ワンナイト聖杯戦争 第一夜 反射剣「オートクレール」 作:どっこちゃん
「で、どうなのよセイバー。異論がないならなジリーって呼んでほしいわ」
ギアとの戦闘を頭上のおひいさまに任せたまま、ジリーはセイバーに語り掛ける。
セイバーは困ったように笑いを返す。思いのほか頼りになるマスターだとでも言いたげだ。
「いやしかしな。それは……騎士としてはな」
「あ、ちょっと! 来てるわよ」
ジリーの突飛な提案に、セイバーは首をかしげてしまった。
そこへ、ランサーの猛撃が襲いかかる。
一呼吸の合間に打ち出された連槍の包囲攻撃は43にも及ぶ。
しかし、セイバーはその全てを防いでしまった。
先ほどと同じだ。片手で、ただ一振りの剣をもって。
――リン。と、後に残るのは鈴の音のような聖剣の響きだけである。
「まぁ、構わんか。では、ジリーと呼ばせてもらおう。なにせ一夜限りの共闘。堅苦しいのが良いとは限らない」
唖然とするジリーに返しながら、セイバーはランサーのさらなる連続攻撃を弾き返す。
そしてセイバーとランサー、両者が再び距離を開けた時、血を流して膝を突いたのはランサーの方であった。
「むぅ……ッ」
さしものランサーもノドからうめくような声を絞り出す。
ランサーの負傷はセイバーの攻撃によるものではない。
セイバーの聖剣によって反射された、自らの槍によってつけられたものなのだ。
セイバーの剣による防御、すなわち受け太刀はまさしく絶技と呼ぶべきものであった。
「見ての通り守備には少々自信があってな。わが剣をすり抜けたいなら、悪いことは言わぬ。このうえ幾千、幾万の軍を用いるがよい」
するとランサーはいかめしい顔のまま、剛笑を張りあげた。
「おもしろい男だ。だが断る! 寡兵を相手に軍を用いるなど笑止千万! 寡兵を持って巨軍を迎えうつことこそ我らの流儀、スパルタの流儀よ!」
そして、再び血を撒いてセイバーに躍りかかる。
「スパルタ!?」
驚いたような声を上げたのはジリーだ。
そこから、いくらかの距離を隔てた所で、ランサーのマスター、ギアが舌打ちをした。
知られて困るわけではないが、それでも自分から情報を漏らすのはいただけない。
しかしランサー的には無意識らしく、興が乗るとどうしても
だが、この一夜限りの聖杯戦争なら、対策を練られる心配もない。
そうだ、この聖杯戦争に、一時撤退はあり得ない。この場で疾く決着をつけるしかないのだ。
ギアは再び、刀に手を掛ける。しかし、前に出ることが出来ない。
ジリーの帽子が隙無く自分を「見張って」いることもあるが、それ以上に苛烈さを増すサーヴァント達の戦闘の余波がここまで飛んでくるのだ。
弾かれたランサーの槍、魔力の余波、突風、剣気、さらには砕けたコンクリートの破片など……。
当然、それらはセイバーが意図して行っていることだ。
ランサーと戦いながら、ギアがジリーを狙えない様に牽制しているのだ。
無論、ランサーもセイバーと戦いながら、その背後に居るジリーを狙うのをやめていはいない。
セイバーはランサーの動きを、ランサーはセイバーの動きを互いに制限していた。
サーヴァント同士の能力が噛みあいすぎている。
この拮抗状態が続きすぎるのは上手くない。
このままでは……
「恐れるなギア! 救うのだろう、姉を! 命を懸けるに値する事だ。恐れるな! それは、己が願いへの侮蔑になるぞ!!」
叱咤する声がとどろいた!
ランサーのやつ、余計なことを。
だが、今の自分が
少年は再確認する。
そうだ。自分にはそれだけの理由がある。そうするだけの理由がある!
そのために己はここにたどり着いたのだ!
ゆえに、ギアは防御を捨てた。
乾坤一擲の構えだ。ジリーへ向けて一直線に突貫する。
「――行け! ギア!!」
同時に、ランサーは身を挺してセイバーの剣を絡め取った。
さしものセイバーも驚嘆のうめきを漏らす。
なんと、ランサーは己が両腕を犠牲にしてセイバーの刃を抑え込みにかかったのだ。
「――なるほど、これもスパルタの流儀か、ランサー」
「いかにも! 話がマスターの邪魔はさせん!」
加速するギアの手元で、火花とともに刀身が鍔走る。
鞘口から滑り出した刀身は鞘の中に仕込まれたガラス細工の
いよいよその戦闘は佳境へいたろうとしていた。
だが忘れてはならない。
姿はなくとも、この場には第三陣営の目が有るのだということを。
主催者でもある第三陣営が、このまま最後まで傍観するなどあり得ないのだということを。