TSロリが逝くダンまちゲーRTA   作:原子番号16

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 難産だったので初投稿です。
 説明ばかりになってしまって申し訳ない……

 佐藤東沙様、鳥瑠様、封印されしアザラシ様から誤字報告をいただきました。ありがとうございます。


Lv.2→Lv.3
mp.11『命名/灰別』


 

 

 

 

 

 

 『アイズ起きませんねぇ……そろそろフリューくんちゃんも限界なのですが───っと危ない今のは危なかった』

 

 

 『これは再走ですかねー、【実験体】ガチャも爆死してる訳じゃないし、魔力特化の体質も記録更新狙えそうで惜しいんですけど……このまんまだと流石に無理です』

 

 

 『───はい、終わりですね。俺の負け! なんで負けたか次走までに考えといてください。アイズが起きてくれなかったからじゃないですかね? ……アスPのハイポで治癒出来ないはずはないと思うんですけどねー……【耐久】の乱数で最低値引いてたのかな───おや? この希望の花が咲きそうなBGMは……(棒)』

 

 

 『おっと!? アイズの様子が……!! ピポピポン! テッテッテッテー テッテッテッテー↑ テッテッテッテー テッテッテッ ───』

 

 

 『おめでとう! アイズは英雄アイズに進化した! ───うわああああああああああああああああチャートさんが逝ったぁああああああああ!!! あああああああああああもう無理ぃぃイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ───』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 逝ったけど逝ってなかったチャートで無理くり走るRTA、もう始まってる!

 

 前回、アイズが謎の英雄ルート入りしたりワイヴァーン戦の後処理をしたり夜空の下でプロポーズ()されたりした後日からになります。

 未だ疲労が完治しておらず、ろくに行動できない時間が続きます。なので、ベッドの上でりんごを咀嚼(そしゃく)するフリューくんには右枠に退いてもらい、ここで『再走していない理由』と『新規に獲得した特記事項・スキル』、『次の目標』についてお話ししとうございます。

 

 まず、再走していない理由について。

 というのも、アイズからの好感度が一定以上になった時点で、専用のチャートを組んでいない限り、再走するのがベターです。

 アイズと仲良くなると毎日のように押しかけられて付き纏われて交流(K)! 冒険(B)! 親愛(S)! の三点コンボを決められ、更にリヴェリアを筆頭とする他キャラクターとの関わり合いを強制されます。あ^~(憔悴)

 無論、アイズと仲良くなること自体難易度が高いので、基本的には気にしなくてもいいのですが───『ワイヴァーン戦』で共闘する程度では問題ないのです───今回はなーぜーかー、アイズからの好感度が非常に高くなってしまっており、ワイヴァーン戦の時点では再走するつもりでいました。

 それを踏まえて、なぜ走り続けているのかを説明します。

 

 といっても理由は単純で、アイズが英雄ルートに入っていること、スキル【星天旅路(ステランナーズ・オデッセイ)】と特記事項【揺るぎなき信仰(星)】を獲得出来たからです。

 

 一つずつ見ていきましょう。

 

 アイズの英雄ルート入りですが、これを説明するにはアイズの特性についてお話しする必要があります。

 皆様もご存じの通り、アイズは『英雄』と『精霊』の子という極めて特殊な出自をしています。それ故に、複数のフラグを踏んだり踏まなかったりすることで、アイズの技能や性格が変化するのです。

 派生先は四つ。

 魔法を捨て、代わりに〝英雄の剣筋〟を振るう通称『剣士アイズ』。

 剣を握らず、魔法の運用に特化した通称『精霊アイズ』。

 【恩恵】獲得までアイズに関わらない、または上記二つのフラグを半々くらいに踏むと発生する通称『原作アイズ』。

 そして、アイズに『英雄になりたい』と強く願わせることで誕生する通称『英雄アイズ』。

 この四つのうち、今回は英雄アイズになった、という訳です。

 そして、先程言ったように、アイズ・シリーズはそれぞれ性格が異なるのですが、英雄アイズはアイズ・シリーズで最もコミュニケーション力が高く、モンスターへの憎悪が精霊アイズの次に低いのです。

 

 一言で纏めると、『みんなと仲良くなれるアイズ』になります。

 

 そして、みんなと仲良くなる仕様上、他のアイズよりも好感度を稼いだ際のリスクが少ないです。なにせ他のキャラクターとも同じように仲良くなっていますので、他のアイズのように過度に執着されたりしません。

 ですので、英雄アイズなら……と妥協したんですね。

 いやキツイのですが。

 

 次にスキルを見ていきます。

 

 【星天旅路(ステランナーズ・オデッセイ)

 ・完全走行。

 ・《直立》時、全アビリティ補正。

 ・如何なる条件下でも天空視認可能。

 

 重要なのは一番上の『完全走行』。

 これ、極めて強力なレア技能です。

 特記事項の【資質:完全走行】がAランク、と言えばそのヤバさが伝わるでしょうか。

 その効果は〝歩行能力のカンスト〟。所有者の『歩く』、『走る』動作を完全なものとします。

 具体的には()()()()()()()()()()()()()()()()()、かつ擬似的な【縁下力持(アーテル・アシスト)】になります。つまり最強だな……?

 

 最後に【祝福:揺るぎなき信仰(星)】。

 (星)がついていることを除けば、原作開始時点のオッタルが持ってるヤツです。

 ランクは堂々のA! その効果は、強力な『精神防御』と、畏怖による『重圧』、瀕死状態での『戦闘続行』です。職業:神官の場合行使可能となる『奇跡』の倍率をガン上げしてくれる効果もありますが、このRTAでは関係ないのでスルーします。

 特に強力なのが『精神防御』で、その倍率はランクAまでの特記事項では堂々の一位。ディックスの呪詛(カース)【フォベートール・ダイダロス】を真正面から打ち破れるレベルです。

 『重圧』はRTA的に嬉しい技能で、敵対した知性体の能力を下げることが出来る他、好感度の調整にも使うことができます。

 もちろん『戦闘続行』も有用です。RTA的には、これのお世話にならないのが理想ではありますが、これがあると安心感があります。走者の心労を減らしてくれる良技能ですねぇ!

 

 あえて欠点を挙げるなら、習得条件が鬼畜なのと、『信仰対象への絶対的な忠誠』が付与されることですが───オッタルを見てもらえばわかりやすいかと───フリューの場合はかなり特殊でして、アイズに対して身も心も全て捧げちゃってはいませんでした。その詳細は今後の動画(はなし)で出てきますので、まあそれまで待っててくれや。

 

 以上が再走していない理由になります。

 デメリットはキツイですが、それを超えるメリットが発生しているんですね。

 本音を漏らしてしまうと、【幸運】と【完全走行】の両立はかなり難しいので、そのデータ取りも兼ねてたりします。

 

 

 ───一旦ゲームの方に戻ります。診療所でゆっくりしてるフリューくんに来客があるようです。

 いやまあアポロン様なんですけどね。毎日お見舞いありがとナス!

 そしてアポロン様によると、フリューくんに新しい武器を宛がってくれるようです。ワイヴァーン戦で失くした湾刀の後継ですね。Lv.2ランクアップ後に武器を新調するのはチャート通りなのですが、これ、ガバです。

 何がガバかと言うと、元々Lv.2へ昇格した際の『お祝い』に『単独(ソロ)探索の許可』をいただく予定だったからです。なので、その『お祝い』を『武器の新調』で潰してしまったのは言い逃れようのないガバなんですね。

 ただまあ、フリューくんがソロを許してもらえるかって言われると……みたいなところはあるので、そう悲観はしていません。

 深夜に勝手に迷宮行って大怪我した奴が『ランクアップしたんでソロ探索させてください』とか言ったところで、駄目です(慈悲) 知ってた(特大赤字) ってなる未来が見えます見えます。

 ただ、ソロ探索させてくれないとやれない事もあるので、出来るだけ早期に得ておきたいです。アポロンからの好感度がここまで高くなるのは想定外でしたので、そのあたりの折り合いをなんとか付けたいですね。

 アイズがいるからソロ探索は無理でしょって? そうねぇ……

 

 

 アポロン様のお話が終わりましたので、獲得したスキル・特記事項の解説をしていきます。

 といっても『再走しない理由』の方で重要なのは語りましたので、残ってるものを軽くお話しします。

 

 まずはスキルから。

 

 【◾️◾️◾️(カイネウス・ブレス)

 ・《耐久》に補正。

 ・水上歩行可能。

 ・《水上》条件時全アビリティ補正。

 ・性自認により変容。

 

 こちらは新規に獲得したものではなく、【半端者(カイネウス・ヴェール)】が変化したものになります。

 雑に言えば【半端者】の劣化版です。

 補正の倍率が軒並み下がり、『受け入れる程に強化』も消えています。

 これだけならはーつっかえ、の一言なのですが、最後の一文が不穏ですねぇ……(棒)

 Lv.3になったらまた内容変わるから見とけよ見とけよ~。

 

 続いて特記事項【資質:英雄信奉者】。

 ベルくんの初期資質の一つなので、既プレイの方はご存じかと思います。

 英雄にまつわる知識判定に成功しやすくなったり、特定の場面で低ランクの勇猛技能が発揮されたりする資質です。

 あれば便利。そんな感じですね。

 

 以上、終わり、閉廷、解散! あったら嬉しいな程度の能力なので特筆する必要なし! です!

 ゲームの方でも進展がありましたので、そちらを見ていきとうございます。

 

 

 ───やあああっと完治しましたよもぉおおん。

 というわけで、フリューくん完全復活です。やったぜ。

 診療所でのほぼ軟禁生活から解放され、ダンジョン探索が許可された訳ですが、まず最初にやるのは……武器の受け取りです。さっきのやつですね。

 ブツはもう用意されているらしいので、早速作り手の工房へ向かいましょう。

 

 相も変わらず路地裏を利用して移動します。

 後継武器ですが、例のワイヴァーン君の素材を使用します。ここが幸運チャートのいいところで、あのワイヴァーン戦でドロップアイテムが出るかはランダムなのですが、【資質:幸運】を持っていると、確実に、かつ上質な素材を落としてくれます。なので、安心してチャートに組み込めるんですね。

 この『【幸運】によって確実に質のいいアイテムを獲得する』手法は今後もお世話になるので、覚えておいてほしいです。

 

 あっそうだ(唐突)。豆知識ですが、アイズは竜を素材にした武具を決して使いません。理由はもちろん、お分かりですね。

 今回のワイヴァーン討伐はフリューくんとアイズの共同になるのですが、そういった場合、ドロップアイテムと魔石は折半するのが定例です。しかし、アイズはワイヴァーン君の素材を受け取り拒否します。売るのにも難色を示す感じです。よってワイヴァーン君の素材は全てこちらが確保出来まして、こうして武器に費やせるんですね。

 ワイヴァーンイベントを通過するメリットの一つがこれです。あのワイヴァーン強化種の素材を用いた武器はほぼ確実に『第二等級武装』になり、それを『中層』に持ち込めるのは大きな利点です。

 ちなみにここまでお話しした時点でお察しかとは思いますが、ワイヴァーン戦直後に気絶したのは酷いガバです。今回は幸いにもロキ・ファミリアの方がドロップアイテムを回収してくれましたが、運が悪いとそのままロストします。まさかあそこまでボロボロにされるとは思ってませんでしたからね、仕方ないね。

 

 

 さて、例の鍛冶師の工房に着きました。

 今回武器の製作をしてくれたのは、なんと【ヘファイストス・ファミリア】の幹部です。

 元々のチャートでは【ゴブニュ】に依頼する予定だったのですが、この変更には幾つかの要因があります。

 フリューくん個人ではなく【アポロン・ファミリア】からの依頼になったことと、【勇者】の介入によるものです。

 先程お話ししたように、本来はフリューくん個人で武器の製作を依頼するはずでした。つまり、『【二つ名】を持たない一般小人族』として依頼する予定だったのです。そうなると【ヘファイストス】では末端の鍛冶師しか斡旋してくれず、せっかくの素材を活かせません。その点、【ゴブニュ】ではお金さえ用意出来れば腕のいい鍛冶師が出張ってくれます。通常プレイ、RTA問わず、名声が足りてない状態で武器を注文する場合は【ゴブニュ】に依頼するのがいいと思います。

 では、そこに【アポロン】と【勇者】がくっつくとどうなるか。端的に言えば名声とコネの問題が一気に解決されます。

 『どこぞの木っ端冒険者からの依頼』が、

 『有名派閥からの依頼で、かつ【勇者】の推薦つき』となるんですね。

 それによって、【ヘファイストス】幹部への依頼が叶ったわけです。

 

 今、扉から出てきた男性がその幹部兄貴です。

 迷宮都市随一の()()使()()にして稀代の()()()()()。湾刀をメインウェポンにするなら是非お世話になりたい、名ウテの鍛冶師です。

 RTAで顔を見る機会はありませんが、通常プレイで湾刀を使うなら、この鍛冶師が一番だと思います。

 

 といっても、幹部兄貴とフリューくんの関係は依頼主と鍛冶師以上のなんでもありませんので、特に会話はありません。さっさと武器を受け取って帰りましょう。

 

 

 ……と、行きたかったのですが。

 この鍛冶師、武器の命名は担い手に一任するスタイルだったりします。

 そして、フリューくんにとって、『名前を与える』というのはとても大事なことだったりします。

 つまり───武器の命名にめっちゃ時間を使いました。

 ガバかな。ガバかもしれん。ままええわ。いや、これは仕方ないと思うのですが。どうでしょうガバですかね?

 『入力速度を考慮してほもにしろ』とか言われそう(未来予知)。それが出来たら苦労しないんだよなぁ……。

 

 あっそうだ(思い出し玉)。

 今回、フィンのコネによって、幹部兄貴への依頼が通ったのですが……

 つまりフリューくん、現在『フィン監修の武器を携行する女小人族』となっております……

 ……ッスー……いい……天気ですね……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 コンコンコン。

 控えめに響く音が、男の鼓膜を震わせた。

 煤と鉄の香りに満ちた、鍛冶師の工房である。

 むくりと上体を起こす。寝ぼけ眼で見回せば、どうやら作業を終えた後、そのまま床に転がり眠りこけていたらしい。

 なにせ徹夜での鍛冶作業、それも今までにない依頼だ。構想を練り、試作を繰り返し、そうして完成に至ったのが、さて何時だったか。

 工房の主はのろのろと歩を進め、机に放られていたパイプに火を点けた。工房に紫煙が満ちる。嗜好品を兼ねた賦活剤である。難儀な依頼をこなした後はこれを吸うのが鍛冶師の日常だった。

 そうして頭のもやを晴らした鍛冶師は、ふとあることに気づいた。

 自分を起こした音。来客。期日。依頼主。

 紫煙の立ち込める工房。ゆらゆらと舞う煤。鉄の香り。

 男は換気の必要性を感じ取り、依頼主にしばらく外で待ってもらうよう伝えるべく扉を開けた。

 はたして、そこには誰もいなかった。

 

 「あん?」

 

 右を見て、左を見て、もう一度右を見る。

 いない。

 

 「下です」

 

 ───いた。

 なんかいた。

 なんかとしか言い様のない変なのがいた。

 いやにくぐもった肉声。てるてる坊主を思わせる、肌の露出の一切を排した風体。冒険者とは思えない劣悪な体格。つまりは不審者。

 自然と腰に手を添えて、佩剣していない迂闊を思い出す程度に、推定依頼主は変なのだった。

 

 「武器を、受け取りに来ました」

 「……あー……すいやせん、なんぞ証明出来るモノは持ってますかね」

 「あります」

 

 どうやら、依頼主らしかった。

 『これが武勇名高きブレイバーの〝推し〟か』と、男は驚けばいいのか呆れるべきか迷った。

 

 

 ───なんて思っていた鍛冶師だが、太陽がバベルの頂に届く頃、その評価は大分変わっていた。

 

 「むん……むん……」

 

 依頼主は───フリューは、唸っていた。

 簡素な(こしら)えの鞘を、ひいてはそれに納められた一振りの刃を前にして。

 抜きもせず、触りもせず、じい、と見詰めていた。

 無論、布で覆い隠された視線を窺い知ることは難しいが、実際まあなんとなく察せられる。

 なにせ、鍛冶師が何も言わなければ、フリューはずっと同じ姿勢で、同じように唸っているのだ。

 放っておけば物言わぬ地蔵にでもなっていそうなので、鍛冶師は定期的に声をかけているのだった。

 

 「そんなに決められんもんですかい」

 「すみません」

 「や、別に。聞きたいって言ったのは俺ですんで」

 

 そう、この奇妙な空間は鍛冶師の一言によって生まれたのだ。

 『命名は任せるが、俺にも教えてほしい』。

 鍛冶師はいつもと同じように依頼主にそう言って、現在、フリューはめちゃくちゃ悩んでいた。

 

 ───まあ、悪い気はしねえが。

 

 究極、武器は消耗品だ。

 肉切り包丁などと呼ぶつもりはないが、正しく扱えば刃零れなど起こるはずなしと(のたま)う奇人に耳を貸すつもりもない。

 戦場を試合場と勘違いしている達人とやらを、鍛冶師は何人も見送っている。

 壊さぬよう使い、壊れるまで使う。そうして新しい武器を握る。そういうものだろう、と鍛冶師は考えている。

 故に、武器の名付けはぞんざいなくらいが丁度いい。

 だが、懊悩される分には嬉しいものだ。

 

 ───懊悩ってほどふらふらしちゃあいねえか?

 

 工房の隅っこに視線を飛ばす。

 思索に耽るその様は、さながら難問に挑む学者か、神の啓示を欲する巫女のようで。

 それらに共通するのは、洗練された専心だ。

 自分の作品の命名に長時間懊悩している時点である程度の好感を抱いているのだが、鍛冶師の目には、フリューの『一つの物事に集中する』技能が特別なものに映っていた。

 

 ───無名(Lv.1)の剣士に出来るもんじゃねえ、と思うんだが。

 

 多くの鍛冶師が炉と槌と鉄と向かい合う際、理想とするのは『没頭』である。目の前の炎、鉄の音色、打ち手を残して世界全てを消し去ることこそ鍛冶師の理想だ。

 そして、この依頼主(フリュー)の専心は鍛冶師の理想からは程遠いモノだと男は感じていた。

 専心にも種類があり、それぞれの理想がある。鍛冶師の理想、巫女の理想、剣士の理想。通ずるものはあれども、その深淵は異なる。

 そういう意味で、フリューの専心は鍛冶師のそれとは異なる。

 異なるが、名無し(Lv.1)が持っていていい練度ではない。

 なので、気になる。

 

 「振ってみりゃあどうですかい」

 

 つい、口に出ていた。

 

 「有名な話がありましてね。振るうと風切り音が燕の飛び去るようなんで、その銘を〝紅燕〟と。使ってみて初めてわかる事もあるかもしれません」

 「……しかし、ここでは」

 「素振り程度なら問題ねえです」

 「……ん……む」

 

 至極真面目な顔で口にしたこの鍛冶師、頭の中は『この剣士が本業をしている様を見たい』で染まっていた。

 対し、フリューは僅かに逡巡する。自分の種族と職業が、つまりは『小人族の剣士』という肩書きがもたらす恩恵を団長その他から語られているフリューである。無駄に注目されてはいけない立場でもある。はたして、目の前の男性に剣を見せていいものだろうか。

 ───いいか。【ヘファイストス】の幹部だし。

 あとはそう、いい加減フリューも煮詰まらない名付けに疲弊していた。

 

 「では」

 「おう」

 

 すっくと立ち上がり、フリューはその湾刀を抜いた。

 露になる()()の刀身。小人族のために拵えられた武装は軽く短く、しかし斬れ味は申し分ない。

 会心の出来だという自負が、鍛冶師にはあった。

 小人族用の湾刀を打つのは初めてだったが、その程度で音を上げては【ヘファイストス】の名に恥じる。お陰で連日の徹夜を強いられはしたが、まあそんなのはいつものことだ。

 鍛冶最大手派閥幹部の面子を保てたことに改めて安堵した男は、フリューが刀を構えたのを察知し、緊張感皆無の心持ちで観戦の姿勢をとった。

 

 「……」

 

 素振り。

 そういえば、最後にそれをしたのは何時だったか。

 早朝から深夜まで迷宮に潜り、残りの時間は全て休息に宛てていたフリューにとって、その基礎的な鍛練は酷く懐かしいものだった。

 医神と共に生活するようになる前、本拠に居た頃はしばしばやっていたが、それも社時代に比べればあっさりしたものだ。

 悪いことでもあり、良いことでもあった。

 フリューにとって、素振りとは剣の糧ではなく、己の身体から目を逸らす手段でしかなく。

 ただ只管(ひたすら)に専心し、自分の全てを世界から消し去ることを目指していたのだから。

 

 「ふぅっ───」

 

 それも今は叶わない。

 その願いはフリュー自らの手で斬って捨てている。

 今の望みは、目を逸らさないこと。そして、アイズの力になること。消えることも、死ぬことも許されない。

 故に、フリューの手の内にある輝きは特別すぎた。

 

 ───あのワイヴァーンの剣……

 

 瞼の裏に映る死闘。

 自身の死をも(いと)わず、壮絶な決意をもって己を殺しにきた翼竜が、姿を転じ、刃となった。

 

 「───重い……」

 「えっマジですかい?」

 「荷が、重い」

 

 フリューにとって、()()はあまりにも大切すぎた。

 

 「おれは名前しか残せなかった」

 「……」

 「名前だけに(すが)りついて、今の今まで生きてきた。───そんな男が、名付けなんて」

 

 顔も、声も、性別さえも、彼/彼女には残されず。

 ただひとつ、これだけは失いたくないと願い続けたものこそ、名前だった。

 それを失えば終わるという確信があった。

 名前を失えば、『男だった』という確信も消える。

 そう名付けられた自分と今の自分が異なるものだと思えなくなる。

 そして───何もかもを忘却して、可愛い可愛い女の子に成り果てるのだろう。

 

 だから名前は大切だった。

 名も知らぬ両親から、顔も判らぬ自分に贈られて、今も残っている唯一のものだ。

 フリューにとって、それはあまりにも大事だった。

 

 

 

 

 

 ()()

 

 多くのものを容易に奪われた自分は、本当に、名前だけは奪われていないのだろうか?

 

 本当は、()()()()()()()───。

 

 

 

 

 

 

 「ッッッ───!!!」

 

 烈破の気合いをもって、フリューはその『疑念』を振り捨てる。

 会心の一振りが工房を斬り裂き、静寂を為す。

 酷く、汗をかいていた。

 前後の感覚が怪しい。

 名前はとても大切なものだ。

 名付けはとても大事なことだ。

 だから、自分がそれを行うのなら、真剣に考えたい。

 それで『考えてはいけないこと』に突き当たる度に、気が狂いそうになるので、こんなことはさっさと終わらせてしまいたい。

 真剣に考えたい。

 もう考えたくない。

 どちらも、フリューの本心だった。

 

 「……おい、大丈夫かっ?」

 

 異様な雰囲気を感じ取った鍛冶師が、顔の隠しを取り上げる直前。

 それを制するように、幼げな声が響いた。

 

 「〝灰別〟……というのは、いかがでしょう」

 

 フリューの肩に、妖精が腰かけていた。

 

 「『灰色(グレイ)』とは『どっちつかず』。それを我が王、貴方はあの夜……あの腐れ幼女趣味トカゲ野郎との対決で(わか)ち、選択し、勝利しました。この剣はその象徴であると、私は考えます」

 

 死にたいと願う自分と生きたいと願った自分。

 『女』の身体からも、消え逝く『男』からも目を逸らしていた自分。

 あの夜、あの戦いで、それは(わか)たれた。

 暗き死の誘惑を退け、薄明の生を選び取り。

 『女』の身体をしかと認め、しかし己は『男』だと。

 文字通り白黒はっきりつけた後、その手にあるのは『純白』の刃。

 故に『灰別』。決断の証。

 

 「……〝灰別〟」

 

 口の中で転がすように、フリューはその()を復唱する。

 良い響きだと思えた。

 己を燃やすように最期まで戦い抜いた、あのワイヴァーンの武具に相応しい名だと。

 灰色(グレイ)からの決別にして、星のように燃え尽きた竜の(遺物)

 

 「今から、お前は〝灰別〟だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 カァンッ、カァンッ───。

 

 鉄の音を伴って、鍛冶師は槌を振るっていた。

 「あれだけ振るえるんなら、それ用の調整をしてやる」と告げての、ただ働きである。

 耐久性をやや削り、威力と斬れ味を突き詰める。

 

 「勘違いしてたんだが」

 

 刀身の具合を精査しながら、鍛冶師はフリューに声をかける。

 

 「少し前の翼竜騒ぎ、上層に出たっていうワイヴァーンを殺したのは【ロキ】んところの世界最速記録保持者(レコードホルダー)って聞いていたが……あれ、お前だろ」

 「……」

 「今回の依頼人は【勇者(ブレイバー)】のお気に入りって聞いてたんで、【剣姫】が殺したワイヴァーンの素材を流用したのかと思ってたんだが。さっきの口振りだと、なぁ?」

 「……アイズと一緒に、殺した」

 「んじゃあ『名無し(Lv.1)』ってのは嘘だな。───そんな顔すんな、言われなくても口外しねえ。そいつのこともな」

 

 一瞥すらくれず、鍛冶師はパックについて触れる。妖精を従える者は稀であり、大抵神々の間で取り合いが発生するが、鍛冶師にはどうでもいいことだった。───当の本人(パック)は工房の煤で遊んでいる辺り、察せられていたようで癪だが───。

 実際【二つ名】はあんのか、と問えば、与えられていないと返ってくる。

 なんぞ事情があるのだろうと、鍛冶師は雑に納得した。

 結局のところ、鍛冶師と依頼人の関係でしかないのだし、そいつの全てを知らなくとも武器は打てる。

 少なくとも、今は。

 

 「よし、こんなもんだろう。握ってみろ」

 「……これは」

 「より軽く、より鋭く、より脆く。ぶっちゃけ芸術品三歩手前だな。俺が普段使いしてるヤツよりゃあマシだが。それで、どうだ」

 「先程より、馴染みます」

 「そりゃあよかった」

 「……ありがとうございます、鍛冶師殿」

 

 では、と改めて礼をしようとしたフリューから、鍛冶師はひょいと〝灰別〟を取り上げた。

 きょとんとする依頼人に、鍛冶師は言った。

 

 「ディーノ」

 「……?」

 「俺の名前だ。そんで、名刺。お前にやる。こいつがあれば、俺並みの奴等と顔を合わせるくらいは出来るだろう」

 

 言外に、誰にでも渡しているものではない、と告げるディーノ。

 困惑するフリューに、彼はにぃ、と笑った。

 

 「そいつの整備は難しい。本格的に消耗したら持ち込め、俺がしてやる。その代わり、いつかてめぇの【二つ名】を思いッきり言えるようになったら、俺に教えろ」

 

 差し出された手を、フリューはしばらくぼうっと見ていた。

 ディーノは辛抱強く待ち、パックは目を細めていた。

 そして。

 おずおずと、小さな手が重ねられた。

 

 「……よろしく、お願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 










『星天旅路/ステランナーズ・オデッセイ』
 ステラ(星)+ランナー(走る人)+オデッセイ(帰郷譚)。
 スタミナ減少無効+αスキル。
 移動と戦闘を繰り返す迷宮探索において極めて強力かつ有用。素の移動スピードにも補正をかけ、一定以上の装備過重による素早さ減少も無効化する。
 立ち止まっている時は適用されないため、重装歩兵運用は難しい。


『アイズ・シリーズ』
 イーブイと化したアイズ。
 特異な出自のアイズは、細々とした調整か、あるいはとんでもないイベントを起こすことで、その成長先を変えられる。
 自己解釈の産物なので、話し半分にご覧になってほしいです。

 剣士アイズ。
 『父親』の剣を振るう、ガチガチの剣士です。
 イメージは『泣き枯れる前に剣を執ったアイズ』。
 シリーズで最も【復讐姫】の倍率が高くなっています。
 心中のアイズは完全に消えています。

 精霊アイズ。
 『母親』と『自分』の風を振るう魔導士です。
 イメージは『泣き枯れる前に英雄と出会えたアイズ』。
 【復讐姫】はありません。
 心中のアイズをそのまま成長させた感じです。

 原作アイズ。
 いつものです。
 剣士と精霊のいいところと悪いところを兼ね備える、両刀使いです。
 上記二つより特殊な状態で、ここから『剣士』『精霊』などに変化する可能性があります。ゲーム終了までルートが確定しません。

 英雄アイズ。
 原作アイズをベースに、諸々の数値が加算され、スキル【英雄宿命】を発現しています。

『灰別』
 ワイヴァーン強化種のドロップアイテムを用いて作られた、第一級に若干届かないくらいの第二等級武装。
 資金提供は【アポロン】四割、フィンが六割。アイズとフリューの変則的なパーティ結成にあたり、【ロキ】は複数の援助を【アポロン】に約束した。これはその一端である。
 その性能は『芸術品三歩手前』。実戦で用いるには脆さが目立つ。『芸術品一歩手前』の湾刀を振るうとある鍛冶師が、技量を認めた小人族の剣士のために調整した一品である。


『ディーノ・アルコバレノ』
 ヘファイストス幹部のつよつよ鍛冶師。Lv.3。
 魔剣使いにして研ぎ師。その名の通り専門は魔剣。発展アビリティ『研磨』により、通常の刀剣への一時的な『付与(エンチャント)』を可能とする。湾刀型の魔剣を得物とし、【スキル】と発展アビリティの合わせ技で『クロッゾの魔剣』並みの砲撃を連発する。
 ……言い換えれば、威力だけならLv.1のヴェルフの魔剣と同等。彼の工夫と研鑽、技巧の結実は、【魔剣血統(クロッゾ・ブラッド)】だけで追い付かれる。
 それはディーノの力不足ではなく、ヴェルフの才能があまりにも抜きん出ていたが故である。






 「ぶっぱだけで判断されんなら、そりゃあお前、『魔剣使い』は皆店仕舞いだわな」

 確かなのは、魔剣でパイプに火を点けられるのは、この迷宮都市でも彼くらいということだ。





 ◆◆



 新章開幕から精神不安定なよわよわパルゥムでした。
 はたしてこの先生きのこれるのだろうか……

 多忙につき更新頻度が死んでいますが、完結目指して頑張ります。
 誤字脱字などありましたら、ご報告いただけますと幸いです。また、感想などをいただけますと、作者は嬉しくなります。
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