ダイナゲート
ナガンおばあちゃん
416
末端が凍りつく感覚を無視しながら、私は路地裏に彷徨いこむ。無理やりシステムに割り込んで、体温を高めた。
「まったく……どうしていつもこうなるのよ」
誰も聞いてないと油断して、悪態をつく。
しかし、すぐ近くからガタリと物音がした。
「誰!」
ようやくまともに動くようになった片腕でHK416を握り、路地の奥へとゆっくり進む。
ガタガタッガタガタッ
「はぁ、驚いて損したわ」
そこには、頭からゴミ箱に突っ込んだダイナゲートがいた。
=*=*=*=*=
「あんた、所有者は?」
目の前の憎たらしいロボットは、不思議そうに首を傾けるだけだ。
「鉄血……ではなさそうね」
おそらくどこかの基地から逃げ出したのであろう。ボディの白線で塗りつぶされた鉄血工造のマークを見て、私はそう推測した。
「アンタもひとりぼっち?」
ダイナゲートは、やはり喋らない。しかし、まるで肯定するかのように私の足に擦り付いてきた。
「まったく、手間が増えたわ」
私は銃を向ける。
「どうして私は……」
引き金を引く。
「完璧になれないの……」
しかし弾は発射されない。当たり前である。弾はもう一発も残っていない。
ダイナゲートはまるでわかっていたかのように、その場で伏せて私を見つめている。本当に、ムカつく。
「はやくどっかに行きなさいよ」
私がそんな言葉をかけたのに、ダイナゲートはその足を細かく動かしながら私に擦り寄ってくる。
「ああもう、手間が増えたわ」
私は座り込んで、抵抗しないダイナゲートを抱きかかえた。
=*=*=*=*=
「それで、年寄りに何の用じゃ、416?」
「別に、射撃場に来たらあんたがいただけよ」
「まったく、416はなっとらんな。少しは年寄りを敬わんか」
「微塵も思ってないくせに」
「まあ否定はできんわな」
ナガンは椅子から飛び降りると、ずれ落ちた帽子を治す。
「ここはペット禁止じゃぞ?」
「勝手についてくるのよ」
「ペットにも指示を聴いてもらえないとはの」
ナガンはしゃがみこんで、先日のダイナゲートを撫でる。
「416、こやつに名前はつけたのか?」
「つけてるわけないでしょう?」
「ほう、それじゃあわしがつけて――」
「やめてよ。それより、ほら。射撃訓練をさせて」
「まったくお主は……、少しは落ち着きを知った方が良いぞ?」
「落ち着いてなんていられないわ」
「そういうところじゃというのに」
ナガンから鍵を受け取り、作動的を起動する。動き始めた的を、的確に私は撃ち抜いて行く。
的の動きがどんどん加速していき、頭と心臓を撃ち抜くことが難しくなってくる。
「間に合わない!」
リロードのタイミングで、的が飛び出してきた。
「だから落ち着けと言っとるんじゃ」
すぐとなりから、銃声が聞こえる。M1895が火を吹いている。ほぼ一発に聞こえたというのに、心臓と頭を撃ち抜いている。
「おまえさんは周りが見えてないのお」
「どういうことよ」
「そのままの意味じゃよ。ほれ、今日は終いじゃ。わしはもう行くぞ?」
ダイナゲートも、ナガンの方へと駆け寄る。
「お主も来るかの?よし、それじゃあとっておきのおやつを出してやろう」
私一人が、射撃場に取り残される。設備の鍵はナガンが持っていってしまった。銃を撃つことはできない。
「あまり長居するでないぞ?」
ナガンはそう言って、電気を消した。まっくらな部屋の中、扉が閉まる。
「この子は完璧なのに……」
HK416を握りこむ。完璧な銃、完璧な環境、それでも当たらない。
「私が完璧でないから」
=*=*=*=*=
「ん?戻りたいのか?」
ダイナゲートは廊下の途中で足をとめた。それに気づいたナガンは振り返ってそう尋ねた。
「まったく、あやつは手間のかかるのぉ」
ナガンはダイナゲートに、射撃場の設備の鍵を渡した。
「お菓子はとっておくからの、いつでも訪ねてきて良いからの」
そういいながら、ナガンは廊下を歩いていってしまった。
ダイナゲートはその背中が見えなくなるまでじっとその場に佇み、それから踵を返してもと来た方向へと戻っていく。
自らの新しい主人の元へ――