題名通りの幕間話ですので短めです。
フラン登場は次に持ち越しですので、少々お待ちください。
では、どうぞ。
博麗神社。
幻想郷と人間界。どちらから見ても人里離れた位置に存在する場所で、博麗霊夢は縁側で呑気にお茶を啜って過ごしていた。
幻想郷の端から空を眺め、お茶請けを片手にお茶を飲む。凡そ平穏で、全てが普通な毎日。紅い霧が世界を覆ったその日から、既に数日が経過していた。
「ふう…今日も平和ね〜……」
そう。幻想郷は、今日も平和であった。夏も盛りを過ぎ、すっかり柔らかくなった午後の陽射しに目を細めながら、霊夢は実に彼女らしい呑気さで、雲一つ見当たらない青空を眺めている。
山深き地。愈々夏という時節において、緑に包まれた神の社では命短き虫達が時を惜しむように啼き続けている。一陣の風が駆け抜け、揺れる木々の隙間を抜けて、太陽の輝きが大地の上に木漏れ日を落とす。霊夢は変わらぬ自然の営みに抱かれ、ただひっそりと佇んでいた。
「それにしても良い天気なのも考えものね…。暑くて仕方ないわ…」
彼女の瞳を光が襲う。天を彩る陽の光───いくらか和らいだとはいえ、その光は眩さのみならず、熱を地上の者達に齎す。
「全くだぜ。暑くて死ぬぜ」
「だったら、まずはその暑苦しい服装をどうにかしなさい」
「見掛けに騙されちゃいけないぜ?この服、通気性抜群なんだ」
「あっそ。まあ死んだら、私が鳥葬にしてあげるわ」
「あら、私に任してくれればいいのに」
「あんたに任すのは絶対イヤだ」
彼女の呟きに応えたのは、脚を投げ出して座っている白黒魔女と背筋を伸ばして正座しているメイド、そして、メイドの隣で豪華な椅子に腰掛けている悪魔。魔女の前には霊夢が作り置きしておいた麦茶が、悪魔の前には高価そうなカップに注がれた紅茶がちゃっかり用意されている。
神社には何故か、しかしいつも通り、紅い悪魔がいた。
「…いつの間にここはこんな大所帯になったのかしら?」
「あら。私達はただのゲスト。貴女に養って貰うつもりはないわ」
悪魔が───紅魔館の主レミリア・スカーレットが応えた。対し、霊夢は目つき鋭く声を荒げる。
「そういうことを言ってるんじゃないわよ!勝手に入るなって遠回しに言ってるの!」
「まあ、いいではないの、霊夢。どうせ盗まれるようなものもないのだし」
「そういう問題ではないと思うぞ」
「あんたも人のこと言えないでしょが」
「黙りなさい。お嬢様の仰ることに間違いなどないわ」
どこからかナイフを取り出し、低い声で語るメイド長。咲夜の言葉を契機として、向けられた霊夢と魔理沙が苦笑と共に黙り込んだ。そのため、数秒の沈黙が訪れる。
「さて、そろそろディナーの時間だと思うのだけれど。霊夢、今日のメニューは何かしら?」
実に貴族らしい優雅なポーズで脚を組み直し、レミリアはその沈黙を破る。
「ご飯に焼き魚とお味噌汁よ。勿論、私の分だけ」
「あら。ゲストをもてなすのは家主の義務よ?」
「文句があるなら夕飯分に相当するお賽銭入れなさいよ」
「それよりも、霊夢。貴方、もう少し台所を充実させなさい。お嬢様にお出しするお菓子すらないだなんて…」
「他人様に台所事情をとやかく言われる筋合いないわよ。てかあんた、そんなに家空けて大丈夫なの?」
「館には咲夜に教育されたメイドたちに任せてあるから大丈夫よ。それに、優秀な執事が一人入ったことだし。ねえ、咲夜?」
「はい。御嬢様用の御食事を作らなくてよいのであれば、穂高やあの子達でも館の家事ぐらいは務まります」
「それ、きっと大丈夫じゃないからすぐに帰れ」
紅魔館のメイド事情を直に見ている霊夢は、それが如何に安直な妄想かがよく分かる。少なくても、まともな働きが出来るとは思えなかった。
「ていうか、何勝手にうちの居候を雇ってるのよ」
「写真見る?」
「話聞けチビ悪魔」
側から飛んでくるナイフを捌きながら、レミリアが差し出した写真を受け取る。そこには執事服を身に付けて食事を作る穂高の姿があった。
「…まあ、ともかく。穂高を返しなさい」
「写真はちゃっかり貰うんだな…」
隣から発せられる戯言など、霊夢には聞こえない。
「あら、いいじゃない。居候なんでしょ?なら、居なくても特に支障はないでしょう」
「掃除するのが大変お茶請けが無くなる料理が平凡になる。ほら支障が出る」
「霊夢、あなたね……」
「ま、確かにあいつがいないと飯が味気ないよなぁ……」
「無銭飲食しに来てるだけの奴は黙ってなさい」
「へーい…」
霊夢の態度に咲夜は瞳を細めたが、レミリアは特に気にした風も無い。その時である、四人を脅かす雷鳴が鳴ったのだった。
「夕立ね」
「この時期に珍しいな…」
だが、しばらく経っても雨は降ってこない。
外の様子を見ると、明らかに不自然な空になっていた。
「あれ、私んちの周りだけ雨が降っているみたい」
「ほんとだ、何か呪われた?」
「元々呪われてるぜ。にしても、えっらい局所的に雨が降ってるなあ…。異常気象ってやつか」
「ホントね。うちじゃなくて良かったわ」
「困ったわ。私、雨の中、歩けないのよねぇ」
各々の感想のあと、被害を受けている当人が不満を口にした。
「ふぅん。そりゃ大変ね。でも帰れ」
しかし、被害を受けていない第三者は特に感慨もないようで、にべもなく言い放つ。
そんな巫女の様子にレミリアは肩をすくめ、咲夜に瞳を向けて困ったように笑う。
「私達もそうしたいのはやまやまなのだけれど…ねぇ、咲夜」
「ええ。雨が降っていてはどうしようもありません」
「あんたを帰さないようにしたんじゃない?」
「いよいよ追い出されたな」
「そんな不届き者は紅魔館の中にはいません」
主人の気質を知っていてもこの反応。従者とは時に盲目になるということを改めて思い知らされる。
「理由はともかく、ずっとここに居られても迷惑なんだけど」
「あら、それは問題ないわ。ここには、この間の紅霧事件を解決した優秀な人材が揃っているじゃない?」
霊夢が訊くと、レミリアは口もとを歪め、二人を指差す。
「…つまり、私達が紅魔館まで行ってあの雨の原因を取り除いて来い、と?」
その問いに悪魔は怪しく微笑む。
「冗談じゃないわよ、面倒くさい。それこそ咲夜にでも行かせればいいじゃない」
「私はお嬢様のお世話をするので忙しいのよ。貴女や魔理沙じゃ紅茶も満足に淹れられないでしょうし」
「私だってこれからダラダラと寝転びつつ麦茶を飲むので忙しいのよ!」
「それは忙しいとは言わないと思うぞ?」
「五月蝿いわね。貴女だって、妖館みたいなとこまで行きたくないでしょ?」
「んー。わたしは行ってもいいけどな。ちょっと面白そうだし。ついでに、パチュリーのとこの本を借りてきてもいいし」
「あ、そういえば魔理沙。パチェから伝言があるわ。借りるのはいいけどちゃんと返せ、ですって」
「考えとくぜ」
歯をむき出して笑った魔理沙からは、たぶん返さないだろうという思考が明確に窺えた。しかし、誰もそこには言及しない。実質、自分自身に被害がないためだろう。
「まあ、どっちにしてもこのままじゃ帰れないわ。食事どうしようかしら(食事=人)」
「…仕方ないわね。様子を見に行くわよ」
「やれやれだぜ」
このまま居座られ、人里を襲われても面倒である。本当に仕方ないといった風に重い腰を上げる。
「ふふ。よろしくね、霊夢」
「次に貴女が何かやったら水鉄砲片手に相手することにしようかしら……」
「その時は私も手伝うぜ」
無遠慮な悪魔の一言に、霊夢の声に早速怒気が含まれる。何はともかく、二人は紅い悪魔に神社の留守番を任せて、レミリアの館に向かったのだった。
「これで、良かったのですか?」
「ええ。もう私たちでは干渉出来ないところまで来てしまった。後は見守るだけ───」
残された悪魔とメイドは、祈るような瞳でその姿を見送っていた。
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前回の文章力は何処に行ったのか。