【完結済】SAO gルートRTA   作:らっきー(16代目)

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これにて完結です


おまけn

 結局のところ私は生きて現実世界に帰れたわけではあるのだが、嬉しいかと問われれば微妙なところだ。

 

 まともに立ち上がることさえできないほどに瘦せ細った身体。面会謝絶を無視して取材を試みるメディア達。現実でやりたいことなんて特に考えてもいなかったから目標もやる気も湧いてこない。いっそ脳を焼き切ってもらえばよかっただろうか、なんてことを考えるくらいには退屈でくだらない生活を送っている。

 

 一万人の死者が出たSAO事件はやはりというべきか世に激震を走らせたようで、『絶対安全』を謳ったアミュスフィアとやらも下火……というか、一部のコアな廃人くらいしかプレイしないような代物になり、空を飛べると最初は評判であったなんたらオンラインも死者数の報道に比例してユーザーが減ってしまったらしい。賑わっているのならPKでもしに参加しても良かったかも……いや、無いな。今更その程度の刺激で愉しめるとは思えない。

 

 結果として、今やっているのは警察からの事情聴取と散々断っても付けられたカウンセラーとの面談ぐらい。退屈を通り越して不快な日々だ。

 

「辛かったね」「もう大丈夫」「ゆっくりと休むといい」

 

 定型文のような言葉達は、私のどこにも引っかからない。だって私はあの世界を愉しんでいたのだから。かつて味わって二度と味わえることは無いと諦めていた殺人の味を。

 

 ……元々、人としてどこかおかしかったのだとは思う。別に両親に虐待されていただとか、学校でいじめられただとか、その手の悲しい過去なんてものは無い。むしろ人間として素晴らしい両親だったのだとは思う。なにせ、笑いも泣きも怒りもしない不気味な子供を、きちんと『あいして』育ててくれたのだから。

 

 そう。何かが私の人格形成に影響した、だなんてことはないのだ。ただ単純にみんなが当たり前にできることのやり方が私には分からなかっただけ。

 

 普通の人は楽しいときに笑うらしい。雰囲気に合わせて笑顔を作ることは出来ても、『楽しい』というのがどんなものなのかは分からなかった。

 

 普通の人は悲しいときに泣くらしい。同情を引くためにと涙を流して見せたことはあるが、何をされれば『悲しく』なるのかは分からなかった。

 

 普通の人は愛されると嬉しくなるらしい。私は『あいされて』育ったはずだけれど、両親の最期まで特に何も感慨は湧かなかった……いや、これは少しだけ嘘かな。

 

 ともかく。普通の人が当たり前にしている行為……笑ったり、泣いたり、喜んだり。それをどうやってやればいいのかが私には分からなかった。どういうものであるのか理屈では分かるし、こういう時にこういう感情を抱くべきだと判断も出来る。ただ私の内からはなにも湧いてこなかったというだけ。

 

 そんな私に転機が訪れたのは……いつだったか。ずっと前のような気もするし、つい最近のような気もする。

 

 そのころの私は割と真剣に自分について悩んでいて。何か一つぐらい心が動くものがあるんじゃないかと……自分探しのようなものだ。今にして思えば中学生ぐらいの子供によくある悩みのようなものではあったのだろう。

 

 手が出せる娯楽はある程度試して、それがダメなら賭博やらなにやら……まぁ、法律的に少しよろしくないようなことまで。背徳感というスパイスには少し期待もあったのだけど、結局どの行為にもすぐに飽きてしまった。

 

 そうして日常生活を送っていた頃、両親が交通事故にあった。

 

 病室でよく分からない管に繋がれて、家族だからと特別に面会を許される……まあつまりは、生死の狭間を彷徨っている姿を見せられたのだけれど。

 

 何故そんなことを? と問われれば、ただ、それが出来るチャンスだったから、しか答えようがない。NPCを殺せるゲームでなんとなくその辺の村人に切りかかるようなものだろうか。

 

 昇圧剤だとか止血剤だとか、まあ色々な役割のある薬剤を体に流し込んでいる機械、その電源をオフにした。

 

 別にそれで目の前で劇的な出来事が起こったわけではない。昏睡状態であったから仮に刃物で刺したとしても悲鳴の一つも無かっただろうし、薬が止まったからとて、すぐさま死ぬというわけではない。

 

 それでも、目の前で段々と冷たくなっていく様を見るのは……私の人生で一度も感じたことのないものを胸の内に生じさせた。

 

 モニタリング値の異常に気が付いて病院の関係者が来た頃には最早手遅れで、そのまま救命措置の甲斐なく私の両親は死を迎えた。

 

 生殺与奪の権を握ったことに対してなのか、生き物……人間を殺したことに対してなのか、はたまた本当は両親が嫌いだったのか。その時の私は人生で初めて高揚していて……病院でそのあとどんな会話をしたか覚えていないぐらいにはその感覚を反芻していた。

 

 ただ、こんなチャンスはもう人生で二度とないだろうとは流石に理解していて──だからこそ、SAOは本当に愉しかったのだ。

 

 なんのことはない。例えばサッカーが好きな人が居るように。ゲームが好きな人が居るように。絵を描くことが好きな人が居るように。私は殺人という行為が好きでたまらない人間であるということだけの話だ。

 

 とはいえ、裁かれずに人を殺せる機会などというものが都合よくまた訪れるとは思えない。そして私はもう、そこらのゲームでのPKなどの代替行為では満足できそうにない。つまりはその『好きなこと』にもう二度と触れられない人生を送るしかないということだ。死んだ方が良かったんじゃないかと思うのも無理は無い話……なんて、理解してもらおうとも思わないけど。

 

 そんな私の転機となったのは、長ったらしい名前の役人さんが面会に来たことだった。

 

 

 

 菊岡誠二郎と名乗ったその男性は、どうやらSAO事件の最前線で(勿論現実世界での最前線という意味だ)動いてくれていた人のようで、つまりは途中で栄養失調だとか感染症だとかで死ぬプレイヤーが出なかったのは彼の功績ということになる。

 

 胡散臭い人だ、というのが第一印象だったし、SAO事件の聴取という名目で雑談を振ってくる彼に対しては鬱陶しい、以上の感情は無かったのだけれど、それが覆ったのは退院まであと僅かとなったある日のこと。

 

「そうだ百合さん。退院する前に一つだけどうしても聞きたいことがあったんだ」

 

「……なんです? スリーサイズなら上から──」

 

「いやいや今回は真面目な話──一万人殺した感想はどんなものなのか、聞いてみたくてね」

 

「……ふうん?」

 

 正確に言えば私が直接殺したのは多く見積もっても数百人。扇動を殺人にカウントしたとしても五千に満たないだろう。まあそこはどうでもいいことか。

 

「殺したのは茅場明彦ですよ……なんて返答を求めていないことぐらい分かりますけど。何故私が殺したと?」

 

「偶然なんだけどね。SAOプレイヤーの一人にえらく執着しているへんた……協力者がいてね。細かいところは省くけど、彼はSAOのデータを流用してたんだ」

 

「それが?」

 

「あのゲーム、プレイヤーに与えたダメージで攻撃力の変わる武器とかあっただろう? そのせいか、プレイヤーのデータにそれが紐づいていたんだ」

 

「ああ……なるほど」

 

 その武器を使っていた男の顔が頭に浮かんだ。そういえば彼と私はどっちが多く殺していたのだろうか? 少しばかりそのデータにも興味が湧く。

 

「まあ、私一人のデータ見るぐらい大した手間でもないでしょうしね。……それで? 警察にでも話しますか? 先に法律を変えた方が良いと思いますけど」

 

 あくまで私はベッドの上で寝ていただけ。不能犯というやつだ。

 

「まさか。それにそのつもりならわざわざ君のところに来て話なんてしないよ」

 

「……それもそうですね。では、何故?」

 

「君の人となりが知りたかったんだ」

 

 野次馬根性というやつだろうか。確かに逆の立場なら私も顔ぐらいは拝みたくなるかもしれない。

 

「こうして話していると、君は普通の人にしか見えない」

 

「馬鹿にしてます?」

 

「褒めてるんだよ? まともな社会性があるって」

 

 ラフィンコフィンのメンバーのことを思い出してみればまああまり反論する気にもならない。あれらに比べたら私も常識人……に擬態できている。

 

「どうも。それで?」

 

「君は一万人を殺せる精神性を持ちながら、きちんと社会に合わせる自制心も持ち合わせているってことさ」

 

 犯罪歴も無いし、幼少期もいい子として評判だったみたいだしね。と続いたあたり、過去も調べられているらしい。

 

「話が見えませんが」

 

「ふむ……じゃあ君、AIにさせるのが難しいことって何だと思う?」

 

 いつもの雑談かとも思ったが、その表情は真剣だ。

 

「……人を殺すこと?」

 

 話の流れからしてこうかと思ったが、どうやら違ったらしい。

 

「それは簡単さ。人を殺すようにって命令を書き込めばいいだけだからね。正解は、ルールを破ること……いや、規則を遵守しつつ、時としてそれに反すること、かな」

 

「なるほど」

 

 言われてみればそれはそうだ。同じコマンドを打ち込んでもそのたびに反応が変わる、だなんて機械として失格だろう。

 

「ハッキリと言ってしまえば、僕は兵士をAIに置き換えようとしているのさ」

 

 そこまで聞いてようやく分かった。自国の『人』を守りつつ敵国の『人』を殺す。『人を殺すな』と『人を殺さねばならない』の命令の両立。確かに苦労しそうな話だ。

 

「それで? それが私に何の関係が?」

 

「仮想世界におけるAIへの大量殺戮……少しは興味が湧くかな?」

 

「……AIの精度次第ですね」

 

「それは……一度見てもらうしかないかな。現実の人間と遜色ない姿は見せられると思うよ」

 

 もし。もしもそうだとするのなら、私は好きな事を諦めなくてもいいのかもしれない。

 

「君はただ仮想世界でAIを殺してくれればいい。仮想世界と言ってもAIにとってはそこが『生きている現実』だからね。要は、SAOと同じさ」

 

 全員が善人のSAOのようなものだろうか……自分で言ってなんだが、あまりイメージ出来ないな。

 

「何も起きずに全員為す術なく殺されるならそれも仕方ない。また別の作戦を考えるさ。ただもしも、自分の命を守るためでも、誰かを守るためでも、君を殺そうとするAIが出てくれたなら」

 

 自分の意思で規則を破れる、真の人工知能の完成、という訳らしい。

 

「どうだろう。僕は君に合法的に人を……少なくとも、人に限りなく近いものを殺す場所を提供できる。見返りに、僕の研究に協力して欲しい」

 

 AIは人ではないからこそのこの提案なのだろう。ただ、一つだけ疑問。

 

「何故私に? 別に貴方がその仮想世界に入ってAIを殺して回っても構わなそうですが?」

 

「その認識があってはいけないから、かな。所詮AIと思いながら殺すのと、人を殺すというのには意識の差が出るだろう? 実際、君に仮想世界に入ってもらう時には記憶に制限をかけさせてもらうことになるはずさ」

 

「体のいい人身御供ですか?」

 

「いや。仮想世界で長く過ごしたことの無い人間は記憶をブロックしてログインすると世界への適応が──なんて語り出すと長くなってしまうね。ともかく、君が最適任だと思ってるから君に頼んでいる、それ以上でもそれ以下でもないよ」

 

 正直、全てを理解できた訳では無いし、全てを語られた訳でもないだろう。

 まとめてしまえば、殺人……に限りなく近い行為をさせる代わりにモルモットになれと言われているようなものか。ならば答えは。

 

「いいでしょう。殺戮、扇動、すっかり得意分野になりましたしね」

 

 人はパンのみに生きるにあらず。どうせ生きて帰れたのなら、精々愉しまねば損だろう。規則を遵守するはずのAIが腐っていく様を特等席で見れるというのは悪くなさそうではあるし。

 

「断られたらどうしようかと思っていたよ。ようこそ、プロジェクト・アリシゼーションへ」

 

 ゲームであって遊びではない、とはかつてSAOで言われた言葉ではあるが、私にとってはデスゲームも遊びも……人生も同じだ。

 

 ただ、愉しむだけ。

 

 イッツ・ショウ・タイム……なんてね。

 

 

 




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