私は戦う。家族と故郷を奪ったジオンに復讐する為に。
デラーズフリートの蛮行を阻止する為に。
―――――でも今引こうとしている引き金は正しいのだろうか?

1 / 1
ある方のガンダム0083の二次創作に感銘を受けて書いてみました。


成すべきでない”復讐”

『――――――――シドニーを、返せ』

 

連邦軍の何処かの部隊の無線が混線したのだろうか?ジムキャノンⅡを駆り、私は自分の胸の内から出たような呪詛と轟音を背に加速する。眼前の照準に重なるのはデラーズ・フリートのリックドム。横合いのサラミス級への牽制射撃を意図してバズーカを向けていた敵機はこちらへ慌てて振り向こうとするがもう遅い。

 

「……くたばれ」

 

ジムキャノンⅡに装備されたキャノン砲は高出力のビームを発射する。それはすなわちキャノンの一撃は光の速さで標的を撃ち貫くという事で――――――高出力のビームはリックドムを過たず貫き真っ二つにした。

 

『うぐお……!デラーズ閣下にえいこ……っああ!』

「チッ、どいつもこいつもお決まりの言葉ばかり吐きやがって」

 

死に際まで自己陶酔かと私は舌打ちする。戦況の大勢は屈した。しかしそれでもデラーズ・フリートの多くは戦意を失っていない。この手の奴らはジオンに限らず追い詰められると似たような言葉を吐きながら特攻を始める。全く持って度し難い奴らだ。

 

デラーズ・フリート。宇宙世紀0083に蜂起したこのジオン軍デラーズ艦隊を基礎とした大規模なジオン残党軍はガンダムの奪取からコンペイトウへの核攻撃、挙句の果てにはコロニー落としを目論み連邦軍と熾烈な戦闘状態にあった。無論その実態は一年戦争を生き抜いたベテランも含むとはいえど敗残兵の集まりであり連邦に比して小規模な軍勢しかない。度重なる連邦軍の攻勢により最早瓦解しつつある状態だ。が、なおも懲りずに戦闘を続けている。

 

「そんなに酔いたければ……安酒でも煽ってろっての!」

 

小隕石帯を避けて回り込みながら接近してくる影が一。ドラッツェと呼ばれる球形のプロペラントタンクが特徴的なデラーズ・フリートの簡易型モビルスーツだ。

 

「せめてっ貴様だけでも道連れに……!大尉殿ォ!」

 

ドラッツェは劣悪な運動性能を補う程の直線での加速性能を持ち、ビームサーベルを活かした接近戦に持ち込まれては非常に厄介ではある。ならば相手のペースに乗らず避ければいいだけだ。パーツの問題か技量の問題か敵の愚直すぎる機動は見切りやすい。アンバックを活かした機動で闘牛士の様にいなして背後をとる事が出来た。

 

『かわしたっ!?』

「しつこいんだよっ!」

 

通り過ぎたドラッツェの無防備な背中をロックオン。90mmの大口径ブルバップ式マシンガンから無数の銃弾が放たれて、ハチの巣の様な弾痕を濃い青で彩られた直線番長のボディに刻む。あえなくドラッツェの背部は爆発し続いて誘爆した本体もが爆発し粉々で吹き飛んだ。

 

「これで……4!」

 

ドラッツェの欠片がジムキャノンⅡのボディを叩くが砲戦仕様に追加された装甲はびくともしない。次なる獲物を求めて私は周囲のセンサーに気を配る。流石にエネルギーは尽きてきたがまだ1,2機程度なら余裕でやれる。まだ私は薄汚いテロリスト共を宇宙の塵にする事が出来るのだ。狙撃されないように乱数機動を織り交ぜながら敵機を探知していると4時の11時の方向に感あり。機体を加速させていけば見えてくるのはマシンガンを持ったザクⅡ。どうやら離脱しようとしているようだが何度見ても忌々しい一つ目に私の戦意は沸騰する。

 

「逃がさない……!」

 

スラスターに点火し一気に加速し死角を狙う。慌てふためくザクに対して優位をとる。逃がす物か。私はジオンのモビルスーツが嫌いだ。グフもドムもゲルルグも何もかも嫌いだがそれらより遥かにザクが嫌いだ。

 

だってザクは―――――私の故郷を滅ぼし、両親を殺したモビルスーツだからだ。

 

 

 

 

一年戦争が始まるまでの私の人生はまあ幸せだったと言えるはずだ。北米の何の変哲もない地方都市の暮らしは退屈だったがそれなりの幸福があったし、その頃にはまだ両親や妹がいた。空を透かして程好い日差しが降り降り注ぎ石造りとビルディングが両立する街並み、いつも通りのお気に入りのアイスクリーム屋や服屋のならんだ店が並ぶ商店街。そして家族の待っている鮮やかな花を植えたこじんまりとした花壇がある家。生まれ育った街での生活を私は間違いなく愛していたはずだ。

 

だが1年戦争――――人類の半数を死に至らしめた愚行が私の幸せを奪った。コロニー落としの乱痴気騒ぎが終わるとジオンは宇宙から大軍を降下させ地球に対して同時多発的な攻撃を始めた。世界中どこもジオンと全く関係がない場所がない程の規模で行われた大攻勢は当然ながら私が家族と住んでいた街にも及んだ。

 

後で調べたところによると私の街が焼けた時のジオン軍の攻撃はそう遠くないニューヤークへの橋頭保の構築を目的とした物だったらしい。ほどなくしてニューヤークが陥落したのを見るにジオン軍の攻撃は戦略・戦術的効果は絶大だったのだろう。だが当時10代半ばの私にとってはジオン軍も連邦軍も関係なくただただザクの進撃する中を逃げ纏うだけだった。

 

私がその時覚えているのは悪鬼の如き一つ目のザク達の姿と、燃え尽きていく街に、流れ弾となった榴弾のせいで死んだ両親、そして私の背で冷たくなっていった妹の事だけだ。妹は苦しむ事なく死んで行けた事は不幸中の幸いというべきなのだろうか?

 

親戚に身を寄せた私は連邦軍のアカデミーに入り、MSのパイロットとして一通りの技能を身に着ける事が出来た。昔の私ならばまかり間違っても軍人等にはならなかっただろうがジオンに対する私の復讐心はそれ以外の道を選ばせなかった。私はモビルスーツのパイロットとしてジオン残党を殲滅するのだと当然の様に決意を抱いていた。

 

無論ジオンへの復讐心にあふれていたのは私だけの話ではなくアカデミーには私と同じような境遇の子が山ほどいた。皆適正によって選んだ道は違ってもジオンへの復讐心とあんな事はもう起こさせないという強い意志に満ちていた。特にコロニーが落とされたシドニー出身者――――その惨禍を物語るように数は少ない彼らの姿勢は苛烈だった。彼らの中でも普段は陽気な癖に偶に虚無的な表情を浮かべていた奴、確かイケ……詳しい名前は忘れた、トリントン基地に配属された彼の表情はかなり印象に残っている。

 

「ちょこまかと……いい加減あたれえっ!!」

 

敵のザクはどういう訳か動きはいい。こちらの方が圧倒的に火力が上にも拘らずザクは小刻みな機動で躱してくる。牽制の様に放つマシンガンもうっとおしい。

 

ジオン野郎が早く堕ちろよ―――――そう私は胸の中で毒づきながら私は銃弾を放つがザクはひらりひらりと躱してくる。だがここまでだ。もうすでに場所は先程の様な小隕石帯に差し掛かりザクは網のように広がるフィールドに字追い込まれていく。宇宙の自然により生み出された天然の投網だ。

 

ザクのパイロットは自分の失敗を悟ったようだ。先程に比べれば鈍い機動でマシンガンを撃つがこちらには当たらないし少しばかり慎重に機動を変えれば隕石が盾になってくれる。対してこちらもマシンガンは有効打にならない物の既にマシンガンの装弾数は僅かであり、ジムキャノンⅡには強力なビームキャノンがある。出力を省エネに絞ってもこちらのみが有効打を持つかなり有利な状況だ。

 

 

1発、2発とビームキャノンが放たれてその内の1発がザクのマシンガン毎右腕を吹き飛ばした。腕を失った衝撃でのけぞるザクの損傷は大きい。でもまだ人間と違ってモビルスーツという厄介な代物は死んではない。

 

『―――――――っ!』

「しめたっ!今ここでとどめを刺してやるっ!」

 

混線した無線越しに敵パイロットの息をのむ声。追い詰められたザクは唯一の武器であるヒートホークを抜き放ちじりじりと距離を詰める。腹をくくった動きは先程同様に機敏だが、この状況で度重なる戦闘でアップデートされた制式FCSによるロックオンから逃れられる物ではない。マシンガンと同時に放たれたビームキャノンが左腕を周辺の機構毎吹き飛ばし、ザクの重厚な巨体は背後の一際巨大な隕石にたたきつけられた。

 

「仕留めた……!旧型のくせにてこずらせて……」

 

私は宙を漂うザクを注意深く観察する。先程隕石に打ち付けられた事もあり背部のバックパックがひしゃげているうえに両腕を失い各所が傷ついたザクは、もう如何なる整備士でも部品取りにしか使えない程に損傷が激しい。そんな状況でもコックピットに損傷がないのは敵にとっては不幸中の幸いと言ったところだろうか。最も今目前に連邦のモビルスーツがある状況ではそうも言ってられないだろうが。

 

「これで5機目ね。流石にそろそろ戻らないと」

 

私はマシンガンをザクにつきつける。当然だ。こいつらは元は忌々しいジオン軍の所属でありくだらない大義名分を掲げたテロによって大勢の人間を殺した。変に曳航した先で自爆されても困るしここでとどめを刺しておくのが正解だ。

 

「さっさととどめを…‥っ!」

 

私の目の前でザクのコックピットハッチがはじけ飛んだ。まさか機体を奪うつもりかと身構えるが一向にザクのパイロットは出てこない。どういう訳かと慎重さを維持していつでもマシンガンの引き金を引けるようにした上で、機体頭部のカメラをズームし中を覗き込んだ私は息をのんだ。

 

ジムキャノンⅡの頭部カメラが覗き込んだ中にいたパイロットはどうやら左腕が損壊したコックピットに挟まれて抜け出せないようだ。パイロットが脱出しない意図は分かったがそれ以上に私を驚かせたのは私のジムキャノンⅡに怯えるパイロットの顔があまりにも幼かった事だ。嫌な予感が胸をよぎる。

 

「学徒出陣の……!」

 

対デラーズ・フリート作戦の最中にも何度か聞いた事がある。1年戦争末期にジオン公国軍はア・バオア・クーの激戦に先立ち学徒兵の動員を行ったという。その多くが短期間の訓練でモビルスーツに押し込まれ激戦に投入された彼らは一説には8割が未帰還だったとも。さらにたちの悪い事にデラーズ・フリートにはどういう訳かモビルスーツの操縦技能を見込まれて士官に格上げされた学徒兵の生き残りを使っている等という噂までも聞こえてきた。(実際にコンペイトウでの戦闘では多数の元学徒兵が捕虜になったらしい)

 

さらにたちの悪い事にノイズ交じりではっきり見えないがパイロットは若い女だ。おそらくは私の妹が生きていればこのぐらいになったと思われる程には若い。それ間近に迫った死に怯え切っている。私はそれでも引き金を引こうとする。

 

(こいつはテロリスト、あのジオンのテロリストなんだ。だからっ……殺さないと!)

 

こいつらはジオン公国軍、コロニー落としの虐殺を繰り広げ私の故郷を蹂躙し大勢の人を殺した。性根の腐ったこいつらを活かしておいても碌な事にはならないのはデラーズ・フリートの跳梁を見ても分かり切った事ではないか。自棄を起こして自爆される前に撃たないと―――――でも私の指はまだ迷いに震えている。

 

(いや撃つんだ。私はまだあの日の復讐をこいつらにするにはまだ足りない。引け、引き金を引け……!)

『痛い……痛いい……』

「っ!?」

『痛い……助けてえ……』

 

聞こえてきたのはあまりにも幼い泣き声。戦場で聞くとは思えない。まだ現実に汚れに染まり切っていない声。

 

『お姉ちゃん、お母さん……死にたくないよぉ……!』

「嗚呼。全く神様ってやつは……」

 

私は宙を漂うザクを受け止めながら天を仰ぐ。興がそがれたというかなんというか。

 

「どうせならジオンの大義だの、義によって立つだの、見苦しい言い訳をするギレン狂信者のおっさんでも寄こせばいいのに」

 

来るべき所に、来るべき人間は来ないものだ。

 

 

 

 

 

連邦軍のサラミス級の艦内、後詰であった事もあり怪我人が少なく、ゆとりのある医務室のベッドにはさっきまでデラーズ・フリートの一員であった少女が横たわっている。左腕には包帯を巻き添え木を付けているが命に別状はなさそうだ。

 

長い黒髪をした少女は不安げに横を見ている。この船に入ってから手荒に扱われた事はない。むしろ丁寧なくらいの扱いを受けているが不安な物は不安だと少女は思う。

 

「検査した所挟まれた左腕は骨折しているが神経に損傷はない。他の怪我と合わせて全治2か月ってところだな」

「そうですか。なら良かったですね」

「うむ。まあな」

 

軍医と話してた人パイロットの徽章を付けた人は話を終えるとこちらに向き直った。自分を撃墜したジムキャノンⅡのパイロットの女性は綺麗な人だ、と少女は思う。水色のかかった銀色の髪に整った顔立ち。ちょっと目つきが悪いのがアンバランスだけどかなり綺麗な人だ。

 

「……よかったね。あんたの左腕結構すぐに治るってさ」

「は、はい。あのどうして私を―――――」

「ねえ。さっき聞いたけどあんた、家族がまだいるんだって?」

 

パイロットの女性はそっけなく少女に聞いた。どうでもよさげな様に。

 

「……はい。もう四年もあってないけど、ムンゾに両親と、姉が」

「ならとっとと帰りなよ。連邦のお偉いさんはジオン残党の弾圧の為らしいけど、あんたみたいな学徒兵は被害者として扱われるらしいから」

 

それだけ言うとパイロットの女性は去っていこうとする。だがどうしても少女は聞きたい事があった。

 

「あ、あの!何故あなたは私を、撃たなかったんですか!?」

「……別に。弾が切れてたのに気づいただけよ」

 

そう言ってパイロットの女性は出ていった。人生の青春を使い潰された少女に哀しみと安堵の涙を見せる事なく医務室から退出した。

 

妹と同じ年頃の子を想い憐れみ、果たすべきではなかった仕返しをせずに済んだ事への安堵の涙を流していた。その行いは少なくとも間違いではないのだろう。

 

何故ならかつての様に、無惨に引き裂かれる家族が一つ減ったのだから。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。