砂漠の姫君   作:豊饒 ゆう

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四話 何時か交わされた王の話 2/2

────おれは長くねェ

    冒険は終りだ……自首するぜ

 

 桜が舞い散る月夜の晩。

 盃を片手に月見上げ、自身の死を告げたロジャーは物語る。

 それは死に逝く者の人生譚。幼少を語り、少年時代を過ぎ、親友との出会いに始まった海賊人生。艱難辛苦を乗り越えて、今や全てが思い出と謳う男の顔は晴れやかだ。ロジャーの自分語りは終には一時間を越え、それでもクロは静かに聞いた。桜の根本へ腰掛けて、瞑目姿は寝ているようだ。時折り挟む合いの手がそれを否定するも、果たして眠気覚ましか本気の言葉かは分からない。

 ロジャーは語りの合間に酒を呷り、持参した大樽は二時間で空となる。クロが呆れて指摘をすれば柳に風と受け流し、そのまま勢い語り続け──ようやっと三時間後に終りを迎えた。

 

「素敵なお話しどうもありがとう」

 

 星降る夜が白んだ空を見上げ、クロは花咲く笑顔でそう云った。右手に黒刀。左手には黒嵐。殺意渦巻く胸中晒し、暗に殺すと宣言を果たす。事前に告知はしたであろうと笑わぬ瞳が物語るもしかし。

 

「話はここからだ」

 

 殺意を浴びてなおロジャーは平然と云う。一切堪えた様子を見せずに、酒も抜けて理性の宿る瞳で言葉を紡ぐ。それはロジャーが抱き続けた疑問。終ぞ答えの見えなかった難題。決して見逃せない疑念であった。

 

「クロよォ……お前は一体何が目的だ?」

 

 ロジャーはクロとの邂逅直後、囁やく勘へ従い密かにクロの行動を洗っていた。その過程でクロが歴史の本文(ポーネグリフ)を巡っている事実を把握。さらにはオハラの一族を抱え込んだことまで調べがつく。これにロジャーは度肝を抜かれた。ロジャーたち一行は飽く迄も偉大なる航路(グランドライン)を制覇してから真実へと辿り着き、歴史の本文を巡り航海をやり直したのだ。対してクロは新進気鋭と胎動した直後、すでに歴史の本文を読み解きながら進んでいた。

 

────或いはおれよりも先に最後の島へ……

 

 そう思ったのも束の間、クロは新世界を去った。

 あろうことか終わりを目前に、もはやロジャーかクロの二者先着という状況で去ったのだ。結果として海賊王へと至ったロジャーには困惑しかなかった。ロード歴史の本文──赤い石碑を四つ読み解き、あまつさえその内の二つを確保──していると思われるが詳細は不明、ただし在ったはずの場所から石碑は消失していた──。加えて世界各地の情報を持つ石も読んだと思われるクロは、にもかかわらず酷くあっさりと新世界から消えたのだ。

 当初は意味が分からなかったロジャーである。海賊が目の前へ転がる秘宝を放棄し、一路に偉大なる航路(グランドライン)を逆走するなど考えられなかった。

 

「おれはよォ、お前という海賊が今でもさっぱり分かんねェ」

 

 思い返せば初めからそうであった。

 クロには熱がない。海賊としての誇りや矜持すらまるで感じられないのだ。さながら義務的で「海賊とはこういうものだろう?」とでも云いたげに、職業軍人がごとき振る舞いで海賊をやっていた──否。演じているとしか思えなかったのだ。少なくともロジャーたちは出会ってから今に至るまで、クロからはそのような印象しか感じられないでいた。まったくもって海賊をやる理由が分からない。それでいて誰よりも活発、勢力的に動くのだから質が悪いとはレイリーの言だ。

 

「だけどよ、お前がアラバスタに根を張ったと聞いてもしやと思った」

 

 歴史の本文は三種ある。

 歴史、情報を記す九つの石碑。その在処を示す数多の石碑。そして最後の島へ至る四つの石碑。ロジャーはこの内、最後の島へ導く四つの石碑と他複数個の石碑を読んでいた。ゆえにこそ、クロの行動にある一つの仮説が立ったのだ。

 

古代兵器(プルトン)を求めて何をする気だ────クロコダイル」

 

 

 

 

 逡巡は一瞬であった。

 ロジャーの問を受け、クロはつぶさに脳内へと己の思い描く未来構想図を構築する。それはさながら超大なパズルであり、クロが海賊人生を歩み始めたその日に頭の中で造った代物だ。一から十までピースが決められているそのパズルは、今日日今までほぼほぼ完璧に組み上げられ続けていたがしかし。それを今、この一瞬でクロは組み替えた。

 それは例えるならば何十万というピースで構築されるパズルの真ん中へ、新たなピースを急遽組み込むという離れ業だ。当然ズレが生じ、最悪は原型が組めなくなって崩壊するであろう。それを解してなおクロは実行した。

 

「私はただ幸せになりたいだけだよ」

 

 名もなき少女が其処にいた。

 捨てたはずの過去を、二度と戻る気のない敗者を、クロは躊躇なく演じて魅せる。その最中、小さな頭は光も驚く速度で回転していた。

 

(なぜ今────死期を悟ったからよ、猫みたいね)

(なぜ此処────人目を避けた、立場的に当然よ)

(なぜ動く────古代兵器、支配を勘ぐったわね)

(なぜひとり────当然、戦闘を考慮した結果よ)

 

 回り回って思考は加速。然れど外身(そとみ)は幼く迷える子どもを演じ、視界でロジャーが困惑する様子に薄すら笑みを噛み殺す。ロジャーの性根をクロは知っている──というよりも、相対した全員が理解するであろう。ロジャーという男は「憎めない奴」なのだ。それは裏を返せば────。

 

(お人好し、嘘は通じないでしょうけど……クハッ)

 

 嘘がダメなら吐かなければ良いだけの話。クロの思考は現実を置き去りに回る。一秒を十秒に、十秒を百秒に、足りないもっと早く回せと、思考が加速し答えを求めて断片繋ぐ。自首する本当の理由。その後。ロジャーの性格、思考、求めるもの。ありとあらゆる情報的欠片を拾い繋げ構築。時には砕き予測を立てれば、最適解は導き出された。

 

────使える、これは十全に使えるピースだ

 

 

 

 

「幸せだぁッ!?」

 

 予想外に過ぎるクロの言葉でロジャーは思わず素頓狂な声を張った。それを耳にクロは語りだす。己の歩んだ半生が一部を、目指して歩く終着点──その一歩手前を物語る。嘘は吐かない。吐けばロジャーは確実に見破るであろう確信ゆえ。

 

「美味しいご飯がお腹いっぱい食べたい」

 

 泥で汚れカビの生えた黒パンは最悪だとクロは云う。綺麗な洋服が欲しい、軽蔑の視線は厭だ、臭いのも汚いのも全て厭だとクロは告ぐ。演技であろうと当時を思い起こせば嫌でも蘇る記憶の数々は、言葉通りにクロが経験した本物だ。それはロジャーからすれば迫真であり、嘘がないからこそ見破れない真実となる。

 

「そこに綺麗なお水があればとっても幸せだよね」

 

 屈託のない笑みで告げればクロは目的を果たした。

 ロジャーに先程までの敵意はなく、あるのは小さな疑念と困惑だけだ。それを不安気に見つめてやればバツ悪そうに、然れど未だ残る疑念を以てロジャーは云った。

 

「だったらなんで古代兵器を求めるんだ?」

「別に求めてはいないよ? ただ持ってる、その可能性がある、そう思わせるだけで知ってる人間……ここではロジャーとかに意味を持つのが兵器の良いところじゃない?」

 

 つまりは示威行為だとクロは告げる。

 次いで、世界を滅ぼすことさえ可能とされる古代兵器。それを抑止力として世界政府に脅しかけ、王下七武海へ参入しようとしていた事実を語ればロジャーは笑う。確かに最適な脅しになるであろう。世界の真実を、古代兵器を知る五老星は血相変えるに違いない──そうロジャーは呵呵と云った。

 

「ねえロジャー……できると思う?」

 

 ここだ──その確信をもってクロは動く。

 ここで未来の全てが決まった。

 

「あ? そりゃお前……」

「私ひとりの命を賭けるだけで……幸せな暮らしが手に入るのかな……あの子たちに私と同じ思いはさせたくないよ……闘うしか能のない私に……今の世界を変えるだけのチカラは……」

 

 幸せを望むクロは自分だけでなく、保護している子どもたち皆が笑って暮らせる日常を求めると云った。それは簡単そうであり、実に難しい願いである。ロジャーは海賊として多くの物を見聞きし、残酷な現実を目の当たりにしてきた。だからこそ無責任に、目の前の怪物と思い込んでいた小さな少女に云い淀む。その感情が怪物の思い描いたパズルの1ピースとは気付けない。

 

「かーッ! なに弱気になってんだッお前らしくもねェ! 見ろよ!? 気持ち悪くてサブイボ立ったぞ!? いつもみてえに堂々と、ふんぞり返って「私が全てだッ!」とか云えよこの野郎ッ!」

 

 あまりにあまりなクロの悲壮な様相と空気で、終に耐えられなくなったロジャーは勢いで押す。全身を掻き毟り戯けるように転げ回る姿は、存外に本気を思わせた。

 

「テ────……酷いよ、私は本気なのに」

 

 一瞬。

 ロジャーの云い草に地が出かけるも取り繕い、クロは悲し気に振る舞う。それを本気と捕らえたロジャーは、クロの待ち望んだ言葉を口にした。

 

「だったらおれが証明してやる! クロ、おれの処刑を見に来い! 其処で、たったひとりの野郎の命で、世界が動く瞬間を見せてやるぜ!」

 

────だからよォ、その後はお前が世界を変えてみせろ!

 

 その言葉は二十余年後、実際に果たされることをロジャーは知らない。

 

「ありがとうロジャー…………ありがとう……クハッ」

 

 桜が舞い散る月夜は明け、朝陽を受けるクロは嗤っていた。

 これはロジャーが出頭する半年前の話である。

 

 

 

 

 鉛色の空を見上げてクロは呟く。

 直に空が泣くわ──詩人紛いのそんな言葉を耳にオルビアは立ち上がった。懐へと本を仕舞い、代わりに一着のポンチョを取り出す。黒色の小さなポンチョだ。

 

「戻る?」

 

 それを隣で佇む小さな船長の肩へ掛けながらオルビアは問う。返答は否。クロは首を振り「ありがとう」と礼を一つ、視線は眼下へと向かった。其処で犇めく人は優に万を越し、今か今かとたったひとりの男が死を望んでいる。目の前で人が殺されるその瞬間を、老若男女問わずに皆が望んでいるのだ。

 

「クハハッまさに狂気的ね」

 

 人海を睥睨しクロは嗤う。

 人々はこれから、此処から、平和が始まると信じていた。この時代の象徴とも云える、海賊の王が死ぬことによってだ。その幻想をクロは嗤った。

 

「平和なんて来ないわよ」

 

 公開処刑場が沸き立ち、クロの言葉は掻き消えた。

 断頭台で跪くロジャーの横へ、挟み込む形で執行人が立ったのだ。「終に」「いよいよ」「ようやく」と、言葉の数は人の数。怒涛の勢いで溢れ出す言の葉の津波は、しかし一瞬にして凪いだ。死を目前で笑う男によって、会場の熱は冷や水を浴びせられたかのように冷めてしまう。耳が痛くなる程に煩かった広場は、今や吹き荒ぶ風の音すら響きはしない。

 

「始まるのよ……闘争の時代が」

 

 静まり返ったローグタウンの外。

 遥か遠方で雷鳴は轟き、嵐の到来を告げるもしかし。気にする者なぞひとりとして此の場にはいなかった。クロやオルビアすらもそれは同じだ。思惑こそ違えど歴史的光景をその目に焼こうと、ジッと舞台の主役に注視する。

 

────刹那

 

 クロとロジャーの視線が絡む。

 一瞬の交差。当人同士でしか勘づけない時の中でそれは行われた。

 

────任せた

────いいわ

 

 クロは静まり返った世界へ向け、特大の爆弾を投下する。

 

「海賊王ゴール・D・ロジャーッ! 貴様の財宝は何処にあるッ!」

 

 覇気を込めた鮮烈な問いに、クロの姿を振り返る者はいない。

 

「海賊王ゴール・D・ロジャーッ! ワンピースは何処にあるッ!」

 

 皆がロジャーに釘付けで、一挙手一投足をも見逃すまいと見つめれば────。

 

 

 

 

 

おれの財宝か────?

 

 

 

欲しけりゃくれてやる

 

 

 

探せッ!

 

 

 

この世のすべてをそこに置いてきたッ!

 

 

 

 

 

 ロジャーは笑って託し逝く。

 クロは嗤って突き進む。

 世界は此の日────激動の大海賊時代へと突入した。








ロジャーの口調を知らない私←
ネットで少し検索かけて書きました。変だったら申し訳ないです。
凄く難産であった今回は、リテイクが数十回。たぶん5万文字は書いてを繰り返し、終にゲシュタルト崩壊を迎えこのような形で収まりました。本当はもっと書きたいこと一杯で、色々あったのですが……削りました。その辺は今後に小出しで、完結までに伝えられれば問題ないかと思われます。

上記で伝えたようにゲシュタルト崩壊した私は、なにか意味不明な文章を残してしまっているかも知れません。何せ書いては新規作成を繰り返し、コピペで繋いだりもしたので……怖いですわね。たまに文章が重複するバグ、あれ本当に怖いですわよね。何なのマジで!?

次回はこの続きローグタウン辺をちょろっと書くか、それとも一気に飛んで原作に行くか悩んでますのでアンケート。

最後に戦闘なくてごめんなさい!

5話────?

  • ローグタウン編(4話の続き。蛇足とも)
  • 原作一巻?編(ルフィ登場)
  • 原作行く前の穴埋め(20年間)
  • 由峰にお任せ
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