お待たせして、ごめんなさい。
スランプに陥り、書き直し続け、何度書いてもルフィが毎回クロに殺されるという結末を回避すべく(一部)ギャグよりにして息抜きした由峰です。
未だに何か違う感が拭えませんが、これ以上はエタりそうなので投稿。
本が燃えて逝く。
書棚も崩壊し、砲撃された木壁と共に残骸と化した今はただの薪となっている。
燃えていた。
クロが、義妹たちが、義弟たちが、ゼフに特注してもらったアンティーク調の書棚が、長年愛用してきた彼女のお気に入りの部屋が、轟々と燃え盛り消えてゆく。
「なに……これ」
クロは視界の左半分を失い、ただ呆然と立ち尽くす。右手には先まで使っていた電伝虫の受話器が握られるも、配線が繋がっていたはずの本体は残骸の中へ消えていた。特注のソファーやテーブルも、燃えてはなくとも使い物にはならないであろう惨状を晒す。
あまりにあまりな状況下、真っ先に動いたのは冷静沈着を地で行くオルビアとロビンの考古学母娘であった。
「ペローナ、状況確認!」
「モネ、火消しをお願い! 他の子は無事な本を回収するわよ!」
彼女らは慣れた様子で指示を出し、皆が皆でそれぞれ即座に動き出す。誰もクロには触れやしない。普段はお姉さまと懐くミキータやビビですら、まるで見えぬと云わんばかりの様子だ。
例え上半身の左半分が砲撃の直弾で吹き飛んでいようと、気付けば右顔半分が幽鬼の形相で歪んでいようと、彼女らは絶対に今のクロに触れたりしない。否、触れることなぞできないであろう。
「幽体離脱、行ってくる。あ、身体よろしく」
「………………」
「雪遊び・雪化粧…………(まあいいか)」
ペローナは我が意を得たりとミキータへ身体を頼み、脱兎のごとしと飛んで行った。それがこの場からの逃走であることは火を見るよりも明らかだ。「ホロホロ」と余裕綽々に笑わなかったのが何よりの証拠であろう。
頼まれたミキータはゆえに躊躇なくペローナの身体を放り投げた。投擲場所はもちろんモネの、雪化粧の射程範囲内である。
哀れなるかな。空っぽのペローナの身体に抗う術はなく、瞬く間に彼女の身体は雪で覆われた。
「貴女たちね……まあいいわ。それより急いで本を回収して!」
一連の流れを横目にしていたオルビアは、溜息一つ回収作業を急がせた。
もっとも部屋はさほど広くなく、離脱したペローナと火消しのモネを除いても回収作業員は八人いるのだ。時間的、また無事な書籍の量的にも回収作業はすぐ終わる計算のオルビアであった。
むしろ彼女としては火消しの方が問題だ。
雪で火を覆い尽くすまでは良いものの、もとよりモネの扱うユキユキの実は広範囲型の能力である。微妙な加減を得意としない彼女のチカラでは、無駄に被害を拡大しかねなかった。
(火を覆えば雪は溶けるし、溶けた水でインクが滲んで……はぁ……これはほとんど諦めるしかないわね…………待って、これ下の階に水が────)
「モネ」
「ッ! はい、なにか」
事態の収集に頭を痛め、二次災害の可能性に気付いたオルビア。そんな顔が青褪めた彼女の耳に、聞き慣れた鈴の音の調が届く。声音は少女のそれだ。されど言の葉に内包する圧力は、紛れもなく覇王の威を放つ絶対王者のものであった。
「火を、消せ、今、すぐ」
それは所謂ところの流し目であろう。
皆に背を向けていたクロが、顔の左半分が未だ消失した状態で振り返り告げた言葉。返事も可否も求めていない絶対の言の葉は、その場の全員の身体を見えない鎖で拘束した。
「(ヒャッ怖いッ!?)雪華繚乱・豪雪大瀑布ッ!」
「ッ待ちなさいモ────」
『ちょっと待て!?』
そんなブチギレた海王類すら生温い状態のクロ。彼女の欠けた視線を一身に受けたモネは、オルビアの静止も虚しく最大規模の大技を行使した。
刹那。
部屋は一瞬にして白く染まり、雪で溢れる内側からの大規模圧力によって吹き飛んだ。
◇
「おいやべェぞ!」
麦わら海賊団が運悪くバラティエで遭遇した海軍船は、大尉曰く休業中と宣い去って行った。それを鵜呑みにする一同とは違い、臆病ゆえに最後まで警戒していたウソップは叫ぶ。去り行く軍艦の船尾に取り付けられた砲塔が放射角を調整していたのだ。
彼の慌てふためく言動に、一同も遅れ馳せながらも気付くが遅い。すでに射角は調整を終え、大砲の横にはひとりの砲手が立っていた。例え如何なる航海士であろうと、凄腕の操舵手であろうが、停船した状態からの緊急回避は不可能だ。
「撃ちやがったァ~!?」
そうして轟く砲声に、ウソップを筆頭とした面々は泣き叫ぶ。空気を引き裂く独特な弾音が麦わら一行の耳へと届き、それと同時にルフィが弾線上へ駆け出した。
「ン任せろっ! ゴムゴムのっ……」
彼は船の手摺へ飛び乗って、仲間からの驚愕を背後に空気を吸い込み──刹那。
「風船っ!」
自らの身体を言葉通りの風船さながらに膨張させ、飛来した砲弾を受け止めた。彼のおおよその能力を知るゾロとナミ以外の、殊更に撃った海軍側に特大の動揺が巻き起こるもしかし。出鱈目な彼を知るゾロとナミをして、突っ込まずにはいられない状況へと事態は発展した。
「返すぞ砲弾!」
「どこに返してんだバカッ!?」
「お店を壊してどーすんのよバカッ!?」
『えええ────っ!?』
彼の腹部でぼよんと弾んで返された砲弾は、正面から受け止めたにもかかわらず軌道を修正。真っ直ぐに、それこそ狙いすましたような軌跡を描いてバラティエに直撃した。
その光景を目にナミはホッと息を吐く。直撃したのは船二階部の角だ。店舗は船一階の中央部であることを雑誌で読んで彼女は知っていた。一般客への被害はないであろうゆえに安堵する。
「おいルフィ! これから向かう船を砲撃してどうすんだ!?」
見ろと指差し叫ぶウソップ。
彼の示す着弾箇所からは濛々と黒煙が上がっていた。燃えている証拠だ。
「やべぇぇぇえッ!? どうしよう? 飯がぁぁぁ!?」
『そっちかよッ!』
「なんてことを…………アイツらなんてことを…………」
「ちょっとフルボディ? どうしたのよ、貴方らしくないわ」
漫才を繰り広げる麦わら一行を他所に、軍艦から小舟に乗り換えた海軍大尉フルボディは震えていた。普段は自信過剰を地で行き、実際に今の今まで麦わら一行を相手に見下し続けた彼はしかし。
「ああ、ウソだろ……こうなりゃ居ないことを祈るしか…………クソクソクソ」
「ねえったら! ちょっとフルボディ!?」
目の前の美女の言葉すら耳には届かないがさもありなん。
彼は、彼ら海軍は知っていた。バラティエの背後に誰が居るのか、VIP席と噂される隠し部屋の真実を知っていたのだ。そうでなければ説明がつかない事実はいくつもあった。
その筆頭が赫足のゼフだ。
彼は曲がりなりにも
明言はされていない。
海軍上層部の誰ひとりとして「バラティエはバロックデゼルト海賊団と関係がある」などとは云っていない。ただただ暗黙の了解として、バラティエでは絶対に騒ぎを起こしてはならないと無言の厳命をされているだけだ。
例えばそれは上官が偶然、たまたま独り言で呟いたものを部下が耳にしていたりといった具合で広がっていった。
大尉であるフルボディが知った状況もそのような形だ。
「おい、アレ見ろよ!? 雪だ! すっげぇぇ!」
「うぉぉぉぉぉ!? 雪が船から吹き出したぞ!」
「おーまるで間欠泉だなありゃ」
「ハァ、呑気ねえアンタたち……」
『ナミの兄貴も十分呑気でさぁ』
「あ」
「もう! なんなのフルボディ!」
そこでフルボディは確かに視た。
噴雪する雪の中。白の奥に爛々と輝く獰猛な爬虫綱の瞳を、然とその目に焼き付けた。
◇
「ォォォオオッご無事ですかァアアお姉様方ァヅウイ!?」
バラティエ副料理長兼愛の奴隷ことサンジ。
彼がクロ率いる美女義姉妹たちの注文に応えるべく、一心不乱に調理へ励んでいたのは数分前。電伝虫を通して追加注文された抹茶ラテに、ベリーをこれでもかと詰め込んだベリーパイ。再々々注文の焼き煎餅とボール一杯のグレープ。他にも彼の独断で作られた数々の力作を手に、いざ乙女の花園へと意気込んだ途端に襲った砲声。続く衝撃。
店内は当然のこと調理場にすら被害をもたらした一発はだが、しかし。その後に巻き起こった特大の、転覆をも起こしかねない揺れによって即刻忘れ去られた。
ホールは食事を続けられないほどに荒れ、調理場でも状況は同じ。できたての料理は床に落ち、調理前の食材も酷い有様であった。
サンジは悲しみ、怒り、そうして決意した。
────五分で作り直す。死ぬ気でやれ、オレならできる!
彼は燃えていた。
全ては愛しのお姉様方のため、元凶を知らない哀れなピエロはひとり踊りだそうとしていたのだ。
其処へ響き渡った絹裂く悲鳴。彼は女声とあって耳聡く言葉を拾ってみれば、外に海賊旗を掲げた船がいると云う。続けざまに入ってくる情報。それらを拾い集め、組み立て考えた結果。
────狙いはお姉様たち……ハッ!? こうしちゃいられねぇ!
彼は走り出す。
悪逆非道の海賊からクロたちを守るべく、受けた大恩を返すため、ゼフを蹴り飛ばし、扉を蹴破り、薄暗い階段を駆け上がって叫んだ。
◇
クロは抑え込んでいたモノを僅かに開放した。
何てことのない、覚醒を経て強化された単なる性質とでも呼ぶべき代物。
ただ乾かす、或いは水分を吸収し即刻蒸発させるだけのモノ。
彼女はそれをただ開放した。
『──────…………カハッ!? (息……空気が……)』
それだけで、船を一隻転覆させたであろう積雪を小さな身体に呑み込み乾かした。
不思議なことは何もない。
クロコダイルという小さな覇王は、覚醒によって肉体を『砂漠の世界そのもの』へと変質することができるようになった。云うなれば意思を持ち、動く砂漠人間だ。砂人間ではない。砂漠人間、或いは砂漠である。
体表温度を一〇〇度近くまで上げられ、内側に至っては圧縮されることにより一〇〇度を超す。また覚醒状態の彼女は空気中の水分を無尽蔵に乾かし続けるため、水分を多く持つ人間は側に居るだけで乾いてゆく。触れようものなら火傷と同時にどうなるかなぞ考えるべくもない。
それでいてなお抑えた状態と豪語できる事実こそ、彼女が『悪魔の実』の能力者たる所以であろう。
「ハッ……ハッア……ヅィ……お……おね」
「助……け……死」
「クッァ………クロ……能……り……抑え」
「クハッ! アア、悪いわね。貴女たちがいることを忘れていたわ」
周囲で藻掻く義妹たちの気配にクロは嗤った。
嗜虐的に、狂気的に、残酷なまでに綺麗な笑顔で────嗤った。
しかしてその目が捉えるのはひとりの少年だ。
懐かしい、彼女が厭と云うほどに見覚えのある、麦わら帽子の少年だ。
言いたいことはわかります。
中途半端、はよ展開しろ、辺りでしょう?
ホントにすみませんでした。
次回、ようやく戦います。(戦い?いいえ蹂躙です)
ガープ、クザン以上の戦いに……ミホークとなら多分。
昨日、別作品も投稿しました。
一話だけですがそちらもよければどうぞ。