TSロリが逝くダンまちゲーRTA   作:原子番号16

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 さみだれ初投稿です。

 追記 4月25日(土)
 ネサレテ視点を含む加筆修正を行いました。3000文字くらい増えました。


 Nakayama様から誤字報告をいただきました。ありがとうございます。
 佐藤東沙様から誤字報告をいただきました。ありがとうございます。
 鳥瑠様から誤字報告をいただきました。ありがとうございます。
 ユキ☆ユキ様から誤字報告をいただきました。ありがとうございます。
 名もなき一読者様から誤字報告をいただきました。ありがとうございます。
 kuzuchi様から誤字報告をいただきました。ありがとうございます。


mp.9『決戦/鉄馬駆る女戦士(ジャミール)

 幼女と幼女と幼女がドラゴンと戯れるゲームのRTA、はぁじまるよー。

 

 

 幼アイズが戦闘不能になってる場面から再開です。

 目の前にインファント・ドラゴンくんがいますが、逃げます。こちらの方が早いですし、そもそもこのイベントで登場する強化種を単騎で倒すのは現時点のフリューくんには無理です。

 パック君に足止めしてもらっている間にアイズを()(かか)えて撤退します。

 【女体恐怖症】のせいで精神がごりごり削られていますが少しの辛抱なので耐えましょう。こちらの操作を受けつけないレベルでなかったのは幸いでした。

 

 わっせ、わっせ。

 自分と同じ体格の人間を運ぶので速さはお察しですが、申し訳程度の【力】を振り絞ります。以前、最低でも敏捷含む基礎アビリティはHまで伸ばしたいと言っていたのは、それより下になるとこういう場面で困るからなんですね。今回は画面外で頑張ってくれているパック君のお陰でギリギリ難を逃れましたが、割と際どい所さんでした。

 現在目指しているのはひとつ上の階層、ダンジョン第11階層です。何故ってインファント・ドラゴンくん、巨体が祟って階層を行き来出来ないんですよね。それに連絡路はモンスターもあまり寄ってこないので、治療するには適した環境なのです。

 まあ実際は道中でタナトス兄貴とエンカウントしてしまうのですが。

 

 

 ───と、開始地点から少し走ったところにある広間(ルーム)で、徘徊する(ワンダリング)モンスターに襲われました。

 このイベントにおける固定敵ですね。逃走する自機組の行く手を阻むように、12階層の怪物が勢揃いして群がってきます。

 具体的には制限時間内に広間の敵を一定数まで減らさないと非常によろしくない結果を招きます。

 本来なら持ち込んでいた高等回復薬(ハイポ)で負傷を治療したアイズと二人で突破する予定だったのですが、今回はアイズが重傷を負っており、ハイポを使う暇もなかったので、かなり危険な場面になりました。

 フリューくんは今、アイズを抱き抱えて走っています。

 当然、武器なんて使えません。強いていうならアイズを装備してます。

 まさに絶対絶命───なんて思ってないですか? それやったら明日も俺が勝ちますよ(HND)

 

 隠す理由もないので白状しますが、第一級冒険者RTAお馴染みのあの子の出番です。パート7で面倒を見てあげた迷子の子、ネサレテちゃんが登場します。

 彼女はこのタイミングで参戦してきて広間内の殲滅を手伝ってくれるだけでなく、インファント・ドラゴンとタイマンを張ってくれます。神かな?

 そろそろ来ますよ、3、2、1───。

 

 

 ───女戦士のエントリーだぁ!

 

 

 彼女が参戦してからまずやることは、ファッションチェックです! ファッションチェックをします! これはふざけてるのではなく真面目な行為ですこれだけははっきりと真実をお伝えしたかった(早口)。

 ペロッ。これは、青酸カリ! ではなくセーラー服ですね。はい。セーラー服です。黒を基調とした地味なデザインのセーラー服です。

 この奇抜な服装と、彼女が()()()()()()()()()()()()で、彼女の職業が判明しました。けっこう多い候補の中でもかなり当たりな部類です。最高ではありませんが。

 

 ───と、ここでオリチャー発動。本来逃走開始直後に与えるはずだった高等回復薬をここで瀕死のアイズに投与した後、彼女をお馬さんに乗ってるネサレテに投げ渡します。理由としてはフリューくんが戦闘に参加出来ないのと、女の子を抱えることに耐えられそうにないからです。彼女の職業が両手が塞がったままでも戦えるモノだった幸運に感謝。

 群がっているモンスターは強化種でもなんでもなく、通常の探索で遭遇する奴等と同じです。位置も固定なので不意に囲まれるようなこともありません。ここで温存していた【占星術】も解禁し、速やかに殲滅します。

 

 片付きました。ネサレテちゃん強い、強くない? この後インファント・ドラゴンと一対一で向き合ってもらうのもあって、出来るだけ多くのモンスターをこちらで負担しようとしましたが、結果は討伐数(キルレート)はこちらが僅かに上、という程度でした。うわようι゛ょつよい。

 馬上のネサレテからアイズを受け取ります。ちょっとした会話が入りますがボタン連打で大丈夫です。別にあれを倒してしまっても構わんのだろう的なやつですので。

 

 んだらば前進を再開しましょう。わっせ、わっせ。

 道中ぽつぽつとモンスターが湧いてきますが、群れてなければ問題ありません。帰ってきたパック君にだまくらかしてもらい、突っ込みます。イクゾー!

 ……インプの爪に少しひっかかれましたが些事です! ハナから無傷で突破できるとは思ってません! このままタナトス兄貴のところまで突っ込め突っ込めー!(3/3/2突進)

 

 

 

 ───わーいでぐちら(到着)

 所定の広間に入ると同時に会話開始、タナトス兄貴が気さくな挨拶()をしてきてくれます。

 彼等は原作通りにクノッソスを用いて12階層最奥に陣取り、アイズを待ち構えていたのですが、インファント・ドラゴンとかいう異常事態(イレギュラー)に見舞われたためにふらふらしていたんですね。

 本来であればこの時点でアイズは意識のある状態であり、原作と同じような問答をすることとなるのですが、今回は気絶しているので、素の口調で話しかけてきます。会話もそう長くはならないでしょう。

 

 

 ……話が長い(全キレ)

 

 

 どうやらフリューくん、タナトス兄貴に目をつけられていたらしく、なんとアイズと同じような勧誘(?)をされてしまいました。これは……ガバじゃな? タナトス兄貴と接点はなかったはずなのですが……(すっとぼけ)

 よくよく考えれば、フリューくんの願望とかタナトス兄貴の勧誘方法とかその他諸々を合わせると、タナトス兄貴に目をつけられないはずはないのですが、この時点での私は本気で困惑していました。

 このゲームのRTAはスキップしていい文章とそうでない文章を見極める技術が重要なのですが、自分はその辺りがまだ未熟だと痛感した場面ですね。

 

 ───よし、タナトス兄貴の勧誘を蹴る台詞を提示してくれました。

 正直フリューくんはタナトス兄貴の甘言がクリティカルな人間なのでかなり焦りましたが、終わり良ければ全てよしって英国大文豪兄貴もおっしゃってるし多少はね?

 

 そんなこんなでタナトス兄貴が神威を解放したところで今回はここまで。ご視聴ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思考が凍っていた。

 眼球が震えていた。

 心臓さえ止まったかと錯覚した。

 

 あれは。

 あれが。

 あれなのか。

 私が求めていた、モノ(◾️◾️)は───。

 

 「はっ、はっ、はぁっ」

 

 息は荒く、手足は揺らぎ、精神(こころ)が跳ねる。

 それでも私は刀身を検め、道具を確認し、戦闘の用意を終えていた。

 無謀な試みだと、誰もが口にするだろうと思った。私自身そう感じている。尻尾を巻いて逃げるべきだと、顔のない誰かが囁いてくる。

 けれど、それ以上に、逃げ切れないだろうという思いがあった。

 身体能力(スペック)の差は歴然としている。

 偉大なる竜と、矮小な小人族。

 今は僅かに離されている間合いも、あの竜がその気になったなら、瞬きの間に消え失せるだろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 「は───っ、はぁっ……!」

 

 凍っていた思考を、暗い炎が溶かす。

 眼球の震えは既に収まり、これから戦う相手を見据えている。

 心臓はバクバクと躍動し、全力運動の準備をつつがなく終わらせている。

 一歩、踏み出した。

 私からすれば小さな一歩。

 されど、偉大なる竜にとっては、〝戦いの号砲〟に等しい行い。

 ()()()()()()()()()()()()()

 おそらく、私は笑っているのだろう。それが口許にだけ浮かぶ薄い笑みなのか、はたまた満面の笑みなのか、私には判別出来ない。ただ、それが酷く醜いモノだとは理解している。

 果てしなくどうでもいい。私の表情など些事に過ぎない。誰にも見られていないのだから問題ない。

 ああ、偉大なる竜は、私の『求めるもの』は、雄々しき頭部を天へと掲げ───

 

 

 『オオオオオオオオオオッッ───!!!』

 

 

 開戦を告げる大音声。かの竜は矮小な小人を敵と、あるいは獲物と認め、

 

 

 「……ぁ……っ」

 

 

 この時ようやく、私は彼女の存在を思い出したのだ。

 

 「───ぁ」

 

 比喩ではなく、心臓が止まった。

 金槌で叩かれたような衝撃に打ち据えられる。

 偉大なる竜の咆哮と、金の少女のか細い声。

 奇しくも前後から同時に、まるで〝進む道〟を自身の手で選ばせるように響いた音色が、私の愚鈍で小さな脳をシェイクする。

 そうして、時を止めた私に、

 

 「わたくしは貴方の御心に従います、我が王。その上で些細な戯れ言をお許しくださいませ」

 

 妖精が、するりと声を届けてきた。

 悪戯の妖精、パック。

 【アポロン・ファリミア】の一員として過ごした半年間、ずっと一緒にいた不思議なヒトは、慇懃に頭を下げて、こう言った。

 

 「()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 『───ぼくたちといっしょに、ここを出よう』

 

 『───パパとママの待つ、家に帰ろう』

 

 『───あたしたちなら、きっとできるわ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「───うあああああああっっ!!!?  ()()()()()()ッ!!」

 

 

 喉の奥から引き摺り出したような声だった。

 偉大な竜から意識を手放し、忠実なる(しもべ)にして親愛なる友人に、呻くように命令する。

 そうして、私は。

 ずっとずっと、ずっと求めていたモノに、背を向けた。

 

 「かしこまりっ! 《───》!」

 『オオオオオ、オオオッ!?』

 

 パックが何事かを口ずさんだ直後、インファント・ドラゴンが戸惑いの叫びを挙げる。

 彼が具体的に何をしたのかはわからないが、確認する余裕は残されていない。私に出来るのはただ信じることだけだ。

 短い手足を懸命に振って、極めて未熟な【敏捷】を全力で稼働させて、金の髪の少女の元へ辿り着く。

 

 「っ、酷い……!」

 

 直視して、最初の感想がそれだった。

 黄金のように輝く髪は所々焼け焦げ、肌という肌に火傷を負い、携えていたのだろう()()は刀身を粉々に砕かれている。

 逆に言えば傷はそれだけであり、だからこそ驚愕する。つまりこの少女は、あの竜と交戦した上で、火炎による攻撃以外は凌いでみせたというのか。

 下級冒険者にあるまじき技量を持つ、年下の少女剣士。そこまで思考を回して、稲妻のように思い出した。

 ───得物こそあの時とは違うけれど。私は以前、この少女と共に戦ったことがある……!

 

 「とにかく、安全な場所で、治療しないと……っ」

 

 だから、こうするしかないのだ。

 私は物体を触れずに移動させる(すべ)を持たないのだから、こうするしかないのだ。

 

 「ひッ───ぎ、あ、ああぁあ、ぁああ……!」

 

 彼女の、女の身体に触れて、()(かか)える。

 それだけで、理性が悲鳴を上げるのがわかった。

 早く手放せ、手遅れになるぞ、そう、私の中の冷静な部分ががなり立てる。

 そんなことはわかってるんだよばか、としか言えない。

 けれど、やらなくてはならない。

 だって私は、アポロン様の眷属で、ツクヨミ様の盟友で、タケミカヅチ様の弟子なのだから、見捨てるなんて許されない。

 私は、あの方々に相応しい子供(ひと)として終わりたい……!

 

 「はぁっ、あっ、は、はあっ───!」

 

 走る、走る、走る。

 名も知らない少女を姫抱きにしてただ駆ける。

 体格が自分に近いのが不幸中の幸いだった。

 もう少し大きかったなら、抱き抱えたままこの速度で走ることは出来なかっただろう。

 

 『───ォォッ───!!』

 

 竜の咆哮が背中を叩く。

 パックの無事を確認する術はない。

 私が出来るのは、彼を信頼し、進むことだけだ。

 だから耐えろ。

 柔らかな肢体に全身を射(すく)められても足だけは動かせ。

 そうでなければ、私は、たった一つの願いにすら見捨てられてしまう。

 

 『───ギギッ』

 『ヒッ、ヒッ、ヒゥイッ!』

 『ブグウウウッ……!』

 

 「───あぁくそっ! なんで肝心な時だけ【幸運】じゃないんだ……!」

 

 吐き捨てながら、眼前に広がる状況を精査する。

 11階層へ続く道、正規ルート上の広間(ルーム)にひしめく怪物達。

 手の塞がれた状態では正面突破は不可能であり、回り道をするにも負傷を覚悟しなければならない、それほどの数である。

 それでも進む。

 一秒が惜しい。故に即断。層の薄い部分を貫き通す。

 波のように押し寄せる殺意をしっかと見据え、星の導きを得るための詠唱を口にする、その瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「───いやぁぁぁあああああああっ!? 落ちてるぅぅぅぅうううううっっっ!!!」

 「YAHHAAAAAAAAAAA!!!」

 

 

 全く詩的な表現なのだけれど。

 

 信じられないことに、

 

 少女が、空から降ってきたのだ───!

 

 

 

 「なっ、はっ、ふぇっ……!?」

 「くぉらぁッ、〝モルフェウス〟! 確かにこれが最速ってのはわかるけど! わかるけども! もう少し! 手心ってものをなさい!

 ───って、わぁ、なんて【幸運】! まさか真下にいたなんて! すんなり会えてよかったわっ!」

 「YAHAA!!」

 「お前は少し黙ってなさい」

 

 迷宮の天井を()()()()()、空から降ってきた少女は、一言で表せば、とんでもない少女だった。

 まず前提として、とんでもない美少女だった。おそらくは健康な状態の金の少女に並び、一定の嗜好層相手には上回るだろう容姿である。

 腰にまで伸ばされた髪は漆のようで、しかし光の当たり方によって紫水晶(アメジスト)の輝きを放っているように見えた。

 水夫のコスプレというダンジョンを舐め腐ってるとしか思えない格好をしているくせに、(また)がる【馬】はおよそ尋常なものではない。

 だって、それは。空から降ってきたというのに完璧な着地を決めた、その【馬】は!

 

 「青銅の、馬……?」

 「ちょっと違うけど、似たようなものよ。って、呑気に雑談してる暇なさそうね!? ここは怪物だらけだし、なんかヤバそうなモノもこっちに来てるし、死にかけの女もいるし! とにかくさっさと働かなくちゃ!

 ええそうよネサレテ、恩を返すにはちょうどいい場面ね!」

 「YAHA!」

 

 主人の(たかぶ)りに応じて、鋼鉄の駿馬が(いなな)く。

 屈強な男性を思わせる両腕が、変形する。

 形成されるのは弩弓だ。

 魔導士やサポーターに広く採用されている武装が、右腕と左腕に合わせて二機。

 臨戦態勢を整えた従者に、セーラー服のアマゾネスは心底から楽しそうに命令した。

 

 「蹴散らせ、〝モルフェウス〟!」

 「───YAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

 鉄矢の雨が展開された。

 身体が鋼鉄ならば、放つ矢も鋼鉄なのか。

 全財産投入(オールベット)と言わんばかりにぶち撒けられる弾丸。狙いもくそもない雑な掃討。大部分の射撃を外し、命中したのはほんの少し。それでも多くのモンスターが全身を穴だらけにして絶命した。

 射撃が止まる様子はなく、さながら地面を掘削するように、モンスターの数が減っていく。

 ───それでも、まだ、モンスターはいる。

 氾濫する動揺をそれ以上の激情で圧し殺し、(まなじり)を吊り上げる。

 自然な動作で近づいて、金の少女を差し出した。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 結局のところ、あたしは恩を返しに来たのだ。

 

 「蹴散らせ、〝モルフェウス〟!」

 

 そう口にすれば、馬の形状(かたち)をした友人が殲滅を働いてくれる。

 無論、〝彼〟は弓の名手という訳ではないので、狙いは雑だけれど、この階層の怪物相手なら問題ないと判断した。

 

 ───それに、あたしの仕事は別にあるらしいし。

 

 背後から感じる気配。

 およそ上層に居てはいけない、規格外の怪物の足止めこそ、わたしがここで果たすべき役割であり、恩返しである。

 故に、呪的資源(リソース)を温存する。

 

 あたしがちゃんと制御したなら、モルフェウスの射撃の精度はかなり上がるだろう。それこそ〝ノイマン〟の手を借りたなら、百発百中にまでなるのだろう。

 けれど、今はその時ではない。ここで無駄に消耗して、肝心な時にリソース切れで死ぬのは間抜けもいいところだ。

 

 もちろん、恩はきっちり返させてもらう。

 ()にとっては迷子の子供を送り届けたという話に過ぎないのだろうけど。

 あたしにとって、それは重大な話なのだから。

 だからこそ、あたしは万全に近い状態で、今もこちらに近づいている強大なモノと対峙しなくては───。

 

 「……この子を、お願いします」

 「はっ?」

 

 つい受け取ってしまって、変な声を出してしまった。

 初めて会った時と同じように、ずだ袋を被った変な小人族。

 そんな彼に渡されたのは、先程まで彼がお姫様抱っこしていた金髪の女───『人形姫』こと【ロキ・ファミリア】のアイズ・ヴァレンシュタインだった。いや幼女と言うべきなのか。公式の情報通りならもうすぐ8歳になるらしいが、なるほど年齢通り幼さに溢れた肢体である。逆に言えば、この綺麗な手が、噂に聞く苛烈な剣技を秘めているのだから、【神の恩恵】の凄まじさを実感する。

 見たところ外傷の一部は治癒されているようだが───そういえばさっき回復薬を与えられていた───未だに傷は深く、ちゃんとした治療が必要だと判断できる。

 いやいや考えるべきはそういうことではなくて、確かに戦闘はモルフェウスに任せきってるから暇そうに見えたのかもしれないけれど、あたしが持ってるのはちょっと危ない。モンスターの敵意(ヘイト)は完全にわたし達に集まっているのだから、殲滅が終わるまでわたし達の後ろで二人ともども待機していて欲しい、というのが本音だった。

 なので、その旨を伝えようとして、

 

 「ちょっ───!?」

 

 敵陣に突っ込んでいく変な小人族を目撃して、絶句してしまった。

 だって、そこは、今もモルフェウスの射撃が降り注いでいる領域なのだ。

 そりゃあ敵はこの広間を埋め尽くしているのだから、モルフェウスの射撃も広範囲に散らしているけれど。それはつまり、ろくに狙いをつけていない矢が撒き散らされてるってことだ。

 そんな状況で前に出てしまえば、前の怪物と後ろの射撃で挟み撃ちの構図になってしまう。何が悲しくて味方の背中を攻撃しなければならないのか。

 何より、

 

 「小人族の戦士にどうこう出来る盤面じゃないでしょう……!?」

 

 単純に、モンスターの数が多い。

 モルフェウスの射撃を雑にしている一番の理由は、雑にしていても当たるからだ。狙っても狙わなくても当たるのだから、わざわざ狙ってやる必要もない。

 上層最下層、12階層の広間を埋め尽くす程の数である。素直に白兵戦を仕掛けるのは下策だ。一匹殺す間に八つ裂きにされるだろう。

 12階層で探索出来るまともな一党(パーティ)がこの状況に直面したなら、まず逃走を図るだろうし、もし戦うにしても、通路まで引き返してから壁役(ウォール)を立てて、魔導士の砲撃に期待するしか勝ち目はない、それほどの大群。

 

 ───そんな〝死地〟に、よりにもよって小人族(パルゥム)の戦士が突撃するなんて!

 ───早く『人形姫』の治療を行いたいのも、どんどん近づいてきてる強大なモノから逃れたいのもわかるけれど、それはあまりにも無謀すぎる!

 

 はたして、呪的資源(リソース)を温存している余裕はなくなった。

 心中で変わり者の小人族の評価をやや下げながら、馬上より飛び降りる。恩人が致命傷を負う前に連れ戻さなくてはならない。あたしが前線に立つ以上、『友人』の誰かを『起こして』、『人形姫』を預けなければ。

 こちらから距離を詰めてしまうのだから、近接戦闘に秀でた友人も『起こす』必要があるだろう。モルフェウスの範囲攻撃は中距離でこそ効果を発揮するのだから。

 ともかくまずはモルフェウスに射撃を中止させなければ───そう考えて、発声のために息を吸った、その時だった。

 

 

 

 

 

 「《観測(スコープ)開始(イン)……私は月を奉ずる者》」

 

 

 

 

 

 ───直截に言って、見惚れてしまった。

 

 

 

 侮っていたのは認めよう。

 彼の実力を知る術はなく、得物の性能から『下級冒険者の上位』と推察する程度だった。

 小人族の戦士なんて()()()()()()肩書きも、その侮りを増長させていたと思う。

 

 けれど。

 これは───ズルいと思う。

 

 「……アレが、下級冒険者ですって?」

 

 小人族の戦士は、健在だった。

 数多の爪牙に小さな身体を抉り散らされることもなく、鉄の鏃に射抜かれることもなく。

 鉄のような冷徹さで、モンスターを殺していた。

 つまり───並みの戦士ならば十度命を落とし、百の傷を負うだろう、爪牙と矢の乱れ舞う戦場で、無双していた。

 恐ろしいのは、それが英雄の所業ではないということだ。

 一太刀で百の軍勢を斬り払うような剣はなく、頑強な体躯をもってあらゆる暴力を弾いているのでもない。強いて言うなら才能には恵まれているのだろうか。

 背後から飛来する矢を避けて、波のように襲い来る怪物共の爪牙を凌ぎ、一太刀で確実に一匹の怪物を屠る。

 それがどれほど困難な物事なのか、どれほどの鍛練による成果なのか、剣を握ったことのないあたしにはわからないけれど。

 特別な身体を持つあたしには、わかってしまう。

 

 全ての怪物を十全に殺す剣技。

 僅かな機動による紙一重の絶対防御。

 それらを成立させているのは、極められた精密動作だ。

 人体の為し得る極致のひとつ。血肉の一滴、吐息に至るまで突き詰められた肢体と、完成された技巧の融合。

 

 ……女神イシュタルの眷属たるわたしが保証しよう。

 方向性は思いっきり、思いっきり違うけれど。

 『彼女』の()()()は、美の女神と同等だ───!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 「貴方、名前は?」

 

 と、馬上のアマゾネスは口にしたのだった。

 既に怪物共は姿を消しており、早急に今後の方針を固めなければならない時機(タイミング)である。

 そんなことはどうでもよろしい、と言い切ろうとも考えたが、どうにも彼女の様子は岩にも似ていて、答えを得るまでは会話を拒否するように思えた。

 

 「……フリューガー。フリューガー・グッドフェロー」

 「そう。フリューガーね。───覚えたわ。貴方のことはしっかり覚えた。じゃあ、お返しするわ」

 「はっ?」

 

 ひょい、と金の少女を投げ渡される。重傷者になんて仕打ちをするんだこの少女は。

 いや、それよりも話を───。

 

 「あれは、あたしがなんとかする」

 

 耳を疑った。

 だって、この子は間違いなくLv.1だ。問いたださずとも理解できる。【ステイタス】的には恐らく私より格上、しかし最上級ではない。

 モルフェウスと呼ぶゴーレムを足したとしても、敵う相手とは思えない。

 何より、あの竜を相手取るのは───!

 

 「元々あれの相手はするつもりだったし……あんなのを見せつけられて、黙ってられるほど大人じゃないの。じゃあ、フリューガー、()()()

 「YAFUUUUUUUUUUU!!!」

 「───待て、話をっ、待って!?」

 

 そうして、騎兵は駆けて行った。

 どうすることもできなかった。

 名も知らない彼女は、散歩するような気軽さで、絶対の死地へと赴いたのだ。

 モルフェウスと呼ばれていたゴーレムに追い付ける【敏捷】も、負傷者を負ったまま戦う技術も、私にはない。

 だから、今腕の中にいる子を、あの少女に託そうと、そう思っていたのに。

 

 「……そこは、逆だろうっ!? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……! どうして私は肝心なところで【幸運】なんだよぉ……!?」

 

 それでも、走る。

 託せなかったのなら、やはり、走らなければ。

 『求めるもの』から離れても、走らなければ。

 

 だって、私が死んだら───きっと、この子も死んでしまうから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 主人公の心情を上手く表現できているか不安ですが、多少ミスをしてもまあ誤差だよ誤差! と気楽に書くことを心がけようと思います。ユルシテ。
 
 
 

 誤字脱字、ご指摘などありましたらどうぞご一報くださいませ。

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