ワンナイト聖杯戦争 第一夜 反射剣「オートクレール」   作:どっこちゃん

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 ありうべからざることだった。

 

 セイバーに群がってきた雑兵は、その白亜の剣によって枯れ枝のごとく薙ぎ払われた。

 

 しかし、そのうち一人の持っていた剣が、セイバーの装甲を貫いたのだ。

 

 ありうべからざることであった。

 

「これは……」

 

「然り! 間違いなく宝具だ!」 

 

 僅かにだが驚愕の声を上げたセイバーに、ランサーが応える。

 

「我がマスターの調べでは、アヤツはかつての聖杯戦争で宝具を手に入れ、操る術を得たとのことだ」

 

「――なるほど。どうしたかは知らないが、大したものだ。そして、我々はこの雑兵を一人たりとも下へ行かせてはならぬということでもある」

 

「その通りだ!」

 

 両手を負傷したままのランサーは蹴りで、そして口に加えた槍で雑兵を貫く。

 

 幸い、彼の無数に枝分かれする槍は多対一の戦闘でこそ真価を発揮する。

 

 対してセイバーはと言うと、一対一で戦っていた時に比べ、その動きはいささかの精彩を欠いている。

 

 無論、一騎当千の剣技は衰えるモノではないが、押し寄せるような物量を捌き切るには一本の剣では荷が勝ちすぎると言ったところか。

 

「やれやれ、手塩にかけてやったわりに使えぬデクども……」 

 

 一方虚空にピタリと静止しているオルトロス・ベックブリーカーの持つ本が、風に撫でられるかのようにめくり返される。

 

 するとページが破れ、ハラハラと夜の虚空を待ったかと思うと、ひとりで剣や槍の形に折り畳まり、それが本物の宝具の外観と威力を得て射出されるのだ。

 

 自らが使役する雑兵がいるにも構わず、狙いもつけずに宝具を射出してくる。

 

 さらに驚くべきことに、この雑兵たちは身体を両断されても、串刺しにされても、まるでものともせずに起き上がっては襲い掛かってくるのだ。

 

 強力な回復と復元の魔術であろうか?

 

 しかし、それは命を燃やし尽くしているに等しい。

 

 それは命がけの特攻ですらない。己の宿す命を絞りきるまで死ぬこととすらできぬ生き地獄だ。

 

 それを察してか、英霊たちの表情も険しいものとなっていく。

 

 あまりにも悪辣。

 

 当然、セイバーは射出される宝具を打ち返し、ランサーは自らの槍を取り出してオルトロスを狙う。

 

 しかしオルトロスの周囲には複数の盾や甲冑が浮遊し、これを防ぐのである。

 

 まさしく慮外であった。

 

 投擲される宝具もただの宝具ではない。名にしおう聖剣魔槍妖刀の類が列を成すのだ。

 

 エクスカリバー、ゲイボルグ、メダロック、如意金箍棒、アダマスの鎌、倶利伽羅(くりから)剣、雷霆(らいてい)……

 

 これには両サーヴァントも驚嘆の意を禁じえなかった。

 

 もっとも、これらの宝具はあくまで使い捨てのようで、一定時間が経つと紙に戻って燃え尽きてしまうようだ。

 

 だからこそのこの威力と言う訳なのだろうか?

 

 しかし、一時とはいえ、これほどの宝具の効力・威力を再現できるとは、あの魔導書、果たしていかなる英霊が紡ぎ、この世に残した魔導器なのであろうか。

 

 

 

 サーヴァント達には知る由もなかったが、この()()()()()()こそかつての聖杯戦争で召喚された「テイラー」のサーヴァント、イルマリネンが残した遺産である。

 

 「テイラー」は通常の聖杯戦争では適応されない特異クラスであり、物品の作成・鋳造に特化したクラスである。

 

 そして、「宝具を創りだせる」事が該当条件となる特異なクラスでもある。

 

 かれら「オルトロス」と呼ばれる組織の魔術師たちは、このような遺物を()()()()()()()と称し、積極的に収集することを目的の一つとしていた。

 

 その副産物が、今この両サーヴァントへ向けて牙を剥く。

 

 

 

 ――だが、それでも趨勢は動かない。

 

 規格外の宝具をいくら弾丸のように消費できるとはいえ、ここにはその担い手たる英霊がいない。

 

 如何に強大な兵器も、それを使いこなすことが出来なければ宝の持ち腐れでしかないのだ。

 

 実際、この攻防をどれだけ続けても、サーヴァント達を討つことまでは出来ないだろう。

 

「さてどうする? このまま持久戦というのは芸がないな。もっとも()()()()()()()にはかなうのかも知れないがね?」

 

「ふん、ぬかせ!」

 

 つまり、この場でサーヴァント達とオルトロスは同じことを目的としているのだ。

 

 時間稼ぎだ。

 

 セイバー・ランサーはマスターたちが儀式の核になっているというギアの姉を救出するまで、オルトロスを押し留めなければならない。

 

 対して、オルトロスもまたサーヴァント達を一騎でも下へ向かわせてしまっては元の木阿弥である。

 

 この宝具カタログをすべて使い果たしてでも、セイバーとランサーをここに釘付けにする必要があった。

 

 ――なぁに、問題はない。

 

「英霊たちよ。なにか考え違いをされてはおりませぬかな?」

 

 オルトロスは虚空から得意げに語りかけた。

 

()()()()はここにある限りではありませぬ。この下、つまりは我が迷宮の中にも()()()仕掛けてあるのです」

 

 お分かりですかな? とオルトロスはこの上なくイヤミったらしく続ける。

 

「この宝具が列を成してあなた方のマスターを待ち受けてるのですよ。どうです? どなたかおひとりが中へ向かうべきではありませぬかな?」

 

「「――断る!」」

 

 サーヴァント達は声をそろえた。

 

「我がマスターは必ずやり遂げるとも! このスパルタ王が認めた若人ゆえな! 間違いはない!」

 

「私もジリーを信じている。付き合いは浅いが、彼女には命運を託すだけの価値があると確信する」

 

 英霊たちは揺るがなかった。

 

 下に向かった二人が過酷な道にあることは承知の上だ。

 

 それでもなお、英霊たちは、マスターに全幅の信頼を任せていた。

 

 それを聞いたオルトロスが、万力で潰される瞬間のように顔を歪めた――その時だった。

 

  

 警報がなったのだ。それは英霊たちの足元、廃ビルの中からだ。

 

 儀式の核が奪われ、儀式の続行が不可能になったことを知らせる警報なのだ。

 

「チッ! チッ! チィィィッ!! ――ハァ、仕方がない。今回は失敗か」

 

 サーヴァント達がマスターの勝利を確信して口角を吊り上げたのと時を同じくして、オルトロスは物憂げに吐き捨てる。

 

 そして、

 

「令呪を持って命ず。()()()()()()()()()()()。すべてを綺麗に、だ。いいな」

 

 すると、今の今まで姿をすら現さなかった第三のサーヴァントがこの場に出現した。

 

 車に乗った男と女の二人ずれであった。セイバーやランサーからすると奇妙な格好をした男女だった。

 

 それもそのはず、彼らが生きていたのは神話の時代でもなければ中世でもない、そのカップルが活躍したのは1930年代のアメリカなのである。

 

 近代的な洋装は確かに英霊とは見えなかった。

 

「ああ、警戒しなくてもよろしい。英霊としては雑魚でしかない。私にとってもこれはただの保険でしかないのだから」

 

 つまらなそうに言いながら、オルトロスは角笛のような宝具を取り出す。

 

 するとそれを受け取ったバーサーカーの男は嬉々としてその角笛を鳴らし始める。

 

 目を剥くサーヴァント達の目の前で、ポツリ、ポツリと闇間に小さなモヤのようなものが浮かび上がる。

 

 霊魂だ。今しがた殺された雑兵たちの霊体がバーサーカーの周囲へ引き寄せられていくのだ。

 

 そして、それらは同時に蒼い鬼火に包まれた

 

 絶叫が轟いた。常人に耳には届かぬ、霊魂の叫びである。

 

 死してなお、霊体になってなお、その霊魂を燃やし尽くされる魔術師たちの成れの果ては何を想うのか。

 

 その霊魂は焼かれ、悲鳴を上げ続けながらバーサーカー達の駆る車に先導され始める。

 

 その車――フォード・V8は浮かび上がり、鬼火の群れを率いて夜の虚空を駆け始めたのだ。

 

 何を――

 

 さしもの両サーヴァントも目を見張った。そこへオルトロスの声が響く。

 

「あれなる男女は「ボニー・パーカーとクライド・バロウ」。いわゆる、()()()()()()でしかない。狂っただけの()()()()でしかない。しかし、その方が都合のいいこともある。たとえば、使い捨てにして自爆させてしまいたいときなどは、特にねぇ」

 

 言いながら、オルトロスは虚空へ浮かび上がり、ビルから離れていく。

 

「逃がすとでも――」

 

 再び槍を構えようとしたランサー、とそしてセイバーの足に、その時、斬り捨てたはずの雑兵たちが絡みついてきたのだ。

 

 生きていたのか? ――否、死んでいるのだ。死してなお、強引にその身体を動かし操るための仕掛けが施されていたのだ!

 

 つまり、彼らは最初から、自らの身体の自由を奪われた状態で戦わされていたということか!!

 

 なんというおぞましき所業か!!

 

 サーヴァントたちの、特にランサーの怒髪が天を突く。

 

 その灼熱の槍が、雑兵たちの遺体を荼毘(だび)に付した。

 

 しかし、すでにオルトロスの姿はなかった。

 

『あー、私は追うのはやめておいた方がよろしい。せいぜい、自分の信じたマスターとやらだけでも、救って見せてはどうかね? 偉大なる英霊諸氏よ』

 

「下郎めが!!」

 

 ランサーは怒りもあらわに咆え、咥えていた槍の柄を噛み砕いた。

 

 そしてバーサーカーの駆るフォードと鬼火の群れは、夜の虚空をUターンしてビルめがけて突っ込んでくる。

 

 けたたましい歓声が沸き起こった。それはかき鳴らされるような銃声のようにも聞こえた。

 

 それは彼らが撃っているのではなく、彼らに対して打ち込まれているかのように見える。

 

 加速すればするほどにフォード・V8の車体には弾痕とみられる穴が、次々に穿たれていく。

 

 狂犬だ。彼と彼女は狂犬だった。笑いながら死に邁進する狂犬なのだ。

 

 この二人の犯罪者は、その犯行にもかかわらず時代の寵児(ちょうじ)として持てはやされた。

 

 本来は英霊になどなるはずのない犯罪者。しかし、幸か不幸か、彼らは時代に持てはやされ、今や一個の伝説となった。

 

 死に向かってまい進する、明日もを知れぬ伝説の犯罪者。

 

 それが今、鬼火の軍団を率いて、再び死の逃避行に打って出るのだ。

 

 生前はどうだったのか。この有り様になにを思うのか。

 

 それは誰にもわからない。

 

 だが今は笑っている。狂気の笑いを浮かべながら、ボニーとクライドは、笑いながら二度目の死へ、その終着へと突っ走る。

 

「まずいな――私ではアレは防げぬ」

 

 通常はさしたる能力もないバーサーカーだが、この鬼火の軍団(ムオーデル)を率いる今は違う。

 

 その自死をもふくむ自爆突貫攻撃は、間違いなく対軍規模の大破壊をもたらることになるだろう。

 

 そして、このような大規模対軍宝具への対処法を持たぬこと、それがこのセイバー、オリヴィエが抱えざるを得ないカルマである。

 

 彼は大軍と斬り結んだ時点で敗北を約束されているのだ。

 

 バーサーカーとそれに率いられる宝具の群れは、一筋の光の帯となって再びビルへと戻ってくる!

 

 ここはあの魔術師の言うとおり、マスターだけでも救出に向かうべきか。

 

狼狽(うろた)えるな剣士よ――手ならばある!」

 

 逡巡するセイバーの思考をランサーの声が遮った。

 

「貴様はあの下郎を追うがいい。――ここは、このスパルタ王が誇る、()()()()()()が引き受ける!!」

 

 次の瞬間、ランサーのはるか頭上に、数百もの槍が炎を纏いて出現した。

 

 その数、およそ300!

 

 300の火柱が天を突いて夜を照らす!

 

「これは……ッ!」

 

 さしものセイバーもその威容に息を呑んだ。

 

「――風よ、行きて伝えよ、ラダケイモンの人々へ。我らことごとく、この地で猛く戦えりと――」

 

 詠唱と共に、向かい来る鬼火とは比較にもならぬ巨大な威容が、その姿を現した。 

 

 

 

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