誠に感激です。
しかも、UAも4万件超えてるの、大変嬉しく思います。
感想・評価などもお待ちしております。
ところで、今回7000文字超えました……長くてすみません。
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第三文明圏 フィルアデス大陸
パーパルディア皇国 皇都エストシラント
イスラエル及びガランダ属領から北へ向かうこと、約500km。
フィルアデス大陸の南岸には、第三文明圏で最も繁栄していると自負する大国、パーパルディア皇国の首都・皇都エストシラントがある。
その皇都の一角に威容を誇るように聳え立つのは、皇国軍全軍を統率・指導する皇軍総司令部である。
だが現在、その重厚な建物で執り行われている緊急軍議は、参加者たちの怒号と罵声が飛び交う混迷を極めていた。
「彼らが苦境に陥っているというなら、今すぐにでも大規模な増援を送るべきだ! アルデ副司令官の対応は弱腰にも程があるぞ!」
「何度も言わせるな! もし彼らがあの国家の隷属国だというのなら、我々に勝ち目など最初から存在しないのだ!」
事の発端は、アルデ副司令官が受け取ったガランダ属領統治軍指揮官・ブラィク将軍からの窮迫した応援要請であった。
ただの反乱鎮圧への救援要請であれば、即座に増援部隊を派兵して終わる話である。
しかし、ブラィクが報告した敵の正体とそのバックボーンに重大な問題が存在していた。
ガランダ属領統治軍が交戦している『イスラエル』という国家は、あの大国・神聖ミリシアル帝国政府が列強第1位の座を譲るべきだと名指しした存在───『
「貴方方も見たでしょう、ミリシアル政府が次の世界会議を機に、かの国を列強第1位へと格上げするという外交文書を。……そこの職員、その写しを持ってきて全員の前で読み上げてくれ」
アルデが控えていた司令部職員に目を遣り、彼は急ぎ別室へと走り、書類を回収してきた。
それはパーパルディア皇国第1外務局にもたらされた外交文書を複写したものであった。
「……で、では、読み上げます。『神聖ミリシアル帝国政府は、中央暦1636年度先進国会議にて、ノーザン・コンドミニアムの常任参加枠入り及び列強への配属、序列1位への格上げを決定した。それに伴い、既存の序列が変更となり───』」
「───もういい、そこまでで十分だ。その続きは、我が国が列強第5位へと降格するという話だからな。
……だが、最大の問題はそこではない。あの『第1位』という面子にどこまでも固執していたミリシアルが、あっさりとその絶対的な立場を譲渡しているという現実だ」
アルデの指摘に、会議の参加者───とりわけ早急な増援派遣を主張していた将校達から、苦々しい唸り声が漏れ出た。
その重苦しい静寂を破るように、会議場の大扉が凄まじい勢いで開け放たれた。
「なんだ、騒々しいぞ───」
「───き、緊急通信です!ガランダ近海にて定期船団が謎の強襲を受け……直前に通報を発信してきた戦列フリゲート〈トアン6号〉からの魔信も完全に途絶しました!」
司令部付通信士が叫ぶように告げた報告に、室内の全員が凍りついた。
それはイスラエル空軍が仕掛けた精密空爆であった。
ガランダ島から北へ10kmの沖合を航行していた30門クラス戦列フリゲート5隻、およびビーチング式木造揚陸艦1隻で構成された定期便船団は、交戦再開直後に発見され、誘導爆弾の雨を浴びて一瞬のうちに海の藻屑と化していたのだった。
「まさか、本当にイスラエルが……!?」
「───あ、あり得ん!ブラィク将軍との魔信連絡からそれほど時間は経過していないのだぞ!このような短時間で船団を壊滅させるなど、不可能だ!」
皇国軍幹部たちは、自分たちがよく知る上位列強───神聖ミリシアル帝国やムー連邦ですら不可能な超高速の攻撃を、突如現れた無名国家が成し遂げたという常識外れの現実を受け入れられず、口々に否定し非難した。
だがその時、大きな足音を響かせて飛び込んできたもう一人の通信士が、顔を蒼白にしてさらなる悲報を告げる。
「今度は何ごとだ……!?」
「───海軍第3艦隊より緊急連絡!大陸南洋を哨戒中であった第11戦隊が南へと進路変更を行った直後、正体不明の襲撃に遭遇!
構成艦11隻のうち6隻が沈没、3隻が大破し、現在辛うじて帰還途上とのことです!
乗員の証言によれば、敵は魔力探知レーダーに一切反応せず、天の浮舟*1に酷似した形状の飛行物体であったと……!」
次々と叩きつけられる壊滅的な報告に、幹部たちはもはや言葉を失い、静まり返るしかなかった。
「……アスカロン提督は何と言っているのだ?」
「はっ……『直ちに艦隊を挙げて反撃を行わせろ』と、強く主張されております……」
ガランダ属領に留まらず、現在進行形で皇国本国の正規軍にまで多大な被害が出ている。
アルデは深いため息をつき、頭を抱え込んだ。
「副司令官。もしこれが真にイスラエルの仕業だとして、彼らの真の意図は何だと思うか?」
これまで沈黙を保ち、静かに軍議の推移を見守っていたグラーク総司令官が、重い口を開いた。
「第3艦隊の戦列艦が狙われた理由は単純でしょう。ガランダ属領統治軍にも同型の戦列艦が配備されています。敵は同じ特徴を持つ我が国の戦力を排除しに来たと考えるのが妥当です。彼らにとっては、既に我が国と全面戦争状態にあるという認識なのでしょう。
……ですが解せないのは、もしイスラエルがノーザン・コンドミニアムの傘下であるならば、なぜ支配国である彼らが何ら外交的・軍事的反応を示していないのか、ということです」
根本的な解決策が見出せない以上、グラークの表情も険しく歪むばかりであった。
「ならば、やはり今すぐイスラエルを叩き潰すべきです! 敵の根絶こそが唯一の解決策だ!」
「そんな簡単に言うな!彼らは我が国の誇る戦列艦隊をあっけなくねじ伏せる実力を持っているのだぞ! 軽々しく片付けられる相手ではない!」
怒号と不審が渦巻く会議は、途中に短い休憩を挟みつつ、4時間以上も不毛に続いた。
結局、イスラエルに対してどのような態度を取るべきかの結論は出ず、当面の処置として「海軍艦隊の遠洋航海および単独行動を全面禁止する」という消極的な防衛措置を決議するに留まったのである。
_1635年6月13日A.M.10時25分_
イスラエル連邦管理国 首都テルアビブ・ヤフォ
首相府 執務室
静寂を破り、事前連絡も無しに首相府の扉を開けて踏み込んでくる一団があった。
一寸の隙も見せることなくダークスーツに身を包んだ彼らの胸元には、『
集団の代表者は迷いのない足取りで執務室の奥へと進み、机に向かう男へ平然と言い放った。
「アーロン首相。至急、お話しすべきことがございます」
「……連合代表部か」
『連合代表部』───その正式名称は「連合政策調整・監理代表部」。
国務省から派遣された大使が一般的な外交交渉を行う大使館とは異なり、こちらは連合政府直属の強力な監察機関として、特定の問題やトラブルを引き起こした加盟国へ直接的な指導・監督を行う組織であった。
彼らは駐イスラエル連合代表部に所属していた。
本来であれば欧州や極東といった地域ごとに管轄が分かれるものだが、連合政府の「直接管理下」に置かれた国家群はその例外とされていた。
もっとも、イスラエル政府が北方連合国家の庇護下に入って以来、実際に連合代表部から直接的な介入や指導を受けたことは一度もなかった。
しかし今回の事態は違っており、事前の襲撃被害から現地での大規模侵攻作戦の実施に至るまで、UNAUの大使館への報告が一切なされていなかった。
この事態を不審に思った大使が、即座に連合代表部へ通報を行ったのである。
「我々が独断で軍事行動を起こしたことに対する『お咎め』かね? ……だが、奴らの奇襲によって我が国民に犠牲が出たという正当な理由がある……!」
「ええ、状況は理解しております。無念の死を遂げられた方々へ哀悼の意を表します……が───」
「───理解しているというなら……、作戦の指揮に口を挟まないでもらいたいのだが」
アーロン首相は苦々しい表情を隠そうともせず、目の前に立つ代表調整官を睨みつけた。
首相府に届いていた最新の戦況データを端末へ転送すると、代表調整官は受け取ったタブレット端末に手際よく目を通していく。
「現在の交戦推移はどこまで……講和への進展は?」
「……残念ながら、記録にある城塞攻略戦の後、敵軍は不当にも降伏を偽装し、本国へ大規模な増援を要請した。作戦目標が不明である以上、我が軍は島全域の完全掃討戦へと移行した」
講和の目途は立っていない事を、アーロンは不機嫌な表情を浮かべながら淡々と話す。
「増援の要請、ですか……。敵本土に関する詳細な情報は入手できていますか?」
「全く無いな、現場から届いた情報によれば、敵が『皇国』と自称していた事だけだ。情報が少ない以上、我々から案を出すのは難しい」
アーロンはいたずらに長引かせられた戦争の不透明さに、苛立ちを隠せない様子で吐き捨てた。
代表調整官は必要なデータの吸い上げを終えると、タブレットを収めてアーロンへ視線を戻した。
「ただちに連合政府へこの情報を転送します。今後の対応方針および指示については、追って速やかに連絡いたします」
「……分かった。朗報を期待しよう」
_1635年6月13日P.M.1時28分_
北方連合国家
ネバダ州 ネリス空軍基地
北方連合国家空軍による大規模演習『ショートファイト』の見学を無事に終え、次の目的地へ移動する手筈であった神聖ミリシアル帝国使節団。
しかし彼らは突如として、基地内の厳重な警備が敷かれた大型会議室へと集められていた。
使節団代表のフィアームは、長テーブルに並んで腰掛けながら、不安を隠せない様子で基地司令へ恐る恐る尋ねた。
基地司令は隠す必要もないと判断し、静かに言葉を返した。
「は……実は先ほど、大統領閣下より『使節団の皆様を直ちに一箇所へ集めるように』と緊急指示がございまして……。
詳細な内容につきましては私共も聞いておらず、大統領ご自身から直接説明されるとのことです。
……おや、到着されたようですね」
会議室の窓から外を見遣ると、巨大な滑走路に連合大統領専用機〈エアフォースワン〉が滑り込むように着陸するところであった。
タラップが降りると、アルフォード大統領はスクワイア国務長官をはじめとした複数の職員を従えて、急ぎ足で機体から降り立ってきた。
数分後には会議室の扉が開き、室内に入ってきたアルフォードは、フィアームたちへ一礼して謝罪の言葉を述べつつ、迅速に説明の準備を指示した。
「お待たせして申し訳ない。
単刀直入に申し上げます……我が国の加盟国であるイスラエルと、ある未知の異世界国家との間で軍事衝突が発生いたしました。
しかしながら、我々を含め相手国の情報が完全に欠落しております。事態の収拾のため、ぜひともあなた方のお力添えをいただきたい……」
「な、なんですと……!? しかし、一体なぜそのような軍事衝突が起きたのですか?」
フィアームの隣に座っていたアルパナが意表を突かれたように声を上げ、
激突したというお相手の国家が被ったであろう被害の大きさを想像して青ざめた。
「ええ、イスラエル政府の報告によれば、突如ワイバーン部隊および騎兵戦力による奇襲を受け、自衛のための交戦に発展したとのことです。……ところで皆様、この地域に心当たりはおありでしょうか?」
アルフォードは簡単な経緯を説明すると、手元の操作でホログラムモニターを展開し、イスラエルの領域に隣接する大きな島を指し示した。
「……ここは、第三文明圏……! あの形状の島は……覚えがある、確か───」
「───パーパルディア皇国、だね。第三文明圏の序列第4位に位置する列強国だよ」
会議室に到着してから思索に耽り、ずっと無言を保っていたメテオスが、ここで初めて口を開いた。
最悪の予想が的中してしまったことに、アルフォードは大統領としてわずかに眉を顰めた。
「───ええ。となれば、あの島は皇国の属領であるガランダです。パーパルディア皇国は属領に対して極めて苛烈な支配を行っています。
ガランダでは近年、反乱が頻発していましたから……その、イスラエルという国は、極めて運悪くその紛争に巻き込まれてしまったのでしょう」
「……なるほど……」
使節団の一員にいるベルーノは、目の前に浮かび上がるホログラムの地図に目を通し、『イスラエル』という国に興味を示す。
この異常な事態にあっても尚、気にならざるを得ず、アルフォードへと視線を向けた。
「大統領、少し気になったのですが質問よろしいでしょうか。 その『イスラエル』とは、どのような特性を持つ国家なのですか?」
「そうですね……一言で表現するならば、国土面積に全くそぐわない超高密度の重武装国家、といったところでしょうか」
超大国である北方連合国家の大統領をして「重武装国家」と言わしめるその底知れぬ実力を想像し、フィアームたちは思わず息を呑んだ。
「重武装国家、ですか……」
「ええ。経済規模こそ大きくはありませんが、かつて周辺の二大地域大国を同時に相手取った戦争において、相手の圧倒的な地上戦力を完膚なきまでに粉砕したという凄まじい戦果を持っています。
いわば『狂犬』とも言える存在であり、本来であれば連合政府が直接管理下に置いてその手綱を固く握っていたのですが……現状、彼らは一時的に抑止から外れ、自由行動が可能な状態にあります。
交戦開始からわずか4日程度で、既にガランダ島の半分を占領下に置こうとしています」
「あまりにも速すぎる……!?」
アルパナはイスラエル軍の規格外と思える進撃スピードを聞き、驚愕のあまり声を裏返らせた。
「ゆえに、一度『敵』と認識した相手に対しては、相手が完全に屈服して降伏するまで容赦なく攻撃を止めないでしょう。
現在得られている情報と照らし合わせても、既にイスラエル軍は皇国の『本国戦力』にまで直接打撃を加え始めている可能性が高い……。
このままでは、パーパルディア皇国という国が瓦解しかねない。私はそう判断しています」
「それは……第三文明圏全体の国際秩序を根本から壊しかねない問題です……!」
フィアームの懸念の言葉に、使節団の面々も深く同意するように頷き合った。
「ですから、神聖ミリシアル帝国政府の皆様に、我が国とパーパルディア皇国との間に入っていただき、仲介をお願いしたいのです」
アルフォード大統領は深く頭を下げた。
たとえ超大国の頂点に立ち、相互確証破壊を前提とした戦略核抑止を容認する立場であっても、
行き違いや不幸な事故から始まった衝突によって、相手国を一方的に亡国へ追い込むような惨劇を容認することは、
彼の政治倫理として絶対に許容できなかった。
戦争を止めたいという彼の言葉は、偽りのない本心であった。
「わ、分かりました! 直ちに本国政府へ連絡を取り、対応を協議いたします!」
「───フィアーム、これを使うといい。私が携行していた魔帝製の魔導通信機だ。
これならば、どれほど離れていても本国と直接通信を繋ぐことができるはず」
メテオスが提示したのは、製造が極めて困難な大変貴重な魔導通信機であった。
音声の送受信機能に特化しているとはいえ、超遠距離通信の魔力を安定させるための大型増幅器が備わっており、
電話機4台分以上の重厚なサイズ感があった。
「───リアージュ統括官、聞こえますでしょうか?」
フィアームが通信の相手として選んだのは、外務省統括官であるリアージュ・ベネットであった。
列強諸国をはじめとする帝国の過密な外交を一手に担う最高幹部であり、緊急事態において最善の選択と言えた。
『……よく聞こえてるぞ、フィアーム。確かメテオス殿が携行していた貴重な通信機だな? それを使用するということは、相応の緊急事態が発生したのだな?』
「ええ……パーパルディア皇国が、北方連合国家の傘下にある『イスラエル』という国家と大規模な軍事衝突を引き起こしました」
『何だと……!? ……いや、事情は理解した。直ちに駐皇国大使のロベルトへ連絡を回そう』
軍事衝突の報告を受け、最初は激しい動揺を見せたリアージュだったが、
百戦錬磨の外交官らしく即座に事態の深刻さと仲介の必要性を理解し、迅速にてきぱきと手配を始め出した。
さらにフィアームは、皇都にある帝国大使館へと北方連合国家の外交職員を確実に届ける手順について、リアージュと密に協議を重ねた。
『───では、詳細を含めてロベルト大使へ至急伝えておく。フィアーム外交官は引き続きそちらでの任務を頼む、では……』
魔導通信が切れると、フィアームはアルフォード大統領及びスクワイア国務長官と膝を突き合わせ、
北方連合国家側が執るべき外交手順の細部を一つ一つ詰めていった。
地図の上に皇都エストシラントにあるミリシアル大使館の位置を明記していくなど、
使節団にとってこの数時間は、渡洋以来最も多忙で緊迫した時間となった。
「───あとは、パーパルディア皇国側がこちらの期待通り賢明な返答をしてくれるかどうか、だな。……使節団の尽力に感謝する」
アルフォードの言葉通り、必要な全ての手配を終えた以上、吉報を待つ他無いのであった。
……やっぱり超遠距離通信の所はちょっと無理筋であったかなぁと思ってますが、お許しを……