東方偽人録   作:ミツバチ

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受験終わったぜい…ぜい……ぜい………ぜい…………。
(エコー&嬉し涙)

えー、はい。皆様いかがお過ごしでしょうか。東方書いてるミツバチです。何日ぶりの再開でしょうか。(そんな単位じゃすまない)

ミツバチ連盟の小説を読んでくれている読者ならばだいたい気付いたと思いますが、俺たち全員受験真っ只中で誰一人として更新していませんでした。
(約一人年単位で書いてませんが)
(↑自分はちゃっかり編集や誤字脱字も何も直してない駄作を丸々上げていたことは言わない)

とりあえず、近況なんかも気になると思いますので、今知り得ている情報を流しますと、
AB→二度目の浪人決定
IS→頭いい方は無事受かったと連絡が来ました(関西の某有名校)
こんな感じですね。

ABの方は、まあ、ほっとくとして(扱いが酷いと思うが自業自得なので遠慮はない)、ISの相方は何処に行ったのでしょうか…。割と本気で音信普通何で、これ見たら連絡してくれると有り難いです。

いや、割と本気で。出来るだけ、早くね?
頭いい相方以外、連絡先知ってるの俺だけだからさ?
毎日毎日ぐちぐちぐちぐち恨み辛みを聞かされるこっちの精神衛生上よろしくないのでね?
お願いだから早く帰って来てください……!!(←以外と切実)

……ごほん!

まあ、ともかく。私は無事に終わったので、これからまた更新していきますのでよろしくお願いします。

ではでは多分三ヶ月かそこらぶり!
待望の最新話です、どうぞ!!



紅魔郷

虎穴に入らずんば虎子を得ずとはよく言ったものだが、その逆もまた然りだと、俺は考えさせられた日があった。

 

いつのことかと思い出せば、それはゴールデンウィーク直前である四月二十五日の金曜日、日本人の偉大なる大連休などどこ吹く風な週末最後の大学講義の日の午後のことだった───まあ、大学じゃあ常に休日っぽい感じではあるのだけども。

 

午前に授業、午後にバイトというサイクルをただただ繰り返している、一般学生の規範から外れない俺のことである。本来ならばバイトに勤しんでいる時間帯であった。しかし、今の俺はというと本当に何の用もなく、漫然とそぞろ歩いていたのだ。

 

明日からの幻の長期休暇に思いを馳せていたわけではなか った。ゴールデンウィークに限らず、纏まった休日というのは、基本的に学生にとっては嬉しいもののはずで、俺だって学年が一つ違うだけで明日からのんびりと過ごすことのできる奴らを多少恨みはするのだが───なんと今年は十連休だ───、しかし同時に、長期休暇というのは俺にとっては暇を持て余してしまう期間であり、その日数もバイトに消えていく為、結局のところ日常と何ら変わらない期間であるというのもまた事実なのだった。

 

そんな訳で、午前の学生の本分が終わり、知り合いに軽い挨拶を済ませ、いざバイトに向けて正門を抜けたところで、

『あ、ハロハロ〜♪学生してるか〜い?でねでね、君今日シフト入ってたんだけど、働き過ぎで法律に引っかかちゃうからお休みしてね? じゃ!アディオ〜ス♪』

バイト先のオーナーさんからバイト禁止の電話を貰った。

 

俺が何かを言う暇さえ与えず、電光石火の早技で、いつもの独特のテンションで要件だけ伝えて切れてしまった。何が何だか分からぬまま、この瞬間に本日の午後の予定が全て白紙になってしまったのだった。

 

だが、これから一直線に家に帰ったところでこれといってすることがなく、かといって大学に戻るのも、校門を出てしまった手前躊躇いを憶え、仕方なく学校の周辺を不審者よろしくうろうろと歩いているというわけである。

 

特に目的はない。暇潰し、というよりは時間潰しだ。

 

あわよくば小洒落た喫茶店何かでも発見して、そこで時間を潰そうという腹づもりだったが、一月も通っていれば学内周辺 のある程度の地理は把握出来てしまうわけで、そこら辺一帯に俺の希望する店が無いのは分かっている。喫茶店云々は、今し方考えたただの言い訳である。

 

そんなわけで、何となく大学の周囲を旋回するように歩いた後、何度目かの風景に飽きてきたので、そろそろ家に帰ろうかと考え始めたのだが───昼飯を食べ忘れたことを思い出したし───そこでとある人物を見かけたのだ。

 

正直なところ、俺としては全く実感がないのだが、とにかく、同じ学年の超が付く有名人───波瀬遠江が、俺の正面、校門前の坂を歩いてきたのである。両手を耳に当て、一瞬、何をしているのかと思ったが、どうやらイヤホンの位置を調整しているらしい。純白のワンピースに薄いカーディガンを羽織った、如何 にもお嬢様といった風情だ。

 

そして実際、彼女はお嬢様である。この辺一帯の土地を全てその手に収める波瀬家の一人娘。俺の知り合いに、その手のことになると途端にやる気を発揮する変人がいるのだが、その知り合いから彼女の家の凄さというものをこれでもかと伝え聞いていた。噂話というものに疎い俺が伝え聞いていたというのだから、話半分だとしてもよっぽどのお嬢様ぶりだったのだろう。加えて成績優秀。何でもそつなくこなし、取った授業が全て満点などというのは当たり前、数多あるサークルから引っ張りだこ。全てにおいて中の上辺りの俺などとは雲泥の差というか、最早別次元の存在である。

 

俺は一瞬、彼女に視線を向ける。

 

専攻している授業が違うので、知ってはい ても、見かけることは殆どないのだが───偶然であり、偶々だがこうして見ることが出来たことに少しばかり驚いている自分がいる。だがよくよく考えれば、ずっと大学周辺を彷徨いていたのだから見かけたところで不思議ではないのだろう。

 

彼女は此方に気付きもしない。

 

まあ、気付いたところで会釈を交わす仲でもない。俺からすれば、彼女は文字通り雲の上の存在なのだ。

 

これから先、二度と見ることはないだろうと思い、後少しで互いにすれ違うという位置関係になった、その時である。

 

俺は、その一瞬のことを、おそらく、一生忘れることがないだろう。

 

我が大学きってのお嬢様───波瀬遠江との会合、その記憶として。

 

「きゃん!」

 

両手を耳にやっていたこともあったのだろう。

俺より五歩ほど下った、その位置で。

あの才色兼備の彼女───何でも出来る完全無欠のお嬢様が。

可愛い声を漏らしながら。

手もつかず。

頭から盛大に。

 

「いったたた……」

 

転けていた。

 

 

「君は吸血鬼を信じるかい?」

「………………」

帰り道を歩き始めていた俺は何処へ行ったのか、何故か今、大学内の南棟、その南端の一室に俺はいた。

 

この南棟───通称部室棟は、数多あるサークルが各々大学から割り当てられた部室がひしめき合う場所である。サークルには多少の興味はあったが、結局のところバイト漬 けの生活を送っている俺には縁も所縁もない場所なのだが、如何せん、状況が特殊すぎる。

 

あの才色兼備のお嬢様が何もない坂道で派手にズッコケるという衝撃の瞬間を目の前で見せられた後、額を赤くし足を挫いた遠江先輩を大学の保健室まで運び───歩かせるわけにもいかないので負ぶった。想像以上の柔らかさであったと言っておこう───、何故かそのまま帰ろうとした俺を先輩が呼び止め、先輩の所属するサークルに連れて来られた。まあ、一度は見てみたかったし、ちょうどいいと言えばいいわけだ。

 

そして部室に来るまでに遠江先輩と色々と話したのだが、驚いたことに彼女は持病で一年留年しているらしい。ならばと、どうにも呼び捨てにすることが躊躇われ、「波瀬先輩」と呼んだら怒られた。波瀬と呼ばれるのはあまり好きではないらしい。かといって、会って数 分の───況してや年上の女性を下の名前で呼ぶのもどうかと思ったので、彼女の呼び名は「遠江先輩」となった。最後まで、何故あんなところで転んだのか聞けずじまいだったが、そこは聞かぬが華という事もあるだろう。そう決意し、その問いは静かに心の内に秘め、部室の中へと足を踏み入れた。

 

そして、冒頭のあの問いに至る。

 

何を言い出すんだこいつ───一応年上らしい───は、と思う。俺が入って来てまだ数秒、ドア口に立ったままの状態である。

 

「さあ…」

「吸血鬼と聞けば、狼男、フランケンシュタインと並び称される三大怪物な訳だけど、その中にも人間社会のようにやはり本家と分家が存在しているんだ。君は吸血鬼についてどれくらい知っているのかな? 」

 

人のことなどお構いなし。いや、先に座らせろよ、とは思ってはみるものもの、ここが相手の所有する空間であることもあり、そのまま応答するしかなかった。

 

吸血鬼っていうとあれだ。人の血を吸って眷属増やしたり、不死者だったりするやつだ。体の大きさを自由に変えたりとか、動物や霧なんかに変身する能力を持っていて、十字架や銀、ニンニク、陽の光に弱いとか、心臓に杭を打つと死ぬとか、それぐらいが俺が持つ予備知識なわけだ。

 

俺はそれをそのまま、目の前のアンティークチェアーに腰掛けている女に話す。

 

「ふむ、やはり色々と間違っている辺り実に普通で面白くないが、まあ凡人にはそこが限界かな」

 

会ったところで悪いが、何となく分かった。俺は こいつが嫌いなようだ。

 

「話を続けよう」

「いや、続けるな。そもそもお前は誰だ」

「さっきも言ったと思うけれど、吸血鬼にだって僕ら人間の上下関係というものが存在しているんだ」

「話聞けよ」

 

人のことなど初めから眼中に無いかのように、目の前の女性は自身が語りたいことを好き勝手に、思うがままに話し続ける。

 

「ドラキュラ公───もちろんウラド三世のような紛い物のことではないよ?───その純血を本家として、その下には四つの分家がある。グラムハート、ディエルド、ガルシア───そしてスカーレット。ドラキュラの直系の血族がいなくなった今───そもそも本人はあまり子は作らなかったのだけど───、これらの四家が吸血鬼系図の実質最高位に存在することになるね。

そもそも、噛まれたら吸血鬼化するというのは人間の大きな早とちりというものだよ。吸血鬼の用いる吸血行為というものは、食事としての場合と眷属作りの場合、二つある。そしてその殆どが前者であり、大概は出血多量で死んでしまうよ。

考えてもみたまえ、アンデットの如く見境なく吸血した先から吸血鬼化していたならば、この世は吸血鬼という名の未曾有のバイオハザードだ。この世に人など当に居なくなっている。

安心したまえ、我々はまだそうではないようだよ?」

「当たり前だドあほ」

 

(えーと………。何なんだろうか、この状況)

 

連れて来られた先で訳も分からぬまま初対面の女性の長話を聞かせられ、果てにはその話に素でツッコむ自分。

 

シュールだ。 実にシュールだ……。

 

ていうか遠江先輩、一人でお茶なんか飲んで幸せそうにほっこりしてないで助けてください。あんたの知り合いでしょこの人。

 

(そういや、なんかこういう感じで聞いたことがあったような気が……)

 

話をまともに聞くのが嫌になったので別のことに思考を巡らす。こういう感じの変人の話をどっかで───。

 

「…あ」

 

ウラド三世って誰?、ドラキュラ本人っているの?、グラムなんちゃらって何?、何でお前がそんなこと知ってんの?、吸血行為とかどうでもいいし、そもそもコレって作り話じゃないの?とか色々、心の中でツッコみながら長ったらしいウンチクを聞いている最中で、あることに思い至る。

 

ああ、そういえば、と。

 

俺はもう一つ 、あの変人な知り合いから遠江先輩の噂と共に仕入れたもう一つの噂話を、思い出す。

 

我が大学に存在する二大噂話。

それは二人の有名な天才を指し示すものである。

一つは才色兼備、完全無欠のお嬢様の噂。

そしてもう一つ。

それに対を為す、影も形も知らないが、常にお嬢様と並び立っている謎の天才。

 

その名は───檟谺。

 

大学に滅多に来ることのないもう一人の天才(変人)の噂を。

俺は本人の語り部を聞きながら、思い出す。

 

「───ともかく、歓迎しよう。ようこそ、この檟谺が所有する誇り高き「神話研究会」へ!!」

 

だが、思い出したはいいもの、遠江先輩の時のような少しの驚きも湧き上がっては来ず───そして誇り高きとか言っている奴にツ ッコむ気迫もなく───、俺はようやく座れることに一つ溜め息を漏らすのだった。

 

 

吸血鬼と呼ばれる種族は妖怪の中では最もポピュラーな部類に入る。それは多くの人間に認知されているという事実と共に、暗に人間という種族にとって最も恐れ、畏れる存在であるという意味も含んでいる。

 

襲われれば、喰われる───。

 

それが抗う術を持たぬ人間と、圧倒的な力を持つ妖怪の間にある不変の摂理だ。

 

妖怪が一度牙を剥けば、人間は為す術もなく、ただ蹂躙されるのみ。妖怪にとって、人間とはちっぽけな存在でしかない。

 

そうでなくては、ならない。

 

妖怪とは人間の幻想により形作られた存在なのだ。

恐怖や畏怖、憎悪、悲嘆、後悔などの負の感情か ら生まれ出た存在なのだ。

人間が恐怖し、畏怖し、憎悪を抱き、己の存在を悲嘆し、自らの行いを後悔する。

 

妖怪とは、そういう存在なのだ。

 

レミリア・スカーレットもまたその妖怪の内の一人であり、最高位の力を振るう吸血鬼であった。

 

摂理に反さず、人間を喰らい血を啜る。不死身であると同時に夜を統べる怪物である。ただの人間など足元にも及ばないことは明白の事実。

 

「スペルカード!!」

 

【天罰「スター・オブ・ダビデ」】

 

しかしその摂理を、目の前の人間は容易く覆す。

 

闇の中、凶暴な輝きを伴って六芒の紋様が荒々しく浮かび上がり、圧倒的な魔力に物を言わせた膨大な紅の閃光が紅い夜空を焼き尽くす。

 

しかし、放たれる光の 奔流の中を紅白の巫女は軽やかに飛んでいた。その特殊な紅白の装束をはためかせて宙を舞い、弾幕を回避し続けている。殺到する弾幕の速度は、門番やメイドのそれよりも速い。だが、全ての弾は、彼女の傍を掠めるばかりで遂には当たることはなかった。

 

「スペルカード・ブレイク」

 

カードに定めた弾幕を撃ち尽くし、無傷の霊夢を残したままレミリアのスペルは終わりを告げた。

 

(クソ…。空気かこいつは)

 

淡々と告げる霊夢に対し、レミリアはただ心の中で呻くことしかできない。もちろん、それを面に見せはしないが。

 

対する優勢であるはずの霊夢はしかし、心中穏やかとはいかないでいた。確かに、霊夢にとってレミリアの放つ弾幕はそれほど危機感を抱くものではない。

 

しかし───。

 

「弾幕ばっかり気にして……」

 

背後から、不意に声。

 

否、不意ではない。霊夢の研ぎ澄まされた感覚は、その声が発せられる以前から、既に背後の存在を感知している。彼女の体は、既に対応するための動作に入っている。

 

それでも───。

 

「随分、悠長なのね!」

「ちぃっ!」

 

鈍い音がして、霊夢の体が後方に吹っ飛んだ。レミリアの───吸血鬼の怪力を宿す腕が、無造作に振るわれたのだ。それだけのことで、数メートルもの距離を空けられる。ともすれば容易く折れてしまいそうな細腕のどこに、一体それほどの力が宿っているのか。

 

十字に組んだ腕の隙間から視線を走らせつつも、霊夢はレミリアが放った一撃の重さに 顔を顰めて唸る。間に合わないと直感し、咄嗟に封魔の結界を両腕に這わせて展開していなければ、この程度では済んでいなかっただろう。

 

「さあ、休まずいくわよ!血の河を渡りて、紅の闇に沈め!スペルカード!」

 

【冥符「紅色の冥界」】

 

紅の悪魔は優雅に笑い、玲瓏たる声音で歌うように唱えた。間を空けず放たれた弾幕は、闇の中に色を滲ませて、紅の粒子が鮮烈に散る。それは巨大な魔力の奔流となり、先程の攻撃の余波に動きが鈍った霊夢へと殺到する。

 

「もうっ!好き放題してくれるわね!」

 

しかし、その弾幕すらも彼女には届かない。

彼女を中心にして風が踊り、周囲の弾幕を消滅させていく。

 

【夢符「封魔陣」】

 

文字通り、魔を封する力を持った霊夢のスペルカードが、全ての弾幕を消滅させていく。

 

「そこ!」

 

全弾幕を消滅させるという巫山戯たスペルカードにより開かれた僅かな隙。そこに膨大な量の霊力針を撃ち込む。

 

アミュレットの様なホーミング機能はなく軌道は直線的ではあるが、その分威力とスピードは比較にならない。

 

相手にスペルカードを使わせることにより、逆に釘付けにした上での集中砲火。避けることなど出来はしない───その筈だった。

 

「本人が悠長なら、攻撃も同様……と言ったところかしら!」

 

目と鼻の先に、幼くも艶めかしい蟲惑的な顔立ち───肉迫されていた。

 

「く、ぁ……!」

 

認識すると同時に、ガード。

ほぼ同時に、衝撃が走る。

今度は脚か、と理解が追いつき、次いで思考を掻き消すかのように鈍痛が襲う。

 

先ほどよりも重く、強い。辛うじてガードはしているが、しかし受け流すことが出来ない。

 

「勘弁してよ、もう……」

 

愚痴を零すようにして、霊夢はその事実を口にした。

 

「あなた、速過ぎる(・・・・)のよ…」

 

 

「未来視…いや、見えてるのは運命そのもの(・・・・)かなぁ…。いやはや、また面倒な能力だこと」

 

紅く色付いた夜空には、無数の弾幕と、その中で飛び回る霊夢とレミリアの姿があり、穂高はそれを少し離れたところから見ていた。門番の時と同じく、周りにはくつろぎ1セット。テーブルの上には今しがた淹れたばかりであろう紅茶のカップが、二つ。そのうちの一つを手に取り、一口啜る。

 

「う~ん…。やっぱりなんかしっくりこないんだよなあ…淹れ方は合ってるんだけど。ねえ、どう思う?」

「おそらく蒸らしの時間が足らないのではないのかと。この茶葉ですと、通常のものよりも長めに蒸らしたほうが味に深みが出ます」

「さすが現役のメイドさん。的確なアドバイスをありがとう」

「恐縮です。ですが、このままでも十分美味しくいただけますよ」

 

穂高の隣には、日々の生活に裏付けされた、実に優雅な仕草で紅茶を飲むメイド長が立っている。

 

霊夢が戦っている間暇だし、如何にも紅茶淹れ慣れしてそうなメイドもいることだしということで、アドバイスも兼ねて小さな御茶会に御招待したというわけだ。

 

「それにしても、まさか主の戦闘の最中───しかも、 つい先ほど戦い負けた相手と御茶を飲むことになるとは思わなかったわ…」

「まあ…本気の殺し合いじゃないわけだし?そこまで肩肘張らなくてもいいかなっと」

「…随分余裕ね。あの巫女が心配じゃないの?」

「う~ん…いや、別に?」

「別にって……あの巫女が相手にしているのはレミリアお嬢様よ?はっきり言って勝目なんてないわ」

「確かに、あの子の能力は厄介だし、何より強そうだ。俺じゃあ良くて引き分けだろうね」

「だったら加勢しなくていいの?」

「運命を変える為に無駄な助力はいらないでしょ」

「それ、本気で言っているの?」

「本気も本気。誰かの運命を変えられるのはそいつの力のみだ。後は背中を押してやることしか出来ないよ」

「あなたは一体どこまで…」

 

闘う二人の姿から目も離さず、呆気からんと言ってのけた穂高の言葉に、思わず咲夜が息を呑む。

 

「それに、あいつは霊夢は勝つさ。そう信じてるから」

「え!」

「咲夜もそうだろ。あの子のことを信じてるから手を出さない」

「……当然です。レミリアお嬢様は負けません」

「それと同じだよ。霊夢は負けないと信じている。なんなら何か賭けてみる?」

「あら。それじゃあお嬢様が勝ったら…そうね、一日私に付き合ってもらおうかしら」

「おいおい、何させる気だよ?」

「さあ、何かしらね?」

「そんじゃその代わり、霊夢が勝ったら俺に一日付き合ってもらうとしようか」

「あら、何をさせる気かしら?」

「さあ、何だろうな?」

 

二人は笑みを浮かべて戦いの行く末を見守った。

 

 

レミリア・スカーレットは、速かった。速過ぎた。

 

それは、どうしようもないほどにシンプルな事実だった。門番と打ち合え る霊夢の体術を以ってしても、メイドの不意打ちに先回りできる霊夢の直感を以ってしても、それでも尚、反応が追い付かないほどに速い。

 

弾幕以上に、吸血鬼そのもの(・・・・)が速い。恐らく、驚異的な動体視力と身体能力によって、相手の挙動の先を読み、動いている。あくまでも、単純な予測と行動の積み重ね。だが、その一つ一つが度を超していれば、それはもう、ある意味で未来視と言ってもいい。

 

───吸血鬼の行動には、躊躇などなかった。

 

「スカーレットシュート!」

 

レミリアの叫びと共に、新たなスペルカードが切られる。

 

視界は一瞬で埋め尽くされた。冗談みたいに、ただ紅い。紅のが黒を侵食し、蹂躙していく。

爆裂音。

地鳴りのように鈍くも強烈な震動を伴って、それは突如として紅魔館全域を揺るがせていた。

 

「………何?」

 

眉を顰めたのはレミリアだった。彼女の弾幕は、今や霊夢を飲み込んで、確かに炸裂していた。だが、不自然。たった今耳にした音、それは桁違いの規模だった。音。振動。そして、解放されたであろう───魔力量。

 

「図書館の方向……。……パチェ?」

 

レミリアは、居候させている友人の名を呼んだ。彼女が、何か強力な魔法でも使ったのかも知れない。それはレミリアではなくとも、紅魔館の内情を知っている者ならば、誰もが思ったことだろう。

 

しかし。だがしかし。

 

「魔理沙が、勝ったのね───」

 

爆煙から声。紅魔館に存在する何者よりも、喧しい 人間の事を知っている声が、違えようのない真実を口にしていた。

 

「…………しぶといのね、あなたも」

 

睨め付けるような吸血鬼の視線。その先に、鮮やかな、しかし所々煤けている紅白の装束。

 

「まあ、そう簡単にやられるわけにはいかないのよ。向こうは向こうで、決着がついたみたいだし───私だけ負けるっていうのも、癪だからね」

 

そう言うと、彼女は呑気に笑った。相手を煙に巻くような、いつも通りの彼女の顔で。

 

「私だけ……?あなたは、パチェがやられたとでも言うつもりなの?」

 

先ほど霊夢が放った言葉を、レミリアはこれ以上なく訝っているようだった。

 

「地下にいた魔法使いのことを言っているのなら、そう」

「パチェが人間に敗れたなんて……笑えない冗談ね」

「事実よ。ああ見えて、魔理沙は無駄撃ちなんてしないのよ。そもそも、あんな狭い空間で撃たれたら、防ぎようもない。そういう攻撃なのよ、魔理沙の『トッテオキ』は」

 

射抜くような紅い瞳を向けられて、しかし霊夢はしれっと返した。彼女の言葉には興奮や苛立ちなどの要素が欠片もなく、だからこそ、それがどうしようもなく真実なのだと思わせる空気がある。

 

「───未来を操ることができる能力」

「へぇ……」

 

突然発せられた霊夢の言葉に、レミリアはそこで初めて少し表情を崩した。だがそれでも、呆れた表情を浮かべながらも、流暢に自らの力を主張する。

 

「でも惜しいわね、厳密に言えば私の能力は運命を操る。で、それで?そんなことが分かったところで何かが変わるというの?」

 

「変わるわよ。それに違うわね。あなたには運命だって操ることはできていない───到底、操っているとは言えない。あなたの『力』は、そういうものじゃない」

 

告げる言葉から感じるのは、そこに宿った絶対的『確信』。

 

「何を……言って……」

 

吸血鬼は、知らずそれに押されていた。無意識の内に、身体が、意思が、引いてしまっている。

 

「仮に自由にできるのなら、さっきの攻撃では私に止めを刺せないことだって分かっていたはず。むざむざ私に時間を与えるなんて、そんな真似はしなかったはずよ」

 

彼女の言葉は、紛れもない真実を告げているのだと、吸血鬼の表情が証明している。

 

「…けれど、それでも……それだけでは決して勝てないわ。運命は変えられない!」

 

突然。

声を荒げたレミリアを目にし、霊夢は瞠目した。しかし、直ぐに軽く笑んで言葉を紡ぐ。

 

「…運命くらいぱぱっと変えてみせるわ。人が生きるってのは───そういうことでしょう?」

 

真摯な瞳を携えた霊夢が言い切る。

 

そして霊夢の唇が言葉を紡いだ、次の瞬間。霊夢の周囲で何かが発光し始めた。掌に納まってしまいそうなほどに、小さな煌き。だが。何かが弾けるような、爆ぜるような、小気味の良い電気的な音を立てて───その煌きは、光量を劇的に増加させ、巨大化していく。

 

その正体は、複数個の霊力で創られた陰陽玉であった。小粒大だった陰陽玉が、数瞬の内に体積を増したのだ。それらは今や人間の頭蓋ほどの大きさとなって、霊夢の周囲を浮遊している。そして、巨大になることで異質さを顕著にしたものが、その色彩である。既存の言葉では表現することが叶わないほどに、彩り鮮やかな、幻想的な輝き。

 

その言葉と後に見える光景にレミリアはしばし呆け、そして笑う。ゲラゲラと、甲高く下品に驕り高ぶった笑いをする。

高く高く、紅き月まで響くように高く、笑った。

 

「……悪くない」

 

牙を剥き、レミリアは吸血鬼らしく愉悦に歪んだ笑みを浮かべていた。そして、キッと霊夢を睨みつけ、口もとを歪めて叫ぶ。

 

「よく言ったわ人間!ならば証明なさい、その言葉を!我が運命を超えて、己が運命を変えてみせなさい !!」

 

急速に、レミリアに向けて力が集中する。紅の霧が集う。

 

「この妖霧は私の魔力の結晶…。

儚き日光を切り落とし、紅のみを大地に許す魔のヴェール…。

紅の闇に包まれた幻想郷は、まさに紅き魔の領土…。

さあ、掛かって来なさい挑戦者(チャレンジャー)!これが最後のスペルカードよ!」

 

全ての紅と夜の闇が禍々しい雰囲気を纏い、怪異の中心に相応しい空間をそこに構築していた。

「…それを破れってのも無茶な注文だけど、いいわ。人間の底力、見せてあげる!」

「さあ!染まれ幻想郷!鮮やかに冥き、紅色の世界へっ!!」

 

『スペルカード!!』

 

【夢符「夢想封印」】

【紅色の幻想郷】

力が───強い力がぶつかり合う。

全ての消失を現する志望の紅。

全ての夢を封す意思の光。

互いが譲らず、天を彩る。

 

そして───。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が運命を退ける。

 

 

 

 

 

 

 

「これで、もう終わりよ」

 

 

 

そして、終幕の間際。

 

 

 

「だから、ねえ……」

 

 

 

 

幻想的な光にその身を包まれていく相手のために、

 

 

 

 

 

 

「我侭は、───もうこれくらいで、お終いにしておきなさい」

 

 

 

 

 

 

 

彼女は、確かに優しい顔で笑ったのだった。

 




一万近く書いてる自分が怖いです……。
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