初めに謝っときます。
どうもすいません。
今回もフランちゃんは出てきません。あの予告は嘘です。忘れてください。
次は絶対にフランちゃん出しますので、フランファンの方はもう少しお待ち下さい。
では、懲りずに続くよこの幕間。
今回は異変の裏側をお見せします。どうぞ!
「お呼びですか、お嬢様」
「…咲夜。あの子に食事を持っていって『破壊』されたメイドはどれほどになるかしら?」
訊かれた咲夜は俯き、重い心で言葉を紡ぐ。
「私が知る限りで三十二名です」
彼女が赴任する前もいれれば、更に数が増えることは間違いない。かく言う咲夜自身も、危うく『破壊』されかけたことがあった。
「そう…いい加減、覚悟を決める頃合いなのかもね…」
呟き、レミリアは髪を掻き上げる。そして、彼女らしくない独白を始めた。
「あの子は、生まれ持ってあんな能力を得てしまったが為、運命を違えた。目の前に在った全てを破壊し、そのことで重圧に押し潰され、更には精神を病んだ。全ての元凶はあの能力───いえ、それは少し違うわね、私にも責任がある。運命を操るこの手が、彼女の『破壊』を無理に捻じ曲げようとしたために、彼女の精神に障ってしまった可能性は拭いきれない。能力だけを消し去ることなど、できるはずはないのに…咲夜、貴女が人に忌み嫌われた因たる能力を捨てられぬように……」
「…はい」
咲夜は俯き、応えた。一方で、レミリアは窓の外に視線を向け、瞳を細める。その瞳に何を映しているのか、それは咲夜にも分からない。
「いつまでも私があの子の運命を操っているわけにもいかない。精神の病みようは限界に来ている───『破壊』を止めるならば、あの子を殺すしかない」
より一層瞳を細め、そう口にするレミリア。咲夜には、彼女の表情から悲哀の感情しか見出せなかった。それ故、主に意見する大罪を犯す。
「しかし!お嬢様はそれで宜しいのですか!妹様を…フランドール様を、などと───」
レミリアが窓辺から離れ、咲夜に歩み寄る。そして、視線を上げて彼女を見詰める。
「私は紅魔館の主。自分の身内だけを見ている訳にはいかない。貴女や他の者達を、全てを守らねばならない」
そう言い切る主の顔を目にし、咲夜は唇を強く噛み締める。そして、最後の抵抗を試みる。
「その全てに…妹様もまた含まれるのではないのですか…」
主は軽く微笑み、しかし、前言を撤回することはなかった。
「…私の力の一部を紅い霧として別離したわ。これを幻想郷の方々に撒けば、霧は数日で増殖し幻想郷を満たす。幻想郷がその霧で満たされれば、彼女の『破壊』の運命を妨げ、全てを終わらせるだけの力が手に入る。『破壊』に負けず、彼女を殺せる───此処にはそれだけの力がある」
続ける彼女の目に涙は無い。しかし、従者は自身の中の葛藤を止めることが出来ないでいた。
その運命の終焉が主の瞳を濡らすのではないのか───。
「ねぇ、咲夜?」
「は、はい!」
主からの突然の呼びかけに驚き、咲夜は大きな声を出す。そんな彼女を瞳に映し、レミリアは寸の間きょとんとする。そうしてから、含み笑いを浮かべる。
「どうかしたの?貴女らしくもない」
「い、いえ。申し訳ありません」
「いいけれど。それより、私の最後の足掻き───というより、妄想ね。聞いてくれる?」
微笑みかけられ、咲夜はやはり微笑んだ。優しく、哀しく、微笑んだ。
「何でしょう、お嬢様」
訊かれた小さき者は、泣き笑いの表情を浮かべ、口を開く。
「あの子の『破壊』に耐えて遊んでくれる、そんな友達がいればよかったのにね───」
◇
───幻想郷霧の湖、その湖畔に建つ紅き妖館。通称、紅魔館。館の主にして夜の王、吸血鬼レミリア・スカーレットの私室。
自身が起こした異変が解決してから、時は進んで数日余。
窓から吹き込む暖かな微風を受けて、レミリアは微睡みから眼を覚ました。耳を澄ませばコンコンという控えめなノックが聞こえてくる。
「お嬢様。お目覚めでしょうか?お迎えに上がりましたので、身支度をお整え下さい」
「……。ええ、分かったわ」
薄っすらと瞼を開ける。瞳に映るのは、見慣れた天井。妖館の派手さとは打って変わり、一切の飾りを省いた、鈍色の壁と窓。窓には彼女の親友が細工を施し、忌々しい陽光を遮断する───正確には陽光の角度を変化させる術式が施されており、彼女の愛用している傘にも同じものが掛けられている。
ゴロン、と寝返りを打ち、聞き慣れない使用人の声を一瞬だけ訝しんだ。いつもは咲夜が呼びに来るはずだし、彼女自身、まだ陽がある時間に起きるのは極々稀な事であった。
(……ああ、そういえば今日、だったわね)
しかし数秒の後に、あれは新しく入った執事の声だったということ、彼女にとって大切な用事の為にかなり早めのモーニングコールを彼に頼んでいたことを思い出す。
「お嬢様?如何なされました?」
「……大丈夫よ。予定は分かってるわ。身支度をするから待ってなさい」
急かす声に返しながら、失笑を漏らすレミリア。
(はっ、呆れたわ。あれだけ必死な思いでこの『舞台』を創り上げたというのに、久しく抱かなかった希望というものを得ただけで、僅か数秒とはいえそれを忘れるだなんて。我ながら現金なものね)
ジャラ、とカーテンを開けた。見れば外はまだ正午過ぎ。陽の光は入らず、明かりもない、暗い私室。夏真っ盛りで湿度も高く、寝汗で服も気持ち悪い。ネグリジェの肩紐を外し、さっさと脱ぎ捨てた。
今日はあの博麗の巫女のところに出掛けることになっている。長くこの妖館の敷地より外に出たことのない彼女にとって、神社への外出は少しだけ楽しみとも言えなくもない。………それも妹の件さえなければ、だが。
(ようやく……ようやくよ。ここでこの運命は終わる、終わらせてみせる!いいえ───)
くるり、と洋服のスカートを靡かせ、凛然とした、自信に満ち溢れる声でレミリアは宣言する。彼女は私室と外との境であるドアを開け放った。
「ここから、始めるのよ!」
◆
───紅魔館地下にある大図書館。
時間は少し遡る。昨夜遅くまでそこに所蔵されている魔導書を漁っていた灼馳穂高は、山積みの本の中で眠りこけていた。水没して御釈迦になった折り畳み式のヘッドホンを付けて寝ていた穂高は、首をもたげて呟く。
「……ん……小悪魔、起きてるか?」
「……くー………」
「寝てるか……まあ、俺のペースに合わせて夜遅くまで付き合ってくれたんだから当然だな……」
閑散とした図書館に、ふぁ、と大きな欠伸が響く。
毎日朝早く執事としての仕事をこなし、終われば休憩もそこそこに未読の魔導書を漁る。それが穂高の生活のサイクルだった。本棚に凭れ掛かり眠る小ちゃい悪魔の女の子───小悪魔は大図書館の案内も含め、それに付き合ってくれていた。紅魔館に来てから、そんな生活をずっと繰り返していたのだ。現世で昼夜を問わずデタラメな展開に巻き込まれることに慣れ、ある程度の耐性のある穂高でも眠気に限界が来たのだろう。
そもそも、どうして彼がここ紅魔館で執事業務を行っているかというと、それは異変の時のメイド長との賭けの清算の為であった。賭けの内容は負けた者への命令権一回分。賭けに勝った穂高はその命令権を使い、紅茶の淹れ方の指導を咲夜に受けさせてもらうことにした。だが、そこで一件落着のはずだった話にレミリアが、
「咲夜はこの館のメイド長であり、大切な働き頭なの。咲夜が居ないと館の仕事が回らないわ」
と苦言を呈し、結果として穂高も紅魔館で執事として働くということで合意した。そういえば、紅魔館でのことを霊夢に何も伝えてなかったななどと今更ながらに思い起こしてみるが、結局のところ成るように成るだろうしこの頃はあの出不精な御嬢様も神社に行ったりしているみたいだから、もしかしたらもう伝わっているだろうということでこれ以上考えるのをやめた。
何はともかく、他に誰も居ない図書館で二人が健やかに寝息を立てていると、奥にある部屋からこの図書館の主が姿を現わす。
「穂高、朝よ起きなさい。小悪魔、貴女もよ」
「……うん?ああ、パチュリーか…………」
「……くー………」
と、うつらうつら頭を揺らして二度寝しようとする穂高とまるで目を覚まさない小悪魔。パチュリーは散乱した手近な魔導書の一つを手に取り、穂高の側頭部へ投げつけて強襲。
「起きなさい!」
「させるか!」
「あぶっ!?」
スコーン!っと、パチュリーが投げた魔導書の角が、盾にされた小悪魔の頭にクリーンヒット。寝起きを襲われた小悪魔は額を真っ赤に腫れさせながらその場に倒れた。
「人が起こしてるのに二度寝しない」
「そうかい。それは感謝するが、人様に本を投げるのは止めときなよ。俺は避けれるから兎も角、小悪魔の方は色々と危な」
「って私を盾に使ったのは穂高さんですよね!?」
ガバッ!!と本の山から起き上がる小悪魔。どうやら生きていたらしい。
「大丈夫よ。だってほら、生きてるじゃない」
「デットオアアライブですか!?生きてればいいってものではないんですよ!?パチュリー様も穂高さんももう少し私の身体を労って下さ」
「「小悪魔、五月蝿い」」
再度小悪魔の頭に魔導書×2がクリティカルヒット。小悪魔はそのまま後ろに倒れ失神。
そんな小悪魔を余所に、不機嫌な視線をパチュリーに向ける穂高。
「……それで?人の快眠を邪魔した理由は何?」
魔導書を投げられたことよりも快眠を邪魔された方に怒っているらしい。言葉に割と本気の殺気が籠められていたが、パチュリーはまるで気にしない。
「術式の準備をするからさっさと出ていってほしいのよ。邪魔だから」
「ああ……そういや今日だったけ…」
ゆっくりと伸びをし、横に畳んで置かれた執事服を着込む。
「それに貴方、今日はレミィを起こす役も頼まれてたでしょ?」
「ああ。正午にな、何故か」
本来ならこれはメイド長である咲夜の役回りである。それが何故だか知らないが今日に限って穂高に白羽の矢が立ったのだ。
「咲夜には私の仕掛ける術式の補助をしてもらうよう頼んだから」
「あらそ」
どうやら原因は目の前の魔法使いだったらしい。穂高はもう一度大きな欠伸をし、獣のように身体を撓らせて起きる。
「んじゃ、仕事熟してきますか」
「ええ、もちろん咲夜の分もね」
「げっ」
もちろん、この紅魔館のメイド長を務める咲夜に限って、自身の与えられた仕事を誰かに押し付けることなど有りはしないと分かっているが、何とも嫌な言葉に背中を押されて穂高は図書館を後にした。
◇
そして雨は紅を濡らし、古き運命を塗り替える
一回に纏めろよとかは言わないでね?分かってるから