下忍成りたての新米に回ってくる任務は迷子ペットの捜索や農業の手伝い等、誰にでも出来る雑用がメインだ。
そこに忍者の卓越した技術が生かされる事は殆ど無い、故に例年であれば同期の全ての班が同じようなペースで依頼を消化し、同じようなペースで忍者らしい内容のCランク任務請負いに昇格する。
「今回の任務は猫の捕獲か……猫は素早い……厄介だな……」
「それに里の中から一匹の猫を見つけるなんて……」
「なら影分身で里中を埋め尽くすってばよ!!」
「まぁ、これぐらいは良いか……」
◇ ◆ ◇
「今回の任務はジャガイモの収穫か……ジャガイモは土に隠れて見えない……厄介だな……」
「この畑、滅茶苦茶広いじゃない、こんなの日が暮れるわよ!?」
「心配要らないってばよサクラちゃん、多重影分身の術!」
「「「十万人でやればすぐ終わるってばよ!!!」」」
「そんなに要らないでしょ……」
◇ ◆ ◇
「今回の任務は隣町までのおつかいか……俺は隣町に行ったことが無い……厄介だな……」
「それに特定の店で買ってこいなんて……」
「地図を貰ったからそれ見ながら行くってばよ」
「そこは普通なのね……」
◇ ◆ ◇
火影室、木の葉の忍びは一部例外を除き、任務を受ける時はこの部屋に赴き火影の指示を仰ぐのがルールだ、勿論カカシ班も例外ではない。
「なぁなぁ三代目のじいちゃん! 俺たち猫探しとか芋の収穫とかしょうもない任務をもう百回はやったってばよ!」
「そろそろAランクとかSランクのすっげー任務やりたいんだけど!」
恐れ多くも座り込み三代目火影相手に吠えるナルト、しかし木の葉の里に不敬罪は存在しないのか周りの大人達は特に慌てる事も無く、優し気な目で成り行きを見守っていた。
「うぅむ、そうじゃのぉ……」
唸りながら思案する三代目、というのもナルトが吠えたのはこれが一度目ではなく、既に三十回は同じようなやり取りを任務請負い前に繰り返している。
周りの大人は優しいのではなく、根負けしてしまっただけなのだ。
「まぁ不安は残るが、任務達成回数だけなら文句は無いしのぅ……良し! カカシ班にCランク任務を命じる!」
「流石じいちゃんは話が分かるってばよ! それで!? それで!? どんな任務なんだってばよ!?」
「ある人物の護衛じゃ……お入りください」
火影の合図で扉を開けて出てきたのは、頭のねじり鉢巻きがチャーミングなおじいさんだった。
「……なんだぁ、どいつもこいつも頼りないガキじゃねぇか、特にそこの座り込んでいるアホ面」
酒瓶を片手に座り込んでいるナルトに顎を向ける依頼人。
「な、何だとぉ!? 人を見かけで判断するんじゃねぇ!」
「少なくとも大人はこんなところで座り込まないだろ、ウスラトンカチ」
(見た目も頭もウスラトンカチの癖に中身はイタチやカカシを軽く超えるチャクラタンクだから質が悪いんだよ……)
「みっともないわよ、ほら、立ちなさい!」
「ごほんっ! 依頼内容は依頼主のタズナさんを波の国まで護衛し、そのまま橋の完成まで護衛する事じゃ」
一向に話が進まないナルト達のやり取りを遮って三代目火影が依頼内容の説明を行う。
三代目の咳払いによって大人しくなったナルト達は速やかに退室し、各々準備を整えた後木の葉の門の前に集合した。
◇ ◆ ◇
「カカシ先生! カカシ先生! 波の国までの道全部に影分身を敷き詰めて良いってばよ?」
「だーめ、通行の迷惑だし目立つでしょ、お前黄色いし」
「どっちかっていうとオレンジじゃない?」
「超どうでも良いから早く出発したいんじゃが」
「避けられる戦闘は避けるのが忍の鉄則だ、ナルトの影分身は四体が丁度良い、目立ち過ぎず八方向をカバー出来る」
「な、成程、分かったってばよ」
「なんであんたの術なのにサスケ君の方が使いこなしているのよ……」
◇ ◆ ◇
「ナルトって影分身の術をどこで覚えたの?」
「火影のじいちゃんからパクった巻物に書いてあったってばよ……あ、そういえばこれ言っちゃいけないやつだった」
「ちょ、聞いた私が言うのも何だけどしっかりしなさいよ!?」
「……どうやって火影から盗んだ、幾らジジイでも火影は火影だ、それこそ上忍でも難しいと思うが……」
「おいろけの術で気絶してる間に……あ、これも言っちゃいけないやつだった」
「ちょっと!? あんたそれでも忍なの!?」
「下らない術と思っていたがそんなポテンシャルがあったとは……研究する価値があるか……?」
「サスケ君は早まらないで……思いついたんだけど、あんたの影分身とその術組み合わせたら火影様死んじゃうんじゃない?」
「それで死んだら俺どんな顔して良いか分からないってばよ……」
道は続く……。
◇ ◆ ◇
「で、こいつ等は何なんだってばよ?」
ナルトが指を指す先にはカカシによって縛られた忍が2人。
「霧隠れの中忍ってとこだな……それよりナルト、お手柄だったが増え過ぎた影分身は消してくれ目立ちすぎる」
「あ、消すの忘れてたってばよ」
ナルトの解除で道や森に隙間無く山積みにされた影分身が煙を立てて姿を消す。
話の経緯は簡単だ、霧隠れの刺客にカカシが襲われ、それを見たナルトがとっさに大量のチャクラで多重影分身を発動し、その肉圧で霧二人が圧し潰された。
霧二人はカカシの次にナルトに襲い掛かろうとしたのが悪かった、たまたまナルトの反射的な影分身発動に巻き込まれてしまったのだ。
結果は変わらないだろうが、次のターゲットをサスケにしていればここまで酷い負け方はしなかっただろう……。
「ここまで来ると、もはや水遁だな……」
「影分身ってああいう使い方も出来るのね……」
呆れたようにサスケとサクラが呟く。
「水遁か……むふふ、今日から俺は水遁のうずまきナルトだってばよ!」
「どこが水遁よ!? 水要素どこにも無いじゃない!? 遁じゃないけど仮に付けるとしても肉遁よ!?」
「なんかそれだとチョウジっぽくてオリジナリティーに欠けるってばよ……なんかパクリっぽい」
「じゃあ間を取って肉水遁だな」
「何言ってるのサスケ君!?」
「よしっ! 今日から俺は肉水遁のうずまきナルトだってばよ!」
「気に入るの!?」
任務は続く……。
にくすいとん