弾幕勝負はありません。
博麗霊夢は勘の良い少女である。彼女自身も自らについてそう思っているし、彼女の事を多かれ少なかれ知っている者達も恐らく同じ事を思っている。それが本当に『勘』と呼んで良い類のものか否かは定かでないが、ここではそう言う事にしておこう。ともかく博麗神社を飛び出した霊夢は先行して先を目指し、道中の森の上を悠々と飛んでいた。別に急ぐ用事でもなさそうと感じた為もあるが、面倒との理由の方が強かった為でもあった。
「見ているこっちは気がきじゃないんだけど…」
「何か言ったかしら?」
「いーや、別に」
相変わらずマイペースな奴だと嘆息するぐらいしか出来ないのが何とも歯痒い。言っても聞かないことが分かっている手前、尚更であった。
そんな穂鷹の不安を他所に、涼しさが辺りに満ち、夜風が優しく空を行く二人を撫でた。
「やっぱ夜は気持ちいいわねぇ、涼しくて」
「そうだな」
「これで霧がなければ最高なのに…」
この状況でのんきなことを言ってられる人間は多くはないであろう。その数少ない人間が穂鷹の周りにいるのだから、その心労は如何程のものか。それを知るのは、この憐れな少年と同じ立場に立つものだけである。
「しっかし…こんな暗いとどこに行っていいかわからないわ」
「一応月は出てるみたいだけど、この霧じゃあな…」
月はそれを包む霧により紅く輝いてはいるものの、本来の役割を果たすまでには到底至らない。だから、頼りにしているのは霊夢の勘と穂鷹の魔法使いとしての感覚であった。
霊夢は飛んでればいつか着くと信じているし、穂鷹は彼女の勘と周囲の流れを感じ取って進んでいる。その両方ともが噂の館に指しているのを穂鷹のみが気づいていた。
「毎回、昼間に出発して悪霊が少ないから、夜に出てみたんだけど...」
言葉に詰まり、霊夢は苦笑いを浮かべた。
「どこに行っていいかわからないわ。暗くて。でも...夜の境内裏はロマンティックね(←のんき)」
また穂鷹の嘆息メーターが一つ上がる。ついでに空なのにも関わらず、ずっこけそうになるというオマケ付きだ。この巫女様は、どこまで行っても自分のペースを崩す気はないらしい。
だが確かに、言われて始めて穂鷹も気づく。先程まで月は紅く輝いていたのだが、今は夜の帳を何倍も濃くしたかのように何も見えない状態に陥っていた。明らかな異常。
「霊夢」
「ええ、分かってるわ」
穂鷹が霊夢に呼び掛けると同時に攻撃が来た。
闇に包まれた森の中、1つの光弾が霊夢に向かって放たれた。霊夢は瞬時に半身を引き、身体を半回転させその弾を受け流す。弾は木にぶつかり、消え散った。
「正面2時の方向!」
「はっ!」
穂鷹が示した方向に、霊夢が霊力を込めた札を数枚纏めて放つ。
「いてっ!」
弾が当たったらしい。ずいぶん可愛らしい声がした。少女の声だろうか?そして、それは徐々に霊夢に近づいてくる。二人はそれぞれ構えて相手の出方を待った。少しずつ、形がハッキリと見えてきた。
「……?」
「あれ…?」
そこにいたのは見た目は7、8歳の少女。金色のショートヘヤーに赤いリボン、シャツに黒のベスト、赤いスカーフを巻き膝下まである黒のスカートを履いていた。
そして二人の前に現れた少女は頬を膨らませながら言った。
「いきなり撃ってこないでよね!?」
「いや、あんたが最初に撃ってきたんでしょ」
「当ててないじゃない!」
「いや、避けてなきゃ思いっきり当たってたわよ!」
「私も避けたのに当たったんだけど?」
「ホーミング機能付いてるからよ」
「コラー!」
霊夢の一言に思わず突っ込みが入る。
だがそんなことより、目の前の少女に穂鷹は見覚えがあった。
「で、ここで何してるのさ、ルーミア?」
「あれ〜?先生だ!何でいるの?」
この妖怪少女───ルーミアは、慧音の寺子屋で教えている子供の一人である。真面目に授業を聞いてくれているのは嬉しいが、賢いかと言えば目を逸らす程度のちょっと残念な少女である。ノートの謎の落書きは未だに謎のままだ。
「知り合い?」
「ああ、寺子屋の教え子の一人だよ」
「はーん…子供かと思ってたら本当に子供だったって訳ね」
「なんか馬鹿にされてる気がする…」
気がするんじゃなくてその通りだと思うのだが、それが読み取れるほどこの妖怪の少女は賢くはない。
「で、貴女はこの霧の原因?」
「ううん、違〜う」
「そう。なら別に用はないわね」
そう言いつつも、軽く微笑み、その口から言葉を発した。
「で、そこどいてくれる?」
「イヤよ!こっちも当てなきゃ気が済まないわ!」
「理不尽ね」
霊夢に言われたら終わりである、声には出さないが。何はともかく、教え子がやられるのは教師として見たくはない。仕方が無いので、穂鷹は持ってきた小型冷却器から、終わったら食べようと作ったアイスを一本差し出す。この冷却器、元々は飲みものを冷やす為の物だが、使い方次第でこういうことも出来る。もちろん幻想郷にはない物なので穂鷹自身が作ったものだ。
「ルーミア、これあげるからそこ通してくれない?」
「ん?それ何?」
「アイスキャンディー、冷たくて美味しいよ?」
「くれるの!?」
「ああ。だけど、寺子屋のみんなには内緒な?」
「うん!」
案外素直に受け取り、口に入れた瞬間至福の表情を浮かべるルーミア。さっきの仕返しに意気込んでいたことなど完全に忘れているらしかった。余程気に入ったらしく、食べるのに夢中である。その姿を見ると、年相応の少女にしか見えない。
「はぁ…余計なお節介を焼くのは程々にしなさいよ?特に妖怪にはね。後で付け込まれるわよ?」
「はい、霊夢の分」
「むぐっ……」
霊夢が何やら言っているが、構わずその口にアイスキャンディーを突っ込み強制的に黙らせる。
心配してくれているのは分かるが、それは自己責任だ。俺の行いで俺がどうなろうが、俺自身は全く気にしない。ただの自業自得だ。だからそうならないように思考し、行動しているわけだが。
「それ食べたら今日は帰りなよ?」
「うん!分かった!」
「それじゃあな、ルーミア」
「バイバーイ先生!!」
「ちゃんと歯磨けよー!」
俺たちはルーミアと別れ先に進んだ。
「…貴方、随分と教師役が板についてきたじゃない」
「だろ?自分でも気に入ってる」
「でも、貴方やっぱり危ないわ。いつか死ぬわよ?」
「人はいつか死ぬもんだ。遅いか早いかと、その方法だけだよ、違いは」
「あっそ…」
それ以上、霊夢は何も言わなかったが明らかに何か怒ってるのは穂鷹にも分かった。その怒りの矛先が何なのかも分かっていた。だが、人間は早々、自分の生き方というものを変えられはしないのだ。
(それに、俺はまだまだ死ねないしな…)
穂鷹は無意識に自分の心臓に手を当て、その鼓動を確かめるかのようにそっとその上を撫でた。
その後、二人ともに黙って飛び続けること5分。俺たちは森を抜け、霧の湖へと辿り着いていた。と言っても霧の所為で湖かどうかすらも分かり難いのだが、恐らくそうだろう。
「見るからに怪しいわ、どうやらあそこが妖霧の発生源みたいね」
「そうみたいだな」
果たして原因はそれだけかはわからないが、紅い霧とは別の白い、一般的な霧が辺りに立ち込めていて距離感が掴み辛いが、霊夢はその奥に浮かぶ洋館の存在をはっきりと認識していた。
「……?」
「どうした?」
「うーん…な〜んか、変な感じがするのよね、あそこ…」
「そりゃあ…」
幻想郷は夜の色がさらに深まり、空はその色を闇へと近付けつつあった。その所為か、霧でぼぅ…っと滲む洋館に対し、霊夢は何か異様なものを感じていた。あるいは、洋館の
中にあるモノ、もしくは、『いるモノ』に。
「お化け屋敷っていう風情だし?」
「霊魂とかあんまり信じない達なの」
「その発言は巫女としていいのか?」
「良いんじゃない?私の仕事は結界維持と妖怪退治よ」
「巫女の仕事はどうした…」
「妖怪退治も巫女として大切な仕事よ」
言われてみれば、そういや妖怪退治以外特に巫女らしいことをしている姿を見たことがなかった。
「さて、考えていても何にもならないわ。取り合えず行ってみて、何か起こってから考えましょう」
「現場主義は結構なことだが、考え無しの突撃だけは勘弁してくれよ…?」
「思考と不安で何もしないよりかはマシよ。それに…」
そこで一度区切り、腕を上げてこちらを振り向く。
「この服装じゃ風邪引くわ」
「……まあ、その通りだわな」
夏に風邪とはこれ如何にと思うかもしれないが、目の前を白い結晶が、風を縫うようにしてチラついてゆく。
それはまさに『雪』だった。
何故か、夏場なのに関わらず湖には雪ぐ降っていた。真赤な風景に真っ白な雪。とても映える光景ではあるのだが、如何せんこの夏場の薄装だ。バカと風邪は何とやら。そんな言葉が実際に存在するので、夏なのに寒さで風邪ひくなんてプライド的に許さない。
しかし、寒いからと言って早く行くと、スピードを出したことにより、向かい風の冷たい風がより一層、冷たく感じてしまう。どちらにせよ寒くなるわけで。何というジレンマ。
「…霧を止めてもらうついでに、お茶でも出してくれないかしら」
声に若干危ない感じが混じり始めていた。そんな調子で霧の中を飛んで行く霊夢の後ろで、帰ったら新しく買ったお茶と和菓子でも作ってやろうと、穂鷹は心に決めた。
───また、この湖にはとある妖精が道に迷う仕掛けを施していたのであったのだが、何故だか彼女たちは道を誤る事なく島へと着く事になる。それはその妖精が『誰か』にちょっかいを出しており、その間は湖をどうこうしているような暇がなかった為なのであるが、彼女たちには余り関係の無い話である。
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こんな感じで良いんでしょうかね?
感覚がまだまだわかんない。
ちなみに次は魔理沙VS⑨です。
乞うご期待!!