TSロリが逝くダンまちゲーRTA   作:原子番号16

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 ダンまち×まちカドまぞくのクロスオーバーで『ダンまちカドまぞく』とかいう変なのが思い浮かんだけれど文章作るのが無理すぎたので失踪します。
 初投稿です(矛盾)
 二連続で幕間ってRTA風小説としてどうなんでしょう……

追記
 佐藤東沙様から誤字報告をいただきました。ありがとうございます。『話』と『話し』の違いは大きいねんな……
 名もなき一読者様から誤字報告をいただきました。ありがとうございます。


幕間『太陽神のファミリア』

 『グオオオオオオオオオッッ!?』

 

 叫喚が連鎖する。

 一挙動で両断された怪物が断末魔を伴って崩れ落ちる。

 戦場における彼女の動きは単純だった。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 彼女にとってはそれが全てで、彼女が他の戦法を採用する理由をこの階層のモンスターは与えられなかった。

 

 『───オオオオッ!』

 「しッ」

 『ガッ───』

 『オオオオオオオッッ……!?』

 

 背後から強襲してきた《ダンジョン・リザード》を回避と同時に斬殺し、そのまま目の前の《コボルト》の素っ首を叩き落とす。

 戦闘は終わらない。

 攻撃後の隙を突くように遠方から放たれる『舌』。新人冒険者を苦しめる遠距離攻撃───《フロッグ・シューター》の狙撃は、しかし彼女には届かなかった。

 鈍色の刃が稲妻のように閃く。

 中空で半ばから断たれたピンク色の舌が、鮮血の海に沈む。

 

 『ギッ、イイイイイイイイッ……!?』

 「そりゃビビるよね。同情はしないけど」

 

 なにせ近づいた順に斬殺されるのだ。確実な死を前にして尻込みしない生物は───いやモンスターってのはそういう生物のはずなんだけど。

 ともかく死にたくないって気持ちはわかる。助けはしないが。

 それに、ほら、もう手遅れなのだし。

 

 「───っ」

 

 無音の肉薄。

 喉笛をかっ切る剣閃。

 それで終いだ。この哀れな《ゴブリン》は、自分の血液に溺れて死ぬ。介錯してやる気は起きない。

 そして、『前衛』が全滅したのだから、『後衛』の辿る末路も決まっていた。

 僕達の視線の先には、さっき舌をぶった斬られた《フロッグ・シューター》。

 唯一の、そして自慢の武器を失った怪物が始末されるのに、そう時間はかからなかった。

 

 「───っ、はぁ、はぁ」

 「ほい戦闘終了。処理する間にこれ飲んどきな」

 「……ありがとう、ございます」

 

 ふう、ふう、と息を荒げる少女に水袋を放り、血の海に沈む死体を漁る。

 彼女が始末した怪物からはドロップアイテムがぽろぽろ出てくるんで、大型のバックパックは既にかなり埋まっていた。

 現在、ダンジョン上層、()5()()()

 新米がゴブリンをぶち殺してから半年間生き延びて、装備なり経験なりがだんだんと積み重なってきた頃に行き着くこの階層で、『変なの』は鏖殺を働いていた。

 

 「はあ、はふ、はっ、はぁっ」

 

 ずだ袋をつけたまま、器用に水を呷る、変なの。

 既に鞘に納められた鉄刀は、幾つもの戦場を経た今もその斬れ味を損なっていない。

 それは彼女の技量の証明であり、だからこそ困惑は広まるばかりだった。

 

 「……」

 

 どれ程の時間、剣に身を捧げたのだろう、そう思わずにはいられない『業』。

 もはや我には剣しかいらんと開き直った剣鬼が、果てしない鍛練を経てようやく辿り着くような剣技。

 それを、齢いくらかの女児が身に付けているという事実に、怖気が止まらない。

 何が、どうして、こうなったのか、理解できないし、したくもない。

 

 「これ、ありがとうございます」

 「───、あぁ、うん」

 

 少し中身の減った水袋が差し出される。

 その、差し出された小さな手を、抜き身の刀剣と見(まが)った。恐らくは柔らかいんだろう手を、鈍く輝く刃と。

 深く息を吸って、吐く。

 脳裏に思い起こすのは、彼女の剣技。

 

 ───血の滲むような、なんて言葉はあるけれど。

 

 血の滲むような、という段階は既に過ぎ去っている。彼女の剣はもはや血肉そのものだ。

 磨き抜かれた『業』は彼女自身と混ざりあって、手足の延長、新たな臓器と化している。

 血の一滴、呼吸に至るまで、剣を振るうことを前提とした戦闘機構。

 

 「……いやあ、お見事。()()()()だね。神様に習ったって言ってたけど、どんな(ひと)なのかな」

 「……」

 

 沈黙。それは回答拒否とイコールではない。言葉を探している仕草。

 

 「……優しいお方です」

 

 親に買ってもらった玩具を見せびらかすような、あるいは、最愛の人から贈られた指輪を擦るような、喜悦と誇らしさの混じった声色。

 

 ───ああ、クソ。くそったれ。

 

 はしたなく舌打ちを打ちかけて、(すんで)のところで自制する。

 団長としてどうかと思うが、彼女に剣を教えたらしい神様とやらを思いッきりぶん殴ってやりたい。

 この小さな女の子が差し出した親愛への報酬が『こんなもの』だっていうんなら、僕はどうにかなってしまうだろう。

 

 「団長」

 「ん? ……ああ、そうか、そうだった」

 

 呼び掛けられて、砕ける程に冷え切っていた思考に熱が戻る。

 目の前には、第6階層へ続く階段。

 先に進むのか、戻るのか、彼女はその判断を立場が上の僕に仰いだのだ。

 

 ほんの少し、考えて、告げる。

 

 「行こう、第6階層。そこで、君にはあるモンスターと戦ってもらう」

 

 

 

 

 

 

 立ち塞がる《キラーアント》の群れを、適当に殲滅する。

 この身は第二級に座する器なれば、上層のモンスターを相手取るのに一行(ワンターン)もかからない。

 

 「ドロップアイテムはなしか。やっぱそうぽこじゃか出るようなもんじゃないよな……」

 「……その、やっぱり、荷物は」

 「当然、僕が持ってるからね」

 

 丸々と太ったバックパックに魔石を放り込む。

 ここまでの戦利品を背負ったまま戦闘に臨む僕に、彼女は気を遣ってくれているらしかった。

 

 「今日の主役は君だ。それはこの階層でも変わらない。君にはアレと戦ってもらう、他の奴等は僕が狩る、だから荷物は僕が持ってる。いいね?」

 「……」

 

 こくり、と、もはや見慣れてしまった光景に苦笑を返す。

 同時に、この子を過酷に叩き落とし、その()()を見定めようという己の思惑に胃が悲鳴を上げる。

 これだから団長という立場は嫌なんだ、と愚痴るのもつかの間。待ちに待った瞬間が訪れようとしていた。

 

 

 ───ピキリ。

 

 

 モンスターが、ダンジョンによって産み出される。

 ひび割れる壁面。響く破砕音。ぽろぽろと零れ落ちる迷宮の破片。母体を傷つけながら、ぐい、と身体を押し出すように、その異形は姿を現した。

 ゴブリンやコボルトと同じ、人型のモンスター。

 彼等と異なるのは、外見の不気味さはもちろんのこと、既階層の怪物とは一線を画す戦闘能力だ。

 ───《ウォーシャドウ》。

 その外見を一言で表すなら、『顔面に鏡を張り付けた全身黒タイツの成人男性』だろうか。

 戦の影(ウォーシャドウ)の名に(たが)うことなき漆黒の痩身に、両腕の先には下手なナイフより鋭い爪を備えている。

 第5階層での探索に慣れ(飽きて)、不用意にひとつ下の階層を訪れた新米冒険者の多くを葬る、恐るべき【初心者狩り】だ。

 

 「では」

 「……いや、待って」

 

 接敵(エンゲージ)する間際、僕は彼女を留めた。

 素直に突撃姿勢を解除する変なのに、努めて普段通りの声色で、その『条件』を伝える。

 

 「三分間、攻撃なしで、凌いで。いい?」

 「───」

 

 ……こればっかりは、横に振って欲しかった。

 そいつは『新人』には手の負えない相手なんだと、ちゃんと説明した。だから、拒否されて当然の話だった。何を言っているんだこの人は、みたいな目で見てくるのが正しい反応で、そうしたら僕は適当に弁明して、適当にウォーシャドウを始末して、帰る、そういう話だったのに。

 彼女は、何でもないことのように、首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 ウォーシャドウの突撃が疾風なら、相対するフリューガーちゃんは巌のようだった。

 迫りくる怪物を前に、微動だにしない矮躯。

 その姿を、ウォーシャドウがどう受け取ったのかはわからない。

 戦の影は陽動(フェイント)を仕掛けることなく、愚直に、真剣に、彼女を刺殺さんとその『指』を繰り出した。

 槍のように打ち込まれる鋭爪。

 直撃すれば新米冒険者の《耐久》では受け切れない、鎧具足の有無で生死の天秤が定まる一撃。

 それを、鎧を持たない、小人族の少女は、

 

 「───ああ、クソ」

 

 当然、回避していた。

 それも紙一重。彼女はウォーシャドウの真正面から退かずに攻撃を凌いでいた。

 

 『───ッ!』

 

 声のない咆哮を叫び、漆黒の体躯が躍動する。

 長大な両腕による二刀流(ダブルナイフ)

 怪物の身体能力に物を言わせた斬撃は、単調ながらも鋭い。技量の欠けた一撃は、恐ろしい速さを伴うことで風を切る猛撃と化している。

 無論、新米の域から脱した者にとっては、そう脅威的な代物ではない。

 地道に軍資金を貯め、鎧具足を得たなら、この程度の斬撃は容易に無効化出来るだろう。

 技術を磨き、剣術なり体術なりを修めたなら、攻撃の隙を突いて、お返しと言わんばかりに手痛い一撃を与えられるだろう。

 それ故の【新米殺し】。

 とある武闘派の派閥では、こいつを一騎討ちで仕留めることが新米扱いから脱却する契機とさえ言われているくらい、新米にとっては『脅威的』な、熟練者にとっては『上層の』怪物。

 

 じゃあ、この『変なの』は。

 既に二分が経つ中、未だにウォーシャドウの眼前から退こうとしない小人族にとっては、なんなのだろう。

 

 『───ッ!!』

 

 ウォーシャドウの攻勢が、更に強まる。

 生まれ持つ高い敏捷性を、腕を振ることにのみ費やした怪物の連撃には、目を見張るものがあった。

 拳闘士のラッシュを彷彿とさせる刺突が繰り出されたかと思えば、一転して中空に弧を描く薙ぎ払い、薪を割るような振り下ろし。人類を抹殺するために披露される、醜悪なる(つるぎ)の舞。

 その全てを、フリューガー・グッドフェローは回避していた。

 

 『───ッ!?』

 

 今度こそ、戦の影に焦燥が生まれる。

 届かない。

 当てられない。

 ───退けられない。

 彼女は───変なのは、モンスターの真正面から、全く退かなかった。

 降り注ぐ殺意の雨を、淡々と、最小限の動きで、紙一重で避け続ける。

 薙ぎ払いには僅かに身を屈め、振り下ろされる鋭爪をそっと横にズレて回避。

 怪物の間合いで振るわれる凶器を、間合いの内側に入ったまま、ひたすらに凌ぎ続ける。

 お前の攻撃など脅威に値しない、と。

 小さな小人族は、その立ち振舞いで告げていた。

 

 「……まさに〝死の舞踏(ダンス・マカブル)〟だな」

 

 それは、不可避の死から逃れようとする人々を描いた絵画群に与えられた名前。

 この場合、逃れられないのが何者かは、誰がどう見ても明白だった。

 豪華絢爛(ごうかけんらん)たる死の舞踏(ダンス・マカブル)が、戦の影を破滅に(いざな)う。

 

 『───ッッッ!!!!』

 

 ぐん、と。

 ウォーシャドウの姿が、ぶれる。

 あと数秒で三分といった頃合い。

 自らの破滅を悟ったモンスターが、自壊を(いと)わない戦闘駆動を決行する。

 安物の鎧さえ断つ斬撃は、もはや第6階層の怪物が振るっていい一撃ではない。

 正真正銘、己の命を燃やし尽くさんという、決死の乱舞である。

 

 それを、彼女は。

 

 「ふぅ───っ」

 

 あっさりと見切って、一歩。

 この戦いにおいて初めてとなる、彼女からの踏み込み。

 鯉口を疾走する刃。今か今かと出番を待ちわびていた《鉄刀》が、歓喜の声と共に姿を現す。

 彼女の腰が、肩が、腕が、本来の用途を発揮する。

 研鑽を知らぬ怪物よ。人が編み上げた『業』を知るがいい。───その一閃は疾風(かぜ)のように。

 

 『───……』

 

 ゴブリンのように、コボルトのように、ウォーシャドウの首が飛んだ。

 

 一手番(ターン)

 それで終わり。

 

 彼女は未だに新品同様の刀身を律儀に(あらた)め、血振りをくれ、布で拭い、鞘に納めて、こちらへと振り返った。

 

 「……進みますか?」

 「帰還だよバカヤロウ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 アポロン・ファミリアの本拠の一室に、上級冒険者を始めとする熟練者(ベテラン)が集まっていた。

 どちらかといえば僕は集めた側なのだけれど、ともかく集まったのだ。

 

 「団長、まだ始めないんですか?」

 「ソラールちゃん……ごほん、ソラール殿の不在は気になりますが、既に定刻を過ぎておりますぞ」

 「っていうか、いつものこととはいえ、どこほっつき歩いてるんだ、あの娘は」

 

 幹部である太陽万歳娘の遅刻に、ぽつぽつと不満の声が挙がるけれど、どれも軽口の域を出ないものだ。

 それはひとえに彼女の人柄と、遠征での堂々たる姿を、この場にいる全員が知っているからだろう。

 それでも言葉を出してきた彼等に、団長の僕は重々しく頷いて、後で説教をくれることを固く約束する。それで、終わりだ。

 本当、僕は部下に恵まれていると思う。

 

 「……あ、来た」

 「来ましたか」

 「あの(やかま)しくて賑やかな足音は間違いない」

 

 ばたんっ、と大きな音を立てて、扉が開かれる。

 そこから飛び出してきたのは、太陽のような金の髪の少女。

 

 「───申し訳ない! 遅刻しました!」

 「うん、それじゃあ全員揃ったところで始めようか。アポロン様、よろしいですね?」

 「うむ、やってくれたまえ」

 

 長机から少し離れた椅子に腰かける主神が頷いたのを確認して、会議を始める。

 ここに集まっているのは、皆一様に、新人の教育を担当した者だ。

 始まるのは、戦績の確認である。

 

 「じゃあ、いつも通り『楽団』志望の子から順番にお願い」

 「はい。では、まずは私が受け持った───」

 

 熟練の団員から語られるのは、受け持った新人の今日一日の評価である。

 どんな会話をした、どんな気質だった、何を買った、そしてゴブリンと戦えたか。手元の資料に改めて目を通しながら言葉を交わし、今後の処遇について検討する。

 

 「───というわけで、将来有望と感じました。技量は新米相応ですが、度胸があります」

 「意外だな。入団試験の成績はあまり芳しくなかったようだが……」

 「いや、しかし───」

 

 尤も、今日の目的はそう大したものではない。

 新人講習は、基本、一週間で行われる。

 熟練の団員の元で、七日間をどう過ごしたか。それによって誰それとパーティを組ませたり、熟練者のパーティにサポーターとして編入させたり、本拠で武器の指導を行ったりといった処遇を決定するのだ。

 尤も、初日である今日は、あまり踏み入った話はしない。なにせ、こちらも相手のことをまだよく知らないのだから。

 

 「───あいつには才能を感じる。びしばし鍛えてやる所存だ! うわっはっはっはは!」

 

 入団試験で最も成績のよかった新米の諸々を、ソラールが語り、ついに僕の出番がやって来た。

 ふう、と息を吐いて、努めて普段通りの声色で、僕自身どうかと思う戦果を語る。

 

 

 

 「ウォーシャドウを殺した」

 

 

 

 ……いや、うん。

 わかる。気持ちはとてもわかる。

 なんなら僕だってそっち側に回りたいくらいだ。

 でも、残念ながら夢じゃない。現実。これが現実。

 

 「───」

 

 今日一日の彼女を滔々と語り終えた頃には、会議室には異様な空気が漂っていた。

 もしかしたら、アポロン様はこうなることを見越して僕に彼女を任せたのかもしれない。

 

 「……皆を代表して、一言、問わせてくださいませ」

 「うん」

 

 張り詰めた顔の第三級、突剣使い(フェンサー)の少女が、恐る恐るといった口調で話しかけてくる。

 僕は、出来る限り真剣な顔をして、その言葉に応じた。

 

 「───真剣(マジ)ですか?」

 「───真剣(マジ)です」

 

 彼女は曖昧に微笑んだ。

 僕も笑った。

 

 「真剣(マジ)なのですか」

 「真剣(マジ)なのです」

 

 彼等の反応は様々だった。

 ふううううう、と長いため息を吐いて頭を抱える突剣使い。抱えるとは行かなくとも、曖昧な表情で額に手を添える者が大半。

 それ以外の反応をしているのは、大半が上級冒険者だった。

 ふむん、と思案に耽るのは第三級、エルフの斥候。この場で最も年かさな彼は、冷静に書面を精査している。

 ほぉう、と瞳を輝かせるのは小人族(パルゥム)魔術師(スペルスリンガー)只人(ヒューマン)拳士(ボクサー)。観察対象扱いしてる魔術師はともかく、今にも突撃しかねない拳士の方は注意が必要だろう。

 我関せず、という態度の盗賊(シーフ)は、しかし頭部に生えた猫の耳をぴくぴくぴくっ、と震わせている。

 そして【太陽の騎士】は、どこか気分良さげに、静かに座っていた。

 

 そして、曖昧な空気がついに混沌としたモノに変わろうとしていた時。

 ぱん、ぱん、と拍手が響いた。

 

 「最後に、私の発言を許して欲しい」

 

 椅子から立ち上がったアポロン様が、場の全員を見回してから、僕に目を向ける。

 当然、否はない。

 

 「では。───まずは、我が愛しい子等よ、今日はお疲れ様だった。新人の教育は【ファミリア】の存亡に直結する大事であり、故に君達の功労に私は心からの感謝を捧げる。これから七日間、君達が過去、先達にそうされてきたように、真摯に新米達と向き合ってやって欲しい。

 今日のところはこれで解散とする。が、幹部はここに残って欲しい。話したいことがある。私からは以上だ」

 「他に、何かこの場で報告することはあるかな?」

 

 ……どうやらないらしいので、彼等を解散させる。

 部屋から出る度にかけられる「お疲れ様です」の声に、疲労が飛んでいくような気分で返答する。

 幹部未満の団員達が抜けた後、会議室に残ったのは僕とアポロン様を除いて三人。

 僕が赤子の頃から副団長を務めているエルフの斥候。

 白兵戦ではこの場の誰よりも強い聖騎士。

 爛々と瞳を輝かせている、小人族の魔術師。

 彼等は、自分達がどうして呼び止められたのかを既に察していた。

 

 「───まあ敢えて言わせてもらうと、グッドフェロー()()についてなんだけど」

 「だよねー!」

 

 ぴしゃん、と机をはたく魔術師に苦笑を返す。エルフの斥候は当然といった表情。

 

 「まず神である私が保証するが、先にオルフェが話していた事柄は真実だ。その上で、これを見てもらいたい」

 

 そう言って、アポロン様は僕達に何事か書き記された羊皮紙を配った。

 皆の体が固まる。

 予め伝えられていなければ、僕だって驚いただろう。

 

 「彼の───いや、()()の【()()()()()】だ」

 「あ、それはもうバラしちゃうのですね」

 「うむ。そしてこれらの情報の口外を固く禁ずる」

 

 冒険者にとって、【ステイタス】の内容は生命線といっていい。同じ派閥の仲間にさえ秘匿すべきもの。

 それを、アポロン様は僕達に晒した。

 

 「……これは、なんとも」

 「一言で表しちゃえば、将来有望?」

 「【スキル】が三つ、それもレアスキル。それに加えて【魔法】か。ヤバイな! うわっはっはっはは!」

 

 無論、口外禁止なんてことは既に承知している三人である。彼等が口にするのは彼女のステイタスについてだ。

 レアスキルが三つ。うちひとつは【魔眼】に関わる代物。そして見るからにヤバそうな妖精由来の【魔法】。

 これに今日の戦果が加わるのだ。

 ───将来有望。全くその通りだ。

 

 「つまり、大っぴらに〝特別扱い〟してしまって構わないということですか?」

 「うむ」

 

 そう口にして、少しの逡巡を経て、言葉を続ける。

 

 「彼女は───何か、大きな過去を抱えているようだ。それは彼女を精神的に苦しめている。……何とかしてやりたい。協力してほしい」

 

 簡潔な、それでいて、深い感情の籠った言葉。

 僕たちの返答は決まっていた。

 

 「仰せの通りに」

 「了解です」

 「任せてくれ!」

 「ほ~い」

 

 恭しく、余裕綽々に、元気よく、朗らかに。

 【アポロン・ファミリア】の精鋭は、主神の命を承った。

 

 

 

 

 

 

 

 




アポロン・ファミリア
 Lv.3二人、Lv.2を複数人抱える『探索系』の派閥。規模や地力を示す等級は『C』。
 冒険者業としても成功しているが、同じく『楽団』としても名を馳せている。【悲恋の奏者】を筆頭とする楽士達の技量は、大劇場(シアター)での公演を可能とする程。特に団長は〝歌劇の国〟からマークされている。
 楽士志望の団員は、発展アビリティ【歌唱】または【演奏】の取得のために冒険者業も頑張っている。ヘファイストスさん家が【鍛冶】取りたがってるのと同じ。
 『原作』では【悲恋の奏者】諸共失われている。じゃけんイベントこなしましょうね。


団長殿
 誰だ、この子にこんなえげつない剣技を与えたのは! ぶん殴ってやりたい(直球)(風評被害)
 親に、【ファミリア】に愛されて育った人。
 フリューちゃんを『気まぐれな神に弄くられた子』と勘違いしている。弄くったのはエルフ達なんだよなあ……
 団長として優秀なので慕われている。彼はそれに報いようと頑張っている。過労に繋がらない限り、よい循環だと思います。
 正しく成長させれば後継に出来そうな人材が現れたので、しっかり育てようと決意している。
 作者としては、この人物が好評をもらっていて嬉しく思っています。


ソラールちゃん
 会議に遅れた理由は深く考えていない。なんかしてた。
 予め団長からフリューちゃんの所感を聞いており、実際に本人にも話を聞いていたので、色々と察している。これは期待の新人だぁ……(歓喜)
 幹部勢では一番若年。これで成長過程ってマジ? と団員の大部分から思われている。
 フリューちゃんが女性嫌いだって聞かされてなかったので、(食堂での出来事を)あちゃーと思っている。
 オルフェが団長業に苦しんでいるのを察しており、後継が出来てよかったじゃん、と前向きに捉えている。


エルフの斥候
 五十代。じいや的なポジション。
 Lv.2ながら経験豊富で副団長を務めている。
 出番は多い。
 元ネタは特になし。強いて言うならトロイアの大英雄由来の【魔法】を持つ。(魔法なんて)ないです(無慈悲)。
 ステイタスを見て、戦果とアビリティ上昇値を照らし合わせて、あっ……(察し)となっている。なんでこれだけしか上がってないんですかね……
 団長とは苦しいもんです、と主張している。書類仕事は任せてください。


小人族の魔術師
 二十代。男性。魔法大国(アルテナ)出身。
 【灯】を求める陽気なLv.2。魔導士ではない。
 小人族の御同輩だ! ひゃっふう! と楽観的に捉えている。たぶん絡みは多い。
 歌って踊るのが大好き。酒も好き。人生楽しそう。
 元ネタは世界最古のTCG。


突剣使いの少女
 ですわよ系Lv.2
 最近ランクアップした子。軽戦士としての技量は高く、遊撃に高い才能を発揮している。
 面倒見もよく、次期幹部として名を挙げられている。


只人の拳士
 拳で語るLv.2
 同じく最近ランクアップした子。アポロン様直伝のボクシングっぽい技でモンスターを粉砕するぞ!
 幹部候補ではない。だって馬鹿だし……()


猫耳の盗賊
 にゃんにゃん系Lv.2
 ランクアップして一年とかそんな感じ。ツンデレ。女性。ナイフとかで戦う。
 幹部候補。



アポロン様
 別居させて♡ 発言で腹をくくった。
 ほんへの後も幹部勢と色々話している。女性扱いはたぶんNGっぽいこととか特別扱いによるやっかみへの対処のこととか。
 彼女のガリガリ体型について聞いた団長は「どうりで軽かった訳だ……」と呟き、お米様だっこ事件について追及された。
 フリューちゃんが手紙を出すのに便乗して、社の神々と文通するつもり。


タケミカヅチ様
 間違いなく最善を尽くした。彼に非はないです。


 前書きでも言及しましたが、RTA風小説らしからぬ連続幕間で申し訳ありません。次回は走者視点でのお話を予定しています。どうぞよろしくお願いします。
 誤字脱字、解釈違いなどありましたら、どうぞご一報くださいませ。

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