小説版バンドリのヤンデレの様なそうでないような話集 作:現実逃避中
「明日って予定は空いてるかな? もし、予定が空いてるなら白鷺ショッピングモールに一緒に買い物に行ってくれないかな?」
学校からの帰り道、あなたは香澄にそう尋ねられた。
明日……とあなたは無意識に呟いた。今のところ予定は入っていなかったが、実はこれから予定を入れようとしていたのであった。
あなたはせっかくの香澄の誘いをどうするか少し悩んだが、今回は自分の都合を優先させてもらうことにした。
あなたは、ごめんね、と香澄に返事をする。
「そっか……用事があるなら仕方ないよ。私の事は気にしないでね」
そういう香澄だったが、あなたに断られると少し寂しそうに微笑んでいた。
あなたはそんな香澄の微笑みを見ると、ちくり、と胸が痛んだ気がした。
自分の用事の都合が付かなかったら一緒に……と、あなたは香澄に伝えようとしたが、それも失礼な話か、と思い直し。また今度ね、と返事をするにとどめておいた。
「うん……また今度ね。……話は変わるけど、最近あなたって少し変わったよね」
香澄の言葉に首をかしげ、そうかな? と聞き返すあなた。香澄は笑って「そうだよ」と返した。
「髪型とか服装とか小物とか……ちょっとお洒落になったかな」
お洒落になった、か……
褒め言葉、なのだろう。あなたはそう思うことにした。まあこの幼馴染との付き合いは長い、彼女が皮肉を言ったりすることは殆ど無いということをあなたは知って
────────―幼馴染だからと言ってなんでも知っていると思ったら大間違いよ!
そんな声が脳裏をよぎった。
その言葉の言う通りかもしれない。確かに、予定を断られて意趣返しで香澄がそう言った可能性もある。いや、彼女がそんな事をいうはずはないが……それでも可能性としてあるということは考えねばならない。
……いや、でも……とあなたは香澄そっちのけで考え込んでしまった。
「えっと、どうしたの?」
香澄の言葉に、思考の海に沈んでいたあなたは、ハッ、と現実に戻された。
……先ほどの言葉の意味を確かめるべきだろうか。
いやそれこそ失礼か、と思い直し首を振ったあなたは、なんでもないよ、と言って香澄に微笑んだ。
「なんでもないようには見えなかったけど……何かあったら話してね」
そう心配そうにこちらを見る香澄に対し、あなたは苦笑した。
ほんとに何でもないのだ、一々悩むことでもない。過去の出来事があったとはいえ、この幼馴染は色々と心配性で
────────―それって相手の事を信じてないってことじゃない?
そんな声が再び脳裏をよぎった。
香澄に心配を掛けまいとあなたは脳裏によぎった声を無視して表情には出さずに、家のある方向に向かいながら香澄とたわいもない話をして帰っていった。
あなたは香澄と別れて家に帰るとすぐに相手に予定の確認のメールを送った。メールを送ってから数分後、その相手からメールが返ってきた。
《いいわ、いつもの蔵で待ってるから》
あなたが予定を入れた相手……市ヶ谷有咲はすぐにオッケーを出してくれた。
そのことにホッとしつつ、あなたは有咲の家に行くための準備をすることにした。
何せ、有咲はポピパの為にゲーム関係の物をすべて売り払ってしまったので、ゲーム関係の物はあなたが家から持って行かないといけない。それ以外にも有咲が提出するように言ったゲームのレポートもあるし、有咲の所に遊びに行くのであれば格好もきちんと整えなくてはならない……そこまで考えたあなたは、まるでデートに行くみたいだ、と苦笑した。
そういえば、とあなたはベッドの中でうとうとしながらふと思った。有咲の所へ遊びに行くようになってから私物が色々と増えた気がする。
以前、リュックサックでゲーム機を持ち運んだら有咲から「もっとゲーム機は大事に持ち運べ」と言われて、ノートパソコン用のPCバッグを購入して有咲の家に運ぶようになった。ゲームの種類も今までのRPG系から、ADV系やSTG系やPZL系などの幅広いジャンルを遊ぶようになった。
「女の子の家に来るんだから身だしなみをきちんとしろ」と言われて、今まで服装には無頓着だったので小洒落た白いパンツやワイシャツなんかを数着購入した。スタイリング剤も買ったし、ふんわりと香る様な匂いの強くない香水も購入した。アクセサリー類も安価なものではあるが身に着けるようになった。
出費は多かったが有咲に褒められるのは嬉しかったし、そのおかげで今までとは違う体験をすることも出来た。
有咲には感謝しないといけないな……あなたはそんなことを考えながら眠りについた。
「来たわね、待ってたわよ」
翌日、いつもの蔵の前に約束相手の有咲が腕を組んで待ち構えていた。
おはよう、と有咲に挨拶すると、「おはよう」と返す有咲だったが、その視線はあなたのつま先から頭頂部までを確認するように行ったり来たりしながら見つめていた。
緊張しながらあなたが有咲の言葉を待っていると、有咲は「うんうん」と気分良さげに頷いた。
「中々いいカッコしてるじゃない。……まあ、満点はあげられないけどそれなりに高評価してあげるわ」
有咲からの高評価にあなたは胸を撫で下ろした。同時に褒められて嬉しいという感情と満点でなくて残念という二つの感情が沸き上がってきた。
ちなみに満点でないのはどうして? とあなたは有咲に質問してみることにした。
「そう簡単に満点なんて取れるわけないでしょ。まだまだこれからよ、これから」
出来の悪い生徒を叱る様な教師の目で有咲に言われてしまった。
あなた自身、お洒落している自分になれていないこともあり、有咲の言葉に、それもそうか、と妙に納得してしまった。
「でも、まあ、そうね、すぐにでもできる改善点を、敢えて、あげるなら……」
勿体付けた様な言葉と共に、ゆっくりとした動きで有咲はあなたの首元を指さした。
「……その、星型のペンダント、あんたに似合ってないわ」
えっ、とあなたは驚いて声を出してしまった。
せっかく教えてくれたのにそんな態度を取ったあなたに、有咲は憮然とした表情で腕を組んでしまった。「減点ね」と言う呟きが聞こえた
この星型のペンダントは香澄にもらったもので……と説明するあなたに、有咲はわざとらしい溜息をしながら俯いてしまった。
数秒俯いた後、有咲は厳しい表情をして顔を上げた。
「かすみんからのプレゼント、ね……まあ、それなら付けちゃうのはわかるわ」
でも、と続ける有咲。
「あんたのそのコーディネートにそのペンダントはちょっと似合ってないわ。今すぐはずせ、とまでは言うつもりはないけど……仕方ないわね、今度そのコーディネートにあったアクセサリーを買ってあげるわ」
えっ、とあなたは驚いて再び声を出してしまった。
何というか……有咲がそう言ってくれるのは珍しい。「不満?」と聞いてくる有咲に、そんなことない嬉しいよ、とあなたは感情をこめて返事をした。
その言葉に機嫌を良くしたのか、有咲は花の様に微笑んだ。
「じゃあ、来週に白鷺ショッピングモールへ買い物に行きましょ。ちゃんとエスコートしなさいよ」
仰せのままに、とあなたはちょっとおどけた様子で有咲の提案を一も二も無く了承した。
──────そういえば、白鷺ショッピングモールって最近どこかで聞いたな、とあなたは思い出そうとしたが、有咲に蔵の中へ誘導されて、すぐに考えるのを辞めてしまった。
蔵の中に入ると、さっそく書いてきたレポートをあなたは有咲に渡した。
レポートというが実際は遊んだゲームの感想文であり、そんなに形式ばったものではない。
今回のレポートは「ガールズパーティー」といういわゆるギャルゲーで5人の女の子が攻略対象のゲームだ。
メインヒロインの能天気系元気女子、由緒正しいツンデレ系盆栽ガール、チョココロネ好きの内気系女の子、美人な不思議ちゃん、すこし影を見せるところはあるけど溌剌した家族思い少女……彼女たちと仲良くなって最終的には恋人になるというよくあるギャルゲーだ。
「ふぅん……あんたはこの由緒正しいツンデレ系盆栽ガールが一番好みだとおもったのね……ところで、何で理由が書いてないのかしら?」
提出したレポートを確認しながら有咲が確かめて来た。
……ごめん、大きな理由は無いんだ、と有咲の質問に返すあなた。
本当に理由が無いのだ、ただ直感的に、その子が一番かなと思っただけである。
「……ん、なるほどね。まあ、それなら仕方ないか。次はちゃんと理由がかけるようになりなさいよ」
あなたの言葉を受けた有咲は優しく微笑んだ。
有咲のこの反応は取りあえず、有咲の好みと一致した証である。
良かった、と思って有咲に笑い返しながらあなたはゲームの準備を始めた。
《一緒に白鷺ショッピングモールへ行こうって誘ったんだけど断られちゃった……》
《師匠もか。うちも主殿を忍者カフェへ誘ったが、断られてしまったぞ》
《……あれコスプレする奴でしょ? りみりん、皆に断られてない?》
《沙綾センパイ辛辣っす! ……あれ、自分誘われてないような……》
ポピパの皆のそんなやりとりをあたしはほくそ笑みながらLINEで見ていた。
さいきんの“あいつ”は以前よりもお洒落に……ううん、「あたし好み」になった。
“あいつ”をヒロインに合わせるように育成するのは大変だった。
一緒にいる時を狙って“あいつ”に色々と教えた。
些細なすれ違いから幼馴染同士が喧嘩したり戦い合ったりするゲームやアニメを一緒に見て、
「幼馴染だからと言ってなんでも知っていると思ったら大間違いよ!」
と言ったり。
相手の事を心配していつも「守る」と繰り返し話をしたり、会いに来る主人公がいる作品を一緒に見て、
「それって相手の事を信じてないってことじゃない?」
と言ったり。
少しずつ時間を掛けてここまで育ててきたのだ。
その結果、最近の“あいつ”はかすみんよりもあたしを優先するようになったし、あたしに合わせようと様々の物を買うようになった。
順調だ、お邪魔キャラは多いが今のところ順調に育ってきている。
そんなときに“あいつ”からメールが来た。
内容は明日遊びに行ってもいい? というものだった。
「あ、あははははっ!」
すぐにオッケーの返事を筒と同時に、おかしくておかしくて笑い転げてしまった。
最初に誘ったかすみんよりもあたしの事を優先したことに! 誰にでもなく勝ち誇った様な笑い声を上げてしまった。
翌日、“あいつ”が家にやってきた。
今までのちょっと無頓着な格好とは違う、あたしの指導した通りの服装と髪型をして。
内心の笑みを抑えるのに必死だった。
「中々いいカッコしてるじゃない。……まあ、満点はあげられないけどそれなりに高評価してあげるわ」
本当に満点を上げたいぐらいだ。
ただ、一点。誰があげたものかすぐにわかる星型のペンダントを除いては。
「そう簡単に満点なんて取れるわけないでしょ。まだまだこれからよ、これから」
満点でないのはどうして? と聞いてくる“あいつ”に、星型のペンダントに対する怒りを感じながら、“あいつ”に感じ取られないように少しそっけなく返す。
「でも、まあ、そうね、すぐにでもできる改善点を、敢えて、あげるなら……」
これは、一種の賭けであった。恐らく、“あいつ”の大事な幼馴染からのプレゼントであろう、“それ”。
勿体付けた様な言葉と共に、ゆっくりとした動きであたしは“あいつ”の首元を指さした。
「……その、星型のペンダント、あんたに似合ってないわ」
その言葉を受けた“あいつ”の反応は劇的だった。
の星型のペンダントは香澄にもらったもので……と説明する“あいつ”の顔はあたしの不機嫌を買うまいと必死に説明していた。本人は気が付かなかったようだけど、以前の“あいつ”なら、かすみんを説明に使うなんて考えられなかっただろう。
顔が裂けてしまうほどにやけてしまう
咄嗟に俯いて“あいつ”から顔を反らす。
数秒してにやける顔を厳しい表情へとなんとか変えて、”あいつ”を正面から見据える。
「かすみんからのプレゼント、ね……まあ、それなら付けちゃうのはわかるわ」
納得したように振舞うが本当は全く納得していない。
ここまで“あいつ”を育ててきて、まだ
その事実だけでも頭がグラグラしてしまうそうだ。
──────────だから、容赦はしない
「あんたのそのコーディネートにそのペンダントはちょっと似合ってないわ。今すぐはずせ、とまでは言うつもりはないけど……仕方ないわね、今度そのコーディネートにあったアクセサリーを買ってあげるわ」
えっ、と驚く“あいつ”だった。本人でも気が付いていないだろうが、その表情は驚きに喜色が混じっていた。
「不満?」とわざとらしく聞いてみるが、“あいつ”は本当に嬉しそうな顔で、そんなことないよ、と否定した。
笑みがこぼれる……これから先のことを考えて。
「じゃあ、来週に白鷺ショッピングモールへ買い物に行きましょ。ちゃんとエスコートしなさいよ」
(かすみん、あたしが先に行くからね。ふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふ)
笑みがこぼれる……
(じっくり、じっくり……
あたしは2つのゲームを続ける。
まだまだ、先は長い。それでもこの先に楽しいステージとエンディングがあると信じて…………
基本的にはハッピーエンド厨なのでトゥルーエンドがハッピーでないのは苦手