異世界に、不死を想う   作:ほりぃー

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守るべきもの 前

 

 不死の魔王とのわずかな邂逅。秋山は静かになる虫の声の中でたつ。空を見ればいつの間にか雲が出てきている。

 

「鈴虫の声に似ているな」

 

 遠い故郷の「音」を思い出す。僅かな時間を過ごしたこの世界にではあるが、幾度も死にかけ、さらにその混迷は深まろうとしている。そもそもなぜ自分がここにいるのかすらもわからない。

 

すべてのことに意味がある。

 すべてのことを理解することはできない。。

 秋山は目を閉じて、思考を整理する。時間にすれば僅かだろう、その表情を少しも動かさずに次に何をすべきなのか彼は決める。

 それが正しいのかどうかはわからない。正しいことのみを選ぶことができるのであれば、どれだけ素晴らしいだろうか。

 

「行こうか」

 

 怪訝な顔で秋山を見ていたファルブラウに彼は声をかける。

 

 この黒髪の魔王は特に返事をすることなく黙ってフードを被りなおした。死体を蹴り飛ばす、魔物を躊躇なく斬殺する。その思考は読みにくいが秋山は彼女の資質について多少の仮説を持っている。

 

 黙っていても相手を見透かすような言動。それは裏を返せば相手への理解力を示している。ただ、それを口に出すと彼女は怒るか、呆れるかするだろうと秋山は微笑を彼女に向ける。

 

 目をほんの少し見開くファルブラウは次に呆れたように言う。

 

「気持ち悪い」

 

 どちらにせよ呆れられるのであれば言ってもよかったのかもしれない。秋山は苦笑しつつ森の中を進んでいく。夜空に浮かぶ月が陰り始めている。方向もいずれわからなくなるだろうと彼は思う。

 

 秋山が歩くたびにくしゃくしゃと落ち葉を踏む音がする。体は重い。ただ、後ろを歩くファルブラウの歩きやすいように目線の高さにある枝を折り、石があれば声をかける。

(マイさんたちはどこに行ったのだろうか。早く合流したいのだが)

 

 そう思ったとき不意に空を見上げる。一筋の煙が空向かって伸びている。その方向に誰かがいるのだろう。おそらくは何らかの合図と彼は思った。

 

「あっちか」

 

 歩を進める。蛇や獣がいるかどうかを警戒しながら。ファルブラウは黙っているがその大きな瞳は秋山をみたり、周りを観察したりとくりくりと動いている。本人にその気はないのだろうが、かわいらしい仕草だった。

 

「おい」

 

 ファルブラウは呼びかける。秋山は立ち止まらずに「なにか?」と短く答える。

 

「お前の手にある剣、あの男のものだろう? 傭兵の連中に言うのか? お前を助けに来て死にましたと」

「言う。私を助けにもどってきてくれたと」

「残念になぁ。お前がいなければあれも死にはしなかったと思うんだがなぁ」

「その通りだ。私に責任がある」

「……ちっ」

 

 秋山は戦場での死を淡々と受け入れる自分に僅かながら想うところがあるが外に出さない

 面白くないとファルブラウは舌打ちした。

 

 

 迎え入れてくれたのは耳の長い金髪のエルフだった。

 

 エールは秋山のことを見ると駆け寄ってきた。やはり傭兵団が集まっていたのだ、彼らは焚火を囲みそれぞれが腰を下ろしている。周りには見張りを立てながらだった。

 

 エールはにっこり笑って秋山に抱き着こうとした。だが秋山は婦女子にみだりに触るわけにもいかず、その両肩を抑えて微笑みかける。エールは少し不満げな顔で何か言っている。

 

 言葉はわからないがどうやら特にけがはないようだ。見れば傭兵団のほとんどがいる。もともと秋山は全員の顔を知らない、だから全員いるのかはわからない。そう秋山は思いかけて首を振る。全員」はいない。

 

 秋山はエールを見る。彼女の瞳に映る自分。無力な「そいつ」を憎みながらも黙って、剣を彼女に渡す。

エールはその剣をちょっと口を開けた、ぼんやりした顔で受け取る。彼女は秋山を見る。秋山はただ黙っている。

 

 このエルフの少女は一瞬顔をゆがめて剣を抱きしめた。過去のことは秋山にはわからない。ただ彼は「すまなかった」と言葉にした。その言葉にエールは顔をあげた。

 

 悲し気な笑顔で彼女は秋山に向き直る。その表情はただ、やさしい。

 

「バリオ」

 

 彼女はそれだけを言って秋山の肩を叩いて、大切そうに剣を抱きしめながら傭兵団の中にもどっていく。一部始終を見ていたのだろう傭兵団の人間達も黙っている。ヘクターが帰らないことを彼らはわかったのだろう。

 

 ファルブラウは秋山の後ろで「つまらん」と吐き捨てた。ただ秋山は思う。

 

(責めてくれないことは、つらいな)

 

 言葉には出さない。彼は黙ったままマイを探した。エールと一緒に逃げたはずである。だからどこかにいるのだろう。ふと見ると、焚火から一番離れた場所にちょこんと小さくなって座っている。頭の上から布を被っているようだった。

 

「マイさん」

 

 びくっと彼女は震える。秋山はしゃがんで座っている彼女の目線に合わせる。

 

「無事でよかった」

 

 彼女は何も答えずに身を縮こまらせる。秋山は特に何も想うところはない。怖いのは当然なのだ。彼女は被った布の間から顔の半分をだして、片目だけで彼を見る。

 

「ごめんなさい」

「なぜ謝るんですか? 無事に逃げてくれてほっとしています」

「ごめんなさい」

 

 恐怖で混乱しているのだろうか秋山はそう思った。少しそっとしておこうかと立ち上がりかけた時、彼女はとつとつと話しだす。

 

「あの時、秋山さんに助けられた時、その……………ぁ……たが……躊躇なく、人を、殺し……いやその助けてくれて……そのとき、血が……みえて…………剣で……」

 

 たどたどしく話す彼女の言葉に秋山にはわかった。

 

(ああ、『恐怖』させているのは……俺か)

 

 マイを恐れさせているのは自分だろうと彼は直感した。どういう言い訳をしようと彼は彼女の前で殺人を行った。意図的にただ「効率的」に相手の生命活動を停止させる方法もとった。刀を刺して手首をひねる。その感触は残っている。

 

 マイは震えながら「ごめんなさい」と繰り返している。助けられた感謝、「殺す」という行動をした男への嫌悪、様々な感情がないまぜになっているのだろう。

 秋山は自らの両手を開いてじっとみる。少しだけそうしてからマイに言う。

 

「安心した」

「……え?」

「……私は人を殺すための訓練を何年も受けてきました。実際に、何度も戦場に往来して知りもしない相手も、自らの部下も、上官も、その死に深くかかわってきたから……どこか感情が鈍いんです」

「……」

「人の死に感じることが少ない……そういう風になっている自分に時折想うところがありますが、マイさんがちゃんといろんなことを感じていることに私は、ただ安堵した……悲しいことも、怖いことも、単なる嫌悪も…………あってしかるべきことです」

「……私は……」

「一度だけ偉そうに言いますが、良く落ち着いて考えなさい。貴方の中に生まれた感情を否定する必要も、自分を責める必要もないんです」

 

 秋山は一度彼女に触れようとかと思ったが、その手が穢れているような気がしてやめた。黙ってたちがあると、後ろで苦虫をかみつぶしたような顔で立っているファルブラウがいる。もっと破滅的な言い争いでも望んでいたのだろう。

 

「悪いな」

 

 ファルブラウへは軽口が多くなってきた。この魔王にはどことなく遠慮する必要を感じない。

 

「わ、私は!」

 

 マイは立ち上がる、自分でかぶっていた布が地面に落ちる。彼女は顔を赤くして、大粒の涙をためて、秋山に叫んだ。

 

「秋山さんに助けてもらいました! でも、でもこういう……素直じゃないんです! ありがとうございますっていえばいいのに、逆に慰められるなんて、わけ、わけがわからない」……

 

 秋山はその背で聞く。彼は何を答えるべきか考えて、ふと自分が「どう受け答えするか」を冷静に思っていることに内なる嫌悪をいだく。それがわずかに思考を鈍らせてしまう。

 

「パンを」

「はへ?」

 

 秋山は自分で何を言っているのか一瞬わからなかったが、それは言われたマイのほうがさらに輪をかけて意味が分からず妙な声を出していた。

 

「パンを、1つ焼いてくれたらいいな」

(……何を言っているんだ?)

 

 秋山は自分の言葉に思う。黙っていたファルブラウは口をあけて「はぁ?」と言っている。

 

(たぶん俺は、マイさんが恩に着てくれていることを解消するために何か、簡単なことをさせてあげようと思ったんだろうか)

 

 自分のことなのに、分析しなければわからないのがこの男の悲しいところなのかもしれない。そもそも焼いて「くれ」ではなくて、「いいな」と言ってしまった。ただ、マイはうつむく、その口元をわずかにほころばせながら。

 

「い、いいですよ……ぱ、パンを焼くのは得意ですから……!」

 

 秋山は逆に恥ずかしくなってきた。思いがけずに行ってしまった言葉が、計算のない言葉がなにやらいい方向に転びそうな状況を彼は処理することができない。

 

「え、ええ。楽しみしてます」

「……はい」

 

 定型文的な返答をして秋山はその場から離れようとする。しかし、彼にもう一度マイが呼びかける。

 

「あ、あの秋山さん。その……そちらの方は?」

 

 マイはずっと近くにいた女性に目をむける。黒髪に印象的な瞳、顔に文様のある彼女は何者か、純粋に気になるのだろう。ファルブラウはフードを取って、にやりを笑う。

 

「魔王ファルブラウだ。小娘さん」

 

 秋山は彼女を振り返った。マイは「はい?」と呆けている。

 

 ☆

 

 雨がしとしと降り始めた。

 

 夜に降る雨の中を一つの集団がいく。彼らは疲れていた。とある村での戦闘を終えて、その首領を失った傭兵団。その中に秋山はいる。

 

 秋山がみればけが人はほとんどいないようだった。おそらく秋山の合流する前にマイが癒しの魔法を使用したのだろう。

 

 本来であれば夜にしかも雨の中に進むのは危険だったが、そもそも村人があれで全ていなくなったかもわからない。追ってくることも考え、夜のうちに動き出したのだった。それでも秋山は歩きながら想った、顔を大粒の雨が叩く。

 

「これで炎も消えるだろう」

 

 村はグリフォンとの死闘で炎に包まれているはずだった。延焼を考えればこの雨は天佑だと彼は思う。一番前をマイが歩いている。彼女はちらちらと後ろを振り向きながら歩いている。彼女は右手を前に出して、手のひらの上には小さな青い炎が燃えている。

 魔法の一種だろう、彼らの前途を照らす小さくも確かな明かりだった。先頭をマイの後ろにはエールがついて何か指示をだしている。彼女の腰にはヘクターの剣が差してあった。

 

 傭兵団もほかの者も雨に濡れないようにできるだけ何かを被っている。マイも先ほどかぶっていた布を頭にしている。手のひらの炎は何故か消えることはない。

 

 ただ秋山は特に何もせず歩いている。むしろ何かを洗い流されるような感覚があった。

 

 彼らの歩く道は鎧や武器のぶつかる金属の音だけが響く。足音は雨音に消されていた。ファルブラウも秋山の後ろについて黙々と歩いている。

 

「……聞いていいか」

 

 雨の中の会話だ。ほかの者には聞こえないだろう。秋山はそう思って声をかける。

 

「なんだ?」

「なんでさっきはあんな軽率な真似をしたんだ」

 

 ファルブラウはマイに正体を聞かれたときに何も隠すことなく言った。「自分は魔王である」と。だが彼女はあっけらかんと答える。

 

「阿保め。信じるわけがないだろう」

「……急に現れたものがいきなり魔王だった、とは確かにわからないだろうが」

「嘘をつくのも面倒だから、そういった。どうせあの小娘も10日後には死ぬんだ。別にどうでもいい」

「……」

「おっと、勘違いするな。ほかの者たちも今の魔王とやらの送り込んでくるものに殺されて死ぬだろう。私はこいつらが皆殺しになってから、そいつを始末するつもりだ。こいつらを私が殺すわけではない、お前との約束を破る気はないぞ。どうだ?」

 

 ファルブラウは秋山を見る。雨がその白い肌を濡らしている。

 

「うれしいか?」

「……まあ、その程度のことは考えていると予想はしていたが、つまり助力はしないということだな」

「ちっ、相変わらずつまらない反応をする男だ。ああーそうだ」

 

 すねた顔でそっぽを向くファルブラウ。彼女はできれば秋山の悔し気な顔を見たかったのだろう。すぐにいたずらっぽく笑い、ずけずけという。

 

「どうせオマエはほかの連中とまともに言葉も通じないんだ。しかし、これからどうするつもりだ?」

「街に帰ったら有力者と会う。そして防備を整えるように請願するだけだ」

「どうやってだ? 意味不明な言葉を話す、しかも魔王が出ましたなどとイカレタ夢のような話を誰が聞くんだ?」

「…………」

 

 秋山はファウブラウの顔を見る。秋山たちの前途を心底楽しんでいるような邪悪を含んだ顔だった。ただ秋山は言う。

 

「やはり、お前は頭がいいな」

「なに……?」

「随分と私、いや俺のやるべきことを想像してくれているじゃないか。そうお前の言うとおりだ。言葉が通じない。よしんば通じても、そのまま話をすればともすれば俺自身の正気を疑われるだろう。よい指摘だ。参考になる」

「なっ……ぐ、この」

 

 秋山の涼しげな顔を憎々し気にファルブラウは睨んで、ふんっと横を向いた。口ではどうやら敵わないらしいということが彼女の自尊心を大きく傷つけた。だから彼女の言葉も少し稚気に染まった。

 

「死んでしまえ」

「心中したいのか?」

「ぐぅ」

 

 魔王はぐうの音を出す。秋山は流石に笑いたくなったがやめた。秋山が死ねばファルブラウ自身もただでは済まない。

 しかし、黒髪の魔王の言ったことは深刻な問題ではあった。秋山周作はこの世界になんの伝手もない。また、言葉も満足にわからない。

 

(マイさんの力を借りることになるのか……。いや、しかし、できれば早く避難をしてほしい)

 

 秋山は正直に言えば「有力者」と会うためのパイプをマイ以外に持っていない。しかしこのような話を彼女を通してしまえば、彼女にとってよい結果になるかはわからない。

 

 雨の中を考えながら進む。舗装されていない道に足を取られることがあるが、馬車などがないのは寧ろありがたいことだった。マイが先頭で「へくち」とくしゃみをしているのは流石に心配だった。

 

 道を歩いていく。思案する時間はそれなりに合った。たまにエールが横に着てぺちゃくちゃと話していくが当たり前であるが言葉はわからない。ファルブラウは言葉をわかるだろうが、むろん通訳などしてはくれない。

 

 この金髪のエルフは秋山が何か言うとそれを口真似している。それから彼をじっと見てはまたどこかに行く。

 

 ふと霧が立ち込めてきた。白い靄があたりを包んでいく。流石に彼らは進むことができずに立ち止まり、木々の間にそれぞれ入る。

 

「ん」

 

 秋山の横でファルブラウが声を出した。何かを気にしているような仕草に秋山は聞く。

 

「どうした?」

「……別に」

「そういう口調時は大体何かありそうだが?」

「ちっ、やかましいやつだな。……大したことじゃない。この霧には魔力が混じっている。それもほんのわずかだが……」

「…………俺はこの世界の霧には詳しくはないが、おかしいことなのか」

「変な確認の仕方をするな、まあおかしいさ。どうでもいいことだがな」

 

 言われなければただの霧である。雨の中で秋山は空を見上げるが、白いそれに遮られて何も見ることができなかった。「あの村」もこのような霧に包まれたことがあったとは彼に知る由もないことだった。

 

 

 しばらくすると霧は晴れた。

 休みを挟みながら彼らは進む。いつの間にかもともと来た道である街道にも復帰していた。だんだんと雨も小降りになってきた。

 

 空が明るくなっていく。雨に現れた空気の中で、山の間から太陽が昇ってくる。朝焼けに空は赤が広まり、だんだんと蒼に染まっていく。冷たい空気が逆に秋山には心地よく感じた。

 

 歓声が上がる。傭兵団が無邪気に喜んでいるのは視線の先にあの城塞都市が見えたからだった。秋山も流石にほっとしたような気がしたが、数日後のことを考えればあの街で惨劇が起こるかもしれない。

 朝日を受けながらただ静かに佇む街。秋山は何も言わずにそれを目に焼き付けている。何が起こるかはわからないが、やらなければならないことはすでに考えている。

 

「へくち」

 

 マイが傍らにきてくしゃみをした。彼女は秋山を見ると恥ずかし気に顔を背ける。何か用があったのだろうがくしゃみをするところ見られたのがなんとなく恥ずかしいのだろう。

 

「マイさん、戻ったらよくよく体を拭いてあったかくして寝た方がいい」

「……秋山さん。なんていうか、私のこと子ども扱いしてませんか?」

「え? そんなことはないですよ」

 

 穏やかな朝の中を歩く。マイは濡れた髪が肌に絡みついている、それを指でまいて、少し口をとがらせていう。

 

「いえ、きっと子供に見てます。私はもう大人ですよ?」

「……そうですね。無意識に失礼な物言いをしていたのかもしれません、すみません」

「……うー。それですよ、さっきちょっと聞いたらファルブラウさんとの話し方とぜんぜん違うじゃないですか?」

「はっ? あれと?」

 

 「あれ」が後ろで眉をしかめる。秋山は自分が不意にぞんざいな言葉遣いをしてしまったと慌てて取り繕う。別にファルブラウに気兼ねしているわけではない。

 

「それよりマイさん。街にもどったらいくつか聞きたいことがあるのですが、ゆっくり話す時間はもらえますか?」

 

 様々なことを知っておきたい。秋山は切実に思っていた。この国のこと、魔法のこと、魔王のこと、軍隊のこと、有力者のこと。数え上げればきりがないほどに情報を欲している。ただ彼の表情はあくまで穏やかだった。

 少女に責任を負わせるようなことをしたくはないというのが秋山の本音であった。ある意味彼の倫理観の境界は「情報をもらう」までなのだろう。マイはちらりと彼を見て、いいですよと呟くよう言った。

 

「パン、焼いてあげないといけませんしね」

 

 大きな彼女の瞳に秋山が映る。その中の彼は苦笑していた。つられてマイも笑う。彼女が微笑むと、花が咲いたようなかわいらしさがあった。

 

 城壁が近づいてくる。城門は閉まっているようで、その前に人だかりが見えた。門は悪時間が決まっているため、夜のうちにやってきた商人や旅人は思い思いに休んでいるようだった。

 

(……中は安全だろうか)

 

 このわずかな旅の前に秋山とマイは命を狙われた。街中での襲撃を受けたのだ。警戒が必要ではあるが、傭兵団と一緒であれば簡単には攻撃してこないだろうが、警戒するに越したことはない。

 

 秋山は顔をあげた。高い城壁を見上げる。石材が均質に組まれている。流石に秋山の国に「城壁」はないが見事な造りだと素人の彼にもわかる程度には頑丈に作られてそうだった。

 

「ん?」

 

 城壁の上から誰かが覗き込んでいる。頭に猫のような耳をぴこぴこさせて、秋山と目が合うと嬉しそうにしている、そんな気が彼にはした。栗色の髪が風に揺れて、秋山に一度手を振ると、どこかに行ってしまった。

 

「……アーエ?」

 

 秋山はそう口に出してから、彼女が無事だったことに心底ほっとした。彼がこの世界にきて一番初めに出会った少女がそこにいたようだった。かし、彼女が何をしていたのかはわからない。

 

 

 

 

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