ワンナイト聖杯戦争 第一夜 反射剣「オートクレール」 作:どっこちゃん
オルトロス・ベックブリーカー。
それがこの一夜限りの儀式を開催している魔術師の名だ。
それが同時に、現代の奴隷商人としての表の顔を持つイカレた男だということまではわかっている。
他の複数名の魔術師と結託して、各地でこの一夜限りの儀式を繰り返している、と聞く。
それ自体はどうでもいいことだ。
どこぞのイカレた魔術師が人道を無視して外法の儀式執り行うなど、ありふれた話でしかない。
だが、コイツは一線を画している。
このオルトロスと名乗る魔術師の最も狂気的な行いは、ただの人間だけでなく魔術師をも捕縛し、売り飛ばすという点だ。
魔術師に対しての誘拐と洗脳。
それがオルトロスの上等手段なのだ。
そして二年前、ギアの姉を拉致したことも調べがついている。
魔術師と言っても一般人に毛の生えたような血の浅い家系だ。
さらうほどの価値があるのかも疑わしい。
だが、ヤツにはそれがむしろ都合がよかったのだろう。
それまで一般人として過ごしていたギアは、さらわれた姉に見切りをつけた父によって、姉のスペアとしての教育を受けることになった。
そこで初めて、姉が魔術師の後継者であったこと、そして早々に見捨てられたのだということを理解した。
ギアはそれに従った。
それは家督を継ぐためではなく、姉を助けるための力を得るためだ。
丸一年を持って魔術の基礎を治めたギアは父を殺害した。
そしてさらに一年。姉の行方を探しつつ、そして己の魔術を戦闘用に作り変えるために戦い続けた。
ようやく姉がある儀式の憑代にされるという情報を掴んだのが半月前のこと。
一夜限りの小聖杯戦争と言う儀式。
そのために使い捨てられるのだという言ことを。
オルトロスは、ジリーの他にも複数の魔術師に誘いを掛けていた。
それをしらみつぶしにするようにして、ギアはこの地にたどり着いたのだ。
ギアの目的は、この儀式の成立を阻止し、姉を取り戻すことだ。
ランサーは何も言わずに目的に賛同してくれた。
後はオルトロスを殺し、姉を取り戻す。それだけなのだ。
しかし、最期の最期で、この壁があまりに強固だった。
この魔術師、『火喰い帽子のジリー』。
この女だけなら、時間を掛ければなんとでもなる相手だ。
だが問題はセイバーだ。
崩せる気がしない。
ランサーの強みを活かせないこともあるが、とにかくその防御を崩すことすらままならないのが問題だ。
ならば――やはり、自分が活路を開くしかない。
ゆえに、ギアは防御を捨てた。
「――行け! ギア!!」
ランサーが吠える。
ジリーが帽子が大口を開け、それを迎え撃つ。
――――が、そのギアを背後から、無数の刃が打ちぬいた。
刃の雨に襲われたギアは、そのまま人形のように転がった。
ランサーが言葉にならぬ声を張り上げた。
ジリーは虚空を見上げた。月を遮るようにして黒衣の男が宙に浮いていた。
瀟洒な女物のドレスを着た男だった。
古びた本を開いたまま手にしている。魔術師で間違いないだろう。
異装の魔術師は笑顔を浮かべてジリーを見下ろす。
「お初にお目にかかります。わたくしはオルトロス・ベックブリーカー。よろしければベックとお呼びください」