東方偽人録   作:ミツバチ

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新しくこちらに投稿することになりました第三のミツバチことネコネコニャンニャンです。
嘘です。ただのミツバチです。
虹さんの時と同じく原作未プレイ、不定期更新で爆走していこうとおもいますので、どうぞよろしくお願いします。


幻想入り
普通の人間、のはず…


 

この世において、偶然などというものは存在しない───

 

そう書いてあったのを何かの本で見た気がする。

物事には必ず理由が伴い、生まれも死も、出会いも別れも、この世に起こることは然るべく必然である、らしい。

そんな御大層なウンチクを並べられても、俺たち凡人には到底その真意は計り知れない。

だが、今この状況を以ってしても、それが偶然ではなく必然と言うならば。

俺は先の御大層なウンチクを公言しやがった奴にこう言いたい。

 

「人生舐めんなコンチクショォォォオオオオオオオオオオオッッ!!!」

 

───これが、何故か空高くから湖へと墜落した、この俺こと灼馳穂鷹の心からの絶叫であった。

 

 

ジリリリリリリリリリリリ───

 

「…………………よっ」

 

リリリリリリリリ───カチッ…

 

設定された時間通りに主を起こすべく、その身を震わしながらけたたましい音を鳴り響かさる目覚まし時計を、手を伸ばして止める。

百円ショップで買った昭和じみた目覚まし時計は、今日も元気にその使命を全うしてくれていた。

…煩すぎるのが玉に瑕だけど。

 

「暑い……」

 

のそのそと、こちらは古市で購入したベッドから起き上がり窓を開けると、夏特有の蒸しかえった空気を顔一杯に浴びてむせ返りそうになった。

空高く輝く太陽を傍目に、穂鷹はベランダから庭園に取り付けられたスプリンクラーを眺める。

水やりが面倒いからと自腹でつけてみたのだが、しかし旧式のくせに年中無休できっちり定時散水とよく働いてくれている。

花壇には薔薇やコスモスに加え、スイカや玉ねぎなんかも植えてある。

家庭菜園が趣味という訳ではないが、スーパーで買うより一から育てた方が安上がりな為絶賛繁殖中だ。

ちなみにこの庭園の管理が穂鷹の仕事だったりする。

仕事の前に「押し付けられた」が入りはするが。

何はともあれ、今日もサンサンギラギラと年中降り注ぐ紫外線の量が肌身に沁みて半端ない真夏日。

スイカも良く育った、夏の真っ盛りであった。

 

 

「おはよう、穂鷹くん」

 

背後の声に、穂鷹はさっと体ごと振り返った。そこにいるのが誰なのかは見ずとも声で分かっている。それでもつい大仰に振り向いてしまうのは、身についた反射と習性というやつだ。

 

振り向いた先に、佇む少女の姿が目に入る。涼しげな麻のワンピースに、見慣れた白のサンダル。年中頭に乗っている麦藁帽子に、華奢な左肩には小ぶりのトートバッグが掛かっている。

 

───波瀬遠江〈はぜ とおえ〉。

 

学園一の美貌とプロポーションを持つと共に、事あるごとに厄介事に巻き込まれるという特異体質を持った穂鷹と同じサークルに所属している同級生───正確には去年の春に留年している為、歳の上では先輩───である。

 

ちなみに今この瞬間も、何処からか飛来した野球ボールが頭に直撃し、跳ね返った野球ボールが設置されたスプリンクラーに当たりピンポイントで先輩の座標だけ集中散水、さらには廊下に広がった水溜りで足を滑らせ、転倒し、全身ずぶ濡れという芸人顔負けの三段面白劇場が繰り広げられている。だが当の本人は、何事もなかったかのようにこちらに歩いてきた。

 

…服が若干透けているのは、忠告しておいた方がいいのだろうか?

 

「おはようございます、遠江先輩」

 

危うく波瀬先輩と呼び掛けたのを穂鷹はぐっと飲み込む。このエセ同級生は何故か苗字で呼ばれることを嫌うのだ。

以前理由を聞いたら、「魚やお菓子みたいな名前だから」だそうだ。

 

そこまで変な名前では無いとは思うが、そこは個人の感性なのだろう。ついでに先輩もやめてと言われたが、流石に呼び捨ては承諾しかねたのでそこは止む無く先輩に折れてもらった。

 

「先輩も今終わりですか?」

「うん。医学部のテストが少し長引いちゃったし、夏合宿の申請も出してきたからね〜」

「すみません、ありがとうございます」

 

無難な会話を交わしながら、二人は肩を並べ歩き出した。

古い石造りの学び舎を後にし、部室棟に向かって木製の渡り廊下を進む。

 

右手に見える大学専用の駐輪場では、今日も事務室の職員が無断駐輪の自転車群と戦っているようだ。駐輪許可証を貼っていない自転車のサドルに、容赦無く「駐輪禁止」と書かれた新聞紙を片っ端から貼っていく。が、未だに無断駐輪の数が減った試しは無く、職員と学生のイタチごっこは続いている模様である。

 

「そういえば谺ちゃんは?確か同じ学科だったよね?」

「部長なら、ただいま教授から絶賛お説教中です。」

「え〜?また休んだの、谺ちゃん」

「その通り」

 

谺ちゃんこと檟谺。

大学生で努力家で変人で家庭的で冷徹で先輩でサークルの部長で、全ての科目で入学以来首位を守り続けている天才な穂鷹の親友である。だが、その実態は筋金入りのサボリ魔だったりする。出席日数は年に一週間程。講義どころか大学にも来ない生徒は叱られても文句は言えないだろう。よくそれで進級出来たものである。

加え、テストだけは全て満点を叩き出すという、お前それ何処の詐欺や?レベルのことを平然とやってのけるから手に負えない。

 

ところで、この生粋の天才サボリ魔くん。

来ないからと言って何をしている訳でも無く、延々と山登りしたり海をボート一つで渡ろうとしたりと無茶どころかか無謀とも思える奇行を繰り返していたりする。実際に警察や海上保安庁にもお世話になっており、退学にならなかっただけでも幸運な立派な前科持ちである。くれぐれも此方には飛び火させないで下さいね、と穂鷹は切に願っている。

 

ちなみに二週間前は、桜島の火口に降りようとして捕まっておられました。次の日にパトカーで堂々と登校してきて全校生徒を震撼させたことは記憶に新しい。

 

「暑くなってきたなあ。部室棟のエアコン取付の件、どうなってんだろ」

「先送り決定。ちなみに去年も先送りだったみたいだよ」

「ああ、それじゃ俺らが卒業する迄実現はしなさそうですね…」

「留年すれば万事解決!私みたいに!」

「物騒なことを言わんで下さい…」

 

実体験者なので侮れないのが質が悪い。

穂鷹は力無く笑うしかなかった。

 

ともかく、どうせエアコン設置が実現したとしても、取付が優先されるのはスキーやテニスなんかといった、メジャーで部員数も多いサークルからだろう。現部長が二年前に創部して、さらに在籍数三名の我がサークルなど、最後の最後までほっとかれるに決まっている。活動内容が実質旅行のうちのサークルでは、取付が決まっても取付禁止とかなりそうだ。

 

この大学の部室棟は、常緑樹に囲まれて学内の最南端にひっそりと建っている。その棟の中でも、三階の突き当たりという立地条件は悪くないクセに恐ろしく細長い部室棟の構造の所為で、どのサークルも取らなかった場所を割り振られたのが我がサークルである。要するに厄介払いと在庫処分ができて一石二鳥というわけだ。まあ、部室を貰えただけマシといえよう。

 

「こんちわーす」

 

声をかけて、部室の引き戸を開ける。鍵は事務室から持って来た一つだけのため、誰もいるはずがないのはわかっていたが、これも習慣というやつだ。だが、誰もいないと思っていた部室の中から答える声があった。

 

「ああ。こんにちは穂鷹くん、遠江くん」

 

確か教授の説教中だった筈の我らが部長───檟谺が、満面の笑みで窓際に設置されたアンティークチェアーに腰掛けていた。

 

「お、おはよう谺ちゃん」

「なんで俺たちより先に来てんすか…」

 

しかも、ちゃっかりお菓子と紅茶が入れられている。くつろぐ気満々じゃねえか。

 

「分かり切ったことを聞くんだな、君は。逃げてきたに決まってるだろ」

「逃げてきたって…」

「鍵はどうしたんすか?」

「こじ開けた。ピッキングで」

「いや、そんな当たり前だろ的な視線を向けられても…」

「正論だろ?」

「曲論だよ、不法侵入者」

「あははは…」

 

相変わらず行動原理が自由過ぎる御人である。

普通鍵開いてないからって、迷わずピッキングするか?待つとか自分で取りに行くとかの選択肢は、この部長には欠けているらしい。

即断即決即行動。なんとも頼もしい部長さまである。

 

それと、今頃教授は怒り心頭で喚き散らしてるであろうことは容易に想像できたので、後で謝りにいっておこうと思う。

穂鷹の今日の予定が一つ追加された。

出来れば甘いものでも差し入れしようと心に決めて…。

 

 

「さて、全員揃ったことだし、改めて話し合いといこう」

 

何がさてなんだろうか。

数分前の会話はどこへやら。我がサークル───『神話研究会』は、平然といつもの話題に方向を転換していた。厳密に言えば、我が部長の世界旅行の目的地を決める話し合いを始めていた。

 

「で、今回はどこに行くんですか?」

「前回みたいな無人島とか嫌だよ?」

 

前回、春休みに連れて行かれた東京都某所の無人島。船での上陸は無理な為ダイビングでの到着と相成ったわけだが、案の定というか何というか、死にかけた。島は意外と小さく、野犬に襲われるは、山羊に追い回されるは、何故かワニがいるわ、挙句の果てに酸素ボンベが片道分で島に軟禁状態で一週間過ごす羽目になるわで散々の合宿となった。

 

「大丈夫さ。今回はちゃんと安全な場所を選ぶからさ」

「谺ちゃんが言うと全く説得力がない…」

 

全くその通りであった。

 

「何、今回行くのは富士だ」

「富士…って富士山のこと?」

「ああ」

 

嫌な予感がした。

 

確かに富士山ならば一般の人たちも登山できるようになっていて安全だ。だが、部長がニコニコ顏で微笑んでいた。

見るからに上機嫌だ。穂鷹の心中で、ますます嫌な予感の度合いが跳ね上がる。こう、例えるなら、温厚な犬がいきなり人の言葉でまくし立ててきた時のような…。

 

結論、自分でも言っててよく分かりません。

 

「というわけで今度の合宿場所は富士の山頂にするが、構わないかな?」

 

部長の後ろに悪魔が見えた気がした。

 

 

「で、結局こうなりますか…」

 

時間は夕陽も水平線に掛かり始めた、紅雲流れ行く午後6時頃。俺たち『神話研究会』の面々は、見事にバラバラにはぐれ別途遭難中である。

 

「いやまあ、予想はしてましたよ?部長が登頂するとか言い出した時から…」

 

あの後、結局部長の自由過ぎる提案を断ることが出来ずに渋々承諾。半ば強引に、だが富士登山ぐらいなら出来ないこともないな、という半ば諦めの気持ちで連れられてやって来てしまったのは、しかし富士登山口ではなく青木ヶ原であった。

 

ええそうですよ、嵌められましたよ。

 

部長の本当の目的は富士の樹海だったらしい。自殺志願者が多いこの樹海は、その広さも相まって無断立ち入りは禁止されている場所である。自殺志願者というところがミソで、幽霊、お化け、邪霊何でも来いの肝っ玉部長の大好きなシュチュエーションの一つだ。非現実的なことが大好きですからね、あの部長は。

 

だがコンパスも携帯も使い物にならない、そんな危ない場所に行くと言えば俺たち二人が反対するのはもちろん、大学の許可さえ降りない。なので部長はブラフを二重に設けた。学校へはキャンプ場、俺たちには登山。そして真の目的は富士の樹海。そうしてまんまと俺たちを丸め込み、この樹海に連れてきたのであった。

 

その結果がこの様である。

 

言わなくていいよ。馬鹿だってことは充分わかってるから。

 

「にしても、本当にコンパスも携帯も見事に使い物にならんな…」

 

コンパスはさっきから回ったままで一向に北を指し示す気配はなく、携帯のアンテナは×の字を示し続けている。万事休す、八方塞がり、千日手、四面楚歌…。

 

うん、もう笑うしかないねw。何このデットエンドルート爆走中な状況。しかもグダグダ回想してたお陰でとっくに陽が暮れてるし。文字通りお先真っ暗!一寸先は闇!しかも従来は一、二日あれば登頂下山できるし民宿が各所にある為、テントなど持ってきていない。幸い今は夏。凍死はしないだろうが、ここは森の中なのだ。そのままその辺で寝れば、明日の朝には獣に喰われて死体が一体出来上がってることだろう。

 

さて、もう残された道は獣に喰われるか自力でここから出るかの二つ。もう二進も三進もいかないということが分かった所で、とりあえず野宿出来る洞穴なんかを探しに穂鷹は暗い森林を歩き出す。

 

だが、それが悪かった。

 

いや、判断自体は間違っていない。雨露を凌ぐ為にも洞穴などを探した方がいいのは確かだ。ただ一つ悪かったといえば、穂鷹の手に懐中電灯がなかったことだ。

 

「はえっ?」

 

よって穂鷹は突如変な声を上げることなった。

 

「え〜と…」

 

穂鷹はとりあえず状況を確認しようとして、後悔した。

 

「色々と言いたいことはありますが、今の状況を端的にご説明いたします!何故か目玉が其処彼処に浮いてる穴?を一直線に落下しております!」

 

頭が混乱しているのか、何故かナレーション風だった。そして、もの凄い突飛な展開だった。穂鷹は今、突如地面に空いた目が無数に浮いている不気味な穴に落下している最中なのだ。

 

(誰だよ、こんな所にこんなもん設置しやがった奴…)

 

悪態をついてもそれを受け止める相手は、残念ながらここにはいなかった。

 

───。

 

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