(とか言いながら中途半端)
文化祭とか、運動部の我々にとってはザ・他人事。
準備ってメンドクサイデスネ。
では気を取り直して。
さてさて皆様御立会い。
異変解決に向かった博麗霊夢の前に現れるは、異変の元凶にして紅魔館の吸血鬼のお嬢様。
圧倒的なカリスマを持つ吸血鬼に、はたして霊夢は勝利し、異変を解決することができるのか!?
カリスマ吸血鬼VS博麗の巫女!
どうか御静聴のほどを───
「そろそろ、姿を見せてくれてもいいんじゃない?ねえ────お嬢さん」
そう告げた、霊夢の視線の先────其処に、黒い影がいた。
気が付けば、室内の照明が落ちている。闇が濃い────それは、単に視覚的な問題だけではない。霊夢の持つ直感がそうであると告げている。その所為か否か。、既にそれまでの呑気さを全て捨てさったかのような霊夢の視線は、今までの敵に向けていたものとは段違いに、鋭い。
「なるほど、なるほど。人間の分際で私の登場を煽るだなんて」
触れれば切れる。暗にそう連想してしまうほどに鋭利な視線を受け、しかし、その『影』は薄く嗤って言った。同時に、ステンドグラスから差し込む月光がその輪郭を浮かび上がらせていく。紅く煌びやかな光が、ついにその姿を照らし出した。
「────これはまた、随分と生意気なお客様だこと」
紅い月光に映し出され、陶器のように白いその肌が、淡く、鮮やかに染まっていく様は血塗れの姫君を思わせた。しかし其処に居たのは、はたしてそのような『人』ではなかった。紅の輝きに照らされながら、それでも強烈にその存在を主張する紅い瞳。両の背から伸びる一対の黒翼と薄く笑みの形をとる唇から覗く二つの牙。禍々しくもどこか妖艶な空気を漂わせて、圧倒的な存在感と共に其処に存在するモノ――――。
「お、お嬢様……!」
紅の悪魔――――吸血鬼。
彼女こそが、紅魔館の主にして、絶対的な力を持つ吸血鬼の少女――――レミリア・スカーレットであった。
「咲夜、貴女はもういいわ。下がっていなさい」
そう言って音もなく館内の窓際に腰掛けたレミリアは、彼女の登場に驚愕の声を漏らした咲夜に一瞥をくれた。その声音はどこまでも玲瓏で美しく響いてはいたが――――或いはそれ故か、生物らしい温かみというものが、そこからは徹底的に排除されていた。
「し、しかし……!」
この一言に対して、咲夜は初めこそ反対の意志を見せようとしたが。
「咲夜」
「……いえ、申し訳ありませんでした」
紅い視線に射抜かれて、恭しく頭を垂れた――――と、直後にその姿が消える。絶対的な主従の関係がそこにあった。
「………」
両者のやり取りを横目に見ていた霊夢は、咲夜の気配が遠ざかったのを確認すると、いつの間にか端にまで下がっていた穂鷹を見やり、再度視線を上へ――――レミリアの方へと向ける。
「やっと会えたわね。ここに来るまで、色々と面倒くさかったわ」
すると、先刻見せた鋭さを解いて普段通りとなった霊夢の視線を受け流し、レミリアは少しばかり呆れたような様子を見せた。
「本当は、あなたのような者がここまで入り込むこと自体、許されることではないのだけれど……」
「ああ、さっきの面白い力を使っていたメイドはボディーガード代わりってわけ?下げさせちゃって良かったのかしら?」
挑発ともとれる霊夢の発言に対しても、レミリアは両腕を広げてみせるという大仰な仕草を返すだけだ。そこには、焦りや怒りなどの感情は微塵もなかった。
「違うわ、咲夜は優秀な掃除係。見て御覧なさい。彼女のお陰で、ここには首一つ落ちていないでしょう?」
そう言って笑う彼女の態度には、ただ余裕の色だけがある。
「ふうん……じゃあ、あなたは強いの?」
「そんなことを訊いて、一体どうするのかしら?」
「迷惑なのよ、あの霧。っていうか、あんたが?」
「ええ」
二人の会話は、あくまでも淡白に交わされていた。どちらも、互いの底を見せようとしない故だ。
「だから、さっさとあなたをとっちめて、止めさせたいわけよ」
「ああ、それは無理ね。だって私、日光に弱いから」
「あれが無いと、外に出られないって?」
「ええ」
それでも、悪びれもせずに頷き続けるレミリアに、ついぞ霊夢が。
「この世から出てくって手も、あると思うけど」
さらりと凄いことを言い放って、あろうことかにっこりと微笑む。
「……はぁ」
レミリアは、そんな霊夢のことを少しばかりの間だけしげしげと眺めてから、心底嫌そうな溜息を、一つ吐いて―――――――。
「まったく、しょうがないわね。今は、お腹一杯なのだけど」
直後、空気が変質した。生温いはずの真夏の空気が、冷たく尖って霊夢の肌を刺す。どこまでも濃く深い闇に、その身を撫でられる感触。博麗の巫女にさえも、その表情から鷹揚さを失わせるほどの圧迫感。その気一つで場を支配する圧倒的なカリスマ性。
「…ほんと、仕方がないのね」
霊夢の瞳に、再び鋭さが戻る。呑気に構えて相手を煙に巻く、普段の彼女からは想像もできないほどに真剣な色が、そこに宿る。それは彼女が、目の前の存在を明確な敵として認めたということ。
そして、束の間の静寂の後。
「こんなに月も紅いから」
見下ろす瞳は、鮮やかに。
「こんなに月も紅いのに」
見上げる瞳は、冴えやかに。
「「 今夜は―――― 」」
二つ、交錯して。
「楽しい夜になりそうね」
「永い夜になりそうだわ」
紅に染まる闇の中を、駆けた。