勢いで書いたのでたぶん続かないですが暇潰しにどうぞ$$$
さて、まずは自己紹介をしよう。
それが俺の名前である。
極々平凡な一般家庭に生まれ、極々平凡な生活を送り、生まれは遠く九州。小中学校は都内某所。高校も割りと勉強を頑張って頭のいい場所へ通っていた。
そんな平凡な、世界にありふれた16歳。
趣味はボードゲーム。fpsゲーム。小説収集。
趣味と言えるか分からないが、ちょっと特殊なのが老人会のボランティアに参加する等。そんな面白味のない凡庸を絵に描いたよう
だが、そんな平凡を揺るがす事態が起こった。
その日、俺の平凡に影が射す。
日常が
◇◆◇◆◇
「いやぁ、しっかし影ちゃんももう高校生だなんて。時間の流れは早いねぇ」
「そうですかね?」
老人たちの聞きあきたような常套句に、苦笑いを滲ませた返答をする。
丁度暖かくなる季節。
桜が舞い、草木も活気を取り戻す時期だ。
行われているのは街の小さな集会場周りの草むしり。
この道数十年の老兵たちは手慣れた所作で草を抜いていく。それに倣うように、動くにつれて降りてくる長袖の袖を捲り、作業を続ける。
私服じゃなくて、学校のジャージでくるんだったなぁ。
「そうさねえ。ちょっと前まで小学生だったのに」
「おいおい山田さんよ。ワシらからすりゃあそんな事より、反抗期が未だに来てねえ事の方が不安だよ」
「あぁ。そうだとも。もちっと
「こら武内さん。滅多なこと言うもんじゃねえ。影ちゃんならその気になりゃあいつでも女を引っ掛けられるさ。なんたってこんな甘い顔してんだから」
「ウメさん、それは贔屓目もいいとこじゃねえか?確かに悪くねえ顔だが、中の中の上ってのがいいとこじゃねえか?」
「まーまー。いいじゃねえか、反抗期がねえお陰で俺たちだって色々助かってんだ。草むしりからゲームの相手、武内さんだって『昔極めたマジックを腐らせたくねえ』ってんで手解きしてやってんだろ?あんた教えたがりだかんねぇ」
「うっせい!そういうあんたンとこだってな……」
じい様ばあ様たちが俺の事についてあーでもないこーでもないと、手より口を早く動かす。
いつものことながら、元気なことだ。
元気なのはいいんだが、あんまり俺の欠点ばっか並べ立てないで欲しいんですけど。泣くぞ。
その日のボランティアの手伝いはいつもより早く終わった。
草むしりを終え、集会場で何度かボードゲームで遊んだ。
山田さんにチェスでボロボロにされて、VS老人会との対決が五桁に入りつつある。
五桁。ほぼ全て、敗北の数字だ。
悔しさと涙を迸らせながらトボトボと家路に着いた。
「……オデノカラダハボドボドダ……。いや、正確に数えた訳じゃないけど。1日最低2回はやってるから絶対9000回は負けてんだよなぁ」
「あーあ、いつになったらじじばばに勝てるんだか」と愚痴る俺の右手には、通常より少し大きなチェス盤。
山田さんに家での練習も捗るようにと、新しいチェス盤をこさえて貰ったのだ。
木製であるそれは遠目から見れば将棋盤のようでもあった。わざわざ手作りで仕立ててくれたらしい。チェスや将棋では容赦のないじいさんだが、こういう所は好感がもてる。世話好きなところにいつも助けられてばかりだ。
……まぁ、賭け金とか言って中学生(現高校生)の財布をブン取るようなじいさんだけど。
しかもそれを『お年玉』と言って、したり顔でプレゼントしてくる辺りはすげー腹立つけど。
「っおぅ!?……うおっとと……うおっ!」
今日の手駒の流れを反復しながら歩いていると、足元に落ちていた手鏡に視線が行った。
うっかり踏み潰しそうになるも、千鳥足でどうにか避ける。
「あ"っ、でぇ……」
が、バランスを崩して地面に尻を打ち付けてしまった。
チェス盤だけでも守ろうと手を地面に付かなかった結果、尾てい骨が「ぎゃああああ!!」と張り裂けんばかりの絶叫を上げる。
無事なチェス盤への安心と痛み、落ちてる手鏡に怒り少し。
尻を擦りながら立ち上がり、拾った手鏡を眺める。
裏面のデザインも凝りつつ、一切の汚れのない、どこか高そうな代物だった。
誰のだよとブツクサ溢しながら辺りを見渡すと、ふと100メートル程前を歩く長髪の女子が目に入った。
それも俺と同じ学校の制服である。
そこで気がついた。ははーん、さてはあの子の落とし物か。
「あのー!きみー!制服のきみー!」
手鏡を手に走って追いかける。
その少女が振り向いた瞬間、息が止まった気がした。
漆黒の艶やかな髪。腰に届きそうな程長いそれを風になびかせる。まるで日本人形を思わせる美しさ。
グラマラス。服の上からでも伺える肉感的で豊満な胸部と臀部。モデルのようにバランスのとれた頭身。
ピンクのぷっくりとした唇に筋の通った鼻、切れ長で整った大きな瞳は夕日のせいか紅く染まっているように幻視した。
有り体に言って。正直に言って。率直に言って。月並みなことを言って。
その少女は、美しかった。
どんな飾った言葉で褒め称えてもソレが邪魔になってしまうほどに。ある種の理想型とでもいうべきか。
「なんでしょう?」
首をかしげニコリと淡く微笑んだ彼女に、見惚れて口からトリップしかけた魂が戻ってくる。
「…………あ、あーうん。えっとこれ、君の落とし物かな?」
「わぁ!これ私の手鏡ですっ。拾ってくれたんですね、ありがとうございます!」
百合の花のように笑顔を咲かせた少女は、手を叩いて喜んでくれた。
ぐあぁあ!その笑顔は卑怯だ。
じいさんばあさん、盆栽ズたちに囲まれていた俺には次元が離れ過ぎているっ!
これは目に毒だああ!!劇物だああ!!
我ながら失礼な思考であった。
よし、早く帰ろう。
チキンと呼ばれようが構わない。早く心の安寧を取り戻したかった俺は、足早にその場を去ろうと来た道へ踏み出した。
悪!即!散!
いや別に悪じゃないけど。語呂がいいから。
そんな抜けたことを考えながらソロリと抜き足差し足を忍ばせた。が、腕を掴まれることであえなく逮捕されてしまう。
「待ってください。せめてお礼くらいさせて下さい」
振り向いたそこには圧倒的美少女。
あぁ~いい香り~↑と脳が溶ける前に、離れる算段を考える。
いや確かにお近づきにはなりたいが、別に同じ学校なんだろうし、ここで焦る必要もない。チキン上等だ。
「そ、そういう訳で、さいなら!」
「どういう訳ですか。まぁまぁいいじゃないですか。ジュースくらい奢らせて下さいよ」
「いやいや、そんな滅相もない。俺は帰るよ」
「いえいえ。お気になさらないで下さい」
「いやいやいや」
「いえいえいえ」
「いやいやいやいや」
「いえいえいえいえ」
「………………」
「………………」
見つめ合う、僅かな間。
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」
「いえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえいえ」
◇◆◇◆◇
やり取りの中で、死にかけた思考回路に浮かび上がったのはサンシャイン池崎だった。
終盤は「いえいえいえいえええええええ」って言ってた。ボランティアと山田さんにチェスでボコられた脳ミソは余程追い詰められているらしい。
「どうぞ、午後の紅茶です」
「意外と庶民的なんだな」
見た目がお嬢様っぽいというか、容姿が浮世離れしているせいで、どうもその午後ティーを右手に立つ姿はシュールだった。いや、こんだけ画になる美人だとCMに抜擢されれば売れそうではあるけど。
「お名前、教えて頂いても?」
ベンチの隣に腰掛ければ、フワリと薔薇のような香りが鼻腔をくすぐった。
「……あぁ、俺は朝土影逸」
「
「蛇喰さんね。よろしく……なんでわかったんだ?」
学年が同じだって。
俺は今私服だ。
どこの学校どころか、学年まで特定するだなんて……。とそこまで考えて得心がいった。
あ、なるほど。靴か。
「その靴。我が校の運動用のシューズですよね。色合いも丁度私と同じ一年生。クラスは違うようですが学年が一緒ならより仲良く出来そうですね!」
観察力のある子だなぁと純粋にそう思った。
きっと見た目通り地頭のいい子なんだろう。
こんな美人な子が彼女だったら、さぞ世界は花に囲まれたように見えるんだろうなぁ。
付き合ってくれないかな……無理か。無理だな。高嶺の花もいいところだ。
「ところで、ずぅーっと気になっていたんですが……」
と、しなやかな指で俺の抱えていた木製のボードを指差した。
「それ、チェス盤ですよね。好きなんですか?」
どこかワクワクしたような、ウキウキしたような子供らしい声色で蛇喰さんは俺に詰め寄った。
前屈みになる姿。自然と胸に目線が行ってしまいドキリとさせられる。
だが、なんだろう。
「よければ、私と一戦ヤりませんか?」
…………なんか、寒気が。
◇◆◇◆◇
「影ちゃん。もう山田さんに文句言うのはおやめよ。この人、昔の栄光掘り返しても喜ぶだけだから」
「だっはっはっは!人知れず影ちゃん最強計画大成功だな!」
行き場のない悲痛な感情と共に頭を抱えた俺は、溢れだす文句を叫び散らす。
山田さんが……。チェスの山田さんが……!
「世界6連チャンピオンとか聞いてないんですけど!?」
俺の悲嘆の声など知らぬ存ぜぬとばかり、ガハハハとブイサインを掲げ高らかに笑っている。
何がビクトリーだよ……こっちからしたら笑い事じゃないんですけどねぇ。
「いいじゃねえか影ちゃん!影ちゃんは腕前はまだまだだが、多分他国にでも行かねえ限り負けはねえぞ!影ちゃん無双だ!大会でもなんでも優勝して小銭稼いでこいや!」
俺の抗議も空しく、山田さんは他の老人たちとのゲートボールに混じるため、サンダルを履いて意気揚々と外へ行ってしまった。
「いや違うの!……そうじゃないの!そうじゃ……あぁもうっ」
頭を抱えて畳の上でうちひしがれる俺に、ウメさんが朗かな声を出した。
「まぁまぁ影ちゃん。何を落ち込んでるのか分からないけど元気おだしよ」
「…………」
……ウメさん。
ウメさん。まさかとは。まさかとは思うけど。
いや、老人会以外の人とやったことないから分からないよ?だから断定する訳じゃない。
でもまさかとは思うんだけれども……。
花札、百人一首、トランプetc……。
ウメさんてカードゲーム。誰よりも得意……だったよね?
まさかってことは……ないよね?
バイブレーションもかくや。
謎の震えに全身を焦がして畳の上で人間紙相撲をしていると、ウメさんが四つん這いの背中を叩いた。
「おや影ちゃん。お迎えが来たみたいだよ」
「……えっ」
ギギギとブリキのように固まった体を動かして首を上げた。
その先。窓の向こう。先日刈ったばかりの芝の先に、日本人形のような美しい少女がいた。
こちらへ、手を振っている。
「さっすが影ちゃんねぇ。高校生成り立てであんな美人ながーるふれんど早速掴まえるだなんて。すみに置けないよ」
「…………」
立ち上がった俺は玄関で靴を手に取った。
窓の向こうからこちらへ歩いてくる少女を見て、黄昏たようにフッと笑う。
そして走った。
畳を蹴り、真反対の窓枠へ飛び乗って靴を履き、全力で集会場の裏手から走り出した。
縺れそうになる足を必死で動かし、手を大きく振って速度を上げる。
血の気の引く顔は、かいた汗と合わさって暑くもあり冷たくもあった。
恐怖。胸を支配するのは純然たる恐怖である。
走りに走って、帰路途中の公園へ駆け込む。
シェルターのような石材の遊具に潜り込み、切らした息を整える。
冷や汗は止まらない。だがそれでも、高まった動悸は徐々に静まる。
手が震えた。
こんなことになるなんて思ってなかったんだ。俺は甘く見ていた。
いや、甘く見ていたって仕方がない。初対面の女の子の本性なんて誰だって一瞬で見抜けるものではないのだから。
でも、だからって……あんなことを言うんじゃなかった。
『このご時世、あんまりボードゲームやる若者っていなくてさ。同世代の人がチェスの相手をしてくれるって初めてかも』
『そうなんですか?あ、せっかく勝負するのですから、何か賭けた方がモチベーションあがりますよね』
『賭け?んー。まぁいいけど。賭けねぇ』
『それじゃあ私からは、私が勝ったら他のゲームも付き合って下さい。一日2戦くらい』
『え、毎日?』
『毎日です』
『でも、毎日だと付き合ってるとか思われかねないんじゃない?学校同じなんだし。蛇喰さんに悪いよ』
『そうですか?私は事実無根な噂であればいくら流れようと気にしませんが』
『じゃ俺が勝ったら付き合ってみる?…………なんつって。まぁ俺あんまり人に勝ったことないけど。取り合えずお遊び程度にやってみようか』
『では、賭けは成立ということで』
『はいはい。それじゃ、一局よろしくお願いいたしますと』
冗談だったんだよ?
本気だった訳じゃない。当たり前だ。誰がゲームで負けただけでその日会ったばかりの男と付き合うだなんて考えるよ!?
チェス一局程度で大切な青春時代の彼氏彼女を決定しようだなんて思うよ!?
いや、それは500歩置いておいたとしても、あの子は異常だ。
付き合うとは言ったものの、そのレベルを優に越えてる!そんな青春真っ盛りキャッキャウフフな程度じゃない!
だって……!だって……!!
「ごきげんよう、影くん。今日はここでお話しするんですね。あれ?もしかしてシャンプー変えました?昨日とは香りが違いますねぇ」
ヒュッと息が止まった。
漆黒の艶やかな髪。
ハラリと俯く眼前に落ちてきたそれを辿れば、そこには色白に映える赤い瞳をギラつかせた少女がいた。
「それじゃあ私も相性のよさそうな柑橘系にします。互いの匂いが混ざりあってもっといい香りになると、何だか常に混じりあってるようで心地いいですもの。恋人足るもの、いつでも愛する人と共に仲睦まじく、お互いが目の届く所に……ね、ね。ね?影くん?」
目が合うと、ニコっと笑顔を見せる。
数日前、初めて合った時こそ百合の花にも見えたそれは、すっかり赤い彼岸花の様相を呈していた。
「……ヒェ!?」
肩に回された指使いが嫌に冷たく、蛇のように絡み付く。
彼女は、俺の髪にスッとした鼻を押し付け、深く息を吸いこんだ。
「……ンアァ。堪らないです。これ、これですっ。影くん、お慕いしていますよ」
恍惚の表情で俺の頭を抱える蛇喰に、俺はもはや恐怖のあまり失神寸前である。
もうちょっとメンタル弱かったら泡吹いてぶっ倒れていたかもしれない。
つーか、なんでここまで執着してくるのか理解不能だ。
理解不能だからこそ怖い。
あと距離の詰めかたが早すぎて怖い。さながら香車ばりである。いや、変則的で急に現れる辺り桂馬とも言えるかも。
……まるで将棋だな。
「じ、蛇喰、さん?その、もうすこーし離れてくれると助かるん──」
「夢子」
俺の言葉をぶった斬ったのは有無を言わせぬ迫力である。
喜色の一切が急に氷点下へさがった声で、彼女は唸るようにそう言った。
かすかな衣擦れの音と、耳元へ近づく息づかい。
はむっと耳たぶをくわえられ、自然と体がびくついた。
「……ゆ、め、こ」
再度、吐息の混じった声が耳を襲う。
「名前で呼んでくれないと、私どうなっちゃうのか。自分でもわかりません」
「ゆ、夢子!うん夢子だよね!わかってる!ち、ちょっとまだ気恥ずかしくてさ!」
そう矢継ぎ早に口を開いた。
噛まなかったのは奇跡と言ってもいい。正直ちょっとチビりそうである。
するとようやく離れた夢子は、両手を合わせて愛らしく微笑んだ。
「なぁんだ。そうだったんですね!もう、影くんはウブなんですね。そういう所も好きですよ」
こ、こええ。
「あ、でも。緊張している時、影くんの眼球が上から右上に一瞬泳ぐ癖があるので気を付けましょう。癖は常習化すると答えを開示しているようなものですから。それと、これは近づかないと分かりにくいですけど、柔軟剤のせいか胸元からの甘い汗の香りが一瞬強くなるのも特徴的ですね。これも気を付けないとダメですよ?」
「は、はは。おっけー」
おっけー。
すでに頭の中はローラである。
おっけーろーらだよ。
洒落にならないのだ。この女、洒落にならないのだ。
そもそも緊張してるのも汗をかいてるのもお前のせいだ。そして発汗なんてどうやって操れというのだ。俺は特殊な訓練なんて受けてねえって。
等と言う気力もなく、左腕に豊満な感触を受けながら放心状態で石のシミを眺める。
左腕がヘブンだというのに、恐怖と緊張のせいで全く感覚がわからない。
なんだこれは。早く家に帰りたい。ホットミルク飲んで寝たい。
「それじゃあ影くん。ゲームをしましょう。チェスを使って。ジャンケンチェスをやりましょう」
基本はただのチェスだ。
だがチェスで駒を取る際、ジャンケンでその駒の奪取、防衛を決める特殊ルール。
運と勢いに任せた、戦略を引っくり返しかねないギャンブルルール。
「私が賭けるのは、影くんです。勝ったら影くんの全てを貰います。影くんは何が欲しいですか?」
「…………カッ、カップル解消ッ……とか」
恐る恐るの提案に返ってきたのは笑い声であった。
三日月のように、赤い口を裂いて、蛇喰夢子は笑うのである。
まるで獲物を喰らおうとする蛇のように。
「あはぁあッ。イイ!最高です影くん!楽しみですねぇ沸き立ちますねぇ!いつか貴方が全力でギャンブルに身を
迫り来る紅目の少女に、心底後悔した。
気安くギャンブルなんてするものじゃないなと。