小説版バンドリのヤンデレの様なそうでないような話集   作:現実逃避中

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気が付くのが遅すぎた事に気が付いたので投稿します。

※暴力描写が多少あります、苦手な方はご注意を。


花園たえ・続

 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない………………………………! 

 

 花園たえは怒りで燃えていた。

 “彼”が自分の事に気が付かない日々。自身との約束を破ったことをただただ見せつけられれる日々。ギターを演奏しないのに音楽にかかわっている彼を見る日々……それらがたえの怒りの炎を激しく煽っていた。

 そんな中、ただでさえ怒りで燃えている日々に更に油が注がれることが最近あった。

 

 ──────山吹沙綾の加入

 

 何があったかは詳しくは知らないが、“彼”がギターを辞めた原因。それが一悶着会ったもののバンドに入ってきた。

 ヤマブキパンというあの女の店で手渡されたパンを食べた時、怒りで感情がどうにかしてしまったのか、目が勝手に潤み危うく泣きそうな気分になってしまった。まあ、どうせ加入しないだろうと放っておいたのだが……かすみんセンパイのここ一番での行動力を甘く見ていた。“彼”からギターを奪った女が何食わぬ顔でバンドに入ってくる。その現実を受け止められずにその瞬間は頭が真っ白になってしまった。

 

(大体どういうことっすか、元バンドメンバーとはいえ、“彼”も……!)

 

 花園たえにとって更に気に食わないことに、沙綾が加入してから“彼”が普通に沙綾と交流している事である。

 

(そいつはキミからギターを奪った奴っすよ……よくそんな相手と平然と話が出来るっすね……! 私との約束なんてどうでもいいんだ……! この裏切者!!)

 

 気に食わない、気に食わない、気に食わない、気に食わない、気に食わない、気に食わない……! 

 

 ギターを辞める原因となった沙綾もそんな相手と平然と関わる“彼”も、何もかもが気に食わない。

 たえの怒りが音楽にも表れているのか、強く音を出し過ぎてしまったり、細かな所でミスをしてしまうことも最近は増えてしまった。

 皆がそれを心配してくれる。かすみんセンパイにベンケーセンパイにニンジャセンパイ……こんな自分を心配してくれてありがたいやら情けないやら。

 ……沙綾に心配されると自分の情けなさに怒りそうになってしまう。

 “彼”に心配されると……とりあえず頬が熱くなるので、怒っているのだと思う、多分!

 

 たえはどうにかして現状を終わりにしたかった。自分でも何を終わりにすればいいのかどうすればいいのかわからないが、とにかく終わりにしたかった。

 ……だから終わりにすることにした。たとえその先に待つのが何であろうとも、たえは終わりにしたかったのだ。

 

(まずは“彼”からっす……! ぐちゃぐちゃにして、ずっとずっと私の元で謝らせ続けさせてやる……! 2度とギターが弾けないように、約束を破った罪をいつまでも忘れないように、その身体に刻んでぐちゃぐちゃにしてやる……!!)

 

 全てを焼く尽くす氷のような、触れた物を凍らせる炎の様な感情がその時のたえに爆発しそうな程に渦巻いていた。

 片目に宿った負の感情が、かつてもう片方の目に宿った恋の輝きを消し去らんばかりに浸食しだしていた。

 

 

 

 

 

 何だろう、とあなたは内心で首をかしげながら歩いていた。

 昨日の蔵レンの後、たえから『明日、家に来い』の一言で家に来るように誘われ──────いや、あれは命令に近いか? 

 とにかく、たえの眼は何らかの意を決した様な強い眼をしていた。何の意思を固めたかはあなたにはわからなかったが、その思いを無下にするつもりは無かった。ちょうどその日は予定が……ないわけではなかったが、家で()()()をするだけだったので。

 同時にどうしてあの快活な少女が自分を────最近では沙綾も? 敵視した目をするのかをあなたは知りたかった。なので、あなたが絶好の機会だと捉えたのもあったが。

 護衛と言ってついてきたがるりみや心配そうにする香澄に沙綾、手を出さないようになどと注意する有咲をおいて、あなたは一人でたえの家に向かっていた。

 

 LINEで送られてきたたえの家の前についた。

 あなたはその家を見て、鉄壁の城塞の様な囚人を監獄の様な冷たい印象をどうしてか受けてしまった。ごくりと無意識につばを飲み込む。

 何故そんな風に思ってしまったかはわからない、これから何か起こるのだろうか。しかし、ここまで来た以上引き下がるつもりは毛頭なかった。

 あなたは恐る恐る玄関にあるインターホンを押した。冷たい印象とは反する軽快なチャイムが白々しくなった。

 数秒後、『……入って』という爆発しそうな何かを限界まで抑えたかのような小さな呟きと共に、ガチャリと重い様な軽いような音を立ててドアのロックが解除された。

 あなたはおそるおそるドアを開けた。ドアを開けた先には俯き前髪で表情を窺うことが出来ないたえがいた。

 ────そういえば、とあなたは昔を思い出す。昔、ひと夏だけ一緒に遊んだ“あの子”、あの子もすねたりすると帽子の角度を変えて俯いて表情を隠していたな、と。場違いなことを考えてしまった。あの子との約束を一度破ってしまったのに、それでも自分は都合よくギターをまた聴かせてあげたいだなんて……

 

「ついてきて」

 

 たえの消え去りそうな声であなたは現実に引き戻された。

 たえはあなたの返事を待たず、フラフラとした様なしっかりしている様な相反する感覚を受ける足取りで廊下を歩きだした。

 お邪魔します、とあなたは挨拶して、たえの後を付いていった。

 

 

 

 通されたのはたえの部屋だった。

 ウサギのインテリア可愛らしく配置されている、女の子らしい部屋だった。

 ────────壁に貼り付けられているあなたの写真さえなければ。

 

 は……? あなたは困惑した。意味がわからない、何故自分の写真がこんなにも壁に貼り付けられている。しかも、ただ貼り付けられているものだけでなく、その中の半分ぐらいは自分の顔が塗りつぶされて至り、赤いペンで×が掛かれている。

 それらを認識した数秒後、あなたの背中に冷たく流れ落ちるものがあった。まずい、とあなたは思った。ただの直感ではあったがここにいてはまずい、と思った。

 

 ────しかし、それは少しだけ遅かった。

 

 ガシャン! と音を立ててあなたに腕に何かがかけられた。

 銀色に鈍く輝くそれは、刑事ドラマ等で見たことのある……現実的には初めてみる……手錠だった。

 見た目ほど重くない手錠は、しかし確かな重さをあなたへと与えて来た。あなたは驚きで固まっていた。そのあなたに構わず、散歩中に動かない犬をリードで引っ張るかの如く、たえは手錠を自分の方へ引っ張った。

 驚きに固まっていたあなたは踏ん張ることも出来ずに引っ張られて床へ転がった。

 床とぶつかった身体が痛い、あなたが顔を起こそうとするよりも早く、たえの白くて綺麗な足があなたの右手の上に乗せられた。

 

「……この右手、いらないっすよね?」

 

 言葉と共に右手が踏みつけられる。強くは無い少女の力とはいえ、無理矢理引っ張られて、逆方向へ踏みつけられればまるで手がちぎれてしまうかのような激痛が右手に走った。

 ……っは、ああっ! とあなたは痛みに呻きながら、痛みを与える主であるたえを何とか見上げた。

 たえの表情は氷の如く凍り付いてた。しかし、氷の下には噴火を待つ溶岩が煮えたぎっているようで、ふとした刺激で表面を覆う氷が割れてしまうのは明白だった。

 ……なんで、とあなたは無意識に呟いてしまった。以前から敵視されていたのも嫌われていたのもわかってはいた。しかし、ここまでされる謂れがわからない。

 あなたの言葉にたえの氷に少しひびが入った様で、憤怒の炎が漏れ出し、表情を忌々し気に歪めた。

 

「あなたの事、気に食わないからっすよ」

 

 ギリ、と右手を踏む足に力が入る。

 ぐうっ……! と痛みに打ち震えるしかあなたは出来なかった。

 

「……裏切者」

 

 たえがぼそっと呟いた

 

「裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者、裏切者…………裏切者っ!!」

 

 呟きは次第に大きくなり、最後には咆哮と化した。

 その咆哮に、憤怒と憎悪と悲痛さが含まれているのをあなたは感じた。

 ……わけがわからないのは変わりない。しかし、自分はこの少女をここまで傷つけ歪めてしまう様な事をしてしまったのだ。

 あなたを自分でもわかり切れない罪悪感が襲った。そんなあなたに気が付いたのか、たえは何度も繰り返し繰り返し、あなたの右手を踏みつけた。

 

「こんなのっ、こんなのっ……! いらないっすよねぇ!? だったら、自分が潰してやる!!」

 

 ガシガシと右手が踏まれ続ける。

 痛かった、だがそれ以上に心が痛かった。多分、許してもらえないだろうと思った。償い方すらわからない。

 ……それでも

 

 やめてくれ

 

 あなたは静かにたえに訴えた。今、この右手を失うわけにはいかない。約束を破ってしまったが、それでも────────

 あなたの訴えを聞いたたえの眦が憤怒のため釣りあがった。ギリギリと歯ぎしりし、右手を踏んでいる足の力が強くなる。

 

「よくも、そんな恥知らずな……恥知らずな事が言えるっすね!!」

 

 ぐりぐりと右手をすりつぶしていくかのようにたえは力を入れて足を動かす。

 あぁ……、痛みで呻きながら諦めた様なため息をあなたは出した。

 わからない、わからない……たえがどうしてそこまで怒っているのかわからない。

 けれどもあなたの中でわかっていることはある。自分が昔、あの子とした約束を破ってしまったこと。だから────────今度こそ、その約束を裏切りたくない。痛みで言葉に出来ない、それでも伝えなくては────────

 

「あの時の! 約束を! 破った癖にっ! このっ、このぉっ! 自分はずっと忘れていなかったのに! こんな右手が残っているから……淡い希望を抱くんだっ! 潰れろ、潰れろぉぉぉぉ……」

 

 …………約、束? 

 その言葉に反応したあなたは痛みに耐えてたえの顔を見る。

 憤怒に染まる目からは涙がこぼれていた。憎悪に染まっていたはずの叫びには必死な悲痛さが窺えた。

 その涙に、必死なまでの悲痛さに、あなたは見覚えがあった。

 数年前のあの夏の日……別れる事になり、再開の約束をした少年。いや、少年だと思い込んでた人物。

 その顔が……重なった。その瞬間、あなたはたえの怒りも悲しみも何もかもを理解した、気がした。

 ならば、これは当然の罪だと、罰だと思う。

 ……だから、言葉を紡ごう。それがあなたが少女に出来る唯一の事であり、それ以外はしてはならないのだから。

 

 約束を破ってごめん。

 

 あなたが言葉を発したとき、ぴくりとたえは揺らいだ。

 沙綾の事も知ってるんだよね? そう尋ねたあなただったがたえから返事は無かった。ただじっとぐちゃぐちゃに歪んだ感情の表情であなたを見ている。

 あなたは話した。たえと約束して別れてからの事、香澄に起きた事、バンドの事、沙綾の事、そして今の自分の事。

 

 沙綾がポピパに加入したその日、あなたと沙綾は和解をした。そして、あなたは再びギターを手に持った。今度こそ、あの夏の子との約束を破らないために。

 あなたが言葉を紡ぐたび、たえの身体は震え、涙の粒は大きくなった。色々な感情が混じり合った瞳からは彼女の思いを察することが出来ない。

 あなたは一通り話をした。たえの動きは止まり、数秒とも数十秒とも数分間とも数時間ともわからない沈黙が部屋を包んでいた。

 

「……今更」

 

 ぼそりとたえが呟いた。

 

「今更、そんな都合のいい……」

 

 たえの声も身体も震えていた。

 

「そんな事、許せるわけがない……!」

 

 たえは右足を大きく上げた。恐らくあなたの右手を砕く為だろう。あなたは目を瞑り、静かにその時を待った。

 

 

 

 …………

 

 

 

「……今更」

(覚えていてくれた、嬉しい)

 

「今更、そんな都合のいい……」

(ふざけるな、約束を勝手に破っておいて)

 

「そんな事、許せるわけがない……!」

もうやめよう?(砕いてしまえ!)

 

 右足を大きく振り上げる。どうしたいのか自分でもわからなくなってしまった。

 勝手に約束を破って置いて、もう一度約束を守ろうなんて都合の良過ぎる。

 ギターを再開する理由が、何よりも約束のためなんて嬉しい。

 こんな事を始めてからそんなことを言い出すなんてズルい。

 “彼”の事を正直に話してくれて笑みがこぼれそう。

 

(わからない、わからない、わからない……自分はどうすれば……)

 

 ぐるぐるグルグルと嬉しさと怒りの相反する感情がたえの中で渦巻く。

 ここで右手を潰したら今度こそ“彼”のギターを聴け無くなってしまうのではないか? 

 約束を破ったのは“彼”だ、ギターなんて二度と弾かせてやるものか。

 ぐるぐるグルグルぐるぐるグルグルぐるぐるグルグルぐるぐるグルグルぐるぐるグルグルぐるぐるグルグルぐるぐるグルグルぐるぐるグルグルぐるぐるグルグルぐるぐるグルグル……………………

あ、あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっっ!!!!!!!!)

 

 どうしていいかわからなくなったたえは内心で悲痛な叫びを上げながらも、表情には一切出さず、大きく足を振り下ろした──────────────―

 

 

 

 

 

 あなたはたえのベッドに腰掛けて、右手の動きを確かめていた。

 たえがあなたに抱き着いて腰に顔をうずめて体を震わせて泣いている。

 あなたは左手でたえの頭を優しく撫でた。言葉は出なかった、何を言っていいのかあなたにはわからなかった。

 涙でかすれた声でたえが言葉を紡ぐ。

 

「もう、どこにもいかないで欲しいっす……あの時みたいに手を振って別れたくないよぉ……」

 

 ひぐひっぐとたえは泣きながらも自分の思いを吐露する。

 彼女をここまで追い詰めた自分が傍にいていいのか、とあなたは思う。今すぐ消えた方がいいのではないかとも。

 しかし、それはあなたにとって都合のいい免罪符かもしれない。いや、ここまで彼女を傷をつけたのにまだ傍にいる方が免罪符なのだろうか。あなたにはわからなかった。

 それでも、あなたは傍にいたいと思ってしまった。自分が傷つけてしまった彼女を支えたいと思ってしまった。許されることではないはずなのに。

 

 たえの傍にいたい、たえが望んでくれるなら

 

 あなたの言葉にたえは少し力を入れて腰を掴んだ。

 たえの身体の震えも心なしか大きくなっていた。

 

「絶対、絶対に今度こそ、約束を破らないで……」

 

 ああ、とあなたはそういって頷いた。

 今度こそ、今度こそ……彼女との約束を破らないようにしようとあなたは胸に刻んだ。

 信用されると思っているのか?と、たえの部屋に貼られている×印を付けられた自分の写真が吐き捨てた気がした。

 彼女をちゃんと支えてあげるんだよ?と、たえの部屋に払ている×印を付けられていない自分の写真が諭した気がした。

 あなたは右手にかけられた銀の手錠の先を見た、手錠の片方は()()()()()にかけられて繋がれていた。

 銀の鎖は固く結ばれて引きちぎることは出来ない。罪と罰の証は部屋の光を冷たく反射していた。

 

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