ワンナイト聖杯戦争 第一夜 反射剣「オートクレール」   作:どっこちゃん

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 月を見上げるにはうってつけの、晴れた夜空だった。

 

 魔術師たちが対峙したのは、とある高層ビルの屋上であった。

 

 この場所に居合わせたのは偶然ではない。主催者の指示だ。

 

 今宵、ここから聖杯戦争を始めるべし、と。

 

 この場にはいない主催者の思惑に乗せられる形になったが、両マスター、およびサーヴァントはこれを良しとした。

 

 なぜなら、残された時間は決して多いとは言えないからだ。

 

 タイムリミットは夜明け。今宵限りのしのぎあいだ。

 

 お互いの居場所を探り合うことに時間をかけるわけにはいかない。

 

 しかし、両サーヴァントはこの狭く、そして制限のある戦場をむしろ良しとした。

 

 それはこの二者が、等しく直接的な戦闘を特手とする正統派の戦士であることを意味していた。

 

 月の下。両サーヴァントは威容を競い合うように対峙する。

 

 かたや白亜の甲冑に身を包む剣士であり、かたや槍だけを手にした半裸の戦士であった。

 

 

「とうとう私の前に現れたわね、この卑怯者!」

 

 

 セイバーの背後に立つ小柄な女性が声を張る。

 

 小柄な女だった。容姿は若々しく、一見して十代の少女にさえ見える。

 

 しかし実年齢は二十四歳。常々、年齢通りに扱ってもらえないのが彼女の悩みであった。

 

 加えて、この場での彼女はいっそう子供っぽく見えてしまう。

 

 彼女がかぶる真っ黒な三角帽子が、あまりにも大きすぎるためだ。

 

 しかし、この帽子こそが彼女の最大の武器でもある。

 

「魔導を担う者の責務として、誅を下す! さぁ、神妙になさい!」

 

 彼女の名はジリー・ツァツァトゥラ。通称『火喰い帽子のジリー』。

 

「――できれば、あんたにも事前に脱落しておいてもらいたかったんだけどな」

 

 対するはランサーの脇に並び立つ黒髪の少年だった。

 

 隣のランサーに比べれば、か細くも見えるが、姿勢の良さからその身体が鍛え上げられているのが分かる。

 

 油薬(ゆぐすり)噛車人(ギヤマン)。それが彼の名だった。

 

「ふん! やはり半端者ね。魔術師としての矜持など、説くだけ無駄と言うものかしら?」 

 

「ギア」

 

 ランサーが自らのマスターへ向けて、静かに口を開いた。

 

 甲冑どころか衣服さえ身に付けてはおらず、その裸体は無防備なまでに外気にさらされている。しかし、それがこの男の何かを損なうことは一切なかった。

 

 鍛え上げられ、無数の刀傷で彩られた五体はむしろいかなる甲冑にもまして戦士の威容をたたえるかのようだ。

 

「余計なことは言うなよランサー。オレはそこまでお人よしじゃない」

 

 マスターである少年はそう言って、手にしていた日本刀の柄に手を掛けた。

 

 我らは問答をするためではなく戦うためにここに居るのだと、言外に語るかのように。

 

「よかろう」

 

 ランサーも、槍を手にして前に出る。問答が無用だというなら、やることは一つだけだ。

 

「おっと、その前に一ついいかな?」

 

 前に出ようとするランサーを阻むように、セイバーが声を上げた。

 

 涼やかな笑みを浮かべた男だった。

 

 どこかエキゾチックな意匠の西洋鎧も、気負うところのない物腰も、その印象を際立たせている。 

 

「残りの一騎についてはどうするかね? セオリーとしては漁夫の利を狙っていると考えられるが」

 

 この一夜限りの聖杯戦争で召喚されるサーヴァントは三騎のみ。

 

 そのため、二騎のサーヴァントが争うのを待ち、それらが消耗したところで襲い掛かるという戦略は誰にでも考え付くものだろう。

 

「捨て置け」

 

 しかし、ランサーは太い声でこれを断じた。

 

 言いながら、じり、と前に出る。

 

「そのような下郎に用などない。出てきたところで叩き潰せばよいだけだ。――勝った方がな」

 

 それは、あえて何者かに聞かせようとするかのような声だった。

 

「ではそのように。――始めようか」

 

「応とも」

 

 既に互いの攻撃が届く距離だった。

 

 両者の手に執られた槍が、剣が、月光を弾いて煌めいた。

 

 

 

 

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