この夏から一年、早苗さんの家にお世話になる。   作:ももいっぷ

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鈴奈庵

「これで最後か……」

「あはは、だいぶ捕まっちゃいましたね」

 

 もうとっくに昼を過ぎたころ、ようやく最後の店に辿り着いた。

 どうやら貸本屋らしい。

 古いがしっかりとした作りの木造の店は他の建物よりいくらか立派に見えて、看板には大きく『鈴奈庵』と彫ってある。

 

 本か。

 ……また荷物が重くなると思うと憂鬱になったが、仕方ない。

 

 

「ふふふ、ついにここまで来ましたね」

 

 

 さて中に入ってしまおうとしたその時、少女が目の前を遮るように立ち塞がる。

 えっへん、とでも言いたげに眉をきりっと動かして、真っ直ぐにこちらを見つめた。

 

 

「お兄さん、何を隠そうこのお店は鈴奈庵! 古くから里で親しまれている、由緒正しき貸本屋です!」

 

 

 隠さずとも思い切り書いてあるし、貸本屋に由緒も何もあるのか。

 と思ったが黙り、好きにさせておく。おもしろそうだし……。

 

 

「そして私の名前は本居小鈴! そう、ここ鈴奈庵の看板娘なんです!」

 

 

 ばーん! と漫画なら後ろに効果音が載ってそうな勢いで、さも驚いただろうというように告げる少女。

 

 本居小鈴って名前なのか。

 いやまあ、小鈴ちゃん、小鈴ちゃんと言われてたものだから名前も今更な感じだが。

 ……とりあえず、この子が店の子なら話は早そうだ。さっさとお使いを済ませて昼食にしてしまおう。

 

 

「えへへ、驚きましたか?」

「ああ驚いた。俺は坂柳有羽。適当に呼んでくれていい」

「坂柳さん! なんだか由緒の正しそうなお名前ですね!」

 

 

 少女……小鈴は嬉しそうに微笑むと、上機嫌で鈴奈庵の中へ入っていった。

 暖簾をくぐって後に続く。

 

 

「これは……」

 

 

 中には、決して広くはないが本屋らしくおびただしい数の本が綺麗に並んでいた。

 古本を主に扱っているのか、若干古い紙の埃っぽい匂いもするが、臭くはない。

 しかしそれとは別に、どこか懐かしいような、妙な匂いを感じた。

 

 

「……あれ、臭いですか?」

 

 

 何だったかと思い出そうとしてしばらく固まってしまったらしい。

 気付けば、小鈴が心配そうに顔を覗き込んでいた。

 俺は首を横に振る。 

 

 

「ああいや、臭くはないが妙な匂いがすると思ってな」

「……ひょっとして、妖気が分かるんですか? わー、さすが早苗さんの親族様」

 

 

 妖気?

 そんなものに縁を持ちたくはないが、なるほど、呪われた身体だ。そういうものも少しは分かったりするのだろう。

 この妙な感じは妖気のせいだということにして、本題に移る。

 

 

「この紙に書いてある通りのもの、頼めるか」

「お任せください!」

 

 

 待ってましたと言わんばかりにはりきって、本を探し始める。

 これだけ膨大な数だ。欲しいものが分かっているなら、店員に探してもらった方が早いだろう。

 とはいえ手持ち無沙汰なので、俺も適当に本を眺めることにした。

 

 どれどれ、どんなものが置いてあるんだ。

 古典の授業にあったような古い文字とかじゃないといいんだが。

 

 ……なんて思いながら、傍にあった本棚を適当に見繕って数冊の本を取り出す。

 なになに……。

 

 

 

『はらぺこゆゆこ』

『らんとちぇん』

『100万回死んだ妹紅』

 

 

 

「……」

 

 

 どれもこれも、どこかで見たことのある名前と内容だった。

 少し変わっている部分は、きっと幻想郷の住人に合うように変更されたものだろう。

 

 よく見れば、他も絵本から専門書らしきものまで、大多数が外で見たことのあるものばかりだ。

 それも、そういえばこんなものあったな……と懐かしいもの。

 こんなところで外の要素を感じられるとは……。

 と、妙にノスタルジックな気分に浸るのだった。

 

 

「――はい、これで全部揃いましたー!」

 

 

 しばらくそうして本を見ていると、小鈴が駆け寄ってくる。

 俺は本を棚に戻して、用意してもらった本の入った手提げ袋を受け取った。

 

 

「坂柳さんも本に興味があるんですか?」

 

 

 俺がずっと本を読んでいたことに気付いていたのか、小鈴が興味深そうに聞いてくる。

 

 

「いや、そんな好きじゃない。ただ少し気になってな。……これ、外の本だろ?」

「……なんだ、好きじゃないんですか」

 

 

 不満そうだ。

 書店の娘で仕事も嫌がらずにやっているみたいだし、小鈴は本が好きなのだろう。

 ちょっと悪いことをした気分になる。

 

 

「本に関しては、ほとんどそうです。色んな所から集めて、それを貸し出したり売ったりしてるんです」

「色んな所か……」

「あ、でも。ちゃんと幻想郷で書かれたものもあるんですよ! 例えば私のお友達が書いたやつとか」

「友達?」

 

 

 小鈴くらいの子の友達というと、まだまだ本を書いて出版するには早すぎる年齢だろう。

 自作の絵本とかだろうか。

 そんなものまで店に並べてるとは、微笑ましいと言えばいいのか何とやら。

 

 見ていくかと聞かれたが、特に興味もないので遠慮した。

 小鈴はまた不服そうな表情を見せたが、俺もいい加減腹が減っているのだ。

 

 やることは済んだしそろそろ出ていくことにする。

 ……と、その前に。

 

 

「これ、お礼な」

「わっ!」

 

 

 俺はポケットから、用意していた飴の小包を取り出し手渡す。

 小鈴はそれを見て、昨日と同じように目を輝かせた。

 

 

「な、なんですかこれ! 昨日と違う!」

「不思議な飴だ。舐めてると色が変わる」

「色が!?」

 

 

 これは外の世界から持ってきていた、色が変わる飴。

 最初は紫色だが舐めているうちに色が変わり、その色で運勢を占うとかそんな類のものだ。

 ちなみに大当たりは金箔入り。

 

 ただの子供騙しなお菓子だが、小鈴は興味津々だった。

 ……子供向けのお菓子をたくさん持ってくるといいですよ、なんて早苗さんの手紙の文面にあったんだよな。

 こういうことを見越しての事だったのだろうか。

 

 

「こ、こんなマジックアイテムもらってもいいんですか!」

「遠慮するな。

 ちなみに色が金になったら大吉、白なら中吉、青なら小吉で緑は最悪だ」

「そんな効果が!? 私、絶対大吉を引きます!」

 

 

 早速子袋を破く小鈴。

 しかし破り切ったところで、その動きが止まった。

 

 ……どうやら、最初から変わった色のものを引いたらしい。

 大当たり。もしくは大外れだ。

 

 

「あ、あの、坂柳さん……」

 

 

 震えた声で聞いてくる。

 

 

「なんだ」

「最初から緑だと、どういう意味なんですか……?」

 

 

 大外れだったらしい。

 さて、なんて答えるか。

 ……俺は少し悩んでから、深刻そうな表情で頭を抱え、わざとらしく演技をすることにした。

 

 

「そ、それは……超最悪だ……」

「超最悪!?」

「そうだ。最悪ってだけで酷いもんなのに超最悪だぞ。

 小鈴、将来ハゲるかもな……」

「ぎゃーーーーーーーーー!!!!!!」

「うわっ!?」

 

 

 ちょっと意地悪を言ったら物凄い絶叫があたりに木霊した。

 小鈴は物凄く形容し難い表情で、緑色の飴を睨みつけている。その両手はわなわなと震えていた。

 かわいそうなのでフォローしとこう。

 

 

「落ち着け! もういくつかあげただろ? 飴の効果は上書き可能だ!」

 

 

 そんなルールは説明に無い。

 

 

「坂柳さぁん……」

「な、なんだ」

「おいしいですぅ……」

 

 

 聞いちゃいなかった。

 小鈴は涙目になりながら、緑色の飴を舐めている。

 落ち込んだり喜んだり、忙しい子だ。

 

 

「飴さん、おいしく食べてあげますから私の髪の毛もってかないでくださいね……」

 

 

 言いながら、破った飴の小包を優しく撫でてあげる小鈴だった。

 そこまでされれば、飴も本望だろうな……。

 

 ……まあ、とりあえず。

 

 

「……じゃあ、俺行くから」

「はい……早苗さんに、よろしくお願いしますね! 髪の毛のこと……」

 

 

 よほど気にしてしまったらしい。

 深く反省する。

 

 ……明日はもっとおもしろいお菓子を持ってこようと気持ちを入れ替え、店を後にするのだった。

 

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