どうぞ!
「あれが……紅魔館か」
魔理沙の眼前には、広大な湖が続いていた。霧の所為か、湖が大きいだけかは分からないが、対岸が霞んでよく見えない。だが湖の向こうに見える紅く染まった館は普通の霧にはよく映える。
紅魔館───その全てが紅く染まっていることから、人里の住人がそう呼んでいる。
「やっぱりあそこから霧が出てたみたいだな。にしても…」
速度をあげて館を目指している魔理沙はそう呟やいて何かを探すように周りを見回してみたが、白い霧が立ち込めるばかりで何も見えない。
「…おかしいな。島はこの辺だった気がするんだが………」
目的の紅魔館はこの湖にあるそれなりの大きさの島に建っているのだが、その目指しているはずの島へいつになっても着く気配がなかった。それどころか、何か同じところをぐるぐるとしている気もしないでもない。目の前に見えているのに辿りつけない。余り普通では考えられない状況下にあった。
彼女の下方に広がる湖は狭くはないが、それでも横断するのに二十分とかからない。
にも拘らず、魔理沙が湖の上空に差し掛かってから既に三十分弱の時間がかかっている。それでもなお、下方の光景は水で覆われている。
霧のせいで方向感覚が狂ったのか、もしくは───
「もしかして島自体が移動してるとか?ありそうで嫌だが…………」
誰にともなく呟くと、魔理沙は自らの腕をさすった。湖にはもう一つおかしな点があった。
「もう夏と言っても良い頃だぜ?いくら夜とは言っても冷えすぎじゃないか?」
そう、寒いのである。
其処が例え幻想郷と言えども、夏と言えば暑い。道に迷う事といい、夏らしからぬ気温といい。
この湖は何かおかしい。
「さて、どうしたもんかな…………ん?」
魔理沙が震える手をこすり合わせて本格的に悩み始めたその時、湖から幾つもの氷塊が連続して打ち出された。魔理沙はそれを器用に躱していき、氷塊が打ち出された場所を見る。
そこには外見は白いシャツの上に青いワンピースを着て、首に赤いリボンを結んだ水色の髪をした少女が、こちらに向けてニンマリと笑っていた。背中の氷の結晶に似た羽が、その少女が妖精だと告げている。
何より、それは魔理沙も顔見知りの妖精であった。
「ムフフ…。このあたいにここで会ったが百年目!」
「はあ???」
氷の妖精であるチルノはふんぞり返って魔理沙へニヤリとした笑みを向けるが、全く様になっていないのがなんとも悲しいところ。しかも、その声は敵意を含むというより元気いっぱいといった微笑ましいものの為に怒るに怒れないのだった。
この氷の妖精は以前に何度も弾幕の練習相手にやりあってたりする。その時の勝敗は聞くまでもなかったが。
「だけどま、なるほど。この寒いのはお前の所為か。迷うのも」
「暑いよりはいいでしょ?」
「寒いやつめ」
「……何か違うんだけど」
「細かい事を気にするなよ」
それでもまだブツブツと言っているが、だがそんなことはお構いなしに魔理沙はただとある一点を見つめていた。というのも、それが何故そのようなものを彼女が手にしているのだろうと疑問を抱かせずにいられない代物だったからである。右手で頬を掻き、ゆっくりと口を開く。
「なんでもいいが、お前。何で蛙なんて持ってんだ?」
「ふっ!バカにはわからないのね。もちろん、凍らせて遊ぶためよ!」
「うーん…馬鹿には分からないっていうか、寧ろ馬鹿にしか分からないんじゃ…」
「なっ!?誰がバカよ!誰が!」
「誰って…てか、こうして上で踏ん反り返ってるのも馬鹿っぽいぜ。煙と何とかはってな」
「なんだとーっ!」
手足をバタつかせて暴れるチルノ。
もう、行動がまるっきりガキであった。
これでも寺子屋にて慧音の授業を受けているのだが、いつまでたっても考えるということを覚えない頭の軽さである。そもそもこの妖精は、特に理由もなくただドンパチ暴れたいだけであった。
「むーーーーーー!」
「拗ねんなよ」
「お前なんか…お前なんか、バーカ!」
「悪口くらいちゃんと言えよな…」
「もー、怒った!お前なんか、最強のあたいの手で吹っ飛ばしてやるっ!」
そう言い放つチルノの周囲に、にわかに冷気が集まり始めている。
暇なのか憂さ晴らしなのかは知らないが、私はこんなのに構ってるほど暇じゃないんだけどな。全くこれだから妖精は面倒くさいぜ。
散々弾幕の練習相手にしていた奴のセリフとは思えなかった。
「やれやれだぜ…」
魔理沙はぼやきながら帽子の中から八卦路を取り出して構える。
「いいぜ、相手になってやる。先を急いでるんだ、さっさと終わらせてやるさ!」
「終わるのはお前の方だ!」
そう叫んで空に掲げたチルノの手から白い水蒸気が立ち上り、やがてその水蒸気は氷の結晶となり、一枚のカードを形作った。カードの出現と共に爆発的に高まるチルノの魔力。濃度が増したそれは、妖精の周囲で淡くスカイブルーの輝きを放ち、呼応するように彼女を包む冷気が尚一層広がり、大気中の熱を奪い去っていく。
「スペルカード!」
【氷符「アイシクルフォール」】
チルノの掲げたスペルカードが輝き始め、周りに渦巻いていた冷気の煙が大きく揺らめいた。チルノがその小さな腕を横に振り回すと同時に、刹那に凝固し幾つもの氷塊となった弾幕が、魔理沙を狙って放たれた。
「っと……!」
その姿に違わぬいくつもの氷の弾幕は、速度こそ大したことはないが、数も多く進路を途中で変えて襲い来、少々動きの予測がしづらい。
更には、氷塊が閑散としている空間にも光弾を打ち出してくる為、避けるのには中々の苦労を要する。
だが──。
「当たらないぜ!」
それでも、彼女の表情に焦りの色は浮かばない。そもそも、何度もやりあってその度に打ち破ってきた弾幕だ。前回と違って正面からの弾幕が増えているが、何てことはない。
魔理沙は箒を自在に駆って旋回、これを悠々と回避していく。氷塊は魔理沙の横を通り過ぎて湖に落ちていき、着弾地点に氷の柱を作った。
「馬鹿にしてっ!」
間髪入れずに攻撃が続く。
パキパキと音を立て、空気中で氷塊が生成されていく。
形は大小様々。水晶かと見紛うような輝きを以って完成される。
しかし、そのどれもが鋭利にして凶暴。容易に肌を裂きかねない凶器となって魔理沙を襲う。
加えて冷気そのものを圧縮したレーザーを混じえてくる。外れたレーザーが、広い湖を一瞬にして凍らせていく。その光景がレーザーの威力を如実に表していた。
当たればどうなるかなど考えたくはない。
(当たれば、だけどな…)
だが、魔理沙はそれさえも少しも物怖じせずに避わし続ける。それどころか彼女の操る箒は、まるで魔法のように美しく宙を舞い、弧を描き、飛来する弾幕など障害物ですらないとでも言うように躍る。
「なんで当たんないんだよ!」
「なんでと言われてもなあ…。お前の弾幕、簡単なんだよなぁ…」
「むきーーー!」
率直な感想にチルノは泣きそうな表情になる。というか既に半分泣いていた。やはり妖精だろうと子供は子供である。自分の思い通りにいかないことが悔しいらしい。
ぷるぷると小刻みに震え、顔を上げたチルノは目つきを鋭くする。
「絶っ対っ!!撃ち落としてやる!!」
「来いっ!!」
その叫びと共に、手に持った二枚目のスペルカードが強烈な光を放って消える。
「スペルカード!」
【凍符「パーフェクトフリーズ」】
スペルカードの発動と同時にばら撒かれる緩急の色鮮やかな氷塊の雨。だが、それはスペルカードと呼ぶには余りにもお粗末な攻撃だった。標的を狙ったにしては雑過ぎる。散弾のように全方位攻撃を意図したにしては穴が多い。
「なんだ、拍子抜けだな…」
魔理沙は箒の速度も緩やかなまま、詰まらなそうにそれを避けていく。
刹那───。
ぴたっ!
──と、光弾の動きが止まった。
「…………止まった?」
自身の横を通り抜けて行くはずの氷塊が、中空で停止した様を見て魔理沙が首を傾げた。
「やあっ!」
その直後、魔理沙の一瞬の硬直を見逃さなかったチルノが、先程の攻撃より段違いに早い氷塊の弾幕を放った。
「ちっ……!」
だが、これも狙いが浅い。すぐに横に一歩ズレる形で迫り来る弾幕を避ける。
「どうした!これで一杯一杯か?」
「甘いわよ!人間!!」
チルノの叫びに伴って、魔理沙の周囲でその動きを停止していたはずの氷塊が再度動き出した。
────その移動方向をランダムに変化させて。
「うわ……っと!」
予想外の動きに対応が遅れる。
そして、魔理沙は気付いた。
「ちっ…全部この為かよ!」
魔理沙の目の前、さっきまであった弾幕の隙間が、今はその弾幕によって完全に塞がれていた。
前がダメなら後ろはどうか。
───ダメだ。その隙間は、既に魔理沙自身が通り抜けられる大きさではなくなっている。
なら、横は───。
───ダメだ。さっき避けた氷塊がまだ残っている。
なら上下──────。
どこを探そうと通る道などない。先程魔理沙自身が拍子抜けと評した弾幕が、今まさに彼女を閉じ込める氷牢と化していた。
逃げられない───。
避ける隙間が、ない───。
「───くそっ!」
始めから、あの弾幕には全て意味があったのだ。
一撃目で注意を引き、二撃目で場所を絞り、三撃目で敵を落とす。
其れらを成す為に組み合わせた弾幕だった。
一撃目は相手の注意を引く為に色とりどりの弾幕を、二撃目に素早くある程度量の多い弾幕を、そして三撃目に弾幕を操り相手を完全に閉じ込める。
全ての弾幕を操ることは出来なかったが、敵の周りの弾幕ぐらいならあの氷精でも出来た。
もちろん完璧じゃない。逃げられることもある。
だが、あれだけ視界が悪ければどうなるか。
「もらったわ!」
新たに放たれる氷塊の群。それは今まさに彼女が回避しようとしたスペースへと撃ち込まれた。
ドンッ!!!
豪快な爆裂音が湖に響き渡った。
「!な…なに……!?」
だが、予想に反してその音に動揺したのはチルノだった。
放った氷塊は爆発などしないことは放った彼女自身がよく分かっている。
そもそもの元は水蒸気なのだ。冷やすことは出来ても温めることが出来ない彼女に水蒸気爆発など起こせるはずはないし、水蒸気爆発自体、この頭の軽さでは知らないだろう。
だからもし。
もし爆発したのだとすればそれは───。
「今のはそれなりに面白かったぜ、妖精!」
爆発を伴う『何か』に、撃ち落とされたという事。
マジックミサイル───。
魔理沙の持つマジックアイテムの一つである。
「な!?」
吹き抜ける風が爆煙を晴らしたその場所で、夜を背にして堂々と佇む魔理沙が何処までも不敵に笑う。
その姿に、チルノは焦燥を隠せぬまま、しかしそれでも次の攻撃へと移ろうとする。
「スペルカード!」
【雪符「ダイアモンドブリザード」】
チルノの構えられた両手から氷で作った杭をどんどんと生み出していく。数百、数千の杭が生まれ、辺りを満たしていく───。
だが、その弾幕は動きが単調で速度もなかった。
チルノは魔理沙の意気に完全に呑まれていた。
◆
チルノと呼ばれる氷精がいた。
実に妖精らしく、だがどの妖精よりも愚直なまでに真っ直ぐな妖精であった。
彼女は一つとしてはっきりと記憶している事はなかったが、ただ一つ例外があった。
自らの敗北と、自身より強い相手の存在───。
彼女は何も根拠のない自惚れで最強を自称しているわけではなかった。
彼女の授かった力は妖精の持ち得る領域を超えており、その力に背中を押される形で敵に挑み、その強さに見合う実績を得ていた。
もちろん、他の妖精や小型の妖怪程度ではあったが、それでも彼女は湖の周辺では一番強かった。
そして時が経つにつれて友達が出来た。
たった一人の友達だった。
そのたった一人の友人という存在が、彼女にはとても心地良く、何よりも大切なものであった。
何よりも、大切なものであったのだ。
幼いながらも、たった一人の大切な友人を守りたいという確固たる覚悟を彼女が自然と持ったことを、誰一人として、自惚れであると、驕りであると嘲り蔑むことなど出来はしない。
例えそれが傲慢であろうと、友人を思う彼女の想いは何処までも純粋だったのだから。
そして友人を守る方法として彼女が選んだのは、強くなることであった。
彼女は、強大な妖怪と戦ったことはなかったが、強大な妖怪が畏怖と敬意の上に成り立つことを知っていた。
それらが己が力の裏付けであると知っていた。
これらは全てなんとなくの直感によるものではあったが、妖怪の本質は掴んでいた。
強さこそ、畏怖や敬意の元である。
だが、彼女は「強さ」の何たるかを考えなかった。
ただ漠然と畏敬こそが強いことだと思い込んだ。
その強さが、肉体であり精神であり頭脳であり存在であると、慮ることはしなかった。
故に彼女は勝ちに執着した。
強欲に、貪欲に、勝利を求め、その為の力を欲した。
もちろん負けることもあった。
だがそれでも諦めず、勝てるまで何度も何度も繰り返し挑んだ。
中型の妖怪、高位の妖精、時には大型の妖怪にも勝利したこともあった。
(これで大丈夫、これで友人を守れる───)
彼女はそう確信し、ただし過信した。
彼女の求めた強さは、脆さとしか認識されなかった。
自らの存在地位が高くなるほど身に着ける『保身』というものを、彼女は全く考慮しなかった。
ただ振り回すだけの強さなど無意味なことと同じように、彼女の振るう『友人の為の力』は、脆さ故としか認識されなかった。
───ただの暴れ回る餓鬼。
────無鉄砲なだけの弱者。
それが彼女に対する認識であった。
彼女の存在は昔と今も変わらず弱者のままであった。
見下される存在のままであった。
だが、自らの強さに確信した彼女の耳には、周りの雑音など全く聴こえはしなかった。
そして彼女は、自称する。
〈最強〉を───。
◇
「遊びはお終いにするぜ!」
その声にチルノはハッとその方を見る。
宣言と共に魔理沙の箒が夜を舞う。その速度は、最初にチルノの攻撃を避けていた時より遥かに速い。それは疾風の速度すら超越し、稲妻の領域へ───。
少なくとも、彼女と相対している氷精にはそう感じられた。
(追い切れないっ……!!)
焦りを抑えられないチルノであったが、その脳裏にふと、安易な考えがよぎった。
「…そうよ!いくら速くたって、弾幕を抜けなきゃ何も───」
「抜けるさ!」
「───っ!?」
背後で声がした。
彼女にとっては絶対的なはずである氷壁の向こう側から、その声は嘘みたいに良く聞こえた。
「おい氷精、多勢に無勢って言葉、知ってるか…?」
唐突に魔理沙はチルノへと口を開いた。懸命に応戦している魔理沙を横目に、チルノは満面の笑みを浮かべて言った。
「もちろん知ってるわよ!あたいが多勢で、お前は無勢だろ!」
威勢の良いチルノの言葉を聞くと、魔理沙はニヤリと笑った。
「いいや、違うな。無勢はお前の方だぜ☆」
魔理沙がそう呟いた瞬間、魔理沙の握りしめているミニ八卦路が急激に輝き出した。
「っ?!」
チルノが目を見張ると同時に、魔理沙のミニ八卦路から勢いよく、空を埋め尽くさんばかりの流れ星がはち切れんばかりに飛び出した。
「スペルカード!」
【魔符「スターダストレヴァリエ」】
瞬く間に流れ星の群星は氷の弾幕を覆い尽くした。
流れ星が去った後の空には、先程まで空を覆っていた氷の壁は跡形もなく消え失せていた。
その頭上に、紅い霧に包まれた満月が顔を出す。
「なっ!?」
自身の弾幕を全て打ち消され口を開いて絶句しているチルノをよそに、魔理沙はチルノにミニ八卦路を向けた。
「な?多勢に無勢だろ?」
決着が着いた───。
◆
魔理沙の弾幕に跳ね飛ばされたチルノは、空中に放り出されていた。気を失っているのか、グッタリとして氷面に向けて真っ逆さまに落ちていく。
だが、このままでは氷面に激突するというところで、その小さな身体を受け止めるものがあった。
緑色の髪を横で一つに括り、水色のワンピースをきた少女。
妖精───であることは確かではあるのだが、その内側に持つ力が視線の先で抱き留められた氷精の比ではなかった。
チルノも妖精の域を超えた力を持つが、この緑髪の妖精はその力を遥かに上回っている。
魔理沙と同等かそれ以上───。
魔理沙はしっかりと相手との差を認識していた。
それは彼女と会ってある程度経った今でも変わっていない。
「おい、そいつ」
「大丈夫です、気絶してるだけですから」
そう言って妖精はチルノを前で抱えた。その顔はわかりやすく目を回して気絶していた。
「可愛いですよね。『弱い』のに、怖がりのくせに、強がって。強い人と戦って結局勝てなくて悔しがって、また同じことを繰り返す。でも、私はそんなチルノちゃんが大好きですよ」
期せずして放たれたその言葉に、魔理沙は内心ギョッとした。それを表に出さずに済んだのは、以前面識があったという一点に尽きる。
それであっても自身が驚愕したという事実は、魔理沙の感情を揺さぶるには充分であった。
柔らか、友達思い。
しかし、何処か超然とした妖精。
初めて出会った時に抱いたそれらの感覚が緩いものであると認識させられる。
彼女の放つ言葉には温かさがあり、そこには想いやりも含まれていた。
だが───。
しかし───。
冷たかった。冷めていた。
今まで聞いていた彼女の言葉が、イメージが、たった数秒の会話で音を立てて崩れていく。
その先に浮かぶものが、今まさに目の前にいる緑の妖精と重なった。
実際の彼女はこんなにも、静かであった。
心がないとは思えない。
言葉もある、感情もある。
ただし、それが全くと言っていいほど動かないのだ。
静止した水面、不動の山。
例える言葉ならいくらでもあった。
想いやる言葉と心とが、どうにも一致しない。
───本当にこいつはチルノの友人なのか?
今更、そう魔理沙が錯覚する程度に、彼女の心に起伏はなかった。
魔理沙は知らない。
彼女がその強大な力故に、且つて『親友』と呼び合った者を殺めたことを───。
それ故に彼女は力を恐れた。
彼女は力を隠すために制限をつけた。
決して何事にも揺れ動くことのない静かな自身というイメージ。
即ち「静寂」を自身の力の枷として己の心に掛けることにしたのだ。
それが今の彼女である。
そして、そんな内なる事情を知ってか知らずか、魔理沙は驚愕と同時に納得もした。
ああこいつか、と納得出来た。
あの二枚目のスペルカード。
あれを見た瞬間に感じた妙な違和感。無数にある弾幕を操るなどという頭を働かせる行為を、あの妖精が思い付くはずがないと魔理沙は思っていた。大変失礼な思考回路ではあるが、否定材料がない為にいかんともしがたい。
では、あのスペルカードは誰の入れ知恵か。
答えは出ていた。
あの妖精であれば、あの頭の軽い氷精も素直に聞き入れるだろうし、勝つ為となれば尚更だろう。魔理沙も努力家であれば、チルノもまた努力家なのだ。魔理沙自身としては何処か腑に落ちない感があるのだが、それが何かが分からない。
「また相手してあげてくださいね。きっと悔しがってまた挑んじゃうと思うから」
魔理沙が内なる葛藤に苦しんでいると、大妖精が、まるで母親のような包容力のある笑顔でそう言った。
笑顔が暗にさっさと去れと告げていた。
「…やれやれ、わかったよ。また会った時にな」
色々と頭に生まれていた追の問いを諦め、魔理沙はそう言い残すに留まった。そして、その言葉を合図に両方共に背を向け、飛び去った。
「……全く、これぐらいじゃ温まらないなあ…。あの島にお茶でも出してくれるお屋敷でもないかなあ」
さっきの重苦しい雰囲気から解放されると同時の、この抜けた思考である。努力家というものは、皆愚直であるべきだ、という何処ぞの教師の格言は、強ち間違ってないらしい。つまりはまあ、彼女も彼女で頭の重さはそれほど重くはないということらしかった。
遠回りに馬鹿と認識されたことなど知らずに、それを本気で期待しているような調子で呟くと、魔理沙は今度こそ島目指して移動を開始した。
◇
大妖精ってこんな感じなんだろうか…。
書いてて不安になってくる…今更だけど。