小説版バンドリのヤンデレの様なそうでないような話集   作:現実逃避中

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試験が”終わった”ので投稿します


市ヶ谷有咲

 「減点ね!」

 

 え?と突然の宣言にあなたは戸惑うしかなかった。同伴者で幼馴染の戸山香澄も困惑した様子でオロオロしているのが見えた。

 今日はここ──―質屋の蔵でギターの練習を香澄がするというので付き添いで一緒に来たのだが、その蔵の王で数日前に知り合ったばかりの少女、市ヶ谷有咲に開口一番に減点の一言を浴びせられてしまった。

 しかし、何が減点なのだろうか?あなたが首をかしげるとその様子にイラッとしたのか有咲の目つきが鋭くなり、これみよがしに溜息をついた。

 

 

「まず服装……ダサい。しかも、女の子と一緒でその服装はさらに減点」

「髪型も同じ、もうちょっと整えなさい」

「あと顔つき、もうちょっとシャキッとした表情を見せなさい」

「それとあんた、かすみんのオマケでしょ?かすみんがメインなんだからジュースとかお菓子とかぐらい買ってあげなさいよ」

 

 

 次々とダメ出しされてしまった。そんなに変な服装も髪型もしていないとあなたは思っていたが、有咲視点ではダメダメの様だ。

 だが確かに香澄はこれからギターの練習をするのだから労いの為にスポドリの一本くらい買ってあげても良かったかもしれない、あなたは有咲のダメ出しに納得してしまう。

 

 

「あ、有咲ちゃん、その辺にしてあげて……それに結構おしゃれしてると思うよ」

 

 

 ちょっとへこんでいることを察してくれたのか、香澄が有咲を止めに入ってくれた。流石幼馴染、ありがたいことである。

 しかし続けて「普段の服装はもうちょっと……」はフォローしているのかしていないのか……とあなたはちょっと悩んでしまった。

 

 

「かすみんに庇われてる、減点ね」

 

 

 せっかくの香澄のフォローも減点になってしまった。言いたいことがあるなら自分で言え、ということだろうか?しかも有咲は取り出したメモ帳に何らかのチェックをしている。

 もしやあれでチェックされているのだろうか?そう思うとあなたは寒気に襲われた。

 ……ここで有咲と問答しても香澄の練習が出来ない、仕方ないからさっさと入ろう。そんな風に考えたあなたは有咲に一言声をかけて、香澄と一緒に蔵の中に入った。その後ろから、ペンが丸を描いたような音がしたのは無視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「零点ボーイ!あんた、ゲームをするって言ってたわね。どんなゲームをしてるの?」

 

 

 香澄のギターの訓練の休憩中に唐突に有咲があなたに尋ねてきた。ついでに自分が零点らしいことに気づいたあなたはがっくりと肩を落とした。

 有咲はゲーム好きで、蔵の中にはレトロなゲーム機から有名なゲームソフトまで様々な種類のゲームが置いてあった。あった、というのは過去形で持っていたゲームを自身の祖母が商いしている質屋に出してしまったからである。それでも、ゲーム好きなのは変わらないから話を振ってきたのだろうとあなたは考えた。

 あなたは有咲に自己紹介したときにゲームが好きと言った事を思い出した。そして、あの時に有咲が少し目を輝かせていたことも思い出した。ゲームの話が出来る人がいなかったのだろうか、香澄はあまりゲームをやらないし……とあなたは考えた。香澄とは仲がいいが、やはりプレイしているゲームの話が出来ないのにちょっと寂しさを感じていたあなたは、喜々として自分の好きなゲームのタイトルについて有咲に話した。

 あなたが好きなのは主に有名なゲームタイトルだった。有咲もそう言うの持っていたから話が合うかな、と考えていたあなただったが、有咲の顔は見る見るうちに呆れたような苛立ったような顔になった。

 

 

「竜の探索、最終幻想、炎の紋章、ね……零点ボーイ、あんたいわゆるギャルゲーとかしないの?」

 

 

 え、とあなたは固まった。ギャルゲーとか恋愛ゲームとかしたことが無い。理由は単純、プレイするのが恥ずかしいからである。

 あなたが固まったことで有咲は察したのか、「はあ……」とこれ見よがしに溜息をついた。

 

 

「いい?零点ボーイ。ギャルゲーとか恋愛ゲームとか女のこといちゃいちゃするだけだと思って恥ずかしがってると思うけど、あれらの中には意外に感動したり心を揺さぶられるような作品があったりするのよ?」

 

 

 そういうものなのか、とあなたは有咲に返した。様々なジャンルのゲームを遊んでいる有咲はいわゆるガチゲーマーというやつだろう。それに比べると自分はにわかゲーマーである。

「仕方ないわね……」と、またこれ見よがしに溜息をついた有咲は蔵の中を回り、隠してあったいくつかのゲームを集めてきた。

 

 

「はい、貸してあげる」

 

 

 と、集めて来たゲームソフトをあなたに差し出した。

 え?と思いつつあなたが有咲の差し出したゲームソフトを見ると、恋愛ゲームやギャルゲー、はたまたプレイしたことのないレトロなゲームソフトもあった。

 

 

「とっておいたあたしのお気に入りを貸してあげるのよ、プレイしてみなさい。きっと私に感謝したくなるわ。……それも後で売るから、ちゃんと返しなさいよ」

 

 

 ぐいぐいと有咲はゲームソフトを押し付けてきた。有咲がそこまで押すのなら仕方ない、とあなたは有咲からゲームソフトを受け取った。恥ずかしがってプレイしたことが無いとはいえ、あなたも年頃である。興味自体はあったので遊ぶきっかけとなるのはちょっとありがたかった。……有咲には素直に言うことが出来ないが。

 その様子を見た、有咲はフフン!と得意げに鼻を鳴らした。

 しかし、あれだけあったゲームを売ってしまい、このゲームもワザワザ隠してあったということは、普段有咲は何をしているのだろうか?とその事を尋ねたあなたは尋ねてみた。

 溜息と「……覚えてないのかしら、減点ね」と言葉が返って来た。もはやマイナスボーイではないだろうかとあなたはぼんやりと思った。

 

 

「いい?いまあたしがやっているゲームは『BanG Dream!』星に導かれた主人公(かすみん)のピュアでシャイで、バカでクレバーで、熱くてクール、最高にしてサイテーの物語よ!」

「……なのに、零点ボーイがそばにいると主人公がかすんじゃうわ」

 

 かすみんだけにね!と続ける有咲だったが、あなたは苦笑いするしかできなかった。その反応にイラついたのか、フン!と鼻を鳴らす有咲。

 

「だから、あたしがあんたを採点してるのよ。いい?()()()()に合わせる100点満点ボーイになりなさい。そのゲームはそのための第一歩よ。『BanG Dream!』風に言うなら、それがあんたのミッションよ、頑張って100点を取れる男になりなさい」

 

 

 ああ、なるほど自分のことも考えてくれているのか、とあなたは感心してしまった。……点数を付けられるのはちょっと怖いが自分の為にしてくれていることを無下にするのは、あなたにはできそうになかった。

 色々とありがとう、プレイしてみるよ。と、あなたは有咲にお礼を述べた。ゲーマーの有咲がお気に入りというぐらいの作品だから楽しめそうだ、とあなたはちょっとウキウキしていた。

 

 

「あ、そうそう。貸出料じゃないけどゲームのプレイレポート書いてあたしに提出しなさい。で、それも採点するから。日にちは……そうね、かすみんの練習と被らないようにしたいから○月○日ね、ちゃんと期日を守って一人で来ること!」

 

 

 ええ……とあなたはがっくりした。レポートがあるなんて聞いてない!なんで、ゲームをしてレポート書いて採点されないといけないのか……

 朝のやりとりもあったせいか一連の話をはらはらしながら聞いていた香澄は肩を落とすあなたを見て苦笑いしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……減点、減点ね」

 

 

 香澄たちが帰った後、有咲は蔵の中で一人メモ帳を整理していた。

「零点ボーイ用」と書かれたメモ帳にはその日の『彼』の行動が逐一チェックしてある。蔵に来た時に採点したものに飽き足らず、何時何分にお茶を飲んだとか、香澄と何分何秒話していたとか、何時何分にトイレにどの時間いたのかとか、有咲と話した時間とか……様々なことが記されていた。

 

 

「……ダメね、ダメダメ。何が一番ダメかというとかすみんと一緒にいるのが一番ダメ。あれだけでも零点。むしろマイナスかしら?とにかくダメね、ダメ」

 

 

「乙女心がわかってない」

 憤怒の炎を目に宿し、苛立ちを隠さない声色で有咲は呪詛の様に言葉を吐き出した。

 香澄が『彼』を連れて蔵に来たとき、蔵の中で香澄のテキトーなギターに合わせて一緒に『彼』とくるくる回った時、その時に運動不足で疲れている自分を『彼』が気遣ってくれた時、有咲は心を撃ち抜かれていた。

 まさか自分が……一目ぼれの様な思いを抱くことがあるとは思っていなかった。ゲームの中だけだと思っていた出来事が現実に起こり、心臓が爆発しそうなくらいドキドキしたのを覚えている。香澄に心を撃ち抜かれたと同時に彼にも撃ち抜かれていたのだ。

 ……しかし、その後も彼は香澄のことばかり気にしていた。香澄は有咲の主人公であったが有咲はその主人公に激しく嫉妬した。こんな激情を抱くのは初めてだった。しかし、香澄は有咲にとって主人公である。どうすればいいのか……有咲は悩んだ。

 悩んで悩んで……その果てにとあるゲームを思い出し、名案だとばかりに嗤い声を上げながら答えを出した。

 

 

「そうだ……あいつをあたしが育てれば……!」

主人公(ヒロイン)はあたし、あいつは育成対象(ヒロイン)!」

「あいつをあたしに合う……あたしにとっての100点の『彼』にすればいいのよ!」

「ゲームのタイトルは『ZEROM@STER』。零点ボーイの『彼』があたしをヒロインにするためにあたしが『彼』の面倒を見てあげる育成ゲーム。カッコ悪くてカッコ良くて、抜けてるけど察しがよくて、冷静で情熱的、最低にしてサイコーの物語!……考えただけで素敵だわ……!」

「『BanG Dream!』に男キャラはいらない!可能性があるだけでアウトなのよ!主人公のかすみんのためでもある、まさに一石二鳥ね」

 

 

 ……それから有咲の『ゲーム』が新たに始まった。厳しく『彼』を採点しながら、趣向や思考が有咲にとって満足するものになるように誘導している……が、これがまた手ごわい。なんせ お邪魔キャラ(かすみん)の出現率が非常に高いのだ。そのためイライラしてつい『彼』に対して厳しく当たってしまう。『彼』がお邪魔キャラ(かすみん)と話をしていると、頭が沸騰しそうになり視界が暗くなっていくのを有咲は感じている。

 

 

「かすみんてば全く……まあ、いいわ。レポート、あたしの感想や考察と違っていたら指導してあげなくちゃ。……ふふ、大変ね。でも、あいつが100点を取るためだと思うと……しっかり面倒を見てあげなきゃ(あたし色に染めなきゃ)ね……」

 

 

 約束の日が楽しみで楽しみでしょうがないという風に濁った瞳で有咲はくすくすと暗く笑った。その脳内には自分と『彼』しか存在していなかった。

 




ヤンデレになってるのだろうか?
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