影グルイ   作:花火師

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前回のあらすじ
影逸「寝てたら捕まった。どうしよう」


第6話

投票ジャンケン。

 

投票者はグー、チョキ、パーを己の判断で白紙のカードに記載し、それを見えないように箱へ投下。

プレイヤーは無作為にその中から3枚引き、それを手札として一枚ずつ場に出すことでジャンケンをする。我がクラス特有の集団ゲーム。

運任せで不平等で仕込みの介在する余地の多い、まさにイカサマの見本市のような遊戯だ。これの上手く出来ている点は、"チームvsチーム"や"チームvs個人"。どの組み合わせでも上手くイカサマを仕込めて、運と仕掛け、ブラフ次第でいくらでも勝ち筋を作れるところ。

 

ちなみにこのゲームの考案者は早乙女芽亜里。あのツンケンした金髪のツインテールである。

彼女はこのゲームの考案者であり、クラスの中でも実力、カースト共にトップだ。カーストトップを前提として考案したのだろう。“投票者にカードの中身を偏らせる”指示を出す。相手の手札を覗ける位置に生徒を配置し手札をサインで知らせる、いわゆる“通し”等。味方を多数引き込む前提としたイカサマでさんざっぱら悪行を振る舞いあらゆる生徒から立場や金を搾取していた。

 

そして俺が唯一、早乙女とのギャンブルに臨んだのもこのゲームだ。

あの時は鈴井と組み、ブラフと盤外戦術で運よく勝てたが……。

 

 

 

「投票ジャンケン……?」

 

「はい!是非やりましょう!ルールは知っていますよね?」

 

「……まぁ一応」

 

夢子は嬉しそうにグーチョキパーの描かれたカードを取り出した。どのカードにも、すでに手が描かれている……。

なぜ夢子が投票ジャンケンを……?

そのゲームを提案するということは、すでに早乙女に一戦吹っ掛けられた後ってことになるのか?

 

夢子は首をかしげる俺などお構いなしに、一度ベッドの骨組みへ繋がれた手錠を外し、夢子自身の右手に繋ぎ直した。

これで俺は左手が夢子と繋がり、右手がフリーということになった。ようやく寝たままの姿勢から座れたお陰で体が喜びの声を上げている。

利き手を外してくれたのは夢子なりの気遣いなのだろうか。

 

「ハァ……ハァッ。影逸くん、私たちいまひとつになっていますね……っ」

 

そうでもなさそうだ。

 

二人でベッドに腰掛けたまま、夢子は自分の鞄を空っぽ(投票箱)にすると、ばらついたカードの山から3枚、何のカードなのか確認もせずにそこへ入れた。

 

「次は影逸くんです。好きなカードを3枚入れてください。計6枚。これでジャンケンを行いましょう」

 

「……ち、ちょっと待ってくれっ」

 

「なんでしょう?」

 

「確認もしないカードでいいのか?」

 

「かまいません。あ、もちろん影逸くんの投票の際は選んでいいですよ!」

 

俺の問いにあっけらかんと答えた。

 

本来これは投票者の意思で記入したものを投票するゲームだ。投票(・・)ジャンケンなのだから。

それを思い付きで掴んだカードを入れるだなんて。

 

早くも頭が痛くなってきた。

 

「……あー、そもそも、これギャンブルなんだろ?賭ける対象は?それを明確にしないと流石に乗るに乗れないぞ」

 

これでゲーム終了後に、「はい私の勝ちです、人生下さい♪」なんて言われてみろ、目も当てられない。

 

「それもそうですね。では…………」

 

夢子はずずいっと顔を俺へ近づけた。

 

……近い。

 

近い近い近い近い近ぃいいい!!

 

人の造形の完成形がそこにある。整った顔立ちだ。

うわぁ睫毛長いし鼻たけぇ。赤い唇が高校生とは思えない色気を放つ。……紅い眼も綺麗だ。

良い匂いまでするし……あれ、夢子ってこんなに……。こんなに可愛かったっけ。

付き合ってそれからは恐怖が先行してあんまりじっと見ることなかったけど…………。やっぱ超可愛いなぁ。あぁ不味い。不覚にもすげえ心臓がバクバクしてる。くっそ、なんでこんなに美人なんだよ。そんな顔で迫られたら………………。

 

……ハッ!

ダメだッ!勢いに流されてはいけない!!

 

 

「フフッ、ふふふっ。……美味しそうです」

 

 

………………え、なにが?

 

 

怖じ気という名の雪崩(なだれ)が有り余るリビドーを押し流していった。

さらば性欲。お帰り恐怖。

 

「では賭けの内容ですが……」

 

「念のため言っておくが、性的な要求は受け付けないぞ」

 

「……え……」

 

「え」じゃないよ。なぜ真に迫る勢いで深刻な表情をしてるんだ。あんな不穏な発言をされれば釘を刺して当然だ。つーか男女が逆なんだよ、逆。

 

脳内で渋滞するツッコミを捌く俺など露程も知らない夢子は、何かを思案するように顔を伏せる。

 

さて、いったいどんな要求だろうか。

警戒しておくべきはやはり復縁。未だこうした執着をみせているんだ、可能性としては最も高い。

もしこんなギャンブル漬けの学園で夢子と付き合ってみろ、大変なことになりますよ。

まず間違いなく毎日学園を引き摺り回される。次に様々なギャンブルに強制参加させられ、そして莫大な金のやり取りに巻き込まれ…………最後の最後には惨たらしく『人体各部位世界一周旅行(人身売買)コース』だ。

想像しただけで胸の辺りに重苦しい圧迫感を覚える。自分の妄想に過ぎないが、本当(マジ)に実現しかねない。

 

「……では」

 

震え上がる俺を他所に、夢子は上目使いで……というよりは不安そうに口を開いた。

 

そしてついに、賭け金の要求を口にした。

 

 

 

「…………私と、お友達になってくれませんか?」

 

 

 

 

……………………オトモ……ダチ……?

 

 

 

 

 

NOW loading……

 

 

 

 

 

ちょ、ちょっと待って。理解が追い付かない。

……どういうトラップだこれは。恋人とか伴侶とかじゃなくてお友達……?何かの隠語か?

 

駄弁ったりカラオケ行ったりカフェしたりする、あのお友達?

…………ダ、ダメだやっぱり理解不能だ。なぜ復縁ではなく友人関係の構築を賭け金にする。

訳がわからない。何を考えているんだ、夢子。

 

もしかして、本当に俺に興味がなくなったのではなかろうか……。だから取り合えず自軍の強化、もしくは僅かながらもひとつの人数的戦力……いわゆる“人脈”として明確な繋がりを作っておこうということか……?

 

「私が勝ったらお友達になって下さい。その場合この手錠は外します、お友達ですから」

 

夢子の狙いが分からないまま、警戒を顕にして問いかける。

 

「……俺が勝ったら?」

 

「影逸くんが勝ったら私になんでもひとつ命令する権利を差し上げます。もちろん手錠も外しますし、それは命令権には含まれません」

 

夢子は何かを求めるように、すがるように「どうでしょう」と俺の目を見た。

……何かのブラフか。引っかけが混じってるのか。盤外戦術の一環か……。考えられる可能性は数多い。

 

そもそも友達とはなにか。

蛇喰夢子にとっての友達の定義とは何なのか。普通の、世間一般で言うところの良き友人?……使いっぱしりの都合の良いサンドバッグ奴隷だって、場合によっては友達と呼ばれることもある。それにあまり世間体も良くない下世話な話だが○○フレンド、みたいな不純な遊びをお得感覚で味わう関係だって友達といえば友達だ。

"友達になる"。そんな安っぽい単語に惑わされて賭け金を軽視し、適当に挑んで結果敗北する。というのは到底得策とは言えない。

 

というか……友人関係をギャンブルで決めるってのもなぁ。それが余計に不安を煽る。友達ってギャンブルで出来るものなの……?

仮にそれが夢子の心からの願いだったとしても……。いや、確かにそれも夢子らしいと言えば夢子らしい。

 

あ"ーーーわっかんねえ。

 

 

……しかし、やらなければ進まないだろう。

取り合えず手錠を外して貰わなければトイレだって儘ならない。なんなら手錠を持ってるくらいだ、ドラえもんよろしくお手軽にカバンから尿瓶だって出しかねない。

…………ないか。…………ないよね?

 

慎重になり過ぎても仕方がない。このまま夜になっても、朝になっても、夢子はきっと離れないだろう。

なんにせよ選択肢は残されていない。

 

「わかった、やるよ」

 

「本当ですか!?ありがとうございますっ!!」

 

「うごォ"ッ」

 

ガバッと俺に抱きつく夢子に、口から胃がまろび出そうになった。ちらつく三途の川。

 

「ど、どにかぐ…………や、ろぉ……か」

 

「はい!!」

 

跳ねるように大喜びの夢子が、眩しいほどの笑顔を見せた。

 

 

 

ゲームの流れをまとめよう。

 

投票ジャンケン。

1、ゲーム参加者は二人。

2、二人が互いに選んだカードを鞄に入れる

3、先攻で入れた夢子が先にカード3枚を引く

4、それぞれの手札でジャンケン

5、シンキングタイムは1分

6、相子の場合もう一度

 

 

夢子には反対を向いてもらい、その間に俺が入れるカードを取捨選択することになった。

念には念をと、俺のネクタイで目隠しをしてくれとまで言い出す始末。…………ナズェ?

……ここまでする必要あるか?まあいいけどさ。

ノリノリになっている夢子の後頭部に回したネクタイを結ぶ間、なぜか夢子は肩を切らして息を荒げていた。

……私情ですね、コレ。

 

「影逸くん、なんだかイケナイ気分になってしまいますね……!」

 

「………………ノーコメントで」

 

ヤメロヨォ!!

こっちだって思春期真っ只中の男子高校生なんだぞ!あんまりそういう……そういうアレコレはやめてよ!つーか、さてはこういう状況にしたかっただけだな!?

 

気を取り直して、カードの山からジャンケンの描かれた数枚を眺めて吟味する。

 

……今、夢子は目隠しをされた状態。鞄も無防備にこちらへ託され、覗こうと思えば覗ける。夢子の入れたカードがなんであるのか確認し、それに勝ちやすい、もしくは引き分けを取りやすい物を入れることも出来る。なんなら丸々入れ換えることだって出来るだろう。

他にも入れる前にカードに印を着ける小細工や、夢子の位置から引くカードを誘導するよう中身の配置を組む、等々、上げればキリがないほどにイカサマは仕込みやすい状況だ。

 

……だが、夢子はイカサマをしていない。

 

彼女は吊り合いのとれたギャンブルでさえあれば、基本的にイカサマ込みであろうと大好物だ。だが夢子がイカサマをすることはまずない。相手が仕掛けてくれば夢子も同じ土台に上がって仕掛け返すことはあるだろう。

狂人のくせに、ギャンブルに関する姿勢は真っ直ぐなのだ。

 

通常のギャンブラーなら顔芸キメて勝利宣言しながらイカサマをかますんだろうけど、それは『夢子取扱い免許』を持っていない連中の話。

夢子相手においては、自分の勝ちを確信した時点で負けてる、ってのが至言だ。下手にイカサマをしたところで、撃った弾丸を受け止められて同じ速度で返却されるのが目に見えてる。

 

……とはいえ、こんな負けが怖い状況でイカサマなしというのは余りに怖い。

……物凄い(ものッそい)イカサマをしたい。

だって負けたらどうかるかが見えないもの。こんな運任せのゲームに、メガトン級の不安の種を委ねるだなんて恐ろし過ぎる。

 

「ぅぅむ…………」

 

 

けど、この俺に全てを託したやり方はなんだ?試されてるのか?

いや、あざとすぎて試されているのかどうかすら疑わしくなってくる。

夢子にとってはどっちでも良いのかもしれない。イカサマをされようがされまいが。夢子はハンムラビ式とでも言うべきか、目には目をってタイプだ。何かされるまで頓着しないのだろう。

もしくは、俺が常識的正義感に駆られて馬鹿正直に挑んでくると踏んでいるのか?

 

「……ごめんなさい、影逸くん」

 

悩む俺に何を思ったのか、夢子は謝罪を口にした。

 

……いや、謝るのならまず手錠を外して解放して下さいませんか。

 

「察しているかもしれませんが実は私、この学園でもう早乙女さんという方……知ってますよね。彼女とギャンブルをしてしまいました」

 

「……うん」

 

取り合えず頷くが、意図が分からなかった。

そりゃギャンブル学園だし、ギャンブル好きの夢子にとっては天国よりも天国だろう。目の前にご馳走が山盛りになっているのに手を付けない筈もない。

それを謝罪されるというのはどういう了見だろうか。

 

「ごめんなさい」

 

「……うん」

 

もう一度、夢子は先程の興奮を忘れたように、静かに謝った。

 

「……ハジメテ(・・・・)は、影逸くんに捧げようと思っていたのに」

 

「……うん」

 

 

俺は取り合えず頷……

 

 

「……うん?」 

 

 

……けなかった。

 

 

「あの。夢子?なんの話を……」

 

「この学園で影逸くんに出会えて!一目見た瞬間に思ったんです!『あぁ、この学園で私のハジメテは影逸くんに』と!なのに私は早乙女さんの甘美な誘い(ギャンブル)に抗い切れず乗ってしまいました!!」

 

ヨヨヨとベッドで泣き崩れる美女に、俺は死んだような顔でぽへーっと思考放棄をしていた。

 

「ふしだらな女で申し訳ありません」

 

「……う、うん」

 

「どうぞ罵ってください!」

 

「ふしだら……?」

 

「ありがとうございます!」

 

ありがとうございます??

 

泣き崩れも格好だけだったらしく、嬉しそうに喜ぶ夢子は優雅にスカートを直しながら姿勢を戻す。

 

どーしよ。落差に付いていけない。頭いたくなってきた。

頭を抱える俺など気にもせず、「それに」と夢子は話を続けた。

 

「クラスの皆さんと……投票者という形であれ、全員とギャンブルをしたんです。影逸くんだけを仲間外れになんて、そんなこと絶対納得がいきません」

 

罪悪感の滲んだような。少し悔しげな声だった。

 

…………蛇喰夢子にとって『ギャンブルに誘われる』と『友達になろう』は、ほぼイコール。

 

少し見えてきた。

夢子が俺をギャンブルに誘った理由が。

 

俺から夢子とのギャンブル(……じゃなくてゲーム)に好意的に臨んだのは過去でも一度きり。

夢子にとって『友達になろう』という意味合いのゲーム。

あの最後の賭け。あの結果で俺たちは別れた。

そしてそれっきり。……それっきりで、完全に俺たちの関係が断ち切られたと、(ゼロ)になったのだと、そう強く感じているのかもしれない。

 

……まぁこの辺は一も二もなく俊足で逃げ去った俺も悪いんだけど。

 

だから夢子は、ギャンブルを逃げられない形で誘った……?

無理矢理ではあるが……。もしかしたら無理矢理だと自覚しているから『友達になってくれ』と、友人関係をギャンブルで絶対的な基盤にしようとしているのか?

確かに、恋人と友人では決別のハードルは段違い。踏み込みすぎず近くにいる、という目的ならば友人というポジションは的確だ。

 

……だが裏を返せば、夢子が負けた場合、俺の要望次第で友達という最低限の関係すら一切実現しなくなるという可能性を孕むということ。現に俺は夢子を振った男だ。『なんでも言うことを聞く』という賭け金でそれを実行しないとは言えない筈だ。

 

 

まさしく、人間関係を賭けたギャンブル。

 

 

 

少し、この状況には考えさせられる。

仲良くしたいと、ここまで言ってくれる女の子を前に、俺はイカサマをしていいのか……?

……それは、流石に男として情けなさ過ぎるんじゃないか?

いや、でも負けるのは困るし。

 

と、そこで夢子の罪悪感の滲んだ声が頭の中でリフレインすると共に、寂しげな顔まで浮かんでしまった。

 

 

「……あぁくそ、仕方ないか」

 

 

カードの山を裏返し、俺も目を逸らした。その中から直感で引いた3枚を鞄に入れて終了したことを告げ、夢子のネクタイをほどいてやる。

 

「あう……っ。もうちょっと堪能したかったです」

 

「そういうはしたない発言は控えなさい」

 

「はしたないだなんてそんな……」

 

恥ずかしそうに頬を染めてモジモジしていた。

こっちが覚悟を決めて挑んでいようと、彼女は平常運転のようだ。ほんと、変わらないなあ。

 

「……影逸くん、どうしたんですか?」

 

「なんでもないよ。それじゃあ始めようか」

 

俺も夢子も、互いに何を入れたのか分からない。だからこれはもう読み合い化かし合いの狸合戦ではない。純然たる、運のみに頼ったジャンケンだ。

 

負ければ友達。勝てば自由。

期待値も確率論もない、リスクも曖昧なままの目隠しギャンブル。

 

さあ、勝負だ。

 

 

夢子が先に。俺が後に。

互いに片手で手札を持った状態で、1分のシンキングタイムへと入る。

 

手持ちはグー、グー、チョキ。

俺はもちろん、なんのカードをカバンに入れたのか見ていない。見ていれば少なくとも相手の手札を予想出来たのだが……。しかし今回はそういうゲームだと割り切る他ない。

なんにしたってこのゲームは運次第。なら、迷ったところで運命論様には勝てない。

悩んだ末に選んだのはグー。

 

夢子より先にカードを選ぶため夢子と繋がれた手を動かそうとした瞬間。

 

 

 

ニィッと、夢子が小さく口角を上げたのが見えた。

 

 

 

ぶわっと、全身から汗が吹き出した。

 

 

待て。何か可笑しい。

 

友達になりたい……。

そもそも、夢子がそんなタマか?いや、確かにそういった一面もあるのかもしれない。友達が増えればそれだけギャンブルをしてくれる相手や関わってくれる人数が増えるのだから。

だが……基本的にイカサマをしない俺を夢子は知っている。俺もハンムラビ式、目には目をタイプだ。夢子もそれは承知の筈。

 

だが…………。

 

夢子が準備したカード。夢子が持っていたカバン。夢子に繋がれた左手。さらに顔を迫らせるミスディレクション。タックル紛いの抱きつき。目隠しでこちらの有利をインプット。相手にカードを選ばせるなんてものも、手品において欠かせない技術。

もしどれかが当てはまれば、夢子はいま、確実に勝ちを拾える……。

 

「さぁ、どうしますか。影逸くん」

 

俺は今、夢子の表情で勝手な考察を一人でつらつらとしていた。が、もしコレそのものまでもが盤外戦術だっとしたら……?

俺がイカサマをしないように、確実に勝てるように、言葉巧みに誘導していたのだとしたら……?

報酬を手にし、夢子の目的を確固たるものにしようとしていたら……?

もしくは、俺が確実に勝ちを拾いにくることを前提に、イカサマギャンブルを前提として仕込んでいたとしたら……?

考えればキリがない。

 

 

「さァアッ!どうしますかっ!?どうしますか影逸くんっ!!」

 

華の咲いた……というよりは、狂気染みた美しい笑顔を見せる夢子は心底楽しそうに、酔っているように瞳孔を歪ませる。

 

「何を出すんでしょうッ!何を出すべきでしょうッ!!」

 

…………俺が、考えてもキリがない思考の渦に呑まれている姿に。"かもしれない"という可能性に揺れている姿に。夢子は快感を示す。

 

「命令権。獲得できればなんでもシテ差し上げますよ、影逸くん。ナ ン デ モ(・ ・ ・ ・) 」

 

唇を濡らした夢子が魔女のように誘う。

彼女は敗北を切望し、勝利を渇望する。

 

「影逸くんっ!!トモダチになってもらったらまずどこにイきましょう!ナニをしましょう!でも間違いなく、多くのギャンブルをより楽しめますよねッ!!血のたぎるような、人の命すら危ういお金の奪い合いをっ!尊厳も肉体も立場も全てを揺るがすような脳の奥が痺れる程のギャンブルを楽しめますよねッ!!是非とも二人で、一緒に心行くまで、楽しみましょうッッ!!」

 

 

しかし、欲望に塗れた言葉とは裏腹に、夢子は確実な勝利など欲しがらない。この少女の厄介なところは、勝つことや負けることに拘りがないところ。

報酬、負債はギャンブルを楽しむためのスパイス、相手が必死になる分ゲームを楽しめる。夢子にとって賭け金とはそんな副次的なものに過ぎない。夢子にとってはギャンブルそのものが悦楽なのだから。

 

……だが分の悪いことに、今の俺の行動は夢子にとって殆ど織り込み済みだと見ていいだろう。

 

 

──そして

 

 

「さあ!!手札を決めて下さいッ!!」

 

 

──俺がいざというときの為に、イカサマの下準備を済ませていることも織り込み済みだろう。

 

 

夢子は、いつでも俺が勝利の引き金を引けることを知っている。

だがその引き金を引くかどうかは夢子が本当にイカサマをしてるかどうかを判断する、俺の読みと、最終的な運次第。だから、蛇喰夢子はこうして溢れる狂喜を隠すことなく楽しんでいる。賭け狂っている。

 

 

駆け引きに

 

読み合いに

 

攻防に

 

勝利に

 

敗北に

 

 

ギャンブルに、狂っている。

 

 

本当にどうかしてる。あれだけ血眼で執着していた俺をおいて、その人間関係をぽいっと賭けた勝負を、関係そのものを終わらせかねない勝負を、こんなにも楽しんでいる。

勝った先でもギャンブル。負けた先もギャンブル。その先も更にその先も。どこまでもギャンブルに身を焦がす女。常に勝者と敗者と勝負に飢えたギャンブルジャンキー。常人の思考じゃない。つくづく思う。この少女は正真正銘の狂人だ。

 

 

さて、勝負時だ。悩む時間はもうない。

 

イカサマをするか、否か。

 

 

 

 

「……よし、決めたよ」

 

 

 

 

さァアアあ、影逸くん影逸くん影逸くん影逸くん影逸くんっ!!待ち望んだ瞬間です待ち焦がれた瞬間ですッッ!!!さぁさあっ!!賭け狂いましょうッッ!!!!

 

 

 

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