小説版バンドリのヤンデレの様なそうでないような話集 作:現実逃避中
ジリリリリリリ!
7時ぴったりにけたたましく鳴響く目覚まし時計の音に反応しあなたはベッド横にあるサイドチェストへ手を伸ばした。
何度か空振りながらも、目覚まし時計の鳴響く音をスイッチを押して止めた。
そこから数分して起き上がったあなただったが、どうにも身体が怠い。
あなたは自身の体調に首をかしげた。今日は土曜日で学校こそないものの、朝早めの時間から市ケ谷家の蔵での練習があり、あなたもサポートで参加するはずだったので早めに寝たのに、なぜ身体が怠いのだろうか?
日頃の疲れかな、と短絡的に思考を打ち切ったあなたは、今度は鳴響く腹の音を止めるために朝食を取ることにした。
「……よし、取りあえずお昼にしましょう」
市ケ谷家の蔵、そこで蔵の主である市ヶ谷有咲は12時を指す時計を見て休憩時間を告げた。
「……た、楽しかったけど、飛ばし過ぎたね」
「師匠、うちはもっとガンガンやりたいぞ!」
ギター&ボーカルの戸山香澄がタオルで汗をぬぐい、ベースの牛込りみが頬を膨らませて裸足で飛び跳ねる。
休まないと持たないよ、とあなたはりみに声を掛けつつ、スポーツドリンクを渡した。次いで香澄や有咲にも渡していく。「気が利くようになったわね、私の指導の賜物ね」と呟きつつうんうんと満足そうに首を振る有咲を見て、あなたは苦笑した。
それからあなたたちはそれぞれの昼食を取り出した、最近はまっているというカップ麺にお湯を注ぐ有咲、女子高生らしいお弁当箱に色とりどりの惣菜が入っている香澄、白米だけというある意味個性的なりみ、何故か大小の2つの弁当箱もっているあなた。
どうぞ、といいながらあなたは持っていた小さい方の弁当箱をりみに渡した。
「主殿! いつもいつもかたじけない!」
りみは弁当箱を受け取ると土下座しそうな勢いであなたに頭を下げた。そんな姿を見てあなたは苦笑する。
りみとの出会いは衝撃的だった。蔵で香澄の久しぶりの歌を聞いていたら、突然乱入し、ベースをかき鳴らしたと思ったら、逃げていった、というものだった。顔見知りだった香澄はともかく、有咲と二人で唖然としていたのは懐かしい。
その日の夕方、蔵でのことで縁が出来てしまったのか、あなたが買い出しから帰ると、お腹を大きく鳴らしたりみとばったり家の前で出会い、先ほどはどうも、とあいさつした後にりみの食事情を聞き、夕飯を作ってあげることになった。
聞けばベースを買ってしまったせいでかなりの貧乏暮らしをしているようで、高校で白米を売っているらしい。よくわからなかったが、これが意外にも運動部から人気の様でそれで頑張っていたとのこと。
あなたも親が海外へ出張しており、一人暮らしをしていた。幸いお金は結構な額を毎月親が振り込んでくれるので心配が無かったことと、同じ一人暮らしということにシンパシーを感じたあなたは、よかったら昼食の分のおかずを作ろうか? とりみに提案してみた。
武士は食わねど高楊枝、という言葉がある。彼女が武士だったら施しなど受けない、と突っぱねただろう。しかし、彼女はニンジャだ、感激と共に片膝をついて頭を下げ「主殿! 一生お仕えする!」と即行で話を受けた。以来、あなたはりみから「主殿」と呼ばれている。
それからというもの、りみとの交流が始まり、お弁当を渡したり、落としてしまった鍵を届けてくれたり、お菓子を作ってあげたり、白米を分けてもらったりなど、持ちつ持たれつの関係になっていた。
「師匠! 師匠に教えてもらいたいことがあるのだが」
皆で昼食を取っている最中、あなたの作ったハンバーグに舌鼓を打っていたりみが唐突に香澄に声をかけて来た。
まあ、りみの突然の行動は今に始まったことではないので、皆あまり気に留めてはいなかったが
「え、なにかな? 私でよければ……」
「色仕掛けのやり方をうちに教えてほしい」
ぶっ! とその場にいたりみ以外の全員が噴出した。カップ麺のスープを飲んでいた有咲は咽こんでしまったらしく、涙目になりながら、ごほっごほっとせき込んでいる。その背をあなたはゆっくりと優しく摩った。
食事中に突然何を言い出しているんだこのニンジャガールは、と考えながらあなたにしては珍しく、半眼でりみの方を見ていた。
りみと眼があった、ウインクされた。違う、そうじゃない。
「あ、あんたねぇ、突然何を言い出してんのよ……」
「うむ、ベンケー殿、師匠は色仕掛けの達人だからな、そのコツを伝授してもらおうと思ったのだ」
「はぁ? かすみんが……?」
あなたと有咲の視線が香澄に突き刺さる。
いきなり、色仕掛けを教えてほしいと一歩間違えればセクハラ発言を受けた女子高生の香澄はフリーズしていたが、有咲とあなたの視線により再起動した。そして、再起動した直後に顔を真っ赤にして、視線から逃れるようにうつむいてしまったが。
こんな香澄が色仕掛けの達人? とあなたと有咲は顔を見合わせた後、再び真っ赤な頬で俯いている香澄を見た、首を二人そろってかしげるだけだった。あなたと香澄の付き合いは長いが香澄が色仕掛けをしているところなど見たところが無い、あなたや戸山家の家族に隠れてそんな行為をしていたという事実があれば卒倒する自信があるが、香澄の様子を見る限りそんなことは無いだろう。
有咲も同じ思考をしていたのか、顔を赤く染めて俯いた香澄から視線を外し、呆れた目をしてりみの方へと顔を向けた。
「このかすみんのどこが色仕掛けの達人なのよ? あんまり、変なこと言うんじゃないわよ」
「そんなことはない。ちんちくりんなベンケー殿と違って色仕掛けの達人だ」
「だれがちんちくりんよ、このすっとこどっこい! そこまで言うんならかすみんが色仕掛けの達人だという証拠があるんでしょうね……!?」
「あ、あの有咲ちゃん、私そんなふしだらなことしてないよ! あなたも何か言って」
香澄に涙目で見られたので、あなたも、香澄がそんなことをしているとは幼馴染として思うことが出来ないしあんまりそう言うことを言うのは良くないと思うよ、と少し注意するような感覚でりみに告げた。
しかし、その言葉を受けたりみは逆に自信満々と言った表情だった。?とあなたは首をかしげた。
「ほらみろベンケー殿」
「何がよ」
「普段はあまりしゃべらず穏やかな表情でうちを見守る主殿が、師匠に言われて注意までしてきた。これは主殿が師匠の色仕掛けにひっかかったからに違いない」
「は?」
何言ってんのこの子、全員がそんな目でりみを見たが、りみはいたって大まじめの様である。
「そういうわけで師匠、色仕掛けのコツをどうか教えてほしい。うちの独学では限度がある」
「え、あの、そ、そんなものないよ?」
「大体、そんなこと聞いてどうすんのよ」
「うむ、うちはいつも主殿におかずを恵んでもらっているので、恩を返さねばならぬと考えた。しかし、うちの手元にはほとんどお金が無い。この間使ってしまったしな……ごほん、そこでうちは考えた、ニンジャらしく身体で返せばよいと。そのために色仕掛けの達人の師匠にやり方を教わりたいのだ」
「何とち狂ったこと言ってんのよあんたは! 駄目に決まってんでしょ!? あたしのあいつへの指導を無駄にするつもり!?」
「蔵ベンケー殿の主殿に対する指導が何の役に立つのか?」
「はぁっ!?」
和やかな昼食時間だったにも関わらず、りみと有咲がギャーギャーと騒ぎ出した。香澄はどう止めようかおどおどしている。あなたは遠くを見つめて今日の晩御飯は何に使用かなと現実から目を外した。
練習が終わって家に帰る際になった時にりみが「主殿の護衛はうちの仕事だー!」と叫ぶので、香澄とりみと一緒に家の近くまで帰る事になった。疲れていたが、りみが元気よく香澄に話しているのを見ると、それだけでこちらも楽しい気分になる。たまにはこんな帰り道もいいか、とあなたは思った。
どうしても家の手前までりみが付いてくるというので、先に香澄と別れた後でりみに家まで送ってもらった。流石に手ぶらで返すのはどうかと思ったので、少し前に作っておいたトリュフチョコをりみに渡した。りみはキラキラした瞳でそのチョコを受け取ると、「主殿からの下賜、大事にする」と言って胸元にしまってしまった。
「では、主殿良い夢を。早めに寝るように」
そんなことを言ってりみはスキップするような軽い足取りで家の前から去っていった。中に入るとか言うかな? と思っていたあなたにとっては少し拍子抜けではあったが、まあそれが普通か、とあまり気には留めなかった。
まあ、朝身体が怠いこともあったし、りみの言うとおりに早めに寝ようか、とぼんやりそんなことを考えていた。
夜
あなたが深い眠りについた後、あなたの家の鍵を開けて入ってくる影があった。
何を隠そう、その人影はりみだった。
その手には本来存在しないはずの合鍵が握られていた。
「主殿を守るのはニンジャの務め、うむうむ」
小さな声で一人しきりに頷くりみ。
あなたはベッドに入ってから眠りにつくまでが早い上に、一度眠りにつくとよほどの事が無い限り起きない。そのことを香澄から聞いていたりみは、あなたが眠りについてからこうして侵入してきているのである。
合鍵はどうやって作ったのだろうか、それは勿論あなたが鍵を落とした時に──────―否、蔵での練習中にあなたのカバンからこっそりと拝借していたもので複製し、何食わぬ顔で落ちていたのを拾ったと本物の鍵をあなたに返したというのが真実である。最も合鍵を作るのでさらにお金を使ってしまったが……
「穏やかな表情で眠っている、これもうちが護衛しているからこそ」
寝ているあなたの前で、満足そうにりみは笑った。
1時間、2時間としばらくそんな様子で眠るあなたを見ていたりみだったが、ニンジャを自称しているとはいえ夜も更けてくると流石に眠くなってきたのか、舟を漕ぎ始めた。
はっ、としたりみは軽く自分の頬を張って眠気を覚まそうとする。が、それでも眠気が勝った。
「う、ん……今日の務めはここまでだな」
不甲斐ない、と続けて呟くりみだったが、その頬は朱に染まり、艶めかしく唇を舐め上げる。これからの事が楽しみで仕方がないというように妖しく笑う。
「では、今日の分の給金をいただくとするか」
ちらり、と一度りみは寝ているあなたの下半身を見た。
「昨日は主殿の味が良すぎて少々やりすぎてしまった」と呟いたりみは蔵に集まった時に怠そうにしていたあなたに心の内で謝罪し、それでもなお惜しむように下半身を見つめていたが、一度頭を振った後に、妖艶に微笑んであなたの手を取って自分の下半身へと引き寄せ──────────―
「主殿、お休みなさい」
色々な後片付けをした後、りみはあなたの押入れの中の空いてるスペースに入っていった。
何故押し入れの中に入るのか? 「うちはニンジャだから」という簡単な答えで返しそうなりみは押入れの中でそのまま眠りに入ろうとする。
主の家の前で初めて(とりみは思っている)自分の主に会ったときの事をりみは思い出す。
実家の方にはいなかった優しげな表情で笑う穏やかな瞳の持ち主。その瞳にりみは惹かれた。自分の身体の事を気遣い作ってくれた料理は暖かく美味しかった。こちらの話を微笑みながら聞いてくれるのが好きだった。
ニンジャを自称するりみは、ニンジャが仕える主なくふらふらしているのはどうか、とちょっと考えていたが、まさかその主がこんな簡単に出会うことができるとは思っていなかった。主との出会いはまさしく運命そのものだったのだ。
────────―しかし、やはり主をつけ狙うものは多い。お色気の術の達人で何かとあれば自分の主を頼りにする魔性の女こと師匠の戸山香澄。主を注意するような言動で主の思考を縛って自身の傀儡にしようと企んでいるベンケーの市ヶ谷有咲。
主の優しさに付け込んで利用することしか考えてないあの女どもには渡せない、渡してなるものか。そう考えるりみの瞳は実の親でさせ見たことがないほどに、濁り凍てついていた。
(主殿の事はうちが守る……明日も早いしはよ、寝な……)
なにせ、主が起きるのが7時なのでその前に起きて自分の家に戻らないといけない。
主の傍に控えながら一日が終わる。そのことにりみは幸せを感じながら眠りに落ちていった。
ニンジャって何だ?
沙綾は思いついてるんだけど、たえはどうするか……