何であれ最終的には主人公もその周りも笑顔であるのが普通で、俺はそんな光景が大好きだった
けれど、そうでないものも確かにあった
報われない、救われない存在が確かにそこにいた
そんな結末を、俺は許せなかった
もし叶うなら、その結末を書き換えたい、どうか温まるようなハッピーエンドを送りたい
これはたった一つの願いのために剣を振るう一人の男の物語
突然だが、俺『松原空』はハッピーエンドというものが大好きである。
どんなに辛い現実があろうと前に進む物語の中の人物たちが笑える世界を見るのが好きだ、それで救われた誰かがいるとなお良い。笑えなかった誰かが笑えるようになっているなら完璧だ、素直に賞賛するしきっと涙だって流してると思う。
が、それで逆の結末を迎える存在がいることも確かに知っている。
誰かのために非道にならないといけない存在がいて、あらゆる手を使ってでもその悲願を叶えようと何もかもを背負って前へ進む存在がいることも俺は知っている。
そしてそんな人間ほどに、何もできずに主人公たちに蹂躙される。
正に必要な犠牲者である彼らには笑えるハッピーエンドなど訪れない。彼らに残るのは背負った罪悪だけなのだから。
そしてそれに当てはまる一つを俺は知ってしまった。
ソードアート・オンラインというアニメの劇場版、オーディナル・スケールに登場する後沢鋭二という青年である。
利用されるだけされて、叶えようとした望んだ未来すら踏みにじられた彼を見てから物語の結末の余韻よりもただただ悲しさだけがあった。
彼がやったことは確かに許されない。誰かの記憶を奪い、挙句私怨で誰かを傷つけて。普通に考えればあの結末は向かうべき末路だったのかもしれない。
けれどあまりにも悲しいではないか、ただ一人の笑顔を取り戻そうとした彼の末路が利用されるだけなんてあまりにも不憫ではないか。
彼にハッピーエンドはないのか? 彼が報われる未来はないのか? それだけが映画の後に残ったものだったのを今でも覚えている。
そして同時に彼とは違う悲しさを覚えた人物もいる。
重村悠那、何人もの命を自分の命と引き換えに救った筈なのに今回の事件の引き金となってしまった存在。
彼女自身はそんなこと望んではいなかったのに絶望を助長させ何人も傷つける原因となった少女。
そう、この映画はこの二人の犠牲で成り立っている。
俺はそれがえらく気に入らなかった。
それが今、俺という存在が最後に思う事だった。
最早息を上げることすら難しい、目を開けていることすら辛い。
「空! 聞こえる!? 意識を保って! あと少し、あと少しだからッ!」
誰かの声が聞こえる、切羽詰まったその声音に何も返事ができない。もう返事するほどの余力は今の俺にはなかった。
何が、あったんだっけ。よく覚えていない、なにかこう、自分らしからぬ何かを……そうそう、確か誰かを助けてそのまま車に、だったかな。なるほど、それならこうなってるのも必然か、むしろ今生きているのは幸運なのかもしれないな、なんて保つことすら難しくなって来た意識の中楽観的に思う。
ああ、俺の命もここまでか。叶うなら彼が救われる何かを見てみたかった。彼が笑えるハッピーエンドを拝んでみたかった。それだけが心残りでしかない。
ゆっくりと閉じていく。瞼を、意識を、自らの生を。
これで終わりか、なんかあっけないな。
選択
貴方が望むハッピーエンドを作る勇気はありますか
YES NO
ああ、できるのなら。
俺は彼が、そして彼女が笑えるハッピーエンドを作りたい。
閉ざす意識の中、最後の問いかけに俺は手を伸ばした。
意識があった。
己の生を実感できた。体が何かに触れる感覚や目を開ければ途端に見たことがない岩壁や光の道などの大量の情報量が視界に入ってくる。更に言えば後ろ腰に何やら重量感を感じ持ってみれば鞘に入った剣だったこの状況に最初に持ったのは違和感だった。
「え、なんで生きてるの? 俺」
鞘から剣を引き抜いてみればマジで本物っぽい現状、混乱した。
俺死んだんだよな? だってさっきまで体微塵も動かなかったし、息をすることすら難しい状況だったんだぞ? なんで生きてるの俺。
ピコン。
「え、何」
混乱している俺に何かの通知音が聞こえたので目の前を見るとメッセージウィンドウが二つ表示されていた。内容は一つはどこかを示すマップ、もう一つはエクストラスキル《焔の剣》……エクストラスキル? というか待て現代にこんなメッセージウィンドウが出るわけがないだろちょっと待ってくれ。
「うっそだろおい」
まさかとは思うが、念のため右手をすっと下に下ろす。
瞬間、それに沿うようにして現れるメニューウィンドウを見て俺はやっと現実味を持った。信じられないがこれは今ありのまま起こっていることなのだと実感した。
「ここは、アインクラッドなのか」
茅場晶彦が作り出したソードアートオンラインというゲームの世界の空に浮かぶ鉄の城にしてVRMMOなる次世代のゲーム。フルダイブ技術によって頭から指先まで完全にプレイヤーが操作し、剣を片手に100層のボスを倒すことを強要されたデスゲームの中に、俺は存在している。
何故だ? 少なくとも俺が生きていた時代にはまだこんな技術ないんだぞ、ましてこれはライトノベルであって現実じゃないんだぞその境界線すら俺は超えてしまったのか?
「……超えちゃったのかあ」
信じたくはないが実際目の前のウィンドウが現実を突きつけてくる。
まあ来てしまったのはしょうがない、何はともあれ俺も囚われになってしまった以上は何かしないと……待てよ。
「今、何日だ?」
出しっ放しのウィンドウですぐに確認する。
そこに表示されたのは2023年10月15日だった。
「ッ!!!」
迷っている時間はなかった。
エクストラスキルの内容を瞬時に確認しメニューウィンドウと共に消し走り出した。
もしこれが俺が望んだ結末にしたいという俺の欲望ならばきっとこのマップが示すそれは彼女に他ならない。もし仮にそうだとしたら今もなおマップの中を動き回っている事からまだ生きている筈、なら行かない理由はない、手を伸ばさない理由はない。
どうやらこの世界における俺のレベルは最前線のレベルに匹敵しているようで初期ではあり得ないだろうステータスで持てる力を全てつぎ込んで全速力でで目的地に向け駆け抜ける。
「間に合ってくれ、頼むからッ!!!」
彼女が脚を止めた瞬間ゲームオーバー、未来は変わらない。
そんなの俺は許さない、絶対に変えてやる、あんな事件起こさせてたまるものか、何が何でも間に合わせてやる。
あと少し、あと少しで。
「見つけた!」
視線の先に数人の人間を発見。そしてその奥にある部屋の中で何かを囲うように武器を構えるモンスターも見えた。
マップは奥の部屋を境に止まっている、ギリギリ間に合ったんだ!
後ろ腰に携えている剣を引き抜いて加速、頼むぞエクストラスキルとかいうなんか説明文が僕が考えた最強系の奴、この状況を打破してくれよ!
「目を瞑って!」
叫んだあと剣に手を添えて深呼吸一つ、剣がエフェクトの光を灯すのと同時に俺が剣を払うように振った途端剣は形状を変えた。片手用直剣が長剣ほどの刃渡りを持ち炎を纏った剣へと変化した。
「せい!」
モンスターを切断する。
ポリゴンすら残さず敵を焼き尽くす破壊の炎の剣を二度、三度と振り回す。圧倒的な刃渡りは次々とモンスターを巻き込むように切断し消し炭にしていく。
「これで、ラスト!」
最後の敵を斬りとばす。
HP関係なく断末魔すら吐く事を許されず炎で焼きつくされたモンスターが完全消滅したのを確認。
「やった、んだよな」
突如襲ってくる安堵感をよそに周りを確認、モンスターは全滅しているし、斬る相手がいなくなったからかグロリア・フレアなんて大層な名前の剣も元どおりの片手用直剣に戻ってるし、ひとまずは安心、だよな?
肝心の彼女は……気絶してる、まあ仕方ないな、そんでエイジ……さんは、わーおそんな顔でこっち見ないでくれよなんか照れるや。
「もう彼女を離さないでくださいね。あ、あとさっき目を開けてたならあれは秘密って事で。それじゃ」
それだけ言い残して全力疾走で俺はその場から遠ざかって行く。
これでいい、俺はきっと関わるべきじゃないのだから。
「なんかこれだと俺嵐みたいだな」
そんな呑気な事を考えながらただひたすらに走った。