何時か書きたかったけどライネス・エルメロイ・アーチゾルテの登場で大分欲求が薄まったやつ。

セイバーの代わりになぜかtsガメッシュが召喚された二次小説。

1 / 1
tsしたギルガメッシュにイジメられながら衛宮士郎が聖杯戦争を勝ち抜く話

「問うが、―――貴様にとっての正義とは何だ?」

 

 唐突に、あるいは必然に、彼女が自分にそう訊ねたとき衛宮士郎は咄嗟に言葉を返すことができなかった。普段通りに、簡単に口答えはできなかった。

 それは彼女の目が余りにも強大な力に満ち、―――それは別に珍しいことではなく彼女の瞳には常日頃から苛烈過ぎる意思が宿ってはいたが―――、その強大な意志の圧と呼べるものが、今、自分に一身に降り注がれているからだろう。彼女と敵対する相手は何時もこんな気分を味わっていたのだろうか。ふと、脳裏にそんなことを過らせ、しかしそれを可笑しく思えなどしやしない。

 衛宮士郎が自らを『王』と称す少女と出会い、『聖杯戦争』に参加するきっかけとなった出来事は、ある運命的な夜に遡る。

 ある日、魔術師同士の殺し合いを目撃してしまった士郎は、それゆえに命を狙われ、そして実際に一度殺されて、死んだ。はずだった。

 何の因果か、どういう運命か、死んだはずの士郎は命を天に召されることはなく蘇ってしまい、そうしてまた命を狙われることになった。

 そこで出会ったのだ。あるいは出会ってしまった。

 自らを至高の存在と言って憚ることはない、天上天下唯我独尊を体現したかのようなこの傲岸不遜の少女に。

 道場で横たわっていた士郎の視線の上に、僅かな布しか纏わぬ少女が、静かに見下ろしてきていた。サラリ、と長い黄金のような髪が揺れる。

 その真っ白い肢体を見上げ、完璧なまでの太ももの曲線美と、その更に上の足の付け根にまで視線を伸ばしかけて、慌てて逸らす。

 

「王様、……見えてるんだけど」

「拝みたくば好きなだけ拝むといい」

 

 そんなわけにもいかない。こんな場面誰かに見られでもしたら、間違いなく変態の烙印を捺されてしまう。鍛錬で疲れた体を無理にでも起こし、体を少女の真下からどかす。

 少女は相も変わらず堂々とした態度で、少しも恥ずかしがる様子はない。

緋色の目が、夕暮れの色と同化して酷く幻想的に見えた。

 

「いいから答えろ」

 

どういうつもりの質問なのか。この少女の考えていることが、いつまで経っても理解できない。

 

「正義っていうか、そうだな。誰もが幸福であって欲しい、ただそれだけだ」

「ふん、曖昧極まる答えだな」

「そりゃ、………わかってるさ」

「どうだかな。曖昧な理想ほど愚劣なものはない。特に正義の味方などという狭量な願いを持つなら尚更だ。本当にわかっているのか」

「俺は確かに王様の足を引っ張ってる。だけど、俺の生き方まで馬鹿にされる筋合いはないぞ」

「ある」

 

 言葉と同時に、顔の前に足裏が降って来た。まったく躊躇もないまま、その美しい白い足は士郎の顔を捉え、仰向けに地べたに押さえつける。細く、か弱いように見えるが、まったくそんなことはない人外の膂力が篭められている。士郎は思わず抵抗したが、まったく意味を為さないまま、冷たい道場に背と頬を這わせた。

 小さく呻き声を上げる。

 

「我がこれまで幾度貴様の尻を拭ってやってきたと思っている。鳥頭の我がマスターよ」

「むぐぅ」

「貴様の愚かな行いによって、迷惑を被るのは一体誰だ。幾ら我が寛大なサーヴァントであったとしても文句の一つも言いたくもなるもの。そうでなくとも親愛なる我がマスターの身に何かあっては、我としても心苦しい」

 

 薄笑いを浮かべながら、少女はまったく思っていないような口調で嘯いた。見る者を惹きつける、蠱惑的な冷笑だ。衛宮士郎の顔面を踏みつけるという行為は、少なくともこの少女を心苦しくはしないらしい。

 普段は竹刀を振るっている道場で、少女に押し倒されて顔を踏まれているこの状況、柔らかく冷たい足と硬い道場の感触を確かに感じながらも、そこには、現実感が伴わない。

 士郎はこの少女にマスター、と呼ばれることが苦手だった。彼女が言うそれには言葉そのものの意味に反して侮蔑の響きがあるからだ。

 彼女は決して本当の意味で衛宮士郎をマスターと認めたことはない。何事にも本意を見せず胸の内を明かさない少女の、唯一それだけが士郎の確信できる真実だ。

 

「我は考えた。今後、この聖杯戦争とやらを勝ち残るのに我が主たるマスターと我の間にこのような方針の違いが続くようなら、それすなわち大いなる障害となるだろう、と」

「正義を捨てろって、そう言いたいのか?」

「自発的にそうしてくれるなら、それが一番話が早い。だがまあ、我も、頑迷な我がマスターの度し難い狷介さについてはよくよく理解している。そんな無駄なことは言うまいよ」

「……………」

 

 士郎は押し黙った。じゃあどうしろっていうんだ、などと述べるのは、助けてもらい続けている身としては、あまりに傲岸無知な発言であることを自覚しているからだ。しかし、実際どうするべきなのかは、わからない。

 

「フフ、そう硬くなるな。なに、―――ごくごく簡単なことだ。お前の正義の定義を、今ここで、完全に定めろ」

「………どういう意味だ王様」

「曖昧が過ぎるというのだ。貴様の全てが。――――誰もが幸福であって欲しい。なるほど結構な願いじゃないか。ではどうやってそれを成す。貴様はなにをもってそれを成せたと考える。それを成す為に何が必要だと考える」

「そ、れは」

 

 言葉に詰まる。それは未だに見いだせない『答え』だ。先延ばしにしていたのではない。決して見て見ぬフリをしていたわけでもない。ただ、どんなに考えても、どんなに求めてもその答えの片鱗すら衛宮士郎には見い出せなかったのだ。

 ああ、だが。一つだけ。たった一つだけ士郎は思い違いをしていた。それは誰に憚るのかもわからないが己の卑劣さから来るものではなく、ただただ愚鈍であるという一点に起因する、一つの誤り。

 もし、衛宮士郎がただの高校生だったのなら。何の力もなく、何の責任も持たない、一介の高校生に過ぎないなら、そんな不確かな思想のまま生き続けることになんの支障もなかっただろう。

 誰の迷惑にもなることはなく、精々が自分一人が鬱屈とした思いを溜めこむぐらいだろう。

 しかし、今は違う。

 今、衛宮士郎が参戦してしまった戦いの世界。聖杯戦争。

 この聖杯戦争は、そんな甘い結論のまま戦いを続けられるほど易しい世界などではなかった。

 衛宮士郎がその愚鈍さから、理解出来ていなかった真実。

 それを目の前の少女に眼前に引きずり出されたことを今更ながら士郎は理解した。

 

「わかるか」

 

 少女は小さく微笑んだ。

 

「誰もが貴様と議論出来ない。諭すことも、駁論することもできない。それは貴様の願いが完璧だからなどではない。それは単純に貴様の願いがあまりに抽象的で形を成していないからだ。答えの誤りを指摘しようが意味を為さない程にな。それはあまりに幼稚、あるいは小狡いと思わないか?」

「…………………」

「一つ良いことを教えてやろう。正義を志すならば、寛容さを捨てよ」

 

 柔らかな微笑みで、少女は士郎を見た。恐ろしいことにこの少女はどんな表情でも完璧に美しく、魅力的に見える。そこにどんな意図が篭められているのかも、どうでもよくなってしまいそうになるほどに。

 

「正義とはそれすなわち、それ以外の凡てを正しくない義と切り捨てるということだ。故に正義とは寛容の対極にある言葉なのだ、幼孩なる我がマスター」

「…………対極」

「正義の味方に成りたいのなら、もっとその欲望の形を理解することだな。ハッキリと明確に言葉にできるほどに。それでようやく論ずるに値すると言えよう」

 

 冷たい指先が頬を撫でる。彼女の囁きは、まるで脳に浸み込んで来るかのようだった。

 少女は士郎の顔に足を乗せたまま屈みこんで、深紅の瞳をゆっくりと近づけた。紅く深い瞳にじっと見つめられると、何かを吸い取られるように反論する意思が萎んでいく。第一反論できる言葉も根拠もない。

 少女の言葉は力強く、強烈で、無慈悲に、そしてもしかしたら慈悲深く、衛宮士郎の内面を穿っていった。 

 普段から忘れているわけではない。しかし、何度でも思い返させられる。

 サーヴァントとはいえ、やはり彼女は英雄なのだ。

 傲慢が服を着ていると言ってもいいような少女だが、いつだって彼女の手には真実が握られている。

 ああ、だけど。どうしても、それに頷くことができない。

 彼女は正しい。それは間違いない。

 だけど、それでも。その在り方を美しいと、そう感じてしまったのだ。

 誰かが死んでいった。

 誰かを助けようとした誰かも、同じように死んでいった。

 その地獄で、衛宮切嗣に救われたときに、思ったのだ。

 救う側だったハズの切嗣が、余りに嬉しそうで、救われた顔をしていたから。

自分もまたそう在りたいと。

 だから、この少女に返す言葉は、もう決まっていた。

 顔に乗った足をどかして、真っすぐにその眼を見つめ返す。

 

「それはできない。願いの形を曲げたらそれはもう俺の目指す正義の味方じゃなくなってしまう。だから、できない」

「………………」

「いつか、俺の願いを言葉にできる日が来るかもしれない。でもそれは、いま言葉に換えてしまったら多分、取り返しのつかないぐらいその願いの大切な部分を取りこぼしてしまう気がするんだ」

「…………なるほど。その愚劣さから目を背け続けると、そう言っているのだな」

「もし俺の願いが、王様や、凛やセイバーにとってどうしても有害だったとしたら、俺は自分の願いを捨てる」

 

 そう言ったとき、少女は笑みを消した。

 初めて会ったときのように、何かを見定める目で士郎を見た。

 嘘や誤魔化しで言ったわけではない。

 

「誰かの大切な物を奪ってしまったら、それはもう俺が目指したいものから外れてしまう。そして、そういう事が有り得るような現状だっていうのもわかる。だけど、その瞬間が本当に訪れるまでは、この願いを抱き続けていたい。それだけは、どうか許してほしい」

「…………………………………………………それが、貴様の欲の形か」

 

 見つめ合っていたのは、十秒か、二十秒か。あるいはもっとか。

 表情の浮かばない少女とただ見つめ合う。目を逸らした瞬間に身体を剣で貫かれでもしそうな気がしていた。

 

「貴様は鉄のようだな、狷介な我がマスター。だが、黄金ではない」

「?」

「鉄は錆び、腐り、いずれ朽ちていく。どのような願いも意志も決意も。人である以上はそれに例外はない」

 

 そう言って、少女は士郎の上から退いた。

 

「ま、好きにするがいい」

 

 そう言ったとき、少女はいつもの薄笑いを浮かべた表情に戻っていた。

 道場の入り口には何時の間にかセイバーが立っていた。どことなく、怒って見える顔で。いや、セイバーは大抵いつもそう見えるのだが、その三割増しぐらいで。士郎は普段の行いから反射的に慌てたが、その怒りはどうやら士郎の方にではないらしい。

 

「珍しく、自分から動いたと思えばこれですか。貴方は夕食にシロウを呼ぶ程度の仕事も満足にこなせないのですか、アーチャー」

「その不快な名で我を呼ぶな」

「夕食って………」

「ああ、我がマスターよ。夕餉の準備が終わったらしいので呼びに来たのだ。早く来るがよい。ではな」

 

 それだけ告げると、さっさと道場を出ていく少女。

 先ほどの表現し辛いほど濃密な空気など、もう無かったかのようだ。夕日ももう落ちたのか、辺りも暗い。

 何となく、狐に摘ままれたような気分だった。

 

「まったく。――、どうかしましたかシロウ」

「え、いや、なにがさ」

「あまり良くない汗をかいているようなので」

「いや、なんでもないよ」

 

 何となく、生き延びた心地ではあった。

 あの少女。王様は、相変わらず読めないけれど。

 どこまで本気でどこまで遊んでいるだけなのか。やっぱりわからない。多分、理解できることはないだろう。人の臨界を極めし者が英雄になるとしたら、彼女はその中でも極め付けだ。

 ただの純然たる人である士郎にわかることは多くない。

 わかるのは、自分のこと。衛宮士郎があの少女を嫌いではない、ただそれだけのことだった。 

 

 

 

 

 

 




 ギルガメッシュ(少女)口癖は「(適当な形容詞)の我がマスター」
 士郎は「王様」呼び。ちなみにこっちはある二次のパクリ。
 士郎への好感度は原作据え置きなので、切っ掛け次第でぶっ殺す気満々なんだけど、なんとなく一緒に居続ける、傍から見ると胃に穴が開きそうな関係。
 ちなみに最終目標はギルガメッシュをデレさせること。
 我を染めるならその三倍は持ってこいの人を。

 
 無数にそそり立つ針の穴から正解を導き出し、精確に糸の矢を貫き通し、その先のシュタインズ・ゲートに至るが如き難事だけどね! できるさ! そうエロゲ主人公ならね!(私が書けるとは言って無い)



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。