?誰が?水無月さん……って、俺……?

 …………あ、あー……。

 そうだ。そうだった。

 今の俺、とんでもない美少女だった。

 美男美女というのは、ある一定までなら全ての行動が好意的に見られる生き物だ。

 しかもその中でも最上位近くにいる俺なら、キモイ笑顔だろうと可愛い笑顔になるのは道理である。

 さっきわざとこの容姿を使った時はちゃんと意識していたのに、無意識ではまだ自覚できてなかったのか……。

 

「だ、大丈夫ですよ。気にしてませんから」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

 本当はめっちゃ気にしてたけど、そんなことを今ここで言う必要はない。人間とは本音と建前を使い分ける生物なのである。

 それにしても……。

 美形っていうのはすごい効果あるんだな。こうやって許しただけですごい喜んでもらえるんだから。

 しかし、こんな可愛い子の笑顔が見れるんだったらこんなアバターにしたかいがあるってものだな。いやまあ、変えられるんだったら、今でも即座に男アバターに作り直すけど。

 

「あ、あの。それでですね……」

 

 あれ。受付の娘が何か言いたそうにモジモジしている。

 視線で続きを促すと、受付の娘がおずおずと言葉を発した。

 

「許して貰ったばかりで、厚かましいかも何ですけど……私と、知り合いになってもらえませんか!」

「え?」

 

 えっと、知り合いになりたい……?なにそれ……?

 この子、さっきから俺の想定外のことばっかりしてくるんだけど……。

 

「だ、ダメ、ですか……?」

「え、いや、ダメじゃないですけど」

「ホントですか!?」

 

 俺の返答にすごく嬉しそうに笑う受付の娘。

 いや当然でしょ。だって、こんな可愛い子に知り合いになって欲しいってお願いされて、恋愛経験0の童貞野郎がダメと言うはずない。

 けど……。

 

「知り合いになら、もうなっていると思いますよ」

「た、確かに……そ、それじゃあ……友達……?」

「はうっ……!」

 

 思わず、さっきのこの子みたいに顔を背けてしまう。

 だって、不安気に、でも少し期待を込めた上目遣いで見つめてくるんですよ?

 何この生き物、可愛い過ぎるんですけど!!

 

 

「も、ちろん、いいですよ」

「やった!ありがとうございます!」

「は、はい」

 

 あーもう!そんな綺麗で純粋な笑顔向けてこないで!

 俺の容姿は造った美形だから、騙しているみたいで罪悪感が半端なくなって、直視できないから!

 

「あ、私、大森茜と言います。よろしくお願いします!」

 

 

□〈緑花草原〉 【迎撃者】水無月火篝

 

 

 あの後は受付の娘、改め茜ちゃんとちょっとお喋りして、ついでに迎撃者ギルドの場所も教えてもらった。

 というか、茜ちゃんと話していて分かったのだが、彼女の俺に対する好感度が凄い高かった。

 なんというか、憧れの歌手や俳優に会って知り合いになった感じ?

 どうやら、この特級美人な容姿だからだけではなく、最初に彼女と会って話している時の俺の行動がかなり美化されて解釈されているようだった。

 ああ、だけど、多分俺の元々の容姿で同じ行動をしてもそう思われず、美人だから良い感じに受け止められたんだろうな、とも思うから、それも美形の影響ではあるかな?

 それはともかく、迎撃者ギルドに着いた俺は、そこに居たギルド職員さんに話を聞いた結果、【迎撃者】に就いていた。

 話を聞いた感じ、俺に……というか、俺のエンブリオであるティレシアスに合っていると思ったからだ。

 なので、それを確かめるため、今は将都の北にあるフィールド〈緑花草原〉に来ていた。

 

 アイテムボックスから、初期配布の槍――ではなく、武器屋で買った【鉄槍】を取り出す。

 また、この【鉄槍】以外にも、ポーションをいくつかと、実験用にとあるモノを買ってある。

 フィールドに出るっていうのに、何も準備しないってのは馬鹿の所業だからな。特に、このゲームはデスペナで24時間ログインできなくなるから、死なないようにするのは重要だ。

 ……南門で立てず、歩けず、頑張っていた時には、ログインすると、まずは周りの光景に呆然とし。はっ、と意識を戻すと、満面の笑みでフィールドに駆けていく輩は何人もいた。

 おそらく、デンドロのリアルさに圧倒され、その興奮のままに動いてみたくなったのだろう。俺がいた間は門の前には戻ってこなかったが、はてさて、どうなったのやら……。

 

 しかし、準備はしたが、万全を期せたとは到底言えないな。

 なにせ、防具は初期装備のワンピースのままなのだから。

 お世辞にも防御力が高いと言えないこれのままなのには、理由がある。

 ……金が、ないんだ。

 初期配布の3000リルでは、【鉄槍】とポーション、その他のモノを買っただけで、底を突いてしまった。

 今残っているのはたったの7リル。おにぎり一つも買えやしない。

 なので、攻撃を受けないようにしなくてはいけないのだ。まあ、そうじゃなくても攻撃は避けなければいけないのでそう変わりはしないのだが、何度か受けていい、と一度も受けてはいけない、では緊張具合が違うからな。

 早くモンスター狩って金策して、防具を買わないと……。

 

 

 ということなので、早速モンスターを探す。

 ……でも、モンスターと戦うための防具を買うためにモンスターと戦うとか、ちょっと矛盾しているよな。

 まあ、ゲームではままあることだ。

 効率良く周回して素材を集めるためにキャラを育てようとして、キャラを育てるための素材を集めるために周回するとか。

 

 ……あ、モンスター発見。

 ティレシアスの視覚結界の端の方で、145cmくらいの大きさの人型が見えた。

 【小鬼】と表示されているそいつは、浅黒い肌と小さな角、いかにも邪悪!と言えるような顔つきをしている。

 うん、人の事は見た目で判断していけないと良く言うが、あれはどう考えても悪寄りのモンスターだろ。

 【小鬼】の方も俺に気付いたのか、こちらに向かって走り出す。

 とりあえず、体感時間を加速する。

 これで思考時間は確保できた。

 (俺からすれば)ゆっくりと走り寄ってくる【小鬼】だが……あの様子はどう考えても、友好を結びましょう!という感じではないよな?

 ギラギラと光る濁った瞳を向け、血で赤黒く染まった小太刀を振りかぶって走る姿からは……どう見ても敵意しか感じない。

 これなら、狩っても特に罪悪感は感じなさそうだ。

 どうやら一体だけのようだし、こいつで色々と実験するとしよう。

 俺も走り出し、自分から【小鬼】に向かって行く。

 では、初戦闘だ!

 

 

 まずは……これからか。

 【小鬼】からは敵意を向けられているし……これはもう『攻撃された』と言っても過言ではない。

 ということで《迎撃の心得》発動。指定するのは……まずは『STR、END、AGI』の三つで。

 そして発動した瞬間、明らかに俺の走る速度が上がる。

 これは別に、俺がさっきよりも本気で走っているわけではない。俺のAGIが上がったのだ。

 

 【迎撃者】は、その名の通り迎撃を得意とするジョブだ。

 LUK以外の全てのステータスが満遍なく上昇し、覚えるスキルは一つだけという、俺が聞いた他のジョブに比べて、かなり異端な性質をしている。

 その唯一覚えるスキルが、今使った《迎撃の心得》だ。

 これは、『攻撃された時、戦いが終了するまで指定したステータスを倍加する』効果を持つ、攻撃をされた後に迎え撃つためのスキルである。

 指定できるステータスは最大3つ、最低1つであり、指定した数が少ないほど大きく倍加され、レベル1では3つで1.5倍、1つで2.5倍となる。

 なので『ATR、END、AGI』の三つを選んだ今は、それぞれが1.5倍されている。走る速度が上がったのはそのためだ。

 

 この《迎撃の心得》だが、スキルの説明文にない特徴がある。

 今俺は《迎撃の心得》を発動させたが、その発動条件は『攻撃された時』。だが、俺は別にダメージを受けた訳でもないし、それどころか武器で攻撃されそうになってすらいない。ただ敵意を向けられただけだ。

 だが、《迎撃の心得》はそれだけでも発動する。

 聞いた話によると、『武器を向けられた』『威嚇された』『攻撃されるかもと思った』だけでも発動するらしい。

 また、『攻撃された』の対象が自分だけではなく、『パーティーメンバーが攻撃された』や『自分がいる砦のどこがが襲撃された』でも発動するのだとか。

 何でそんな仕様になっているのか、と思ったが、多分、防御力特化のステータスでもないのに被ダメ前提にしたら直ぐ死ぬクソ仕様になるからだろう。

 

 【小鬼】との距離が残り数歩になった時点で体感時間加速を解除する。

 スローになった自分の動きにまだ慣れていないから、ただ走るとかだけならともかく、真面目に戦おうとしたら多分上手く動けないだろうからな。

 

「りゃあ!」

「グギャアッ!」

 

 とりあえず、こちらの方がリーチが長いので先手を打って喉元を狙って突く。

 だが、小太刀で弾かれ防がれる。

 諦めず、今度も喉を狙い薙ぎ払いを繰り出すが、それも小太刀で受け止められる。

 力を込めて押し込もうとするが、それも叶わない。

 いくら《迎撃の心得》で1.5倍になっていたとしても、元々の値がレベル0の貧弱ステータスだ。

 恐らく今の俺のSTRは【小鬼】とさほど変わらない。むしろこちらが低いかもしれないぐらいだ。

 

「ふっ、はっ、やっ!」

「ギャ、ギ、ガァ!」

 

 一度、二度、三度、四度……何度も突いて払う。

 それを【小鬼】は全て的確に小太刀の側面で弾き、受け止め、防いでいく。

 ……って、ちょっと待てや!こいつ、そこら辺の雑魚のくせに技術高すぎじゃないか!?

 こちらとのステータス差があまりなく、俺の武器がリーチのある槍じゃなかったら、すぐさま首を搔っ切られているような……そんな気がするほどだ。

 こっちは《槍技能》もあるっていうのに……。

 

 《槍技能》とは、【槍士】などに就いた時に覚えられる、槍の扱いを上手くしてくれるスキルだ。

 だがそれでは、【迎撃者】の俺では使えるはずないのだが……実は俺、迎撃者ギルドからこの草原に来る間に、いくつかのジョブギルドに寄り、【槍士】ともう二つほどジョブに就いていたのだ。

 最初、俺はそんなことするつもりはなかったのだが……迎撃者ギルドの人に進められたのだ。

 

 本来、いくつものジョブに同時に就くのは、ほとんど意味がない。

 経験値が入るのはメインジョブだけだから同時にレベル上げが出来ないし、レベルが上がらなければステータスも上昇しないしスキルも覚えないから、就いているだけでは何の役にも立たないのだ。

 それなのに勧められたのは、当然ながら理由がある。

 【迎撃者】が《迎撃の心得》しか覚えないからだ。

 それはつまり、武器を上手く扱うための《技能》系などの戦闘を有利に進められるパッシブスキルも、戦闘の決め手になるアクティブスキルも覚えないということ。

 それでは、いくらステータスが倍増にしたとしても、戦闘に勝てない。

 【迎撃者】とは本来、いくつかの下級職あるいは上級職をカンストさせた者が、戦力増強のために就くジョブなのだそうだ。

 なので最初は止められたのだが、意思を変えられないと知ると、もういくつかのジョブに就くことを提案されたのだ。

 就いているだけではほとんど意味がないとはいえ、最初から《技能》系と最下級のアクティブスキルは覚えているから、それがあるだけでも大分違うだろう、と。

 その提案に従った結果が、【槍武者】ともう二つのジョブなのだ。

 そして今、それに感謝している。

 《槍技能》がなかったら、こいつとここまで戦うこともできなかっただろうから。

 

「はぁ!せい!」

「ギャア、ギィ!グアァ!」

 

 何度も何度も攻撃を繰り返す。

 単純に突いて払うだけではなく、身体を回転させて遠心力を乗せてみたり、防がれたら槍を回転させて石突で攻撃してみたり、狙う場所も喉だけじゃなく、足や小太刀を持つ手を狙ったりと、色々と工夫を凝らし、何度かは攻撃が当たった。

 だが、その分出来た隙に【小鬼】も攻撃し、俺も何度か攻撃を受けている。

 

「はぁ、はぁ……」

「ギャウ……」

 

 一進一退の攻防が続き、どちらからともなく一旦距離を取る。

 切れた息を整えながら、いつ襲い掛かられても対応できるように【小鬼】から目を離さない。

 初回戦闘でこんな奴とエンカウントするとか、運が悪すぎるだろ……。

 いやまさか、デンドロのモンスターって全部がこんなのなの……?だったら攻略ものすごい面倒そうなんだけど。

 

「ふぅ……やあぁ!」

「グギャァ!」

 

 息が整ったのでもう一度距離を詰め、攻防を再開する。

 ……だが、やっぱり決着が付かない。

 どちらもたまに攻撃は受けるが、どれも浅い。俺のHPは2割も削れてないし、【小鬼】の方も同じようなモノだろう。……デンドロだと、ステータスどころかHPバーも見えないから、なかなか辛いな。次は《看破》が取れるジョブに就くかな?

 このままだと長期戦になる。

 そうなると、どこかのタイミングでミスをして一気に削り殺されそうだ。俺は【小鬼】よりステータスが低いし、体力がなくなるのは早いだろうしな。

 どう考えても俺の分が悪いし、このままだと負ける。それは分かってる――だけど。

 

「せい!りゃあ!……あは。あはは!」

「グゥ……ギャギャ!」

 

 攻撃する度に出している掛け声に、笑い声が混じる。

 こんなギリギリで成り立っているような戦い、疲れるし、劣勢で負けそうでもある。

 でも……楽しい。

 力を振り絞り、工夫を凝らし、全身全霊をかけて仕合う。

 それが、とてつもなく楽しいのだ。思わず笑いが零れてしまうぐらいに。

 今初めて知った。俺って、戦闘狂だったのか。

 【小鬼】もそう思っているのか、心無しか口角が上がっているように見える。

 だが、このままでは負けてしまうのは変わらない。

 どうせだったら初戦闘は勝利で飾りたいし、それを抜きにしても、この戦いには勝ちたい。

 この状況を打開する方法は……あるな。

 今の時点ではただのアイデアで上手くいくかも分からないが、試す価値はある。

 

「はあぁっ!」

「ギャウアッ!」

 

 先程までと同様に喉元を狙って突く。

 【小鬼】も今まで通り防ごうとするが……ここからだ。

 体感時間を加速させた後、()()()()()()()()()()()()

 倍加していたステータスが元に戻り、槍の突く速度が遅くなる。……が、今の早くなった体感時間ではそんなに変わらない。しかし感覚は少し変わってしまったので、槍の軌道を変えないように注力する。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()。今度はAGIのみを指定して。

 

「やあぁっ!」

「ギャヒッ!?」

 

 体感時間の加速を解除してから、最大限のAGI(速さ)を発揮し突き出した槍が【小鬼】の首の端を浅く抉り、少なくない量の血が飛ぶ。

 咄嗟に小太刀で逸らされてしまったせいで喉は突けなかったが、それでも今までのからすれば深い傷だ。

 この機会を逃さず、薙ぎ払いで追撃する。

 今度は防御を抜けるということもなく、【小鬼】が小太刀で槍を受け止める。

 ここで、もう一回!

 また、体感時間を加速させてから《迎撃の心得》を解除し、今度はSTRのみを指定して《迎撃の心得》を発動する。

 

「せ、いぁっ!」

「グギャァ!?」

 

 最大限のSTR(筋力)を込めて槍を振り抜けば、先程まではいくら力を込めても突破できなかった小太刀の防御を破り、右腕を深く切りつける。

 

「はぁ……っ……!」

「ギャアァアア!」

 

 もう一度追撃……しようとしたが、【小鬼】が無茶苦茶に手足を振り回し、危なくて近づけないので一度距離を取る。

 殺しきれはしなかったが、ある程度ダメージを与えられたので良しとしよう。

 しかし……やってみれば以外と上手く行くものだな。

 

 今まで深い傷を負わせられなかったのに、今になって出来たのは当然理由がある。

 と言っても、それほど特別なことはない。俺のステータスが【小鬼】を上回った、ただそれだけだ。

 《迎撃の心得》は、指定したステータスの数が少ないほど倍率が高くなる。

 3つ指定した1.5倍の時点で少し下ぐらいだから、1つだけ指定して2.5倍になすればそのステータスは【小鬼】を上回る。

 だが、どれか一つだけ高くなったとしても意味はない。

 STRだけ高くしても、やっと張り合えていたAGIが低くなれば攻撃を簡単に捌かれてしまうし、そうなれば低くなったENDに手痛い反撃を喰らってしまうだろう。

 AGIだけ高くしても、攻撃できる回数は増えるだろうがSTRが低くなるからダメージは浅くなるし、上回ると言ってもそれほど差が開くわけではないから、この【小鬼】ならすぐに対応して防御、反撃してくるだろう。

 

 なら、どうすれば良いか。

 簡単だ。指定するステータスを状況によって切り替えればいい。

 AGIを低い状態から急激に上げることで緩急を付け防御のタイミングをずらし、対応して受け止められたのならば、STRを上げて押し切る。もし攻撃を受けそうになれば、ENDを上げて受け切れば良い。

 

 だが、普通の【迎撃者】ならばこんなことは出来ない。

 指定を切り替えるのには、一度《迎撃の心得》を解除しなければいけず、その瞬間は何も倍増していない状態になってしまう。

 下がったAGIのせいで攻撃を受けてしまう、STRが下がったせいで押し負けて反撃を受けてしまう、ENDが下がったせいで傷が深くなってしまう、などなど、その間に負けてしまう要因はいくらでもある。

 しかし、俺にはティレシアスの体感時間加速がある。

 《迎撃の心得》は『攻撃を受けると思った』だけでも発動する、つまり肉体的な動作は必要ではなく、意識するだけで発動できるのだ。

 ならば加速した体感時間の中でも問題なく発動できるのは当然であり、その状態で行えば、倍増していない時間はかなり短くなる。

 AGI特化の上級職に就いている柚芽レベルならばその間隙も突けるだろうが、現実時間で言えば0.5秒にも満たないその間に、俺が対応できるレベルのAGIしかない【小鬼】が何かできるはずがない。

 これが、迎撃者ギルドで《迎撃の心得》の詳細を聞いた時から考えていたコンボ技である。

 これをできるかもしれない、と思ったのが【迎撃者】に就いた理由の一つだ。

 もちろんそれだけではなく、別にも理由があるが、それは後だ。

 今はとにかく、この戦いを終わらせなくては。

 

「…………」

「グフゥ……ギュゥ……」

 

 暴れるのを止めた【小鬼】と静かに睨み合う。

 その眼からは、先程狂乱していた時には在った混乱の色がなくなっている。

 もう状況を受け入れ、落ち着いたのだろう。

 不可思議な挙動で首を抉られ、腕を切り裂かれたというのに。その傷はかなり痛いだろうに。劣勢で、あと何撃か加えられれば死んでしまうというのに。本当に、凄いと思う。

 

 ……対して、俺はどうだろうか。

 俺がここまで戦えているのはひとえに、俺にとってここが遊戯(ゲーム)だからだ。

 この世界は、本物だと思っている。ここに住む人々――ティアンは、本物の生命だと感じている。この【小鬼】と戦ってみて、モンスターもティアンと同じ、本物の生命なのだとも考えている。

 だが俺にとっては、どこまで行ってもゲームなのだ。

 ティアンやモンスターは恐らく、死んだらもう元に戻らない。

 柚芽も、茜ちゃんも、この【小鬼】も、死んでしまったらそこで終わりだ。

 けれど、俺は死なない。このアバターのHPが0になっても(が死んでも)、俺は現実で目を覚ますだけ。俺という存在は損なわれない。

 それだけではない。

 今も、浅くとも傷を負っているのに、その痛みすら感じない。

 当然だ。痛みのあるゲームなんて、ほとんどの人は遊ぶ訳がないのだから、ゲームとして売り出すのなら痛覚を無効するのは普通だ。

 それのおかげで、俺は傷を負ってもパフォーマンスを落とすことなく戦い続けられた。

 だけど……何でか今の俺には、それがとても不誠実なモノに感じられてしまった。

 

「…………」

「ギャウ……?」

 

 俺は、おもむろにメインメニューを開き、とある項目を探す。

 そんな俺に【小鬼】は疑問の眼差しを向けてくるが、それに構わずメインメニューをスクロールし……目的である、『設定』の項目を見つけた。

 それを開き、『痛覚設定』と題打たれた一つを……ONにする。

 

「つっ……!」

 

 途端に、体中の傷がズキズキと痛みを主張する。

 その慣れておらず、不快な感覚に思わず眉を顰めるが、OFFにする事はしない。

 俺は、この世界にとっては異分子だ。死んでも死なない、お遊びで世界を謳歌する不死者だ。

 だが……俺は、この世界に生きたい。ティアンやモンスターと同じ立場で、先程の攻防で感じたような高揚や昂りを、何度でも経験したい。

 俺が死なないのは変わらない、変えられない。だから、せめて痛覚だけは彼らと同じように。そうすればきっと、感じる感情を、彼らと出来る限り同じにできるだろうから。

 

「待たせたな。じゃあ、死合おうか」

「……ギャ」

 

 俺の言葉を理解できるのかは分からない。だけど、最後に言いたくなったそれに、【小鬼】が短く返す。

 交わす言葉は、それだけ。

 あとは闘志を、殺意を、武器を交わすだけだ。

 ……ふと思い立って、今まで閉じていた瞼を開けてみる。

 周りの人に配慮して閉ざすことを決めたが、この【小鬼】に遠慮することなどはないのだから。

 俺の視覚はティレシアスの結界だ。だから、瞼を開けていようと閉じていようと、何も変わらない。なのに……瞼を上げると、より()()()ようになった、気がした。

 これはいい。本当だろうと気のせいだろうと、より集中して、より全力で【小鬼】と向き合える。

 

「……シッ!」

「……ギャァ!」

 

 AGIのみを指定して《迎撃の心得》を発動した後、全力で【小鬼】に突貫する。

 その勢いのまま槍を突き出し、【小鬼】を貫こうとするが……槍の真正面から小太刀が向かってくる。

 受け止めたり弾いたりしようとして、先程のようにタイミングをズラされて空振りにするよりは、力任せに打ち合った方が良いと判断したのだろう。

 点の攻撃である突きに正面から線の小太刀をぶつけるのは至難の技だが、恐らくこの【小鬼】ならできる、そんな信頼のような何かがあった。

 今から軌道を変えれば威力も速度も落ちる。そんな半端な攻撃ではこの【小鬼】を仕留められない。

 なので、俺も打ち合う方向で全霊をかける。

 《迎撃の心得》の指定をSTRに切り変え、精一杯の力を込めて槍を突き出す。

 STRは俺の方が上、両者とも助走で勢いを付けて威力を高めているが、AGIが高かった上に助走距離も長い俺が競り勝つ。

 そう確信して、槍と小太刀がぶつかり……槍が押し負け、俺が後ろに数歩後ずさった。

 

「……なっ!?」

「ギャヒィ!!」

 

 よく見れば、【小鬼】の小太刀を紅い燐光が包んでいる。

 恐らく、威力上昇系のアクティブスキル。今まで使ってこなかったから【小鬼】はそういうスキルを持ってないと思っていたが……奥の手として温存していただけか!

 

「ギャアッ!!」

「……っ」

 

 【小鬼】が歓喜の声を上げる。

 今の態勢からでは回避も防御も迎撃も間に合わない。

 回避しようにも、衝撃で後ずさったせいで足が少し痺れ、攻撃を避けられはしないだろう。

 無理やり防御しようとしても、アクティブスキルは未だ効果を持っているから、不完全な防御では意味がないし、ENDを倍増させたとしても恐らく耐えられない。

 迎撃しようにも、この態勢では上手く力を入れられず、とても弱い威力の攻撃にしかならない。繰り出しても【小鬼】は避けるか、あるいはわざと喰らってでも確実に致命の一撃を入れてくる。力が入らず弱々しい攻撃とアクティブスキルが乗った攻撃、両方とも入ったのならば、どちらが勝つかなど明白だろう。

 万事休す。俺の負けだ――そう【小鬼】は思ったのだろう。

 

 だが、そうはならない。

 【小鬼】はアクティブスキルという奥の手を隠し持っていたが、当然同じものを、()()()()()()()()()()()

 

「《強突き》!」

「ギャッ……!?」

 

 突き出した槍の先が【小鬼】の腹を貫く。

 本来、今の突きにそれだけの威力はないが、それを成したのが使用したアクティブスキル《強突き》だ。

 【槍武者】へ就職すると同時に覚えるアクティブスキルであり、その効果は単純明快。『突き攻撃の威力を上昇させる』というもの。

 上昇率は大きくないが、消費するSPが少なく、クールタイムも短いというかなり便利なスキルだ。

 そんな《強突き》を今まで使わなかったのは、出し渋っていたとか、【小鬼】のように奥の手として取っておいたとか、そういうことではない。

 このスキル、使用後に一瞬硬直するのである。

 俺よりもステータスが高く、俺よりも技術のある相手に、その隙は命取りだ。

 なので今まで使えなかったのだが、【小鬼】が勝利を確信し、隙を見せてくれたからこそやっと使えたのだ。

 

「ギャ、ギィ!……ガ……」

 

 【小鬼】は貫かれたまま俺に最後の一太刀を浴びせようとするが……リーチの差で届かず、そうしているうちに小太刀に灯っていた紅い光が消える。

 それを見た【小鬼】が、身体に力を込めるのを止める。

 もう悟ったのだろう。この殺し合いは決着し……自身が、負けたことを。

 

「……ギャ、ア……」

 

 貫いたまま数秒が経ち、恐らくHPを全損させた【小鬼】が、光の塵となり消えていった。

 その死に際の顔は……俺の願望かもしれないが、満足気のように見えた。

 それを見届けた俺は、全身を弛緩させて草原に倒れこむ。

 

「……うー、あー、疲れたー」

 

 戦いは楽しかったし、今後のこの世界に対する俺のスタンスなんかも定められたが……それでも、疲れたことに変わりない。

 脳を休ませようと瞼を閉じるが……俺の視覚は眼球が関与しないので、普通に見えたままだった。ああ、いつものくせが……。

 

「あ、そうだ……HP回復させないと……」

 

 アイテムボックスからポーションを取り出し嚥下する。

 簡易ステータスのHPバーが回復していくのをぼうっ、と眺めていると、ふと、レベルの欄が目に止まった。

 ……あんなに頑張ったのに、レベルが1しか上がってない……。

 まあ【小鬼】って、どう考えても最下級モンスターだからな……それなのにレベルが大量に上がるのもおかしいか。

 あんなに強かったから実は【小鬼】の皮を被ったもっと強いモンスターなのでは?とも思うのだが……いや、ステータスは低かったし、強いと感じた要素はどちらかといえば技術の方だ。もしかしたら個体によって才能とかが違うのかもしれない。……個体差ということにすると、そんな奴に初回戦闘で当たった俺は運が良いのか悪いのか……。

 

 ……今の時間ってどれくらい何だろう?

 メインメニューの時計を確認すると、現実時間は『17:10』。

 んー、約束よりは大分早いけど、今はここで終わりにするか。

 今のこの心身ともに疲れた状態で狩りを続行する気はしない。

 それにこの状態で健と会うのもあれだし、現実で休んでいよう。

 

 ログアウトしようとメインメニューを操作していて……草原の上に何かがあるのが視界に写った。

 あの場所は、【小鬼】が消えた……。

 近づいてみると、あったのは【小鬼】の持っていた小太刀と一対の小さな角だ。

 

「ドロップアイテム……ということか?」

 

 なんにせよ、初戦闘&初勝利記念だ。取っておこう。

 小太刀と角をアイテムボックスに入れた後、メインメニューを操作し、俺は今度こそログアウトした。

 

 

□■管理AI・作業領域 

 

 

 そこは、無数のウィンドウが浮かぶ空間だった。

 暗くもなく明るくもなく、更に言えば上下も左右もないその場所に、喪服のようなものを着た妙齢の女性が佇んでいた。

 彼女の名はダッチェス。〈Infinite Dendrogram〉というゲームを管理するため用意された管理AIの内の一体である。少なくとも、表向きは。

 

「…………」

 

 空間に浮かびながら、ダッチェスはただ瞑目している。

 今日……現実世界、地球での7月15日に該当する間は、ダッチェスにとって……いや、ほとんどの管理AIにとって、チュートリアルと言える。

 恐らく、発売初日である今日、この世界を訪れる者はとても少ないだろう。

 このデンドロは、普通の人間がそう簡単に信じられるような内容ではない。何せ、彼らからすればオーバーテクノロジー以外の何物でもないのだから。それもあながち間違っていないのだが。

 しかし、そういうモノに興味を引かれる者というのは一定数存在し、そんな彼らがログインすれば、発表内容はガセでもデマでもなく、真実だと実感する。

 それを現実に戻って吹聴し、彼が、“ルイス・キャロル“がもう一度会見を起こし背中を押せば、7月16日からは爆発的に増えるだろう。そうなってくれないと困る。

 そうなる前、まだ仕事の少ない今日の内に実践し、要領を掴んでおかなければ、明日からが大変になる。

 特に、〈マスター〉の描画担当であるダッチェスなどの、今までより仕事が各段に増える者は特に。

 

「……ふぅ。……2Dアニメ……3DCG……両方とも……問題なし。……あとの問題は……どれだけ同時に……することになるか……ね」

 

 閉じていた目を開き、息を吐く。

 ダッチェスからすれば、視界を変更すること自体は問題ない。

 2Dアニメは少し演算機能を食うが、それでも単体、あるいは数十、数百単位ならば大丈夫だ。

 問題になるのは、それが数千、数万単位となる場合。

 最終的に見込まれる同時接続数は数十万人であり、3分の1にした所で数万人を優に超え、しかもその他に3DCG、そして世界全体へ適応しているウィンドウの分まで演算機能を使わなければいけない。それに加え、ダッチェスには〈マスター〉の見聞きした情報を取得し、管理AIにとって不利益なことが起きぬよう状況をコントロールする役割もある。それらのことを考えると、少し憂鬱になるダッチェスだった。

 

「……そういえば……彼……いえ、彼女は……どうしている……かしら……?」

 

 ダッチェスはふと、自身がチュートリアルを担当したプレイヤーのことを思い出した。

 彼女が今どうしているのか、なんとなく気になったダッチェスは彼女の視界を覗く。

 『特別』や『限定』という肩書は、知性ある者全てを惑わせる魅了の言葉だ。

 ダッチェスも、『自身が生身で接した最初で最後のプレイヤー』というラベルに、少しだけ特別な感情を覚えていた。

 

 ちなみに後々、とあるアイテム担当管理AIが「だぁれか特定の管理エェアイだけがチュートリアルゥを担当しなぁいのは不公平ではなぁいですかねぇ?」などと発言した結果、常に死にそうなほど一杯一杯だったダッチェスもチュートリアルに駆り出されることとなるが、それは別の話である。

 

 

□□□

 

 

「……今の……は……」

 

 ダッチェスが彼女……水無月火篝との視界を共有した時、ちょうど【小鬼】との戦闘を開始していた。

 それを最後まで観戦していたダッチェスは、途中から火篝の視界だけでなく周囲からも観察できるようにし、火篝がログアウトする時までを見ていた。そしてダッチェスは、今の戦闘のあることについて思案する。

 

(規格外……だわ……)

 

 それは、戦闘相手の【小鬼】のこと……ではない。

 〈Infinite Dendrogram〉でのモンスターは、同じ種族であっても、これまでのゲームのように規格化された存在ではない。

 それぞれに才能の違いがあり、出自の違いがあり、これまで体験してきた物事の違いがある。

 あの【小鬼】は才能に溢れていた。恐らくここで終わらなければ〈UBM〉に成っただろうが、その程度であれば腐るほど……まではいないが、それなりの数はいる。

 問題は……火篝のことだ。

 

(……本来……レベル1の……《技能》系スキル……では……あそこまでの戦闘は……できない。……ただ、斬ったり……突いたり……最低限のことを……できるだけ)

 

 それだけでも、素人が最低限攻撃できるようになるというのはとても有用なことだ。1つ目の下級職のレベル上げをしている段階で戦うモンスター相手では十分だろう。

 だが、そんなものではあの【小鬼】と打ち合い、勝つことはできない。

 あの【小鬼】は、ステータスよりもスキルよりも、自身の技術、武術を武器とするタイプ。ある意味、天地らしいと言えるだろう。

 それに打ち勝つには、高いステータスや強力なスキルで圧倒するか、相手を上回る技術で対抗するか、しかない。

 

(……ステータスは……【小鬼】の方が……高かった。……彼女は……そこをスキルで……補っていたけど……それでも……圧倒するほどじゃ……なかった。それ以外の……戦闘の趨勢を……決定する……アクティブスキルは……【小鬼】の方が……強かった)

 

 ならば、打ち勝ったのは技術。だが、先程言った通りレベル1の《技能》系スキルではそこまで出来るわけがない。

 とすれば、それを成したのは火篝自身のプレイヤースキル。そのはずだが……。

 

(……でも……彼女には……武術の心得は……ない。……それぐらいは……見ていれば……分かるわ)

 

 ダッチェス自身は武術など出来ないが、それを使う達人たちは多く見てきた。

 その経験からすれば、普段の火篝の身のこなしは素人同然だ。

 【小鬼】との戦闘中の挙動も、継承され洗練された武術のモノではない。

 しかし、かと言って、その挙動は明らかに素人のモノでもなかった。

 普段とはまったく異なる挙動。あれはまるで、あの時だけ火篝の動きではないような……。

 

(……いえ。……考えても……しょうがない……わね。……私は……トゥイードルや……アリスほど……演算能力がある訳では……ないし。……今は……演算能力を……回転させ過ぎては……いけない……わ。……彼女のことは……今後も見て……答えを……出しましょう)

 

 そうしてダッチェスはまた瞑目し、仕事を再開した。

 




どうやら私には、気分が乗ると展開や設定を盛りだす習性があるみたいです。
初戦闘はもっとサクっと終わらせる予定だったのにいつのまにか強敵との死闘みたいになってるし、【小鬼】が修羅第一号みたいになってるし、火篝の性格は普通の男子高校生という設定だったのに戦闘狂で重度の世界派のちょっとヤバい奴になってるし、どうしてこうなった!?
……まあ、楽しかったからいっか!
ちなみに、最後のダッチェス関連は、火篝にも何かしらある……ってことを匂わせるために急遽追加しました。本文で上手く描写できなかったので!
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