ワンナイト聖杯戦争 第一夜 反射剣「オートクレール」   作:どっこちゃん

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 ランサーの槍が速い!

 

 相対するセイバーへ向けて、まるで閃光の様な速度で突き出される。

 

 しかし――しかし驚くべきことに、そのランサーの攻撃に先んじる影があった。

 

 ランサーのマスター、油薬(ゆぐすり)噛車人(ギヤマン)が神速と言っていい速度で前に出たのだ。

 

 狙いはマスターであるジリーではなく、その前に立つセイバーだ。

 

 ランサーとの同時攻撃で真っ先にセイバーを無力化するつもりなのだろうか。

 

 噛車人(ギヤマン)――ギアは憶することもなく日本刀を振り抜いた。

 

 しかし、抜き放たれた刀身には刃が無かった。

 

 代わりに、ノコギリのような凹凸だけが列を成している。

 

 彼が切ったのはこのビルの屋上の空間その全てであった。

 

 彼の刀身から放たれた電光の刃が、セイバーは元よりその背後に居たマスター、ジリーにまで襲い掛かったのだ。

 

 対人ではなく、この戦場すべてを網羅する制圧攻撃だ。

 

 狙いは最初からセイバーではなくジリーの方だったのだ。

 

「――電光超刃(でんこうちょうじん)

 

 神速の抜刀。そしてそれにも勝る速度の納刀を終え、ギアはつぶやく。

 

 これが彼の魔術だ。

 

 内部に無数の噛車(ギア)が仕込まれた(さや)

 

 そこに、同じく凹凸の付いた刀身をおさめ、一気に抜刀する。

 

 内部のギアにはそれぞれに微細な術式が刻み込まれており、これを連鎖的に回転させることで瞬時に魔術を行使することが出来る。

 

 それがこの魔術使い「油薬(ゆぐすり)噛車人(ギヤマン)」の持つ魔術特性であった。

 

 魔術師ではなく魔術使い。

 

 ゆえに、彼にとって重要なのは速度。

 

 魔術師の虚を突いて神速で術式を組み上げ、不意打ちに近いやり方でこれを下す。

 

 それが彼の上等手段なのであった。

 

 魔術師共の酔狂に付き合う気はもともとないのだ。

 

 

 

 

 

 電光の刃が辺りを照らした後、ギアは滑るように移動してジリーの背後に回り込んだ。

 

 今はランサーとギアとで、セイバーとジリーを前後から包囲しているような状況だ。

 

 ――手ごたえはあった。

 

 会心の一撃だったといっていい。

 

 本来なら、コレで少なくともマスターには致命傷を与えられる()()だった。

 

 悠長に構えているのが常の魔術師には反応できない速度だった()()だ。

 

 しかし、敵マスターであるジリーは健在であった。

 

 しかも、なにやら呆けたような顔できょろきょろと視線をめぐらせている。

 

 彼女自身が対応したのではないらしい。

 

 ならば、今の飽和攻撃を防いで見せたのは――

 

「予想の通りにならぬからと、思考を止めるな。動け! 戦況は己に合わせてはくれぬぞ!」

 

 ランサーのきびしい声が、遠雷のように響いた。

 

 ギアは、はっとして顔を上げる。

 

 ランサーの五体からは、おびただしい血が流れていた。

 

 それだけではない。その傷口は焼け焦げ、肉の焦げる臭いさえ漂ってくるようだ。

 

 まるで()()()()をその身に受けたかのように。

 

「ランサー、まさか!」

 

「余計なことを考えるな」

 

 なにが起こったのか!?

 

 ランサーは血を流し、ギアはもちろんのこと、ジリーも目を丸くしている。

 

 すべてを知るのはこの場でただ一人。

 

 今もこの場で涼風のように微笑している男。すなわちセイバーである。

 

「しかし、何もわからぬままでは対処のしようもない。違うかな?」

 

 こちらも静かに、しかし軽やかに、ギアへ声を掛けてくる。

 

 確かにそうだ。セイバーは何をした!?

 

「虚言だ。前を見ろ! 進むべき先を見据えよ! 戦士よ!!」

 

 ランサーが咆え、血を滴らせながら、再び槍を突き出した。

 

 ランサーの叱咤を受けて、ギアは我に返った。

 

 そうだ。セイバーの謎を解くよりも、まずは相手マスターを狙うべきなのだ。

 

 それが自分の役目だ。思考を止めてはならない。

 

 切れ長の目をカッと見開いたギアは、再び魔術刀の柄に手をかけた。

 

「虚言とは手厳しいな。――あの少年は筋が良い」

 

 ランサーの刺突をセイバーは白亜の剣でさばく。余裕のある動きだ。

 

「口先で戦況を操ろうとはけしからん。――下郎めが!!」

 

 しかしランサーの突きは、それ自体をかわしてもなお、周囲の大気を焼き焦がしながら伸びてくるのだ。

 

 まるでバーナーのような槍のだった。わずかに、ほんのわずかにだが、セイバーの甲冑が焼き切られ、削られていく。

 

「――――、」

 

 セイバーの視線がわずかにゆれる。

 

 彼の役目はマスターであるジリーを守り抜くことだ。

 

 ランサーの相手だけをしている訳にはいかない。

 

「真のつわものが信を置くは、手にする一本の槍! そして一振りの剣なり! 虚言の一言すらも、唾棄すべき不純に他ならぬ!!」

 

 後退したセイバーに向けて、気迫と共にランサーの槍が突き出される。

 

 それを静かに見据えたセイバーは、手にした剣をゆるりと、優しげに払うような動きを見せた。

 

 防御でも、ましてや攻撃のためでもない動きだった。

 

 しかし、その直後、ランサーの繰り出したはずの槍が、()()()のように折れ曲がり、ランサー自身へと向かって伸びたのだ。

 

「ランサー!」

 

 ギアが思わず声を上げる。

 

「――なるほど、それがキサマの宝具か」

 

 しかし、ランサーは槍を突き出したまま、感情のこもらぬ声で告げた。

 

 弾き返され、折れ曲がってランサー自身を貫かんとした槍の穂先は、止まっていた。

 

 もうひとつの、別の槍の穂先によってである。

 

 ランサーが二本目の槍を別に取り出したのではない。

 

 その二本目の槍は、ランサーの手にする槍の中腹から、まるで()()()()()()()()()()()生えて来ていた。

 

 さらに言うなら、その槍からは同時に、()()()()()()()()が突き出し、セイバーの首元をかすめていたのだ。

 

 奇妙な槍であった。

 

 まるで分裂する様に、一本の槍から幾重にも()()()()()()()()()()突き出してくるのだ。

 

「やれやれ。()()()()()はどうしたのだ? ランサー」

 

「これも、戦よ」

 

 ここで、ランサーは初めてニィッと、その顔に笑みを浮かべた。

 

 峻厳(しゅんげん)なる岩肌の様な顔に似合いの、まるで牙を剥くような笑みだった。

 

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