アマゾネス・ドットコムの危機に立ち上がる外部委託業者カルデア。その助けとなるべく召喚されたサーヴァントとは、、、、

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アマゾネス・ドットコム

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公――」

もう何度となく口にした詠唱を、祈りを込めて声にだす。

幾度となく大小様々なトラブルに直面し、それを乗り越えてきたカルデア。

今日も突発的な事件に見舞われて、スタッフも英霊たちも、文字通り東奔西走している。

そう。今俺たちが直面している問題とは、《配送》だった。

誰かから誰かへと荷物を送り届けること。そして物理的な荷物の受け渡し以上に、その贈り物に込められた願いや思いでさえも一緒に、真心こめて運ばなきゃいけない。

この危機に力を貸してくれるサーヴァントへ、その祈りが届くようにと詠唱する。

何の力も縁も持ち合わせていない俺に出来ることは、それだけだから。

「――我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

召喚部屋に眩い閃光と魔力の渦が迸る。ひと際強烈な光が室内を包むと、召喚の余波は次第に弱まり、召喚サークルの中には俺の願いに応じてくれた一人の英霊が立っていた。

これまでの旅では一度も見かけなかった、初めて出会う英霊だった。

ブルーの作業服のような衣装に身を包み、両肩と腰の両側に大きな金具のようなものが備え付けられている。そして腹部には裸の赤ん坊が入っているオレンジ色のポッドがあった。他のと同様の金具で固定されているようだ。中年の男性で、恐らくアメリカ人。ただでさえ細い目は召喚の光を眩しがっているように細められて良く見えなかったけれど、その奥には静かな力強さを感じた。

いつもならここでサーヴァントの方から自己紹介をしてくれるけど、その男性が口を開く前にたまたまその場に居合わせた孔明が後ろから声をかけてきた。

「勝ったぞマスター。この戦い、我々の勝利だ!」

どことなくデジャヴなセリフを聞いて、思わず振り返る。

「知っているのか、孔明」

「ああ。彼こそは分断されたアメリカ大陸を《配送》でつないだ男。サム“ポーター”ブリッジズだ。」

やや興奮気味に叫ぶ先生の説明を聞きながら視線を彼に戻すと、彼は丁寧に自己紹介をしてくれた。

「サーヴァント、ライダー、サム“ポーター”ブリッジズ。物を運ぶのが、俺の仕事だ。問おう、お前が今度の依頼人か?」

「初めまして。俺は藤丸立夏。早速だけど、今俺たちはたくさんの荷物を運ばなきゃいけなくて困ってるんだ。力を貸して、サム“ポーター”ブリッジズ」

「サムでいい。よろしく、マスター」

ファーストコンタクトは上々だ。そのままの流れで握手を求めると、彼は一瞬だけそれを躊躇して、それでも俺の手を取ってくれた。

「それで孔明、彼のこと知ってる口ぶりだったけど、もしかして知り合――」

振り返った先に、既に孔明はいなかった。

有名な英霊なら、俺もある程度知識を蓄えてきたしどんな逸話を持っているのか、どんなことが出来るのかは推し量れる。ただそれを全く知らない場合、調べるか、知っている人に聞くか、本人に聞かなきゃいけない。さすがに本人に「生前の功績を語ってください」なんて頼めないし、孔明ならその辺のことを理路整然と説明してくれると思ったのに。

仕方ない。まずはサムに、今起きているアマゾネス・ドットコムに関する事件について説明しよう。すんなりと伝わってくれればいいんだけど、今回の事件はユニバース臭漂う感じだからな~

どう説明したものかと悩み始めたところで、数人の人影が召喚部屋に駆け込んできた。

「どうだ!言った通りだろう!」

「た、確かにサム殿に相違ございませんね!しかしこんなこともあるのですね」

「うっわ~マジモンじゃないっスか~!これにはジナコさんもびっくりっスね~!」

部屋に駆け込むなりサムを見て口々に感想を口にするのは、恐らく他二人を連れてきたのであろう孔明と、巴、ジナコの三人だった。皆興奮気味にサムを囲み、挨拶を交わす。

突然の来訪者にサムも困惑を隠せないようだった。でも俺はこの反応の種類には見覚えがあるような気がしてきて、頭の中の記憶の引き出しを開けてみた。アレキサンダーやイスカンダルが、アキレウスに初めて会った時とか、ブラダマンテとマンドリカルドがヘクトールに会った時の、一方的なテンションの高揚とそれを向けられた相手の若干の困惑。

そして今しがた部屋に飛び込んできた三人の共通点。

ぼんやりと頭に浮かんできた可能性を、恐る恐る口にする。

「もしかして、ゲームの登場人物?」

「流石だなマスター。良い推理だ」

先ほどまでの興奮が収まった孔明が俺の言葉に反応して言葉を紡いでくれた

「彼は現代の世界において最も優れた《配達人》として知れ渡っている人物だ。世界的にヒットしたとあるゲームの主人公で、概念上のキャラクターであることは間違いない。だが本人にとってはそんなことは些末な問題だ。彼からしてみれば、彼のいた本当の世界から、こちらの異世界にレイシフトしたようなものだからな。ナーサリーライムと似た成り立ちだと思えばいい。電子上とはいえ彼が運んだ荷物は世界中のプレイヤーたちが運んだ荷物と同義だ。とても実在の人間が一生かけても運びきれるものではない。その意味で彼は人類史上間違いなく最も多くの荷物を運び、その為に最も多くの距離を踏破した人物だと言えるだろう。しかもそれが、ネットを通じて世界中の人々に認識されている。物資を配達することに関して言えば、彼以上に適任の英霊はいないだろう」

やっぱり孔明がいてくれてよかった。これだと本人から聞くのも理解するのも一苦労だっただろう。

「まあ、そういうことだ。ここでは俺は架空の人物かもしれないが、俺の中には、俺の世界の常識や俺のこれまでの人生がしっかりと存在している。そこは気にしなくていい」

「わかった。頼りにしてるよ、サム」

つまり三人は、自分が遊んだゲームの主人公に会えてわくわくしてたってことなんだろう。先ほど思い出していた、『憧れの英霊にあってサインをもらいに行くサーヴァントの図』はあながち間違ってなかったってことだ。

「さて、我々の休憩時間も残りわずかだ。再び配送に出る前に、サムを交えてミーティングをすべきかと思うが、いかがかねマスター」

「うん、ちょうどそのつもりだったんだ。孔明がいてくれるなら頼もしいよ。それじゃ、サム、カルデアの食堂に案内するよ。そこで今回の事件についての話をしよう」

カルデアに突如舞い込んだユニバース案件、いわゆるギャグ時空イベント、メガネをかけた知的女王がろくろを回す手を止めて頭を抱えてしまった《アマゾネス・ドットコム従業員一斉消失事件》について―――

 


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